サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築

文献情報

文献番号
202225024A
報告書区分
総括
研究課題名
サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築
課題番号
20KC2005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 晶代(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 糖尿病内分泌代謝科)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 信彦(国立障害者リハビリテーションセンター  自立支援局)
  • 日ノ下 文彦(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部看護学科)
  • 齋藤 貴徳(関西医科大学 整形外科)
  • 長瀬 洋之(帝京大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー学)
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院)
  • 曽根 英恵(国立国際医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
15,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド胎芽症(以下、サ症)者の健康上の問題点や生活実態を把握し、医療や介護サービス等を提供して支援基盤を強化することが本研究の一番の目的である。さらに、構築したサ症に対する研究、支援活動のグローバルネットワークを発展させ、必要な情報をお互いに共有し全世界のサ症診療のレベルアップに貢献することも目的とする。
研究方法
1)サ症者の多い独英でも実施されていない系統的な人間ドック健診を継続する。
2)加齢に伴い頻度が増加する、糖・脂質代謝異常、骨代謝異常などの問題に対して臨床的なアプローチを強化する
3)サ症者が直面する健康、生活上の問題に対する速やかな対応・対処を行うための情報を提供する。
4)サ症者のQOL低下の要因である疼痛に対するマッサージの有効性が指摘されている。リハビリテーションスタッフにより、マッサージの効果の検討を継続する。
5)精神的問題に対するアプローチ強化のためアンケート調査を実施する。またサ症者の生活実態を把握するため生活実態調査-2022を実施する。
6)新規のサ症疑い者の診断審査に関する「診断の手引き」に基づき、診断審査を行うための手順、申請書の整備のために必要事項の検討を行う。
結果と考察
研究結果
1)人間ドック健診は、国立国際医療研究センター(NCGM)病院、帝京大学病院、関西医科大学病院の3施設で実施し、計13例に実施した。
2)人間ドック健診の結果、BMIはほとんどの症例が正常範囲であったが、脂肪肝、脂質異常症や糖代謝異常合併例が見られた。女性では大腿骨近位端の骨密度が重度に低下していた。脊椎CTでは頚椎症が認められた。異常所見が確認された者に対して、個別に、生活指導、精密検査や治療に関する医学的なアドバイスを提供することができた。
3)サ症者が直面する健康、生活上の問題として新型コロナウイルス感染への対処が必要であると考えられた。そこで、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)への対処法を掲載した小冊子に最新の情報を追加、内容を更新して改訂作業を行った。また、生活サポートや医療・福祉支援に対するニーズを把握し的確な支援を行うために、サ症者を対象としたアンケート調査による健康・生活実態調査を実施した。
4)リハビリテーション科においてサ症者におけるマッサージ、生活上の理学的アドバイスを継続して施行した。
5)「サリドマイド胎芽症者のこころの健康とQOL(生活の質)」に関する全国アンケート調査を実施した。結果から、痛みを強く感じている対象者はあまり多くなかったが、今後加齢に伴う体力低下で現在の生活を維持できなくなる可能性、問題が生じた際の相談先が明確でないことに対する不安が見られた。
6)新規のサ症疑い者の診断審査に関する手順、診断審査のための申請書類等の原案を作成し、研究班、サリドマイド福祉センター「いしずえ」、厚生労働省担当部局とWEB会議を行い、最終版を作成した。

考察
1)人間ドック受診者の検査データの解析から脂肪肝、脂質異常症、骨粗鬆症の罹患頻度が高いことが明らかとなった。今後は加齢に伴いこれらの疾患および続発する合併症の頻度が増加し、ADLやQOLを低下させる大きな要因となることが予想される。今後もできるだけ多くのサ症者に人間ドック健診を実施し、無症候性の疾患の検出、治療の促進に結び付けることが重要であると考えられる。
2)サ症者が直面する健康、生活上の問題への対処として、R4年度は新型コロナ感染症に関する情報発信を行った。新型コロナ感染症に限らず、今後も種々の社会的混乱の中でサ症者が孤立しないように、研究班としての医学的情報発信を強化する必要がある。そのため、「いしずえ」とも連携し、ホームページの充実を中心とした有効な情報発信の方法を検討する予定である。
3)サ症者独自の身体機能的、心理的問題を解決するため、R4年度にマッサージ、リハビリテーション診療、精神的QOLの実態調査、解析を実施した。今後は今回の横断的調査の延長として、加齢や社会情勢の変化に伴う実態やニーズの経時変化を把握し、変化に即した対応や情報提供を模索することが重要である。
4)コロナ禍の産物であるリモートでの交流、情報交換、情報提供の方法をサ症研究にも応用し、ホームページの掲載内容、ビデオを利用した健康や生活に役立つ情報の提供の充実を図っていく。
5)新規のサ症疑い者から診断審査の申請が行われた場合には、申請者は本年度に作成した申請書等を用いて申請を行い、研究班が診断手順に沿って診断を行う。
結論
サ症者の健康、生活の向上に有用な情報の発信を行うことができた。コロナ禍の影響で本年度も人間ドック健診受診者は多くはなったが、人間ドック健診を実施し、健康維持や治療に繋げるアドバイスを提供することができた。

