文献情報
文献番号
202220008A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
課題番号
21HB1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 椎野 禎一郎(国際医療研究センター 臨床研究センター・データサイエンス部)
- 塚田 訓久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
- 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日に改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理し、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家との討議を通じて各種課題を解決の方策を議論する。令和4年度は、昨年度に引き続き「予防指針に基づく課題の一覧表」とHIV関連の研究事業の報告書の解析結果に基づき、以下の3課題に着目した研究を行った。即ち1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含むLate Presenterに対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題である。
研究方法
第36回日本エイズ学会学術集会にてシンポジウムを企画し、予防指針にかかわる多くの専門家や当事者を集めて議論を深めた。AMED耐性動向班のHIV遺伝子配列を再分析し、コロナ禍における我が国のHIV-1伝播クラスタの変化をモニタリングした。これにより明らかとなったコミュニティの把握困難な層(hard-to-reach層)の心理的特徴を検討する手法「AIによるフリーテキスト解析」を開発した。エイズ予防指針における各種施策の進捗状況把握のため、自治体(都道府県)を対象としたモニタリング調査を行った。「正しい知識の普及啓発」に関するモニタリング方法の一環として、一般成人におけるPrEPやU=Uなどの認知度に関するインターネット調査を行った。
結果と考察
令和4年度の解析で、わが国のHIV-1伝播クラスタは、2021年においてもコロナ禍の影響を受けていることが明らかとなった。伝播クラスタ解析によって、地域でのアウトブレイクやlate presenterの新規検出が可能となったが、これらの結果は、HIV検査体制の地域差を反映していると考えられた。Late presenterの多いクラスタの特徴を、迅速なネットワーク解析で見いだせたことは、予防対象の中心であるhard-to-reach層を見出す鍵となると考えられる。こうした層へ検査機会の提供について、マーケティング手法を応用して手がかりを得るための研究手法を検討した。エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を行った。各自治体の取り組みは、コロナ禍により大きな影響を受けていたが、令和4年度には様々な工夫による回復の兆しも見えた。コロナ禍を契機に開始された試みの中には、コロナ後にも活用できる対策も含まれ、自治体の枠を超えた連携の構築の必要性が示唆された。医療体制では、HIV感染者の高齢化に対応した、医療・福祉・介護などの領域が連携した取り組みが期待されている。「正しい知識の普及啓発」に関するモニタリング方法として、一般成人を対象とした調査を行った。本調査の有効回答は196,045人(回収率83.5%)であり大きな規模の母集団となった。コロナ禍の影響もあり、HIV検査数は若干低下を認めた。また、一般の「U=U」の認知度は低いままであった。「PrEP」の使用経験は全体では、1.3%(2020)と1.5%(2023)と著変はなかったが、個別施策層では徐々に認知されるようになり、MSM 10.3%、セックスワーカー13.5%となった。我が国においてPrEPの体制整備は急務である。
結論
2021年の我が国のHIV-1伝播クラスタは、検査体制へのコロナ禍の影響が継続していることを示唆した。地域アウトブレイクやlate presenterの新規検出は、検査体制の地域差異を反映している。このようなlate presenterの多いクラスタを見いだせたことは、NGO等による把握が困難なhard-to-reach層に対する施策立案の鍵となる。一般社会人の調査で、U=Uや最新の治療法、検査に関する知識の浸透はいまだに低く、都道府県別にも差異がみられる。一方で、PrEP使用割合は、特にキーポピュレーションの間で増えていることが示唆され、その体制整備が急務である。コロナ禍に各自治体で開始されたエイズ対策の中には、注目すべきものがある。各自治体の先行する成功事例に関する情報共有や、自治体の枠を超えた連携体制の構築が有用である。本研究成果及び調査結果は、次世代のエイズ予防指針の策定に貢献する。
公開日・更新日
公開日
2024-04-01
更新日
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