ウイルスを標的とする発がん予防の研究

文献情報

文献番号
200924014A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H19-3次がん・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 川名 敬(東京大学医学部付属病院)
  • 酒井 博幸(京都大学ウイルス研究所)
  • 鈴木 哲朗(国立感染症研究所ウイルス2部)
  • 林 紀夫(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学医歯学総合研究科)
  • 内田 茂治(東京都西赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
33,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 15種の高リスクヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの原因となり、C型肝炎ウイルス(HCV)は肝臓がんの原因となる。子宮頸がんないし肝臓がん予防のために、高リスクHPV群に対するワクチンの事業化と子宮頸部前がん病変に対する免疫療法の臨床試験を行う。潜伏感染しているHPVを排除する方法を探る。HCV増殖の素過程を調べ、介入する方法を探る。HCV慢性肝炎患者体内からHCVが排除されない機構を、体内HCV準種の性質と患者の免疫応答の両面から詳細に調べ、新たな免疫治療方法の開発に役立てる。
研究方法
 HPV交差性中和エピトープを持つ次世代HPVワクチンに誘導される中和抗体の簡便な定量法を開発した。試料中の複数のHPV型DNAを高感度で検出できる新たな方法を用いて、子宮頸部擦過細胞に含まれるHPVのサーベイランスを行った。子宮頸部上皮高度異形成(CIN3)ではHPVのE7蛋白質が高発現している。CIN3患者のE7-CTLレベルと病変自然治癒の関連を調べた。菌体表面にE7蛋白質を発現している乳酸菌(lac-E7)をCIN3患者に経口投与し、患部にE7-CTLを誘導する臨床試験を開始した。HPV潜伏感染及び表皮形成分化と連動するHPV増殖モデル系を調製した。インターフェロン(IFN)治療で治癒しないHCV慢性肝炎患者体内のHCV準種を調べた。HCVNS5A蛋白質のリン酸化を担う細胞酵素を調べた。
結果と考察
 次世代HPVワクチンに誘導される中和抗体価とELISAで測定したL1/L2-キャプシドとの結合価は平行した。臨床試験被験者の効果判定に応用できる。従来のデータとは異なり、調べた女性の少なくとも30%は同時に複数のHPV型に感染していること、HPV52、16、58、56、51型が多いことがわかった。E7-CTLが多いとCIN3が自然治癒する傾向があった。Lac-E7経口投与臨床試験では、低用量の段階で被験者にE7-CTLの誘導がみられた。慢性C型肝炎患者のIFN治療前後で、体内HCV準種が変わることがわかった。少量存在する準種がIFN抵抗性を担っている可能性がある。HCV粒子形成に至る過程で必須なNS5A蛋白質のリン酸化を担う3種類のセリンスレオニンキナーゼを同定した。抗HCV薬の標的となる。
結論
 交差性中和エピトープを持つ型共通次世代HPVワクチンの事業化に必要な周辺技術が整備された。lac-E7によるCIN3治療では、今後の高用量試験の成績に期待できる。HCV慢性肝炎患者体内HCV準種の解析は、IFN治療耐性機構の解明に新たな情報を提供する。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200924014B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H19-3次がん・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 川名  敬(東京大学医学部附属病院)
  • 酒井 博幸(京都大学ウイルス研究所)
  • 鈴木 哲朗(国立感染症研究所ウイルス2部)
  • 林  紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科 )
  • 松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院 医歯学総合研究科 )
  • 内田 茂治(東京都西赤十字 血液センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
15種の高リスクヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの原因となり、C型肝炎ウイルス(HCV)は肝臓がんの原因となる。子宮頸がんないし肝臓がん予防のために、高リスクHPV群に対するワクチンの事業化と子宮頸部前がん病変に対する免疫療法の臨床試験を行う。潜伏感染しているHPVを排除する方法を探る。HCV増殖の素過程を調べ、介入する方法を探る。HCV慢性肝炎患者体内からHCVが排除されない機構を、体内HCV準種の性質と患者の免疫応答の両面から詳細に調べ、新たな免疫治療方法の開発に役立てる。
