文献情報
研究課題名
MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入に関する研究
研究代表者(所属機関)
塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究分担者(所属機関)
- 和田 秀穂(川崎医科大学 血液内科学)
- 仲村 秀太(琉球大学 大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科)
- 金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科 国際保健看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究報告書(概要版)
研究目的
より感染リスクの高い層やこれまで介入が届きにくかった層を対象とした検査機会を提供することとしていたが、自粛の影響をふまえ、保健所などの検査機会の現状を共有し、各地域で新たなに有効な検査手法を検討し、その効果評価の体制を整備することとした。
研究方法
ゲイコミュニティが存在し、当事者を中心としたCBOと行政、医療者、研究者との協働体制が構築されている地域、あるいはその可能性が高い地域(北海道、東北、東京都・神奈川県・首都圏、愛知県・東海、大阪府・近畿、岡山県・中国、愛媛県・四国、福岡県・九州、沖縄県)で、保健所以外の検査機会、特に郵送検査キットを配布する取り組みを開始した。各地域の状況に合わせて、対面配布とWEB配布する方式を組み合わせて実施した。
結果と考察
最終年度は、郵送検査キットを2,067キット配布し、受検者アンケートに回答した人は2,058人であった。このうち実際に利用した人は1,537人であり、配布数に占める利用者の割合は74.4%であった。このうち、結果画面を視認したと考えられる人は1,506人(98.0%)であった。新規のHIV陽性率は推定で1.5%、新規の梅毒陽性率は推定で10.3%であった。重複感染は13人であった。その他、保健所以外の検査機会としては東海、近畿、中四国、沖縄地域でクリニックと協働した検査キャンペーンを実施した。
結論
ゲイコミュニティ当事者を中心としたCBOと協働して介入することで感染リスクの高い層に予防啓発としての検査機会を提供できることを示した。予防行動の促進と共にHIV抗体検査に対するハードルを下げる、持続可能な介入モデルを開発できたことは、ウィズコロナ社会における意義は高いと考える。行政や医療機関と協働したクリニック検査の可能な地域も拡大した。本研究で郵送検査利用に関わった対象の調査結果では、形成調査の結果と比較して、コミュニティに近く感染リスク行動の高い層が利用したと考えられ、新たな層の開拓につなげるには十分とは言えないが、コミュニティ主導で、感染リスクの高い層が利用できる検査機会の提供モデルを示した。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
文献情報
研究課題名
MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入に関する研究
研究代表者(所属機関)
塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究分担者(所属機関)
- 金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科 国際保健看護学)
- 和田 秀穂(川崎医科大学 血液内科学)
- 健山 正男(琉球大学大学院医学研究科感染病態制御学講座 分子病態感染症学分野)
- 仲村 秀太(琉球大学 大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究報告書(概要版)
研究目的
より感染リスクの高い層やこれまで介入が届きにくかった層を対象とした検査機会を提供することとしていたが、自粛の影響をふまえ、保健所などの検査機会の現状を共有し、各地域で新たなに有効な検査手法を検討し、その効果評価の体制を整備することとした。
研究方法
ゲイコミュニティが存在し、当事者を中心としたCBOと行政、医療者、研究者との協働体制が構築されている地域、あるいはその可能性が高い地域(北海道、東北、東京都・神奈川県・首都圏、愛知県・東海、大阪府・近畿、岡山県・中国、愛媛県・四国、福岡県・九州、沖縄県)で、保健所以外の検査機会、特に郵送検査キットを配布する取り組みを開始した。各地域の状況に合わせて、対面配布とWEB配布する方式を組み合わせて実施した。その他、保健所以外の検査機会としては東海、近畿、中四国、沖縄地域でクリニックと協働した検査キャンペーンを実施した。
結果と考察
郵送検査に関する取り組みについて、初年度、各地域の連携のもと、郵送検査キットを1,053キット配布し、受検者アンケートに回答した人は1,048人であった。このうち利用した人は769人、配布数に占める利用者の割合は73.0%であった。結果を視たと考えられる人は95.7%であった。新規HIV陽性率は推定1.8%、新規梅毒陽性率は推定5.6%、重複感染4人であった。
2年度は各地域で郵送検査キットを1,893キット配布し、受検者アンケートに回答した人は1,915人であった。このうち利用した人は1,305人、配布数に占める利用者の割合は68.9%であった。結果を視たと考えられる人は96.5%であった。新規HIV陽性率は推定0.9%、新規梅毒陽性率は推定7.1%、重複感染6人であった。
