細胞を血行性脳実質内動員する機序の解析およびそのアルツハイマー病治療への応用

文献情報

文献番号
200922017A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞を血行性脳実質内動員する機序の解析およびそのアルツハイマー病治療への応用
課題番号
H19-認知症・一若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
内村 健治(国立長寿医療センター アルツハイマー病研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はアルツハイマー病の病態に伴って骨髄単球由来ミクログリア細胞が脳内へ移行性を示すという知見をもとに、細胞の血行性脳実質内動員の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。また、脳移行性細胞をアルツハイマー病治療における遺伝子の脳内搬送体として利用する細胞医薬への応用を目指す。
研究方法
加齢アルツハイマー病モデルマウス脳血管内における末梢投与マウスミクログリア細胞株BV2の動態を生体内ビデオ蛍光顕微鏡によりライブイメージング解析する。また、脳移行性細胞における外来遺伝子発現ウィルスベクターの有用性を検討する。
結果と考察
動態解析の結果、BV2のモデルマウス脳血管内におけるローリングおよび強固な接着を確認した。これらの頻度が野生型マウスに比べて有意に増加する知見が得られた。ローリングおよび強固な接着は炎症時における炎症細胞の組織内浸潤に重要である。我々はリポ多糖(LPS)で全身性に炎症状態を呈するマウスの脳血管でも加齢アルツハイマー病モデルマウス脳で観られたローリングおよび強固な接着の増加を観察した。アルツハイマー病態脳における骨髄単球由来ミクログリアの脳移行性は炎症におけるメカニズムと一部共通する可能性が示された。一方、我々は細胞医薬により脳内へ送り込む遺伝子の候補としてAD病理変化を低減させると思われるヘパラン硫酸糖鎖細胞外スルファターゼSulfを明らかにした(Hossain et al, Glycobiology, 2010)。また、脳移行ミクログリア細胞において効率よく外来遺伝子を発現させるポリオーマウィルスベクターを開発した。
結論
アルツハイマー病態を軽減させる遺伝子の脳内搬送および発現システムの基盤技術に繋がる成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-12
更新日
-

文献情報

文献番号
200922017B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞を血行性脳実質内動員する機序の解析およびそのアルツハイマー病治療への応用
課題番号
H19-認知症・一若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
内村 健治(国立長寿医療センター アルツハイマー病研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病の予防・治療法の開発は複数の介入点から様々な試みがなされているが薬剤あるいは遺伝子担体を血液脳関門を越えて如何にして脳内に送り込むかが大きな問題となる。アルツハイマー病(AD)モデルマウスを用いた解析から骨髄由来ミクログリア細胞がAD病態に伴って脳内へ移行し、神経毒性アミロイドβタンパク(Aβ)の除去に関与していることが国内外で明らかになってきた。本研究は骨髄由来ミクログリア細胞の脳内への浸潤に働く細胞表面接着分子の発現とそのメカニズムの解析を明らかにし、当該細胞の脳内遺伝子搬送体としての有用性とそのシステムの開発を行うために計画・実施された。
研究方法
脳移行性細胞の脳内浸潤において働くと予想される分子の発現をマウスミクログリア細胞およびADモデルマウスを用いて解析した。また、浸潤メカニズムを明らかにするため、脳血管内での末梢投与ミクログリア細胞の動態を生体内ビデオ蛍光顕微鏡によりライブイメージング解析した。脳移行性細胞における効率的な外来遺伝子発現を実現するため各種ウィルス発現ベクターの有用性を培養細胞レベルで検討した。
結果と考察
本研究者は全く新規な組織内細胞浸潤機序を発見し脳血管内での骨髄由来ミクログリア細胞の動態を生体内ビデオ蛍光顕微鏡で観察する技術を確立。マウスミクログリア細胞のADモデルマウス脳血管内におけるローリングおよび接着の増加が示された。さらに本研究者は脳移行ミクログリア細胞におけるセレクチンリガンド糖鎖の発現およびADモデルマウス脳における糖鎖認識セレクチン分子の発現誘導を発見した。一方、ヘパラン硫酸多硫酸化ドメインが脳内重合Aβ沈着部位に選択的に強く発現することを本研究者は発見した。この特殊なドメインを持つヘパラン硫酸糖鎖が脳内におけるAβ重合に関わる事が示唆された。細胞医薬により脳内へ送り込む遺伝子の候補としてAD病理変化を低減させると思われるヘパラン硫酸糖鎖細胞外スルファターゼSulfを明らかにし、Sulf遺伝子をミクログリア細胞に特異的に発現させるウィルス発現システムをポリオーマウィルスベクターを用いて構築した。
結論
脳移行性細胞を遺伝子の脳内搬送体として使用する技術基盤が確立された。本研究により開発される細胞医薬の活用によりAD治療薬の効果的な投与法や効果の増強が期待される。ADに対する革新的な治療法に繋がりさらにAD患者のQOL向上を導く研究である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病の進行に伴って骨髄由来細胞が脳内へ浸潤することが最近の研究で明らかになりました。脳内細胞を可視化する生体内ビデオ蛍光顕微鏡により細胞接着分子セレクチンとそのリガンド糖鎖分子が脳内へ移行する細胞にとって重要であることがわかりました。これら分子の発現調節による細胞医薬の基盤技術が確立されました。
臨床的観点からの成果
本研究により開発される細胞医薬の活用によりアルツハイマー病治療薬の効果的な投与法や効果の増強が期待されました。
ガイドライン等の開発
特記事項無し。
その他行政的観点からの成果
超高齢化社会を迎えた我が国においてアルツハイマー病は増加の一途をたどっています。本研究成果は将来的にアルツハイマー病患者のQOL向上および認知症を最小限に抑えることに貢献します。
その他のインパクト
アルツハイマー病の予防治療法開発を糖鎖研究の観点から推進する我が国当該分野をリードする形に発展している。一部の成果については新聞紙上に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Md Motarab Hossain, Tomomi Hosono-Fukao, Renhong Tang, et al.
Direct detection of HSulf-1 and HSulf-2 activities on extracellular heparan sulfate and their inhibition by PI-88
Glycobiology , 20 (2) , 175-186  (2010)
原著論文2
Hosono-Fukao T, Ohtake-Niimi S, Nishitsuji K, et al
RB4CD12 epitope expression and heparan sulfate disaccharide composition in brain vasculature
J Neurosci Res , 89 (11) , 1840-1848  (2011)
原著論文3
Hosono-Fukao T, Ohtake-Niimi S, Hoshino H, et al
Heparan Sulfate Subdomains that are Degraded by Sulf Accumulate in Cerebral Amyloid ß Plaques of Alzheimer's Disease: Evidence from Mouse Models and Patients
Am J Pathol , 180 (5) , 2056-2067  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-