研究方法
 HPV交差性中和エピトープを持つ次世代HPVワクチンに誘導される中和抗体の簡便な定量法を開発した。試料中の複数のHPV型DNAを高感度で検出できる新たな方法を用いて、子宮頸部擦過細胞に含まれるHPVのサーベイランスを行った。子宮頸部上皮高度異形成(CIN3)ではHPVのE7蛋白質が高発現している。CIN3患者のE7-CTLレベルと病変自然治癒の関連を調べた。菌体表面にE7蛋白質を発現している乳酸菌(lac-E7)をCIN3患者に経口投与し、患部にE7-CTLを誘導する臨床試験を開始した。HPV潜伏感染及び表皮形成分化と連動するHPV増殖モデル系を調製した。インターフェロン(IFN)治療で治癒しないHCV慢性肝炎患者体内のHCV準種を調べた。HCVNS5A蛋白質のリン酸化を担う細胞酵素を調べた。
結果と考察
 次世代HPVワクチンに誘導される中和抗体価とELISAで測定したL1/L2-キャプシドとの結合価は平行した。臨床試験被験者の効果判定に応用できる。従来のデータとは異なり、調べた女性の少なくとも30%は同時に複数のHPV型に感染していること、HPV52、16、58、56、51型が多いことがわかった。E7-CTLが多いとCIN3が自然治癒する傾向があった。Lac-E7経口投与臨床試験では、低用量の段階で被験者にE7-CTLの誘導がみられた。慢性C型肝炎患者のIFN治療前後で、体内HCV準種が変わることがわかった。少量存在する準種がIFN抵抗性を担っている可能性がある。HCV粒子形成に至る過程で必須なNS5A蛋白質のリン酸化を担う3種類のセリンスレオニンキナーゼを同定した。抗HCV薬の標的となる。
結論
 交差性中和エピトープを持つ型共通次世代HPVワクチンの事業化に必要な周辺技術が整備された。lac-E7によるCIN3治療では、今後の高用量試験の成績に期待できる。HCV慢性肝炎患者体内HCV準種の解析は、IFN治療耐性機構の解明に新たな情報を提供する。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 型共通エピトープに対する抗体はHPV粒子の脱殻を阻害する。抗体によるウイルス感染阻害として、これまであまり知られていない機構である。三次元培養するとHPVの複製が起こるHPV18型導入ヒト角化細胞は、HPV潜伏感染と分化に連動するHPV増殖機構を解析する新規のモデル細胞系となる。HCV慢性肝炎患者血清に含まれるHCV準種を網羅的に解析する方法は、持続感染するRNAウイルスの変異を追跡する優れた方法となり、応用範囲が広い。
臨床的観点からの成果
交差性中和エピトープを持つキメラVLPは、高リスクHPV群全ての感染を予防する第二世代HPVワクチン抗原になると期待でき、特許申請とともに、臨床試験に必要な周辺技術の整備も進んだ。子宮頸部上皮高度異形成(CIN3)患者に対し、HPVのE7蛋白質を表面に持つ乳酸菌死菌を経口投与して子宮頸管部にE7-CTLを誘導する臨床試験は、東大医学部産婦人科で始まり、低用量でもE7-CTLの誘導がみられた。副作用は無く、高用量試験の成績が期待できる。
ガイドライン等の開発
特記事項無し
その他行政的観点からの成果
輸血によるウイルス伝播の動向調査は、輸血の安全性確保の施策を立てる基盤情報となる。

その他のインパクト
「粘膜指向性ヒトパピローマウイルス群の感染予防ワクチン抗原」出願中。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
113件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
91件
学会発表(国際学会等)
37件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kondo K, Ochi H, Matsumoto T, et al.
Modification of human papillomavirus-like particle vaccine by insertion of the cross-reactive L2-epitopes.
J. Med. Virol.  (2008)
原著論文2
Ochi H, Kondo K, Matsumoto K, et al.
Neutralizing antibodies against human papillomavirus types 16, 18, 31, 52, and 58 in serum samples from women in Japan with low-grade cervical intraepithelial neoplasia.
