放射線感受性ナノバイオ・ウイルス製剤の開発と難治性固形癌に対する臨床応用の検討

文献情報

文献番号
200924027A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線感受性ナノバイオ・ウイルス製剤の開発と難治性固形癌に対する臨床応用の検討
課題番号
H19-3次がん・一般-028
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 俊義(岡山大学病院 遺伝子・細胞治療センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治固形癌に対する新たな抗癌剤開発は、分子標的薬剤の開発などにより積極的に進められており、その治療成績の向上も現実のものとなってきている。しかし、副作用や耐性の出現など解決すべき問題点は多く、新たな治療戦略の開発は必須と考えられる。本研究の目的は、ベクターとして多くの遺伝子治療で使用され、その安全性が確認されてきたアデノウイルスのゲノムを改変し、より強力な抗腫瘍活性を有する武装化(armed)ナノバイオ・ウイルス製剤を開発することである。
研究方法
「かぜ」症状の原因となるアデノウイルス5型を基本骨格とし、80-90%のヒト悪性腫瘍で高い活性がみられる不死化関連酵素テロメラーゼの構成分子であるhTERT遺伝子のプロモーターでウイルス増殖に必須のE1遺伝子を制御することで、癌細胞のみで増殖する腫瘍融解アデノウイルスOBP-301を構築した。さらに、強力なアポトーシス誘導機能を持つ癌抑制遺伝子p53をウイルスのE3遺伝子領域に搭載して、ナノバイオ・ウイルス製剤OBP-702を作成した。本年度は、OBP-702の強力な抗腫瘍効果の分子機構を明らかにし、さらにアポトーシス誘導能を指標としたOBP-702の放射線感受性増強作用を検証した。
結果と考察
p53遺伝子を持たないOBP-301およびp53遺伝子発現非増殖型アデノウイルスAdvexinとの比較を行い、OBP-702はAdvexinの約10倍のアポトーシス誘導効果を有することが明らかとなった。その分子機構として、Advexinではp21が持続的に誘導されるため細胞周期停止が優位となるが、OBP-702感染ではp21発現が抑制されるため、アポトーシスが強く誘導されると考えられる。

ヌードマウスの背部に移植した腫瘍にOBP-702を腫瘍内投与したところ、同容量のAdvexinやOBP-301に比べて有意に強力なin vivo抗腫瘍効果がみられ、さらに生存期間の延長が認められた。

さらに、OBP-702の放射線感受性増強効果を検討したところ、OBP-301に感受性のある癌細胞、抵抗性の癌細胞のいずれでもアポトーシス誘導に伴う明らかな放射線増感作用が観察されており、OBP-702は放射線増感作用を有する生物製剤と言える。
結論
ウイルス製剤OBP-702は、強力なアポトーシス誘導を介した抗腫瘍効果を発揮し、さらに放射線感受性を増強することが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200924027B
報告書区分
総合
研究課題名
放射線感受性ナノバイオ・ウイルス製剤の開発と難治性固形癌に対する臨床応用の検討
課題番号
H19-3次がん・一般-028
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 俊義(岡山大学病院 遺伝子・細胞治療センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治固形癌に対する新たな抗癌剤開発は、分子標的薬剤の開発などにより積極的に進められており、その治療成績の向上も現実のものとなってきている。しかし、副作用や耐性の出現など解決すべき問題点は多く、新たな治療戦略の開発は必須と考えられる。本研究の目的は、ベクターとして多くの遺伝子治療で使用され、その安全性が確認されてきたアデノウイルスのゲノムを改変し、より強力な抗腫瘍活性を有する武装化(armed)ウイルス製剤を開発することである。
研究方法
「かぜ」症状の原因となるアデノウイルス5型を基本骨格とし、80-90%のヒト悪性腫瘍で高い活性がみられる不死化関連酵素テロメラーゼの構成分子であるhTERT遺伝子のプロモーターでウイルス増殖に必須のE1遺伝子を制御することで、癌細胞のみで増殖する腫瘍融解アデノウイルスOBP-301を構築した。さらに、強力なアポトーシス誘導機能を持つ癌抑制遺伝子p53をウイルスのE3遺伝子領域に搭載してOBP-702を作成した。OBP-702の強力な抗腫瘍効果とその分子機構を明らかにし、さらに放射線感受性増強作用を検証した。
結果と考察
肺癌、大腸癌、肝臓癌、食道癌、頭頸部癌、乳癌、悪性中皮腫などの癌細胞で選択的に増殖することによりOBP-702は標的細胞死を引き起こすと同時に、p53遺伝子を発現して強力なアポトーシス誘導を介した抗腫瘍効果を発揮することが明らかになった。

