バイタルサインの統合的評価による急性毒性試験の判定基準策定と代替法に資する研究-診断学とAIによる致死性予測と人道的エンドポイントの設定-

文献情報

文献番号
202226012A
報告書区分
総括
研究課題名
バイタルサインの統合的評価による急性毒性試験の判定基準策定と代替法に資する研究-診断学とAIによる致死性予測と人道的エンドポイントの設定-
課題番号
22KD1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
20,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ReductionとRefinementによりヒトの安全性確保に主眼を置いた新規急性経口投与毒性試験方法の開発である。近年の情報技術の果実はバイタルサイン(VS)の取得を容易とし人の健康管理に利用されている。先行研究の成果により小動物でもその可能性が見出された。本研究は先行研究の成果であるVS測定器の更なる改良を進め、代替法において外れ値を示す化合物を動物に投与しVSを取得、化学物質の体内動態に資するタンパク結合率測定と予測を行い、AIによるVSの統合的評価と致死性予測を目的とする。人の中毒治療に利用可能な情報取得、急性毒性試験の「人道的エンドポイント」として利用することで動物福祉を充足する。in vivoとin vitroのギャップを埋める情報が得られることから代替法の開発に寄与できる。
研究方法
本研究では、ICCVAM(2006)のin vitro急性毒性試験代替法の開発で使用された化合物のうち、in vitro細胞毒性によるLD50の予測において外れ値を示した物質のうち入手可能な物について検討を行い代替法の予測性向上に資する情報を得る。具体的には、先行研究により開発されたVS測定器の更なる改良を進め、TG423に従った4用量にて強制経口投与により化合物を動物に投与しVSを取得、並行して、急性毒性発現時にどのような現象が生じているかを血液生化学、遺伝子発現変動解析により、VSの妥当性を考察し人への外挿を図るとともに、in vitro to in vivo extrapolationに資する情報として化合物のタンパク結合率測定を実施、既存及び新たに取得したデータを用い、AIによるVSの統合的評価と致死性予測プログラムの開発を進める。更に、脳波については、別途解析を行い有害性発現予測AIの開発を進める。
結果と考察
バイタルサイン測定装置のセンサー開発において、カーボンナノチューブヤーン(CNT-Y)を表面電極として使用し麻酔下でラットから心電図(ECG)、脳波(EEG)を取得した。文献情報を基に化合物の吸着、分散の指標となるパラメータを計算し血漿タンパク質の結合モデルの構築を進めた。急性毒性発現における遺伝子発現変動解析では海馬、肺、肝の遺伝子発現データを取得した。4,4'-Dihydroxybiphenylでは肝においてはタンパク質の変性が亢進していることが示唆され、2,5-Di-tert-butylhydroquinoneでは海馬において概日リズムの乱れが示唆された。急性毒性試験における行動解析においては、ホームケージ活動量測定装置およびオープンフィールド活動量測定装置を用い、アセフェート・ニコチン・無水カフェイン・テトロドトキシンを投与したマウスの行動様式を解析した。また、超音波測定装置による超音波発声解析の測定を試みたが超音波発声(USV)の確認には至らなかった。ソフトウエアの開発では、バイタルサイン測定装置を限定することなく汎用性を持たせること、学習プロセスを必要としないこと、の前提条件に適合し、時系列データ、特に心電図のような繰り返しパターンのある波形データの解析に有用なMatrix Profile(MP)アルゴリズムの導入を検討した。ヒトiPS細胞由来ニューロンのMEA計測において、陰性対照であるDMSOのSD範囲を基準とした毒性リスク評価を実施した。ICCVAMの急性毒性試験代替法の開発において予測性の低かった化合物を選定し、毒性リスク評価を実施した結果、用量依存的なリスク判定が可能であった。
結論
新素材であるCNT-Yを表面電極として使用し、イソフルラン麻酔下でヘアレスラットからECG及びEEGを測定し、脳及び心臓に作用するアミトリプチリンの影響を捉えることに成功した。生体電位を測定する部位及び方法はこれまで報告されてい手法とは異なるため、今後はその特性を明らかにすると共に適切な解析方法を検討する。急性毒性発現における遺伝子発現変動解析では肝毒性により死亡する物質と神経症状を呈する物質の毒性発現メカニズムの一端を明らかにした。ホームケージ活動量測定およびオープンフィールド活動量測定は急性毒性試験においても有効な手段であることが確認されたが、USVについては測定条件を含めて再検討が必要である。ソフトウエア開発においては、今年度検討したMPアルゴリズムは、最適化の進んでいない段階での異常検知において有用であり、本研究班の目標実現に有効な手法であることが確認された。ヒトiPS細胞由来ニューロンのMEA計測法による神経毒性リスク推定は、in vitor急性毒性試験代替法の開発において予測性の低い化合物に対しても有効な評価法であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202226012Z