ゲノム・遺伝子解析情報に基づく診断・予防法開発及び分子標的探索と、免疫遺伝子治療の臨床開発に関する研究

文献情報

文献番号
200924007A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム・遺伝子解析情報に基づく診断・予防法開発及び分子標的探索と、免疫遺伝子治療の臨床開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(国立がんセンター 研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 市川 仁(国立がんセンター 研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部)
  • 菅野 康吉(栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室)
  • 塚田 俊彦(国立がんセンター 研究所 腫瘍内分泌プロジェクト)
  • 竹下 文隆(国立がん研究センター がん転移研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム・遺伝子解析技術の進歩をがん診療法開発へ橋渡しするため以下の研究を行った。1)食道がん予知医療の開発、2)急性骨髄性白血病(AML)予後不良サブタイプ診断法の開発と治療の分子標的の同定、3)表在性膀胱がんのゲノム異常の把握に基づく再発等リスク評価、4)遺伝性腫瘍の遺伝子診断法の開発、5)免疫遺伝子・細胞複合療法の開発、6)RNA干渉によるがん転移制御法の開発。
研究方法
1)食道がんの内視鏡生検試料・2)小児AML臨床検体の発現プロファイルデータに基づき、判別器の開発や分子経路解析を継続し、遺伝子導入細胞を用いた機能解析を行った。3)微量DNA中の高感度変異検出法を開発し、膀胱がん術後経過観察尿中のFGFR3の変異を解析した。4)変異メニンの細胞内安定性と多内分泌腫瘍症1型の臨床情報の関連を検討した。5)臨床病態に近い肝転移モデルを用いて自家骨髄移植後とIFNα遺伝子の腫瘍内導入の複合治療の抗腫瘍効果と安全性の評価を行った。6)siRNA・miRNAに対するアテロコラーゲン・デリバリー技術を用いて乳がん・前立腺がんの転移抑制効果を解析し、前臨床試験評価系を構築した。
結果と考察
1)食道がん化学放射線治療後早期再発群は、治療前生検の遺伝子発現プロファイルによって特定の亜群に分類されることを見出し、特徴的な分子経路を同定した。2)AMLマウスモデルにおいて白血病細胞の起源が胎仔肝由来か成体骨髄由来かにより異なる遺伝子発現等の特徴を示し、起源となる造血細胞の発達段階が病態の多様性の原因の一つと考えられた。3)表在性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除術後の経過観察尿中にFGFR3遺伝子変異を特異的に検出した。その検出率は尿細胞診と相補的であり、両者の併用が必要と考えられた。4)原因遺伝子MEN1のミスセンス変異保因者の予後を推定する方法の改良と、変異データの充実を進めた。5)造血幹細胞移植・免疫遺伝子治療複合療法は臨床病態に近い肝転移モデルにおいても強力な抗腫瘍効果を発揮した。6)乳がん・前立腺がんの転移モデル動物を用いて、miRNAのがん細胞へのデリバリー効果の評価系を構築し、標的遺伝子やその下流分子の制御が可能であることを示した。
結論
治療の個別化に貢献するゲノム系解析情報を得、診断薬開発を進めた。造血幹細胞移植・免疫遺伝子治療の複合療法やRNA医薬開発の前臨床研究を進めた。

公開日・更新日

公開日
2010-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200924007B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム・遺伝子解析情報に基づく診断・予防法開発及び分子標的探索と、免疫遺伝子治療の臨床開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(国立がんセンター 研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 市川 仁(国立がんセンター 研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部 )
  • 菅野 康吉(栃木県がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室)
  • 塚田 俊彦(国立がんセンター 研究所 腫瘍内分泌プロジェクトリーダー)
  • 竹下 文隆(国立がんセンター 研究所 がん転移研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム等解析技術の進歩をがん診療法開発へ橋渡しするため以下の研究開発を行った。1)食道がん予知医療、2)急性骨髄性白血病(AML)の分子標的探索と予後不良サブタイプ診断法、3)膀胱がん術後再発リスク評価法、4)遺伝性腫瘍の遺伝子診断法、5)免疫遺伝子・細胞複合療法、6)RNA干渉によるがん転移制御法。
研究方法
