ヒト腫瘍の発生・発育・進展に関わる分子病態の解析とその臨床応用

文献情報

文献番号
200924005A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト腫瘍の発生・発育・進展に関わる分子病態の解析とその臨床応用
課題番号
H19-3次がん・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
瀬戸 加大(愛知県がんセンター研究所 遺伝子医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中西 速夫(愛知県がんセンター研究所 腫瘍病理学部)
  • 関戸 好孝(愛知県がんセンター研究所 分子腫瘍学部)
  • 稲垣 昌樹(愛知県がんセンター研究所 発がん制御研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
申請者らは (a) 消化器がんに於いては胃がんおよび大腸がんの分子病態の解明とその診断治療へ の応用、 (b) 造血器腫瘍に於いてはリンパ腫の病因・病態に関与する遺伝子の単離、及びその診断への応用、(c) 胸部腫瘍(肺がん、悪性中皮腫)に於いては各種遺伝子変異およびDNAメチル化異 常の蓄積の解明と分子標的治療の基礎的解析および(d) 細胞骨格・細胞分裂における分子機構の解析等により、がんの発生・発育・進展に関わる共通の分子機構と臓器特異性の解明をめざした。
研究方法
(a)消化器がん研究においては低分化型大腸がんに対する分子標的治療の前臨床研究を行い、大腸がん患者から樹立した高転移性の低分化型腺がん細胞株を用いた。(b) 造血器腫瘍では、胃MALTリンパ腫と皮膚型ATLL症例についてアレイCGHで解析した。(c) 胸部腫瘍に於いては、高メチル化が観察された遺伝子のメチル化を定量的に解析した。(d) 細胞骨格・細胞分裂における分子機構の解析では、アルバトロスについて分化細胞や細胞増殖期の細胞を用いて局在を解析した。
結果と考察
(a)大腸がん患者から樹立した細胞株(COLM-5)を用いはEGFR標的薬に対し高感受性を示すことを明らかにし、HER3の分子標的としての可能性を初めて示唆し、新しい分子標的治療の確立の可能性を示唆した。(b)胃MALTリンパ腫の除菌療法反応群にも一部ゲノムコピー数異常を示すので、必ずしも、除菌療法反応の良いマーカーとはならない。皮膚型ATLL症例では、1p36の増幅もしくは13q33の欠失は予後不良と関連しており、皮膚型ATLLは独立した臨床疾患単位であることを示唆した。(c)胸部腫瘍に於いては、複数個の遺伝子解析の組み合わせで高メチル化群を検出できることを明らかにし、さらに、高メチル化群患者の予後が不良であることを見出した。エピジェネティクス治療薬による効果的な治療には適切な分子標的薬の選択が重要であることが明らかとなった。(d)細胞骨格・細胞分裂における解析では、アルバトロスは増殖細胞では中心体で微小管の重合核を制御する可能性を見出した。
結論
1.HER3の分子標的としての可能性を初めて示唆し、大腸がんに対する新しい分子標的治療の確立の可能性を示唆した。2,胃MALTリンパ腫ではゲノムコピー数異常は必ずしも、治療反応性のマーカーにならない。3.皮膚型ATLLは独立した臨床疾患単位である。を示すものがあることを見出した。4.胸部腫瘍においてエピジェネティクス治療薬による効果的な治療には適切な分子標的薬の選択が重要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200924005B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト腫瘍の発生・発育・進展に関わる分子病態の解析とその臨床応用
課題番号
H19-3次がん・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
瀬戸 加大(愛知県がんセンター研究所 遺伝子医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中西 速夫(愛知県がんセンター研究所 腫瘍病理学部 )
  • 関戸 好孝(愛知県がんセンター研究所 分子腫瘍学部 )
  • 稲垣 昌樹(愛知県がんセンター研究所 発がん制御研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胃がんおよび大腸がんの分子病態の解明とその診断治療への応用、造血器腫瘍に於いてはリンパ腫の病因・病態に関与する遺伝子の単離、及びその診断への応用、胸部腫瘍では各種遺伝子変異およびDNAメチル化異常の解明と分子標的治療の基礎的解析および、細胞骨格・細胞分裂における分子機構の解析等により、がんの発生・発育・進展に関わる共通の分子機構と臓器特異性の解明を目的とする。
研究方法
消化器がんの発生・進展に関わる分子病態の解析:独自に樹立したHER2遺伝子増幅胃がん細胞株のin vivo皮下腫瘍モデルおよび腹膜転移モデルを用いて分子標的薬感受性の分子機序を明らかにする。リンパ腫については、胃MALTリンパ腫のゲノム異常様式をアレイCGH法を用いて調べ病態と相関させる。眼付属器MALTリンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫、皮膚型ATLLのゲノム異常様式をアレイCGHで解析する。胸部腫瘍から抽出したゲノムDNAを用い、メチル化状態を解析する。トリコプレインとアルバトロスの細胞内局在を解析する。
