労働災害防止を目的とした高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム開発と実装検証

文献情報

文献番号
202223001A
報告書区分
総括
研究課題名
労働災害防止を目的とした高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム開発と実装検証
課題番号
20JA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
岡 敬之(東京大学 医学部附属病院 22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 洋祐(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 梶木 繁之(産業医科大学 産業医実務研修センター)
  • 野村 卓生(関西福祉科学大学 保健医療学部)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター ロコモ予防学講座)
  • 小山 善子(金城大学 医療健康学部)
  • 松平 浩(東京大学 医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
  • 篠崎 智大(東京理科大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,654,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子・高齢化が進む我が国では、高齢者雇用安定法が改正(2012年)され、65 歳までの雇用機会が確保されるようになった。また休業 4 日以上の労働災害による死傷者において、高年齢労働者(60歳以上)が占める割合も増加傾向にあり、その対策は喫緊の課題である。
中央労働災害防止協会の「高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク低減推進事業」(2010年)にて、身体機能面(筋力=2ステップテスト、敏捷性=座位ステッピングテスト、平衡性= ファンクショナルリーチ・閉眼/開眼片足立ち)から転倒等労働災害リスクを評価するチェックリストが公表されているものの、この10年間で高齢者の運動能力の向上傾向は鮮明であり(スポーツ庁、体力・運動能力調査:2019年)、チェックリストで利用される基準値のアップデートは必須である。
また近年、情報インフラが拡充し、高齢者の約5割がスマートフォン所持しており、これをウェアラブル端末として身体機能を評価することも現実のものとなっている。
本研究の目的は、上述した縦断的なコホートデータベース+産業衛生のフィールドよりサンプリングしたデータに基づき、最新技術を駆使して高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム(チェックリスト+スマートフォンを併用したePRO評価)を作成することである。
《3年目/2021年度》は完成したプログラムの実装を行うフェーズであり、
1.高年齢労働者の基礎的身体機能に関する実態調査と基礎的検討
2. 身体機能を簡易に測定するプログラムの作成
3. 産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証(青壮年労働者と高年齢労働者の比較)
のそれぞれのサブテーマで研究を推進した。
研究方法
1.高年齢労働者の基礎的身体機能に関する実態調査と基礎的検討
転倒災害の高リスク者を想定した転倒災害を予防するための職場で実施できる簡易的な運動プログラムの開発を行い、複数の企業で転倒予防体操を3 ヶ月間実施し、前後でアンケート調査と身体機能テストを行った。

2. 身体機能を簡易に測定するプログラムの作成
高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム(チェックリスト+スマートフォンを併用したePRO評価)を実装するためには効率的な情報管理体制を構築する必要がありシステムを開発し、中災防の協力のもと企業へ実装した。

3. 産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証(青壮年労働者と高年齢労働者の比較)
「エイジフレンドリー100」でもチエックリストとして推奨される転倒等災害リスク評価セルフチェックを含めたクラウド型情報管理システムを企業に実装し574名の度労働者データを収集し、解析を行った。
結果と考察
1.高年齢労働者の基礎的身体機能に関する実態調査と基礎的検討
 初回と3か月後の評価の両方が終了したのは2 社の従業員23 名で、体操実施前後で1 か月間に転倒のヒヤリハットがあったのは78%から70%、転倒は9%から17%であったが有意差はなかった。5 つの体力テストのうち2 ステップテストと片脚起立(立ち上がり)テストが統計的有意に改善した。

2. 身体機能を簡易に測定するプログラムの作成
 AWS(Amazon Web Services)にてサーバー+オンプレミス(自身のPC)環境共に動作するシステムを開発した。企業でシステムを利用するエンドユーザーは、自身のPCやスマートフォンからシステムにアクセスを行い、データ使用に関して同意が得られた場合のみ、次のステップに進む。基本情報入力画面にて、現在の作業形態や残業時間などに関して入力を行ったあとに、健康状態や運動機能に関するアンケート25問に回答する(回答時間約5分)。
 運動機能の計測においては、手法が標準化されないと、ばらつきが大きくなったり、実施毎の値に隔たりが出る可能性が、示唆されたため、中災防で作成した動画資材を閲覧して計測に進む仕様とした。