1)食道がん内視鏡生検試料・2)小児AML臨床検体の発現プロファイルに基づき、判別器の開発や分子経路解析を行った。3)多施設共同研究により収集した膀胱がん組織及び尿の遺伝子変異を解析した。4)多内分泌腫瘍症1型の臨床情報と変異メニンの細胞内安定性との関連を検討した。5)同種及び自家骨髄移植マウスモデルを確立し、MHCあるいはIFNα遺伝子の腫瘍内導入を複合する治療の効果と安全性を評価した。6)siRNA・miRNAに対するアテロコラーゲン・デリバリー技術を用いて乳がん・前立腺がんの転移抑制効果を解析し、前臨床試験評価系を構築した。
結果と考察
1)食道がん化学放射線治療前生検試料の発現プロファイリングに基づく予知医療の可能性を示し、診断機器として承認済みの検査システムを用いた体外診断薬の企業との共同開発に進んだ。2)小児AMLは遺伝子発現プロファイルにより6サブタイプに分類されること、新規予後不良サブグループが存在することを明らかにし、マイクロアレイ検査による診断アルゴリズムを開発した。3)表在性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除後の再発リスクに関して9番・17番染色体欠失は有用な予後因子であること、尿中FGFR3遺伝子変異検出率は尿細胞診の結果と相補的で、併用が必要であることを示した。4)家族性腫瘍原因遺伝子の大領域欠失変異を検出する方法を開発した。MEN1遺伝子産物の細胞内安定性を測定し、ミスセンス変異保因者の予後を推定する方法を確立した。5)造血幹細胞移植と免疫遺伝子治療の複合により有害事象の増悪なく抗腫瘍免疫の相乗的増強が可能であった。6)がんの転移モデル動物を用いてRNAi分子の転移巣へのデリバリー、標的遺伝子および下流の分子の制御、転移の抑制が可能であることを明らかにし、がんの治療応用をめざしたRNAi創薬の有効性が示された。
結論
治療の個別化に貢献するゲノム系解析情報を得、診断薬開発を進めた。造血幹細胞移植・免疫遺伝子治療の複合療法やRNA医薬開発の前臨床研究を進めた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)食道扁平上皮がん化学放射線治療前生検試料の発現プロファイリング解析を世界で初めて行い、予後予測の可能性を示した。2)小児AMLは遺伝子発現プロファイルにより6サブタイプに分類されることを見出した。3)造血幹細胞移植と免疫遺伝子治療の複合により有害事象の増悪なく抗腫瘍免疫の相乗的増強が可能であること、またその免疫学的機序について明らかにした。4)がんの転移モデル動物を用いてRNAi分子の転移巣へのデリバリー、標的遺伝子および下流の分子の制御、転移の抑制が可能であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
1)食道がん化学放射線治療前生検試料の発現プロファイリングに基づく体外診断薬として、企業との共同開発に進んだ。2)小児AMLの予後に関連する分類を行うマイクロアレイ検査アルゴリズムを開発した。3)表在性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除後の再発リスクに関して尿中FGFR3遺伝子変異検出率は尿細胞診の結果と相補的で、併用が必要であることを示した。4)造血幹細胞移植と免疫遺伝子治療の複合治療の前臨床研究をほぼ完了した。6)がん転移等に対する治療応用をめざしたRNAi創薬の有効性を示した。
ガイドライン等の開発
現時点では該当する件は無し。しかし本研究で基礎的開発を行った食道がん・小児AML・膀胱がん・多内分泌腫瘍症1型の分子診断に基づく個別化医療は、今後、体外診断薬等としての開発が進み、許認可が得られれば、標準医療の一部としてガイドラインに取り入れられることが期待される。
その他行政的観点からの成果
現時点では審議会等で参考にされた件や、行政施策に反映された件は無い。本研究において基礎的開発を行った個別化医療技術が将来、標準医療としてガイドライン等に取り入れられた場合、がん医療の均てん化を図る中で保健行政上の成果も生むことが期待される。
その他のインパクト
食道がんの予知医療開発については、2007年にBTJジャーナル(日経BP社)に取り上げられた。核酸医薬開発に関しては、日経産業新聞2007年11月29日「21世紀の気鋭」の記事、日経BPニュース2007年8月17日の落谷孝広室長の記事、メディカルトリビューン誌2008年12月25日第67回日本癌学会特集記事、BTJアカデミック誌2008年10月17日の記事、日経産業新聞2009年9月29日及び9月30日の「2030年への挑戦、核酸医薬」の記事等、多くの報道がなされた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
72件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
118件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi A., Yoshida T, et al.
Allogeneic major histocompatibility complex gene transfer enhances an effective antitumor immunity in the early period of autologous hematopoietic stem cell transplantation
Clin Can Res , 13 (24) , 7469-7479  (2007)
原著論文2
Hara H., Yoshida T, et al.