p53遺伝子を持たないOBP-301およびp53遺伝子発現非増殖型アデノウイルスAdvexinとの比較を行い、OBP-702はAdvexinの約10倍のアポトーシス誘導効果を有することが明らかとなった。その分子機構として、Advexinではp21が持続的に誘導されるため細胞周期停止が優位となるが、OBP-702感染ではp21発現が抑制されるため、アポトーシスが強く誘導されると考えられる。

さらに、OBP-702の放射線感受性増強効果を検討したところ、OBP-301に感受性のある癌細胞、抵抗性の癌細胞のいずれでもアポトーシス誘導に伴う明らかな放射線増感作用が観察されており、OBP-702は放射線増感作用を有する生物製剤と言える
結論
p53遺伝子を搭載したテロメラーゼ特異的増殖アデノウイルスOBP-702製剤は、基盤となったp53遺伝子を持たないOBP-301製剤やp53遺伝子を発現する非増殖型アデノウイルスより強い抗腫瘍活性を示し、その有用性が示された。また、放射線感受性増強効果も明らかであり、今後のトランスレーショナルリサーチが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で開発したOBP-702は、hTERT遺伝子のプロモーターでアデノウイルスE1遺伝子を駆動し、放射線感受性プロモーターEgr-1でヒト正常型p53遺伝子を発現する腫瘍融解ウイルスである。p53遺伝子を搭載することで、既存のウイルス製剤に抵抗性であった癌細胞でも抗腫瘍効果が認められ、新たな分子機構が明らかとなった。
臨床的観点からの成果
基本骨格を共有するテロメライシン(OBP-301)はすでに臨床応用が進んでいるが、本研究によってOBP-301抵抗性のがん細胞においてもOBP-702は効果が確認されており、OBP-301を補完する治療薬としての臨床応用が期待される。
ガイドライン等の開発
ガイドラインなどへの直接的な貢献はまだ見られていない。
その他行政的観点からの成果
今までの抗癌剤とは作用機構の異なる新規抗がん治療法として開発が進んでおり、臨床応用によって化学療法に抵抗性となった症例などに有効性が期待され、国民の保健衛生の向上に寄与すると思われる。
その他のインパクト
新たなウイルス製剤の開発として新聞報道された(山陽新聞 平成20年10月28日)。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kojima, T., Hashimoto, Y., Watanabe, Y., et al
A simple biological imaging system for detecting viable human circulating tumor cells.
J. Clin. Invest. , 119 , 3172-3181  (2009)
原著論文2
Liu, D., Kojima, T., Ouchi, M., et al
Preclinical evaluation of synergistic effect of telomerase-specific oncolytic virotherapy and gemcitabine for human lung cancer.
Mol. Cancer Ther. , 8 , 980-987  (2009)
原著論文3
Ikeda, Y., Kojima, T., Kuroda, S., et al
A novel antiangiogenic effect for telomerase-specific virotherapy through host immune system.
J. Immunol. , 182 , 1763-1769  (2009)
原著論文4
Kurihara, Y., Watanabe, Y., Onimatsu, H., et al
Telomerase-specific virotheranostics for human head and neck cancer.
Clin. Cancer Res. , 15 , 2335-2343  (2009)
原著論文5
Hashimoto Y, Watanabe Y, Shirakiya Y, et al
Establishment of Biological and Pharmacokinetic Assays of Telomerase-Specific Replication-Selective Adenovirus (TRAD).
Cancer Sci. , 99 , 385-390  (2008)
原著論文6
Endo Y, Sakai R, Ouchi M, et al
Virus-mediated oncolysis induces danger signal and stimulates cytotoxic T-lymphocyte activity via proteasome activator upregulation.
Oncogene , 27 , 2375-2381  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-