3. 産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証(青壮年労働者と高年齢労働者の比較)
 運動機能が低下する年齢は、2ステップテスト:男女とも60歳以上、座位ステッピングテスト:男性60歳以上 女性65歳以上、ファンクショナルリーチ:男女とも年代差なし、閉眼片足立ち:男女とも55歳以上、開眼片足立ち:男女とも70歳以上であった。
結論
開発したプログラムを用いて産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証を行った。本研究の成果により、高年齢労働者の労働災害が減少、高齢者雇用の人材確保をはじめとする社会・医療経済面、ひいては労災補償面でも大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202223001B
報告書区分
総合
研究課題名
労働災害防止を目的とした高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム開発と実装検証
課題番号
20JA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
岡 敬之(東京大学 医学部附属病院 22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 洋祐(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 梶木 繁之(産業医科大学 産業医実務研修センター)
  • 村上 遥(神戸大学 未来医工学研究開発センター/工学研究科電気電子専攻)
  • 高野 賢一郎(独立行政法人労働者健康安全機構 関西労災病院 治療就労両立支援センター)
  • 野村 卓生(関西福祉科学大学 保健医療学部)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター ロコモ予防学講座)
  • 小山 善子(金城大学 医療健康学部)
  • 松平 浩(東京大学 医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
  • 篠崎 智大(東京理科大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
村上遥: 転勤に伴い、R4年度から研究分担者を辞退 高野賢一郎: 退職に伴い、R4年度から研究分担者を辞退

研究報告書(概要版)

研究目的
少子・高齢化が進む我が国では、高齢者雇用安定法が改正(2012年)され、65 歳までの雇用機会が確保されるようになった。また休業 4 日以上の労働災害による死傷者において、高年齢労働者(60歳以上)が占める割合も増加傾向にあり、その対策は喫緊の課題である。2018~2022 年度を計画期間とする第13次労働災害防止計画でも、加齢に伴う身体・精神機能の低下を考慮した対策が重点事項として盛り込まれており、高年齢労働者が安全に働くための基礎的条件となる身体機能評価法の確立が求められている。
また近年、情報インフラが拡充し、高齢者の約5割がスマートフォン所持(60歳代46.4%、2018年総務省通信利用動向調査)しており、これをウェアラブル端末として身体機能を評価することも現実のものとなっている。
本研究の目的は、上述した縦断的なコホートデータベース+産業衛生のフィールドよりサンプリングしたデータに基づき、最新技術を駆使して高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム(チェックリスト+スマートフォンを併用したePRO評価)を作成することである。
3年間の研究期間を通して以下のサブテーマに基づき研究を実施した。
研究方法
1.高年齢労働者の基礎的身体機能に関する実態調査と基礎的検討
転倒災害の高リスク者を想定した転倒災害を予防するための職場で実施できる簡易的な運動プログラムの開発を行い、複数の企業で転倒予防体操を3 ヶ月間実施し、前後でアンケート調査と身体機能テストを行った。

2. 身体機能を簡易に測定するプログラムの作成
高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム(チェックリスト+スマートフォンを併用したePRO評価)を実装するためには効率的な情報管理体制を構築する必要がありシステムを開発し、中災防の協力のもと企業へ実装した。

3. 産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証(青壮年労働者と高年齢労働者の比較)
「エイジフレンドリー100」でもチエックリストとして推奨される転倒等災害リスク評価セルフチェックを含めたクラウド型情報管理システムを企業に実装し574名の度労働者データを収集し、解析を行った。
結果と考察
1.高年齢労働者の基礎的身体機能に関する実態調査と基礎的検討
初回と3か月後の評価の両方が終了したのは2 社の従業員23 名で、体操実施前後で1 か月間に転倒のヒヤリハットがあったのは78%から70%、転倒は9%から17%であったが有意差はなかった。5 つの体力テストのうち2 ステップテストと片脚起立(立ち上がり)テストが統計的有意に改善した。