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202225024B
報告書区分
総合
研究課題名
サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築
課題番号
20KC2005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 晶代(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 糖尿病内分泌代謝科)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 信彦(国立障害者リハビリテーションセンター  自立支援局)
  • 日ノ下 文彦(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部看護学科)
  • 田上 哲也((独)国立病院機構 京都医療センター 内分泌・代謝内科/臨床研究センター/健診センター)
  • 宮本 心一(独立行政法人国立病院機構京都医療センター 消化器内科)
  • 齋藤 貴徳(関西医科大学 整形外科)
  • 長瀬 洋之(帝京大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー学)
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院)
  • 曽根 英恵(国立国際医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド胎芽症(サ症)者は種々の身体機能的、心理的問題を抱えているが、60歳前後の年齢となり、加齢に伴い罹患する疾患や運動機能障害にも直面する。そのため、より密で個々に対応するテーラーメード支援が必要となることが予想される。R2年度以降、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 蔓延により支援の手が届きにくく、研究班とサ症者、サ症者同士の連携が取りにくい状況になった。その状況を踏まえ、サ症者の健康、生活に役立つ情報を提供することを第一の目的として研究を行った。
研究方法
1. 人間ドック健診の実施
人間ドック健診担当の3施設で、人間ドック健診を実施した。また、脂質・糖代謝、画像所見に関するデータを解析した。
2. 新型コロナウイルスワクチン接種の注意点に関する説明文の作成
上下肢形成不全者における筋肉注射に関する文献や成書が乏しいことから、ワクチン接種が先行していた欧米のサ症研究者からの情報を広く得て、研究班員の経験に基づき至適なワクチン接種部位の選定を行った。
3. COVID-19への対処法を掲載した小冊子の作製
R2年度に小冊子を発行し、R3年度、R4年度に改訂版を発行した。
4. 二次的運動器障害に対するマッサージを含むリハビリテーション診療についての検討
令和2年度に日本のサ症者を対象に行ったアンケート調査を集計、解析し、マッサージを含むリハビリテーション診療の有用性、障害を克服する為に必要な人間工学的な技術について検討した。
5. サ症者のこころの健康とQOL (生活の質) に関する研究
本邦におけるサ症者の協力を得て痛みやQOLに関するアンケート調査を行った
6.新規のサ症疑い者の診断審査に関する手順、診断審査のための申請書類等の原案を作成し、研究班、サリドマイド福祉センター「いしずえ」、厚生労働省担当部局とWEB会議を行い、最終版を作成した。
結果と考察
1. 人間ドック健診の実施
R2~R4年度はコロナ禍で医療機関受診が困難であり、受診者は計22名であった。平均年齢は60歳であった。 BMIが正常でも脂肪肝、脂質異常症や糖代謝異常合併例が多く見られた。女性では大腿骨近位端の骨密度が重度に低下していた。脊椎CTでは頚椎症・前方すべり、二分脊椎・仙尾骨陳旧性骨折、塊椎が確認された。
2. サ症者に対する新型コロナウイルスワクチン接種の注意点に関する説明文の作成
新型コロナウイルスに対するワクチンは上腕筋の上部に接種されるが、サ症者では上肢形成障害のため接種部位の選定が困難であることが予想された。また、ワクチンの副作用、副反応に対する強い懸念や不安も大きいと考えられた。そこで、サ症者およびワクチン接種を担当する医療者のために、新型コロナウイルスワクチン接種時の注意点に関する説明文書を作成、配布した。
3. COVID-19への対処法を掲載した小冊子作製
COVID-19の流行期においては接触感染や飛沫感染を防ぐ生活様式を実行する必要がある。また、ワクチン接種を含めた対策は、ウイルス変異と流行状況に伴い時々刻々と変遷している。そこでマニュアルを作成し、疫学、治療体系、ワクチンについて最新情報を記載した。
4. 二次的運動器障害に対するマッサージを含むリハビリテーション診療についての検討
日本のサ症者を対象に行ったアンケート調査の集計、解析結果から、痛みや凝りを訴えるサ症者の約半数が自費でマッサージ等を受け、それにより生活障害が改善したことが明らかになった。また、障害克服の為の人間工学的な技術の検討を行い、その評価法を検討した結果、座位で用いる圧センサーマット、ビデオ画像を用いた動作解析を行うためのソフトウェア、上肢末梢の皮膚温変化を計測するサーモグラフィの準備が必要であることが明らかとなった。
5. サ症者のこころの健康とQOL (生活の質) に関する研究
身体的および精神的QOLは一般ノルムの範囲内であること、41.2%の参加者が何らかの精神疾患を抱えているあるいは高いリスクにあること、身体的な痛みに対する認知的コーピングの一つである破滅思考が精神的QOLの低下に関係していることが示唆された。今後、痛みに対するコーピング、ソーシャル・サポートに加え、レジリエンスとモビリティを測る尺度を加えて調査を行うことを計画している。
6.新規のサ症疑い者の診断審査に関する手順、診断審査のための申請書類等の原案を作成し、研究班、サリドマイド福祉センター「いしずえ」、厚生労働省担当部局とWEB会議を行い、最終版を作成した。
結論
COVID-19の流行下で、サ症者の健康、生活の向上に有用な情報の発信を行うことができた。またコロナ禍の影響で本年度も少数例ではあったが、人間ドック健診を実施し、健康維持や治療に繋げるアドバイスを提供することができた。