最終年度も各地域で郵送検査キットを2,067キット配布し、受検者アンケートに回答した人は2,058人であった。このうち利用した人は1,537人であり、配布数に占める利用者の割合は74.4%であった。結果を視たと考えられる人は98.0%であった。新規HIV陽性率は推定1.5%、新規梅毒陽性率は推定10.3%、重複感染13人であった。
検査キット利用後アンケートでは、セクシャリティについてWEB配布の方が対面配布よりバイセクシュアルの割合が高く、居住地は対面配布よりWEB配布の方が農村・漁村・山間部の占める割合が高かった。採血について難しかったと回答した割合は対面配布とWEB配布で差が見られた。また自由記載の分析では、匿名・自身で好きな時に時間に縛られず実施できたことに満足感をみいだしていた。一方で採血量を規定量出す難しさや、緊張感・恐怖感があったとの意見もみられた。今後も利用したいとの声が多数あり、他の検査項目もあればとの声もみられた。
郵送検査以外の検査では、クリニック検査の体制構築を進め、東海では初年度31人、2年度57人、最終年度43人利用した。HIV陽性は初年度1人、2年度2人、最終年度3人、梅毒陽性は初年度9人、2年度12人、最終年度11人であった。近畿では初年度350人、2年度233人、最終年度265人利用した。HIV陽性は初年度5人、2年度4人、最終年度1人、梅毒陽性は初年度70人、2年度51人、最終年度71人、HBV陽性は初年度5人、2年度1人、最終年度4人であった。岡山では2年度56人、最終年度96人であり、HIV陽性6人、梅毒陽性21人であった。沖縄では初年度39人、2年度26人、最終年度25人利用した。HIV陽性は初年度0人、2年度1人、最終年度0人、梅毒陽性は初年度2人、2年度目0人、最終年度0人であった。
結論
ゲイコミュニティ当事者を中心としたCBOと協働して介入することで感染リスクの高い層に予防啓発としての検査機会を提供できることを示した。予防行動の促進と共にHIV抗体検査に対するハードルを下げる、持続可能な介入モデルを開発できたことは、ウィズコロナ社会における意義は高いと考える。行政や医療機関と協働したクリニック検査の可能な地域も拡大した。本研究で郵送検査利用に関わった対象の調査結果では、形成調査の結果と比較して、コミュニティに近く感染リスク行動の高い層が利用したと考えられ、新たな層の開拓につなげるには十分とは言えないが、コミュニティ主導で、感染リスクの高い層が利用できる検査機会の提供モデルを示した。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
行政効果報告
成果
専門的・学術的観点からの成果
ゲイコミュニティ当事者を中心としたCBOと協働して介入することで感染リスクの高い層に予防啓発としての検査機会を提供できることを示し、予防行動の促進と共にHIV抗体検査に対するハードルを下げる、持続可能な介入モデルを開発できたことは、ウィズコロナ社会における意義は高いと考える。
臨床的観点からの成果
郵送検査配布数は1,053件から2,099件、利用者も769人から1,537人と約2倍となった。検査結果はどの地域でも95%以上が確認しており、その後の転機は不明だが、一部は受診も確認されている。HIV新規陽性率は1.4%~1.8%と横這い、梅毒新規陽性率は5.6%~10.3%と増加していた。ほぼすべての地域で梅毒陽性は増加しており、MSMにおける梅毒感染の拡大が懸念される。診療所での検査でもHIV陽性件数は微増しており、MSMにおける予防行動への介入を再構築が必要である。
ガイドライン等の開発
郵送検査キットを活用し初年度769人、2年度目1,305人、3年度目は1,537人が利用し、対象地域のコロナ禍における保健所の検査機会の逸失を補完できたと考えられる。行政や医療機関と協働したクリニック検査の可能な地域も拡大した。形成調査の結果と比較し、いずれもコミュニティに近く感染リスク行動の高い層が利用したと考えられ、新たな層の開拓につなげるには十分とは言えないが、コミュニティ主導で、感染リスクの高い層が利用できる検査機会の提供モデルを示した。
その他行政的観点からの成果
コロナ禍の影響は、保健所の体制のみならず、コミュニティの状況や予防啓発活動に従事する当事者の状況にも影響を与えた。研究開始当初はその2倍の件数を目指したが、現状2,000件程度となった。新規陽性率が高いことから新たな層に一部到達したと考えられるが十分ではない。しかし、クリニック検査は4地域に広がり、郵送検査はコミュニティセンターやコミュニティセンターない地域でも無料・匿名で実施できる手法を確立した。したがって部分的に有効なHIV検査機会の提供はできたと考えられる。
その他のインパクト
研究成果の一部は各地のCBOの活動を通じて行政施策や事業内容に還元されている。また研究報告書をHPページ(https://www.msm-japan.com/)に集約されており、エイズ予防情報ネットでリンクされている。
大阪地域の活動がNHKのウェブ記事(https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic102.html)にて掲載された。
発表件数
その他成果(普及・啓発活動)
3件
研究HPページ(https://www.msm-japan.com/)
特許
主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)
収支報告書
支出
研究費 (内訳) |
直接研究費 |
物品費 |
7,722,663円 |
人件費・謝金 |
3,782,314円 |
旅費 |
317,648円 |
その他 |
6,181,375円 |
間接経費 |
4,052,000円 |
合計 |
22,056,000円 |