Clin Vaccine Immunol.  (2008)
原著論文3
Ishii Y, Kondo K, Matsumoto T, et al.
Thiol-reactive reagents inhibits intracellular trafficking of human papillomavirus type 16 pseudovirions by binding to cysteine residues of major capsid protein L1.
Virol J.  (2007)
原著論文4
Sato K, Takeuchi T, Kukimoto I, et al.
Human papillomavirus type 16 P670 promoter is negatively regulated by CCAAT displacement protein.
Virus Genes.  (2007)
原著論文5
Kondo, K., Ishii,Y., Mori, S., et al.
Nuclear location of minor capsid protein L2 is required for expression of a reporter plasmid packaged in HPV51 pseudovirions.
Virology  (2009)
原著論文6
Satsuka, A., Yoshida, S., Kajitani, N., et al.
A novel human papillomavirus type18 replicon and its application in screening the anti-viral effects of cytokines.
Cancer Sci.  (2010)
原著論文7
Hara H, Aizaki H, Matsuda M, et al.
Involvement of creatine kinase B in hepatitis C virus genome replication through interaction with the viral NS4A protein.
J Virol.  (2009)
原著論文8
Kukihara H, Moriishi K, Taguwa S, et al.
Human VAP-C negatively regulates hepatitis C virus propagation.
J Virol.  (2009)
原著論文9
Taguwa S, Kambara H, Omori H, et al.
Cochaperone activity of human butyrate-induced transcript 1 facilitates hepatitis C virus replication through an Hsp90-dependent pathway.
J Virol.  (2009)
原著論文10
Hmwe SS, Aizaki H, Date T, et al.
Identification of hepatitis C virus genotype 2a replicon variants with reduced susceptibility to ribavirin.
Antiviral Res.  (2010)
原著論文11
Nishimura G, Ikeda M, Mori K, et al.
Replicons from genotype 1b HCV-positive sera exhibit diverse sensitivities to anti-HCV reagents.
Antiviral Res.  (2009)
原著論文12
Kawai Y, Ikeda M, Abe K, et al.
Development of an HCV relapse model using genome-length HCV RNA harboring cells possessing the IFN-a-resistance phenotype.
Hepatol Res.  (2009)
原著論文13
Dansako H, Ikeda M, Ariumi Y, et al.
Double-stranded RNA- induced interferon-beta and inflammatory cytokine production modulated by hepatitis C virus serine proteases derived from patients with hepatic diseases.
Arch Virol.  (2009)
原著論文14
Ikeda M, Mori K, Ariumi Y, et al.
Oncostatin M synergistically inhibits HCV RNA replication in combination with interferon-a.
FEBS Lett.  (2009)
原著論文15
Saeed M, Suzuki R, Kondo M, et al.
Evaluation of hepatitis C virus core antigen assays in detecting recombinant viral antigens of various genotypes.
J Clin Microbiol.  (2009)
原著論文16
Moriishi K, Mochizuki R, Moriya K, et al.
Critical role of PA28gamma in hepatitis C virus-associated steatogenesis and hepatocarcinogenesis.
Proc Natl Acad Sci U S A.  (2007)
原著論文17
Abe T, Kaname Y, Hamamoto I, et al.
Hepatitis C virus nonstructural protein 5A modulates the toll-like receptor-MyD88-dependent signaling pathway in macrophage cell lines.
J. Virol.  (2007)
原著論文18
Mori Y, Yamashita T, Tanaka Y, et al.
Processing of capsid protein by cathepsin L plays a crucial role in replication of Japanese encephalitis virus in neural and macrophage cells.
J. Virol.  (2007)
原著論文19
Tani H, Komoda Y, Matsuo E,
Replication-competent recombinant vesicular stomatitis virus encoding hepatitis C virus envelope proteins.
J. Virol.  (2007)
原著論文20
Yoshida S, Kajitani N, Satsuka A,
Ras modifies proliferation and invasiveness of cells expressing human papillomavirus oncoproteins.
J Virol.  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-