結果と考察
消化器がんでは、HER3を強制的に発現誘導させるとGefitinib感受性が低下することから、HER3低発現が高感受性に関与している可能性を明らかにした。EGFR+/HER3- 発現パターンを示す低分化型大腸癌症例は、EGFR標的薬の新しい治療標的となりうることを示した。胃MALTリンパ腫の除菌療法抵抗性API2-MALT1陰性群にはゲノムコピー数の異常が多いこと、眼付属器MALTリンパ腫には特徴的な6q23.3欠失領域から責任遺伝子TNFAIP3遺伝子を単離した。末梢性T細胞リンパ腫(PTCL-Uの中にATLLとよく似た疾患単位が存在することを示唆した。また、皮膚のみに主症状を有する皮膚型ATLLは、独立した疾患単位であることを示唆した。。胸部腫瘍では、病理組織型および遺伝子変異の違いによってメチル化パターンに大きな差があることが明らかになった。
結論
1.EGFR+/HER3- 発現パターンを示す低分化型大腸癌症例は、EGFR標的薬の新しい治療標的となりうる。2. 6q23.3欠失領域の責任遺伝子はTNFAIP3である。3.PTCL-Uの一部はATLLリンパ腫型に似ている。4.皮膚型ATLLは独立した疾患単である。5. 胸部腫瘍では、病理組織型および遺伝子変異の違いによってメチル化パターンに大きな差がある。6. ケラチン結合蛋白質アルバトロスとトリコプレインは分化と増殖の両方の分子メカニズムに関与する。

公開日・更新日

公開日
2010-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1.EGFR+/HER3-が大腸癌の分子標的治療の新しい感受性予測因子となりうることを明らかにした。
2.HER3低発現がGefitinib高感受性に関与することを示した。
3.眼付属器MALTリンパ腫に特徴的な6q23.3領域の欠失とその責任遺伝子TNFAIP3を世界に先駆けて発見した。
4.末梢性T細胞リンパ腫の中にATLLと類似する疾患群が存在ることを明らかにした。
5.皮膚のみに主症状を有する皮膚型ATLLは他の臨床病型とは独立した臨床病態を持つ。
臨床的観点からの成果
1.EGFR+/HER3-が大腸癌の分子標的治療の新しい感受性予測因子としてゆうようであり、遅れている分子標的療法に寄与することが期待される。
2.HER3低発現がGefitinib適用可能な症例が少なからず存在する。
3.6q23.3領域の欠失領域責任遺伝子TNFAIP3は、他の病型のリンパ腫にも関与しており、新たな分子標的として期待ができる。
4.末梢性T細胞リンパ腫の中にATLLと類似する疾患群には現在進行中のCCR4抗体治療に適用できることを意味する.
ガイドライン等の開発
該当せず
その他行政的観点からの成果
ガイドラインに取り上げらっれるにたっていないが、MALTリンパ腫で発見された標的遺伝子がたの病型の一部にも欠失していることは、分子標的を疾患単位としてのみとらえられないことを意味するので、大きな意義がある。
その他のインパクト
本成果は愛知県がんセンター公開シンポジウムの時に、研究成果として、毎回、ポスター展示を行うなどで公開している。また、本研究成果の一部は、市民公開講座の講師としても発表報告している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
65件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
61件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Karube, K., Guo, Y., Suzumiya, J. et al.
CD10(-)MUM1(+) follicular lymphoma lacks BCL2 translocation and shows characteristic biological and clinical features.
Blood , 109 , 3076-3079  (2007)
原著論文2
Tsuzuki, S., Karnan, S., Horibe, K. et al
Genetic abnormalities involved in t(12;21) TEL-AML1 acute lymphoblastic leukemia: Analysis by means of array-based comparative genomic hybridization.
Cancer Sci , 98 , 698-706  (2007)
原著論文3
Taniguchi, T., Karnan, S., Fukui, T. et al
Genomic profiling of malignant pleural mesothelioma with array-based comparative genomic hybridization shows frequent non-random chromosomal alteration regions including JUN amplification on 1p32.
