文献情報
文献番号
202226004A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの短期吸入曝露等による免疫毒性に関するin vitro/in vivo評価手法開発のための研究
課題番号
20KD1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
足利 太可雄(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
- 飯島 一智(横浜国立大学 大学院工学研究院機能の創生部門)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系))
- 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 渡辺 渡(九州保健福祉大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
18,352,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
短期吸入曝露された各種ナノマテリアル(NM)の免疫系に与える影響について、in vitro/in vivo研究の連携体制による毒性メカニズムの解明と評価系の開発を行い、得られた知見を基にin vitro試験法の確立と将来的なOECDガイドライン化を目指すための基盤的知見の収集を目的とする。
研究方法
NMの抗原提示細胞活性化能のデータベース作成については、in vitro皮膚感作性試験法でありOECDテストガイドライン化されているh-CLAT (OECD TG442E)を用いた。NMの物性およびin vitro / in vitro有害性情報を収集・整理し、物性についての特性解析やin vitro/in vivo有害性データとの関連性解析を行った。気管支上皮モデルと抗原提示細胞の共培養系の構築については、ヒト初代気管支上皮細胞を市販の分化誘導培地を用いてセルカルチャーインサート中で気-液界面培養を行い、気管支上皮モデルを作製した。作製した気管支上皮モデルは、光学顕微鏡による繊毛運動の確認、経上皮電気抵抗(TEER)測定、気管支上皮マーカー遺伝子発現、および標本の形態観察により評価した。肺胞マクロファージの機能解析については、C57BL/6NcrSLC雄性マウスに対し 5日間の連続の全身曝露吸入を行い、曝露後4週及び8週において肺胞洗浄液(BALF)中の単核球を採取し、蛍光色素標識された各種表面マーカーに対する抗体で発現を解析した。感染性免疫系への影響については、BALB/c 雌、4週齢のマウスに6時間吸入させ、これを1日おきに3回実施した後、RSVを経鼻感染させ、BALF中のサイトカイン・ケモカインの定量を行った。
結果と考察
h-CLAT法における評価において、各種カーボンナノチューブNM-400、NM-401、NM-402及びNM-403は、程度に違いはあるものの、CD54の発現を亢進させたことから、いずれもin vitroで抗原提示細胞を活性化することが示された。さらに今回新たに二酸化セリウムと酸化亜鉛を対象としてデータを取得し、二酸化セリウムNMは陰性でったが、酸化亜鉛NMはCD54の発現を顕著に亢進させることを見出した。また、気管支上皮モデルとTHP-1細胞の共培養系により、気管支モデル上部(体外側)より曝露されたNMによりモデル下部(体内側)の抗原提示細胞が活性化することを示し、吸入曝露のin vitroモデルとしての可能性を示した。In silico研究として、h-CLAT試験の指標である「EC200」をログスケール変換した値(pEC200 = -logEC200)は、NMsによる抗原提示活性化の指標として有用であることが示唆された。In vivo吸入曝露試験において、ナノシリカNM201の高分散乾燥検体を用い、マウスに吸入曝露させた結果、低濃度群;7.8±1.8 mg/m3、高濃度群;33.6±2.4 mg/m3を達成した。MMADは低濃度群、高濃度群ともに3 µm以下であり十分に肺胞に到達するエアロゾル特性を有していた。BALF細胞、頸部リンパ節細胞、脾細胞を用いて、フローサイトメータによる解析を行なったところ、NM201の吸入暴露後4週での肺胞マクロファージのM2タイプへの分化亢進が認められ、脾臓からの単球・マクロファージの遊走の可能性が示された。吸入曝露処置を行ったマウスにRSV A2株を経鼻感染させ、感染5日後にBALFを取得し解析したが、ナノシリカNM-201のTaquaan法での吸入曝露では、RSV肺炎に関わるマーカーの明確な上昇は認められなかった。一方in vitro試験系であるRSV感染THP-1細胞系において、ナノシリカNM-204はin vivoでの結果と異なりCCL5産生抑制傾向が見られた。
結論
短期吸入曝露された各種NMが免疫系に与える影響について、毒性メカニズムの解明と試験法の開発を行った。その結果、各種NMがTHP-1細胞を活性化させること、気管支上皮モデルとTHP-1細胞の共培養系においてもNMはTHP-1細胞を活性化させること、NMによる抗原提示活性化の指標としてCD54発現の濃度閾値であるEC200をログスケール変換した値が有用であること、in vivo試験においてNM吸入暴露後4週での肺胞マクロファージのM2タイプへの分化亢進が認められたことから、抗原提示細胞活性化を指標としたNMの免疫毒性in vitro試験法ガイドライン開発の可能性を示した。
公開日・更新日
公開日
2023-07-31
更新日
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