文献情報
文献番号
202225002A
報告書区分
総括
研究課題名
精神活性物質の迅速検出法ならびに有害作用評価法開発に関する研究
課題番号
20KC1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(湘南医療大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 秀依(東京理科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,545,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、世界各国で新しい合成物質が登場し、新規精神活性物質(New Psychoactive Substances) が危険ドラッグとして流通が拡大しており、乱用に基づく死亡事例などの健康被害は大きな社会問題となっている。わが国でも、危険ドラッグの流通により、その乱用に基づく事件事故が多発した。こうした危険ドラッグに関して、迅速かつ包括的な薬物検出および有害作用の評価法の導入が必須となっている。世界的な危険ドラッグ問題としては、合成カンナビノイドに加えて、フェンタニル誘導体の流通が増加している。標準品として合成カンナビノイドおよびフェンタニル誘導体のライブラリーを作製し、有害作用の評価や機器分析による微量分析法について検討することが急務である。本研究では、細胞を利用して、危険ドラッグの検出とその毒性を同時に検出する手法の開発を試みた。また、危険ドラッグの化合物ライブラリーを作製し、機器分析による微量分析法について検討した。
研究方法
本研究では、オピオイド化合物の検出と作用強度を予測するための細胞樹立を試みた。更に、検出の機動性を高める目的で、持ち運び可能な細胞利用による薬物検出器の作製を実施した。オピオイド化合物の作用評価細胞の構築に関しては、オピオイド化合物の作用点であるµ受容体発現細胞にカルシウムセンサータンパク質を導入して、自立蛍光検出細胞となるCHO-μ-GCaMP細胞を構築した。また、危険ドラッグのライブラリー作製に関する研究では、3-アロイルインドールを基本骨格にもつ合成カンナビノイドおよびフェンタニル誘導体の合成を進め、機器分析による微量分析法について検討した。
結果と考察
本研究では、CHO-μ-GCaMP細胞を利用して、フェンタニルと6種類の新規フェンタニル誘導体(SDFV-63、SDFV-92、SDFV-93、SDFV-94、SDFV-99およびSDFV-100)の作用強度の比較を行った。その結果、SDFV-92、SDFV-93およびSDFV-99の処置によって濃度依存的な蛍光量の増加が確認された。一方、SDFV-63、SDFV-94およびSDFV-100では蛍光量の増加は認められなかった。フェンタニル誘導体の僅少構造差異により、作用強度が異なることが明らかになった。次に、細胞を利用した薬物検出法の実効性と利便性を高める目的で、持ち運び可能な小型蛍光検出器を作製した。量販型の8連型PCRチューブを利用して、CHO-μ-GCaMP細胞を培養した。チューブ内へオピオイド化合物(フェンタニル、SDFV-92、SDFV-93およびSDFV-99)を添加したところ、蛍光発光を検出することが可能であった。一方、SDFV-63、SDFV-94およびSDFV-100では有意な蛍光発色は検出されず、µ受容体作用薬の選択的な検出が可能であった。危険ドラッグライブラリー:精神活性化作用が期待される様々な化合物の化合物ライブラリーを作製した。今年度は合成カンナビノイド21種類、カチノン系及び3-FPE併せて22種類、フェンタニル8種類、フェンタニルの代謝物2種類の合成を完了した。最近、欧米で違法に使用されているフェンタニル誘導体については、これまで合成した化合物が合計で101種(2023年1月7日現在)となり、標準品として提供できる化合物ライブラリーを作製することができた。フェンタニル誘導体については、特に立体構造に着目した分子設計及び合成を行っており、いくつかの誘導体については、軸不斉異性体を安定な化合物として単離することに成功した。
結論
本研究では、オピオイド作用薬の検出用細胞としてCHO-μ-GCaMP細胞の樹立ならびに小型蛍光検出器の作製に成功した。本細胞はオピオイド化合物に関して、化学構造特性に依存しない包括的検出用に応用可能である。また、本研究で作製した小型検出器の利用により、機動性の向上と省スペースでの利用も可能となり、危険ドラッグの発見や救急現場での原因薬物の検出などに応用が期待される。(2) 本研究により、合成カンナビノイド、カチノン系及びFPE誘導体、フェンタニル誘導体の合成を完了した。フェンタニル誘導体については、これまで合成した化合物が合計で101種(2023年1月7日現在)となり、標準品として提供できる化合物ライブラリーを作製することができた。このような化合物ライブラリーは世界に唯一の貴重な化合物ライブラリーである。標準品として麻薬取締部や公的な研究機関からの要望に応じて提供可能である。また、ラマン分光による分析データなども世界的に貴重であり、麻薬取締部等からの要請に応じて提供し、微量分析のための活用が期待される。
公開日・更新日
公開日
2023-07-28
更新日
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