建設現場における建設工事従事者を対象とする新たな安全衛生確保のための制度構築に資する研究

文献情報

文献番号
202223006A
報告書区分
総括
研究課題名
建設現場における建設工事従事者を対象とする新たな安全衛生確保のための制度構築に資する研究
課題番号
21JA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
平岡 伸隆(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川 直孝(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,335,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では,一人親方等は労働安全衛生法上の労働者には当たらないため,同法の直接の保護対象には当たらないが,建設工事の現場では,他の関係請負人の労働者と同じような作業に従事しており,その業務の実情,災害の発生状況等からみて,技能を持った建設工事の担い手である一人親方等の安全及び健康の確保について,特段の対応が必要であると考えられる。一人親方等の労働安全衛生に関する行政施策が記載された「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律(以下,建設職人基本法という)」が平成29年3月16日に施行された。さらに建設職人基本法に基づく基本計画(平成29年6月閣議決定)に「一人親方等の安全及び健康の確保」が掲げられ,厚生労働省では,平成30年度から,一人親方等に対する研修や指導にかかる事業を実施している。こうした背景を踏まえ,本研究では,次期災防計画(令和5年度開始)の策定作業等において,一人親方等の安全及び健康の確保対策に活用するための基礎的知見を得ることを目標とする。
一人親方等の労働安全衛生の行政施策のモデルとして既にこうした法令・施策が採られている可能性のある諸外国の法制度,運用方法およびその実態について調査することが有効であると考えられる。
そこで本分担研究では,一人親方等に対する労働安全衛生施策を既に実行している可能性が高く,なおかつ災害件数の少ない英国をはじめとして,その他欧州各国の建設現場における建設工事従事者に関する法制度とその運用の実情を把握することを目的とする。
研究方法
一人親方等の労働安全衛生の行政施策のモデルとして既にこうした法令・施策が採られている可能性のある諸外国の法制度,運用方法およびその実態について調査することが有効であると考えられる。本調査では,イギリス,アメリカ,オーストラリアの三か国において,自営業者が法的/制度的にどのように位置づけられているかについて,各々の国の概況についてデータを集め,考察を行った。
結果と考察
英国の建設業では,自営業者も労働安全衛生法が適用され,事業によって影響を受ける自ら及びそれ以外の者が,その健康又は安全に危険が及ばないことを確保するようにその事業を運営する義務を負う。また,雇用法上は「雇用者(employee)」「就労者(worker)」「自営業者(self-employed)」の3つに区分され,税法上は「雇用者(employee)」「自営業者(self-employed)」の2区分であり,自営業者の定義が異なることがわかった。「就労者」は安全衛生上「雇用者」と同等の保護や権利が与えられている。税法上は「自営業者」の方が得をすることが多く,就労者が税法上のみ「自営業者」となるケースが多く社会問題となっている。なお,景気拡大期には自営業者が増え,景気後退期には減るという循環が起きている。熟練技能者は自営業となり,賃金が値上がりし続けているため,非熟練技能者は移民で賄われていたが,EU脱退により深刻な人手不足となっている。非熟練技能者は季節労働を望み,正規雇用で働くことを希望していないため,非熟練技能者の確保をどうするかが問題となる。
米国ではこれとは逆に,自営業者の税率は悪く,安全衛生法(OSHA)の対象外となり,保護されていない。自営業者は景気拡大期で減少し,景気後退期に増加するという逆循環をする。オーストラリアは近年,建設業の死亡率を半減させている。PCBUという,「全ての就業者がその仕事に影響を受ける可能性のある人々のために安全な職場環境を提供・維持する法的義務を罰則付きで追う」という概念の導入の影響が大きいものと推察される。
 国内の建設業における労働者と一人親方等の災害統計について分析した。それぞれの死亡率を,建設現場で就業している「建設技能者」の数を推定し算出すると,両者の間にはそれほど差異がないことが確認された。
結論
英国やオーストラリアでは,自営業者(一人親方)自身が労働安全衛生を意識する必要がある罰則付きの法制度が整備されており,建設業の自営業者の死亡率の低下をもたらしている一因となっている可能性がある。ただし,法律の建て付けが違うため,英国やオーストラリアの法制度をそのまま日本に適用できない。英国やオーストラリアにおける発注,設計,施工段階でそれぞれ労働安全衛生について考慮しなければならない点や,自営業者においても自身で労働安全衛生について考慮しなければならない点については有効な対策と考えられることから,日本の行政施策の検討の参考になり得ると考える。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202223006B
