墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の作成に資する研究

文献情報

文献番号
202223012A
報告書区分
総括
研究課題名
墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の作成に資する研究
課題番号
22JA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
日野 泰道(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
  • 高橋 弘樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全ネットは労働安全衛生規則において「防網」と表現され、高所作業時の墜落防止対策の一つとして明記されている。また墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針(大臣公示、以下「技術上の指針」と呼ぶ。)が昭和51年に出され、安全ネットの構造、強度等について規定されている。しかしながら、現在流通する安全ネットは、技術上の指針の作成当時とは大きく異なっている。そこで本研究では、現在流通する安全ネットの実情を踏まえ、現行の関連法令や技術上の指針等との関係から、改めて検討すべき事項を明らかにするとともに、現在主流となっている「無結節網地(ラッセルネット)」の基本的な性能を明らかにすることを目的とする。
研究方法
まず、技術上の指針と、その背景となる研究報告の内容を吟味し、現在主流となっている無結節編地のラッセルネットへの適用の可否などについて検討を行う。また「安全ネットの構造等に関する安全基準と解説(仮設工業会、昭和56年7月20日。以下「仮設工業会の安全基準」と呼ぶ)」で定める実験方法およびその評価方向に基づき、ラッセルネットの基本性能について実験的に検討を行う。
結果と考察
技術上の指針は、ネットの網目が50㎜目ないし100㎜目のかえるまた結節されたネットを対象とした実験結果に基づくものであり、対象とするネットも結節編地であることがわかった。これに対し現在主流のネットは15㎜目のラッセルネット(無結節ネット)であり、技術上の指針で前提とする実験結果とは異なる力学的性状を有する可能性がある。また技術上の指針では、ネット全体としての経年劣化や破損レベルを定量的に確認する実験・検査方法は明確にされていない。それらを踏まえて、ネットに関する指針類の見直しを進める必要があると考えられる。この点、安全ネットの構造等に関する安全基準と解説(仮設工業会、昭和56年7月20日。以下「仮設工業会の安全基準」と呼ぶ)では、ラッセル編地を用いたネット、目合いの小さい編地を用いたネットを対象とした検討結果が示されている。ここでは、技術上の指針と重複する諸規定が含まれているものの、一方で、ラッセルネットの網糸を対象とした試験方法に加え、新品時およびネット廃棄時における網糸の引張強度が示されており、また安全性を確認するための落下試験が明示されているなど参考となる。ただし、その根拠となった具体的な実験データは示されていない。そのため、仮設工業会の安全基準を参考にしつつ、その妥当性を含めた検討が必要と考えられる。
 ラッセルネットの経年品を用いた落下試験の結果、落下体の墜落制止が出来ず、ネットを貫通する可能性があることが示された。当ネットの使用頻度等は不明であり、今後はICタグ等で管理された経年品を対象にした材料試験および落下実験を実施し、廃棄すべきネットの検討を進める必要があると考えられる。なお、ICタグにより管理されたネットの引張試験によると、仮設工業会の安全基準で定める廃棄基準を下回るのは、概ね10年経過後であった。これは、結節ネットの試験結果(技術上の指針の根拠となった研究)よりも進行は遅いものだった。いずれにせよ仮設工業会の安全基準で定める廃棄基準に該当する引張強度によって、廃棄の有無を判別できるか、検討が必要と考えられる。
 新品のラッセルネットを対象とした試験では、ネットの縁綱の支持点数の違いにより、墜落制止能力に大きな差異が生じることが明らかとなった。とりわけ従来は、落下位置については、ネット中央への落下が最も厳しい条件と考えられていたが、実際には縁綱付近への落下が最も厳しい条件であった。この点、ネット使用時の安全性を踏まえると、吊綱によるネット支持は現実的ではなく、ネットクランプ等によって支持することが安全性に寄与するものと考えられる。その支持点数については、従来から考えられている支持点数(3m以内ごとに支持するという基準)では端部開口部への墜落危険性が排除できないことに加え、ネット上へ墜落した場合でも、縁綱からネットの網目が避けて貫通する可能性があることが明らかとなった。そのため、縁綱の適切な支持点数について明らかにする必要がある。これについては、ネットクランプから縁綱が外れる可能性があることを踏まえた検討が必要と考えられる。
結論
現在、ラッセルネットについては、仮設工業会の安全基準によって、自主的に安全ネットの品質等の管理がなされることが期待されており、その安全基準の実験方法では、ネット中央部への落下のみを定めている。ネット中央部への落下が最も厳しい条件と考えられているためである。ところがラッセルネットの場合は、ネット端部への落下が最も厳しい条件となると考えられる。そのため、この点について、現在流通する安全ネットの安全性は確認されていないと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202223012Z