Local interferon- gene therapy elicits a systemic immunity in a syngeneic pancreatic cancer model in hamster
Cancer Sci , 98 (3) , 455-463  (2007)
原著論文3
Saeki N., Yoshida T, et al.
GASDERMIN, suppressed frequently in gastric cancer, is a target of LMO1 in TGF- dependent apoptotic signalling
Oncogene , 26 , 6488-6498  (2007)
原著論文4
Miura Y., Yoshida T, et al.
Direct selection of targeted adenovirus vectors by random peptide display on the fiber knob
Gene Ther , 14 , 1448-1460  (2007)
原著論文5
Shimada A., Ichikawa H, et al.
Low frequency of KIT gene mutation in pediatric acute myeloid leukemia with inv(16)(p13q22): a study of the Japanese Childhood AML Cooperative Study Group.
Int. J. Hematol , 86 , 289-290  (2007)
原著論文6
Miyake M., Sugano K, et al.
Sensitive detection of FGFR3 mutations in bladder cancer and urine sediments by peptide nucleic acid-mediated real-time PCR clamping.
Biochem Biophys Res Commun , 362 , 865-871  (2007)
原著論文7
Saeki N., Yoshida T, et al.
Distinctive expression and function of four GSDM family genes (GSDMA-D) in normal and malignant upper gastrointestinal epithelium.
Genes Chromosomes Cancer , 48 , 261-271  (2009)
原著論文8
Jo A, Ichikawa H, et al.
Age-associated difference in gene expression of pediatric acute myelomonocytic lineage leukemia (FAB M4 and M5 subtypes) and its correlation with prognosis.
Br.J. Haematol. , 144 , 917-929  (2008)
原著論文9
Tsukada T, et al
MEN1 gene and its mutations: basic and clinical implications.
Cancer Sci , 100 (2) , 209-215  (2009)
原著論文10
Banas A, Ochiya T, et al.
IFATS collection: in vivo therapeutic potential of human adipose tissue mesenchymal stem cells after transplantation into mice with liver injury
Stem Cells , 26 , 2705-2712  (2008)
原著論文11
Honma K, Ochiya T, et al.
RPN2 gene confers docetaxel resistance in breast cancer
Nat Med , 14 (9) , 939-948  (2008)
原著論文12
Ochiya T, et al.
Optical imaging of RNAi-mediated silencing of cancer
Proc of SPIE , 6868 , 1-11  (2008)
原著論文13
Kobayashi M., Yoshida T, et a
Association between dietary heterocyclic amine levels, genetic polymorphisms of NAT2, CYP1A1, and CYP1A2 and risk of colorectal cancer: A hospital-based case-control study in Japan
Scand J Gastroenterol , 44 , 952-959  (2009)
原著論文14
Nishimoto T., Yoshida T, et al.
Oncolytic virus therapy for pancreatic cancer using the adenovirus library displaying random peptides on the fiber knob
Gene Ther , 16 , 669-680  (2009)
原著論文15
Hara H., Yoshida T, et al.
Intratumoral interferon-alpha gene transfer enhances tumor immunity after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation.
Cancer Immunol Immunother , 58 , 1007-1021  (2009)
原著論文16
Isohata N., Yoshida T, et al.
Hedgehog and epithelial-mesenchymal transition signaling in normal and malignant epithelial cells of the esophagus
Int J Cancer , 125 , 1212-1221  (2009)
原著論文17
Sano M., Yoshida T, et al.
Forkhead box A1 transcriptional pathway in KRT7-expressing esophageal squamouse cell carcinomas with extensive lymph node metastasis
Int J Oncol , 36 , 321-330  (2010)
原著論文18
Miyake M., Sugano K, et al.
Fibroblast growth factor receptor 3 mutation in voided urine is a useful diagnostic marker and significant indicator of tumor recurrence in non-muscle invasive bladder cancer.
Canser Sci , 101 , 250-258  (2010)
原著論文19
Takeshita F., et al.
Systemic delivery of synthetic microRNA-16 inhibits the growth of metastatic prostate tumors via downregulation of multiple cell cycle genes.
Mol Ther , 18 , 181-187  (2010)
原著論文20
Kosaka, Takeshita, F., et al.
Secretory mechanisms and intercellular transfer of microRNAs in living cells.
J Biol Chem , 285 (23) , 17442-17452  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-