報告書区分
総合
研究課題名
建設現場における建設工事従事者を対象とする新たな安全衛生確保のための制度構築に資する研究
課題番号
21JA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
平岡 伸隆(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川 直孝(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では,一人親方等は労働安全衛生法上の労働者には当たらないため,同法の直接の保護対象には当たらないが,建設工事の現場では,他の関係請負人の労働者と同じような作業に従事しており,その業務の実情,災害の発生状況等からみて,技能を持った建設工事の担い手である一人親方等の安全及び健康の確保について,特段の対応が必要であると考えられる。一人親方等の労働安全衛生に関する行政施策が記載された「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律(以下,建設職人基本法という)」が平成29年3月16日に施行された。さらに建設職人基本法に基づく基本計画(平成29年6月閣議決定)に「一人親方等の安全及び健康の確保」が掲げられ,厚生労働省では,平成30年度から,一人親方等に対する研修や指導にかかる事業を実施している。こうした背景を踏まえ,本研究では,次期災防計画(令和5年度開始)の策定作業等において,一人親方等の安全及び健康の確保対策に活用するための基礎的知見を得ることを目標とする。
研究方法
一人親方等に対する労働安全衛生施策を既に実行している可能性が高く,なおかつ災害件数の少ない英国をはじめとして,米国,オーストラリア,フランスの建設現場における建設工事従事者に関する法制度とその運用の実情を把握する。
さらに,建設職人基本法に基づく一人親方等に対する指導・支援の実情を把握し,日本における課題を明らかにするとともに,欧州の取組等で日本でも効果が見込まれる対策,事項等について明らかにする。
結果と考察
英国の建設業では,自営業者も労働安全衛生法が適用され,事業によって影響を受ける自ら及びそれ以外の者が,その健康又は安全に危険が及ばないことを確保するようにその事業を運営する義務を負う。また,雇用法上は「雇用者(employee)」「就労者(worker)」「自営業者(self-employed)」の3つに区分され,税法上は「雇用者(employee)」「自営業者(self-employed)」の2区分であり,自営業者の定義が異なることがわかった。「就労者」は安全衛生上「雇用者」と同等の保護や権利が与えられている。税法上は「自営業者」の方が得をすることが多く,就労者が税法上のみ「自営業者」となるケースが多く社会問題となっている。なお,景気拡大期には自営業者が増え,景気後退期には減るという循環が起きている。熟練技能者は自営業となり,賃金が値上がりし続けているため,非熟練技能者は移民で賄われていたが,EU脱退により深刻な人手不足となっている。非熟練技能者は季節労働を望み,正規雇用で働くことを希望していないため,非熟練技能者の確保をどうするかが問題となる。
米国ではこれとは逆に,自営業者の税率は悪く,安全衛生法(OSHA)の対象外となり,保護されていない。自営業者は景気拡大期で減少し,景気後退期に増加するという逆循環をする。オーストラリアは近年,建設業の死亡率を半減させている。PCBUという,「全ての就業者がその仕事に影響を受ける可能性のある人々のために安全な職場環境を提供・維持する法的義務を罰則付きで追う」という概念の導入の影響が大きいものと推察される。
 国内の建設業における労働者と一人親方等の災害統計について分析した。それぞれの死亡率を,建設現場で就業している「建設技能者」の数を推定し算出すると,両者の間にはそれほど差異がないことが確認された。
結論
英国やオーストラリアでは,自営業者(一人親方)自身が労働安全衛生を意識する必要がある罰則付きの法制度が整備されており,建設業の自営業者の死亡率の低下をもたらしている一因となっている可能性がある。ただし,法律の建て付けが違うため,英国やオーストラリアの法制度をそのまま日本に適用できない。英国やオーストラリアにおける発注,設計,施工段階でそれぞれ労働安全衛生について考慮しなければならない点や,自営業者においても自身で労働安全衛生について考慮しなければならない点については有効な対策と考えられることから,日本の行政施策の検討の参考になり得ると考える。
日本の建設業社を対象としたヒアリング調査の結果,建設業において一人親方等の働き方は,労働者とほとんど同じような作業をしており,建築・土木事業の両方で一人親方等と労働者の区別はしていない現状にあることが分かった。雇用形態に関わらず建設業全体を対象として労働災害防止対策を実施することで,両者の災害が防止できるものと思われる。
日本では一人親方等の被災状況について漏れのない(少ない)統計を収集し,より多くの事例の把握を期待したい。これにより,より正確な統計分析や効果検証が可能なデータが整備される。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202223006C

収支報告書

文献番号
202223006Z