Cancer Sci , 98 , 438-446  (2007)
原著論文4
Fukuhara, N., Nakamura, T., Nakagawa, M. et al
Chromosomal imbalances are associated with outcome of Helicobacter pylori eradication in t(11;18)(q21;q21) negative gastric malt lymphomas.
Genes Chrom Cancer , 46 , 784-790  (2007)
原著論文5
Tagawa, H., Karube, K., Guo, Y. et al.
Trisomy 3 is a specific genomic aberration of t(14;18) negative follicular lymphoma.
Leukemia , 21 , 2549-2551  (2007)
原著論文6
Nakamura, T., Seto, M., Tajika, M. et al.
Clinical features and prognosis of gastric MALT lymphoma with special reference to responsiveness to H. pylori eradication and API2-MALT1 status.
Am J Gastroenterol , 103 , 62-70  (2008)
原著論文7
Karube, K., Ying, G., Tagawa, H. et al.
BCL6 gene amplification/ 3q27 gain is associated with unique clinicopathological characteristics among follicular lymphoma without BCL2 gene translocation.
Mod Pathol , 21 , 973-978  (2008)
原著論文8
Tsukamoto, Y., Uchida, T., Karnan, S. et al.
Genome-wide analysis of DNA copy number alterations and gene expression in gastric cancer.
J Pathol , 216 , 471-482  (2008)
原著論文9
Lee, S-Y., Kumano, K., Nakazaki, K. et al.
Gain-of-function mutations and copy number increases of Notch2 in diffuse large B-cell lymphoma.
Cancer Sci , 100 , 920-926  (2009)
原著論文10
Honma, K, Tsuzuki, S., Nakagawa, M. et al.
TNFAIP3/A20 functions as a novel tumor suppressor gene in several subtypes of non-Hodgkin lymphomas.
Blood , 114 , 2467-2475  (2009)
原著論文11
Miyata, T., Yonekura, K., Utsunomiya, A. et al.
Cutaneous type adult T-cell leukemia/ lymphoma is a characteristic subtype and includes erythema/papule and nodule/ tumor subgroups.
Int J Cancer , 126 , 1521-1528  (2010)
原著論文12
Tsukamoto, Y., Nakada, C., Noguchi, T. et al.
MicroRNA-375 is downregulated in gastric carcinomas and regulates cell survival by targeting PDK1 and 14-3-3zeta.
Cancer Res , 70 , 2339-2349  (2010)
原著論文13
Kodera, Y., Nakanishi, H., Ito, S. et al.
Expression of L1 Cell Adhesion Molecule is a Significant Prognostic Factor in pT3-stage Gastric Cancer.
AntiCancer Res , 29 , 4033-4039  (2009)
原著論文14
Iwatsuki, M., Fukagawa, T., Mimori, K. et al.
Bone Marrow and Peripheral Blood Expression of ID1 in Human Gastric Carcinoma Patients Is a Bona Fide Indicator of Lymph Node and Peritoneal Metastasis.
Br J cancer , 100 , 1937-1942  (2009)
原著論文15
Yamada, T., Matsumoto, K., Wang, W. et al.
Hepatocyte growth factor reduces susceptibility to an irreversible epidermal growth factor receptor inhibitor in EGFR-T790M mutant lung cancer.
Clin Cancer Res , 16 , 174-183  (2010)
原著論文16
Goto, Y., Shinjo, K., Kondo, Y. et al.
Epigenetic profiles distinguish malignant pleural mesothelioma from lung adenocarcinomas.
Cancer Res , 69 , 9073-9082  (2009)
原著論文17
Suzuki, Y., Murakami, H., Kawaguchi, K. et al.
Activation of PI3K-AKT pathway in human malignant mesothelioma.
Mol Med Reports , 2 , 181-188  (2009)
原著論文18
Onozato, R., Kosaka, T., Kuwano, H. et al.
Activation of MET by gene amplification or by splice mutations deleting the juxtamembrane domain in primary resected lung cancers.
J Thorac Oncol , 4 , 5-11  (2009)
原著論文19
Yamada, T., Yano, S., Ogino, H. et al.
Lysophosphatidic acid stimulates the proliferation and motility of malignant pleural mesothelioma cells through lysophosphatidic acid receptors, LPA1 and LPA2.
Cancer Sci , 99 , 1603-1610  (2008)
原著論文20
Natsume, A., Wakabayashi, T., Tsujimura, K. et al.
The DNA demethylating agent 5-aza-2’-deoxycytidine activates NY-ESO-1 antigeniciy in orthotopic human glioma.
Int J Cancer , 122 , 2542-2553  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-