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
過去4期の研究班で人間ドック健診が実施されてきた。健診による系統的かつサ症に対応した健康管理はサリドマイド胎芽症(サ症)の多い独英でも実施されておらず、わが国独自のアプローチである。健診で得られた生化学的データ、画像データの蓄積、経時変化の解析、精神・心理的側面に関するアンケート調査、生活実態調査の解析により、サ症の長期的臨床経過に関する貴重なデータ得ることができた。
臨床的観点からの成果
人間ドック健診によりサ症に合併する疾患のみならず、加齢に伴う合併疾患等を早期に抽出することができた。それにより適切な生活アドバイスを提供し、早期の精密検査や治療に繋げることができた。さらに健診により得られた生化学的データ、画像データの解析により、サ症者の健康状態の把握、今後の医療支援の在り方を検討することができた。またサ症者の生活や健康支援のための情報発信は、コロナ蔓延などの社会的混乱の中でサ症者の孤立を回避する一助となったと考えられる。
ガイドライン等の開発
2020年に発刊した「サリドマイド胎芽症診療ガイド2020」の英語版を作成、発行した。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下でサ症者が安心して生活するためのCOVID-19対策の小冊子を令和2年度に作成、令和3年度、4年度に内容を更新し、第二版、第三版を作成した。令和3年度にはサ症者およびワクチン接種を担当する医療者のために、サ症者に新型コロナウイルスワクチンを接種する際の注意点に関する説明文書を作成、配布した。
その他行政的観点からの成果
新規診断希望者に対する診断審査手順、診断方法などの整備を新規に行った。過去の研究班が作成した「サ症診断の手引き」に基づき、診断審査の手順の具体化、申請書類の新規作成が必要であった。申請書および必要なデータを収集する調査票を作成するため、診断審査に必要な項目を抽出した。いしずえ、厚労省担当部署と協議を重ね、申請書(案)、調査票(案)、その他の書類を作成した。さらに、所見をまとめるための所見用紙の原案を作成した。
その他のインパクト
研究期間はCOVID-19蔓延期間と重複し、人間ドック健診、対外的交流が制限された。しかしその間もサ症者への情報発信を行うことができた。またWEBを用いた研究班の交流・活動手法を整備することができた。今後はこれまで困難であった全国のサ症者との交流に活用できる可能性が開けた。今後のウイズコロナの時代に向けた新たな研究班の活動、サ症者支援の方策の基盤になったと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
202225024Z