2. 身体機能を簡易に測定するプログラムの作成
AWS(Amazon Web Services)にてサーバー+オンプレミス(自身のPC)環境共に動作するシステムを開発した。企業でシステムを利用するエンドユーザーは、自身のPCやスマートフォンからシステムにアクセスを行い、データ使用に関して同意が得られた場合のみ、次のステップに進む。基本情報入力画面にて、現在の作業形態や残業時間などに関して入力を行ったあとに、健康状態や運動機能に関するアンケート25問に回答する(回答時間約5分)。
 運動機能の計測においては、手法が標準化されないと、ばらつきが大きくなったり、実施毎の値に隔たりが出る可能性が、示唆されたため、中災防で作成した動画資材を閲覧して計測に進む仕様とした。

3. 産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証(青壮年労働者と高年齢労働者の比較)
収集したデータの性年齢構成は以下のとおりである。  
男性403 名(30-40歳代=113, 50歳以上=290) 、女性171名(30-40歳代=47, 50歳以上=124)
運動機能が低下する年齢は、2ステップテスト:男女とも60歳以上、座位ステッピングテスト:男性60歳以上 女性65歳以上、ファンクショナルリーチ:男女とも年代差なし、閉眼片足立ち:男女とも55歳以上、開眼片足立ち:男女とも70歳以上であった。
結論
高齢労働者の運動機能の低下は、2ステップテスト、座位ステッピングテスト、閉眼片足立ち、開眼片足立ちで異なり、ファンクショナルリーチに関しては年齢による効果は認められなかった。
転倒リスクと関連する2 ステップテストは、運動器症候群のチェックにも用いられており、歩行速度との相関も報告されている。関節可動域や下肢、体幹の筋力が向上し、2ステップテスト値が改善し、転倒予防につながる可能性が示唆されており、効果判定に重要な指標となることが予想される
 本研究の成果により、高年齢労働者の労働災害が減少、高齢者雇用の人材確保をはじめとする社会・医療経済面、ひいては労災補償面でも大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202223001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
縦断的なコホートデータベースと産業衛生のフィールドよりサンプリングしたデータに基づき、最新技術を駆使して高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラムを作成し、社会実装した。
成果はOccup Med (Lond)等の雑誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
本研究において労働災害と関連する運動機能として抽出された2ステップテストなどは、労働者の高齢化が進んでいる日本において、労働者の身体機能という個人要因への介入を目的とした転倒予防体操の効果判定に重要な指標となるものを考えられる。
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発を行っていない
その他行政的観点からの成果
本研究の成果により、高年齢労働者の労働災害が減少、高齢者雇用の人材確保をはじめとする社会・医療経済面、ひいては労災補償面でも大きく貢献するものと考えられる。
その他のインパクト
中災防と共同で開発物の社会実装を行っており、今後更なるツールの普及が見込まれる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
講演2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Osuka Y, Nofuji Y, Seino S, et al
The effect of a multicomponent intervention on occupational fall-related factors in older workers: A pilot randomized controlled trial.
J Occup Health , 64 (1) , e12374-e12374  (2022)
doi: 10.1002/1348-9585.12374.
原著論文2
Osuka Y, Okubo Y, Nofuji Y, et al
Occupational Fall Risk Assessment Tool for older workers.
Occup Med (Lond) , 9 , kqad035-kqad035  (2023)
doi: 10.1093/occmed/kqad035.
原著論文3
Osuka Y, Takeshima N, Kojima N, et al
Qualitative assessment of standing motion with kinect™ is a useful additional diagnostic marker for sarcopenia.
Arch Gerontol Geriatr. , 108 , 104915-104915  (2023)
doi: 10.1016/j.archger.2022.104915.
原著論文4
Osuka Y, Okubo Y, Nofuji Y, et al
Modifiable intrinsic factors related to occupational falls in older workers.
Geriatr Gerontol Int , 22 (4) , 338-343  (2022)
doi: 10.1111/ggi.14370.

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
202223001Z