血中脂質メディエーターを標的とした新規の骨粗鬆症治療薬の開発とその臨床応用

文献情報

文献番号
200921043A
報告書区分
総括
研究課題名
血中脂質メディエーターを標的とした新規の骨粗鬆症治療薬の開発とその臨床応用
研究課題名(英字)
-
課題番号
H21-長寿・若手-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
石井 優(国立大学法人大阪大学・免疫学フロンティア研究センター 生体イメージング研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢時代を迎えた日本では、骨粗鬆症罹患者数は1000万人を突破しつつある。骨組織は、「破骨細胞」と、「骨芽細胞」のバランスによって恒常性が維持されているが、炎症や加齢により破骨細胞機能が亢進すると骨吸収側に傾き骨粗鬆症の発症へとつながる。近年、終分化した破骨細胞機能を阻害するビスホスフォネート(BP)製剤が骨吸収抑制剤として臨床現場で汎用されている。この薬剤はその有効性が示されているものの骨粗鬆症の進行を完全に抑制するには至らず、BP製剤と作用機序が異なり、併用により相乗効果が期待できる新規薬物の開発が切望されており、今回の計画研究では、新しい骨吸収抑制剤の開発の可能性について検討した。
研究方法
研究代表者は最近、米国国立衛生学研究所(NIH)での国際共同研究により、破骨細胞前駆細胞が骨表面へ遊走し接着する段階に注目し、血中の脂質メディエーターであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)がこの過程を制御すること、S1P作動物質が、強力な骨吸収抑制作用をもつことを明らかにした。本研究では、臨床応用可能なS1P作動薬に注目し、骨粗鬆症モデルマウスを用いて、これら薬剤の骨吸収抑制効果について検討した。骨組織および薬効の評価には、高解像度CTによる骨形態計測および末梢血DPD測定による骨代謝マーカーの変動評価に加え、研究代表者が独自に開発した骨組織内の生体ライブイメージングを駆使して、検討を加えた。
結果と考察
卵巣摘出骨粗鬆症モデルマウスにおいて、S1P1を標的とした治療が、骨粗鬆症の予防のみならず治療薬としても有望であることを示した。さらに破骨細胞前駆細胞にはS1Pに対して遊走を起こすS1P1受容体に加えて、これを抑制するS1P2受容体が同時に発現しており、本研究ではこの負の受容体であるS1P2を抑制して、結果としてS1P1作用を強化することにより、骨吸収が抑制できないかについても解析した。S1P2受容体のアンタゴニストを卵巣摘出モデルマウスに投与すると極めて強力な骨吸収抑制効果が認められた。これらの結果から、S1P作用を標的とする破骨細胞前駆細胞の遊走制御は、新しい骨粗鬆症治療薬として極めて有望であることが示された。
結論
本研究では、S1Pによる破骨前駆細胞の遊走・位置決めを標的とした、これまでとは全く異なるコンセプトによる新規の骨粗鬆症治療薬の開発へ道を拓くものであり、その社会的意義は大きい。

公開日・更新日

公開日
2010-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921043C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では骨粗鬆症モデル動物を用いた実験により、S1P1受容体アゴニストおよびS1P2受容体アンタゴニストが骨吸収抑制に極めて有用であることが示された。これらは、S1Pによる破骨前駆細胞の遊走・位置決めといった、これまでとは全く異なるコンセプトによる骨代謝調整機構であり、破骨細胞前駆細胞の骨組織への流入出バランスという内因性の調節機転を利用する新しい骨粗鬆症治療薬の開発へ道を拓くものである。
臨床的観点からの成果
S1P受容体をターゲットとした薬剤は、内因性の調節機転を利用するためビスフォスホネート(BP)製剤に見られる顎骨壊死などの重篤な副作用が少ないことが期待される。またBP製剤と全く異なる薬効作用点を持っているため、併用による相乗効果も期待されるので、重症の骨粗鬆症に対しては併用による強力な治療が可能となる他、これまでBP製剤を使用していた症例に対しても、本研究で開発する新治療薬との併用により内服するBP製剤の容量を抑えることにより顎骨壊死などの副作用のリスクを下げることが可能となる。
ガイドライン等の開発
本研究では骨粗鬆症モデル動物を用いた実験により、S1P1受容体アゴニストおよびS1P2受容体アンタゴニストが骨吸収抑制に極めて有用であることが示された。特に、S1P2は、S1P1とは異なり発現が単球系細胞(破骨細胞)に比較的特異的であるため、副作用が少ない優れた薬剤として開発できる可能性がある。本研究代表者はすでに国内の製薬メーカーと本研究成果について打ち合わせをしており、今後S1P2アンタゴニストを主たる薬効とする新規骨粗鬆症治療薬の開発を行っていく計画としている。
その他行政的観点からの成果
社会の高齢化および骨吸収性疾患の増加は、日本に限ったものではなく先進諸国に共通した問題である。現在、骨粗鬆症の罹患者数は日米欧の先進諸国において約7500万人と推定されており、骨吸収抑制剤の世界市場は総額8000億円に及ぶ巨大なマーケットである。しかも、世界規模の少子高齢化時代に向け、この市場は今後確実に増加することが予想される。このため、本研究の保健医療における意義は日本国内に留まらず、世界での新たな疾患治療モデルを提唱すると同時に、世界を牽引する創薬ビジネスのチャンスとも考えられる。
その他のインパクト
本研究による成果は、NHKテレビ内報道番組にて2009年2月9日朝、および朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・産経新聞・日本経済新聞にて2009年2月9日の夕刊で報道された。また、本研究に基づく新規骨粗鬆症治療薬の可能性について、NHK教育放送・サイエンスZEROの取材を受け、2009年5月9日同番組「骨粗鬆症を防げ」内で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-