文献情報
文献番号
202219024A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテロ対策のための備蓄されている細胞培養痘そうワクチンの備蓄等,バイオテロ病原体への検査対応,公衆衛生との関連のあり方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20HA2005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
海老原 秀喜(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
- 下島 昌幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
- 永田 典代(国立感染症研究所感染病理部)
- 前田 健(国立感染症研究所 獣医科学部)
- 吉河 智城(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
- 森岡 慎一郎(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター)
- 氏家 無限(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
- 水島 大輔(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター)
- 鈴木 忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)
- 永坂 敦(市立札幌病院 感染症内科)
- 徳田 浩一(東北大学病院 検査部)
- 上原 由紀(藤田医科大学 医学部)
- 倭 正也(地方独立行政法人りんくう総合医療センター 感染症センター)
- 肥山 和俊(独立行政法人国立病院機構福岡東医療センター 感染症内科)
- 仲村 秀太(琉球大学 大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科)
- 岩橋 恒太(特定非営利活動法人akta)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
264,337,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
COVID-19のパンデミックの影響、ポストパンデミックによる急速な人流・物流の増加、大阪万博の開催、さらにウクライナ侵攻に端を発した国際安全保障及び経済情勢の急激な変化に対応するために、バイオテロ及び新興感染症対策に資する活動及び研究基盤の整備と強化を行う。
さらに2022年より国内発生例が増加しているサル痘(エムポックス)及び天然痘に対する予防・診断・治療に関わる臨床研究体制の整備と対応の加速化及びサーベイランスと啓蒙活動に貢献をする。
さらに2022年より国内発生例が増加しているサル痘(エムポックス)及び天然痘に対する予防・診断・治療に関わる臨床研究体制の整備と対応の加速化及びサーベイランスと啓蒙活動に貢献をする。
研究方法
本年度は、(1)高度弱毒化痘瘡ワクチン(LC16m8)に関する研究として、血清学的手法を用いた品質評価系及び病理学的なアプローチによる安全性評価系の確立、組換えLC16m8を用いた新規COVID-19ワクチンの開発と改良;(2)高病原性病原体検査法開発・改良、維持に関する研究として、アルゼンチン出血熱の原因ウイルスであるフニンウイルスNP蛋白質に対する単クローン抗体の遺伝子化による抗体の安定供給システムの構築;(3)バイオテロ及び新興感染症に対する国内及び国際連携の強化;(4)サル痘に対する国内の診断・予防・治療体制の整備に関する研究として、サル痘に対する痘そうワクチンによる曝露後及び暴露前予防接種の有効性および安全性の評価、サル痘に対する経口テコビリマット治療の有効性および安全性に資する臨床研究、また、国内流行の早期発見・早期対策を目的としハイリスクグループに対するサーベイランス研究と啓蒙活動を横断的に行ない、国内におけるバイオテロ及び新興感染症対策に資する活動及び研究基盤の整備と強化を行った。
結果と考察
(1)LC16m8に関する研究: LC16m8の品質及び安全性評価に関して、細胞継代により出現する変異株とワクチン株を鑑別可能とする血清学的な手法と病変像等の評価結果を数値化することによってワクチンの安全性と有効性を評価する手法の確立が進められた。さらに組換えLC16m8を基にしたCOVID-19ワクチンの効果を更に高めるために、Sタンパク質に中和抗体誘導能の高い構造を誘導・維持するための変異を導入した組換えワクチンが、ハムスターモデルにおいて高い免疫原性と防御応答誘導能を示した。(2)高病原性病原体検査法の研究:フニンウイルスNP蛋白質に対する単クローン抗体の可変領域をコードする部分の遺伝子のクローニング及びその配列を決定した。(3)国内及び国際連携の強化:バイオテロ対策関連国際会議等への出席及び情報共有:世界保健機関(WHO)が主催する痘瘡ウイルス研究専門家アドバイザリーコミティー及びGlobal Health Security Action Group-Laboratory networkでの活動に参加し、WHOの天然痘に対する施策推進への貢献及び情報共有等を行った。さらに一類感染症に対する対応基盤の確立のために、長崎大学BSL4施設との連携体制の構築を行った。(4)サル痘に対する国内の診断・予防・治療体制の整備:サル痘に対する痘そうワクチンによる濃厚接触者への曝露後免疫において、被験者で濃厚接触から21日目までサル痘の発症、重症化、及び合併症を疑う所見は認められなかった。曝露前予防接種の有効性の評価においては、痘そうワクチン接種28日後のサル痘ウイルスに対する中和抗体陽が観察された。国立国際医療研究センター中心に全国7施設において、天然痘及びサル痘患者の経口テコビリマット投与による世界標準的な治療が提供できる体制が整備された。ハイリスクグループが性感染症検査で用いた直腸検体等の残検体を活用し、PCR検査を都内三施設で実施した結果、1346名中5名でサル痘に対する PCRが陽性となった。さらにコミュニティセンターaktaを基点に、支援団体等の協力により、サル痘についての注意喚起、基礎知識、予防の方法に関するコンテンツの作成・発表、啓蒙活動等が展開された。
バイオテロ対策の強化には、新規技術を積極的に取り入れた病原体の検出法、ワクチンや治療薬開発の推進が必須であると同時に、予防・診断・治療に関わる対策を実施するための体制整備、国内外の疫学情報の正確で迅速な収集、社会への正確で適切な情報の提供が重要であることが、本研究班のサル痘対応を通して改めて確認された。総じて、本研究ではこれらの多岐にわたる課題に関する研究が進められ、且つ実践的に利活用されていると判じられる。
バイオテロ対策の強化には、新規技術を積極的に取り入れた病原体の検出法、ワクチンや治療薬開発の推進が必須であると同時に、予防・診断・治療に関わる対策を実施するための体制整備、国内外の疫学情報の正確で迅速な収集、社会への正確で適切な情報の提供が重要であることが、本研究班のサル痘対応を通して改めて確認された。総じて、本研究ではこれらの多岐にわたる課題に関する研究が進められ、且つ実践的に利活用されていると判じられる。
結論
国際安全保障及び経済情勢の急速な不安定化に対応するために、今後もLC16m8に関連する開発と品質管理法の研究、バイオテロ病原体に対する早期探知、検出・検査法、治療薬及びワクチンの開発・基盤研究、国際連携の強化、社会に対する情報提供のあり方をさらに検討し、推進していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2024-06-07
更新日
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