高齢者の性ホルモン低下に伴う各種合併症に対する臨床研究

文献情報

文献番号
200921003A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の性ホルモン低下に伴う各種合併症に対する臨床研究
課題番号
H19-長寿・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
並木 幹夫(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学)
研究分担者(所属機関)
  • 民谷 栄一(大阪大学大学院工学研究科精密化学・応用物理学)
  • 折笠 秀樹(富山大学大学院医学薬学研究部バイオ統計学・臨床疫学)
  • 高 栄哲(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学)
  • 小中 弘之(金沢大学附属病院泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
11,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来から顕在するホルモン補充療法における“性差”を是正すべく,高齢男性の性ホルモン低下に起因する諸症候を呈する病態である,加齢男性性腺機能低下(Late-Onset Hypogonadism: LOH)症候群に,その推奨治療であるアンドロゲン補充療法(ART)の有用性を前向きランダム化比較試験(RCT)によって検討する.また,LOH症候群における診断から治療までを有機的に展開するために,LOH症候群におけるバイオ診断チップの開発, LOH症候群とARTに関する遺伝子多型の解析も併行する.
研究方法
主研究として,多施設共同の大規模RCT (1) 中高年男性における前立腺特異抗原(PSA)と遊離型テストステロン(Free-T)との相関および運動習慣の有無に関する臨床試験(スクリーニング試験),(2) LOH症候群におけるARTの有用性に関する臨床試験(本試験)を立案した.LOH症候群に対するテストステロン投与群と非投与群において,ARTの有用性を比較検討した.また,副研究として,1) バイオ診断チップの開発,2) 遺伝子多型の解析において,両者ともサンプルとして血液,バイオ診断チップには唾液を採集した.
結果と考察
平成22年4月末での症例数は,スクリーニング試験約1,680例,本試験約335例に達した.今年度は統計の専門家を研究分担者に迎え,ARTによる筋力の向上や糖尿病の改善が一部の症例に認められた.遺伝子多型の解析には,DNAサンプルが130例集積され.順調に解析が進んだ.バイオ診断チップの開発はサンプル対象を血液から唾液に移行して,プラズモン共鳴を利用したテストストリップによってコルチゾールを測定した.本研究によって,EBMに基づいた適正なARTを普及させ,LOH症候群に対する診断から治療までを包括するテーラーメイド医療の確立が可能になると考えられた.
結論
本研究では,LOH症候群という新しい概念を採択し,その啓発に努めるとともに, ARTの有用性を検証する大規模なRCTを始動した.さらに副研究として “LOH症候群に対するバイオ診断チップの開発” と “LOH症候群とARTに関与する遺伝子多型の解析”を併行した.本研究は,新たな長寿医療研究の萌芽として,高齢者特有の医学的諸問題の解決に対するブレークスルーとなり,現行の介護中心の医療からWHOが提唱する“healthy and active aging for men”への転換を促進させうると考えられた.

公開日・更新日

公開日
2010-06-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200921003B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者の性ホルモン低下に伴う各種合併症に対する臨床研究
課題番号
H19-長寿・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
並木 幹夫(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学)
研究分担者(所属機関)
  • 民谷 栄一(大阪大学大学院工学研究科精密化学・応用物理学)
  • 折笠 秀樹(富山大学大学院医学薬学研究部バイオ統計学・臨床疫学)
  • 高 栄哲(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学 )
  • 小中 弘之(金沢大学附属病院泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来から顕在するホルモン補充療法における“性差”を是正すべく,高齢男性の性ホルモン低下に起因する諸症候を呈する病態である,加齢男性性腺機能低下(Late-Onset Hypogonadism: LOH)症候群に,その推奨治療であるアンドロゲン補充療法(ART)の有用性を検討し,前向きランダム化比較試験(RCT)によるARTのエビデンス創出を目的とした.また,LOH症候群における診断から治療までの包括的なテーラーメイド医療の確立のために,LOH症候群におけるバイオ診断チップの開発, ARTの有効性を規定しうる遺伝子多型の解析も同時に展開した.
研究方法
主研究として,多施設共同の大規模RCT (1) 中高年男性における前立腺特異抗原(PSA)と遊離型テストステロン(Free-T)との相関および運動習慣の有無に関する臨床試験(スクリーニング試験),(2) LOH症候群におけるARTの有用性に関する臨床試験(本試験)を立案し,スクリーニング試験においてPSA < 2.0 ng/mlかつFree-T < 11.8 pg/mlを満たす40歳以上の90歳未満男性をLOH症候群として本試験にエントリーし,テストステロン投与群と非投与群におけるARTの有用性を比較検討した.また,副研究用サンプルとして,血液,唾液を採取した.
結果と考察
主研究の最終登録症例数はスクリーニング試験1,680例,本試験335例に達し,遺伝子多型の解析に必要なDNAサンプルも130例ほど集積された. 医工連携によるバイオ診断チップの開発においては,ナノテクノロジーの応用によって血清のみならず唾液中,のFree-Tおよびコルチゾールの測定が可能になった.本研究によってEBMに基づいた最適なARTを確立・普及させることは,高齢男性のQOLを高めるとともに健康寿命の延伸に寄与し,超高齢社会における福音になりうる可能性が示唆された.
結論
本研究では,LOH症候群という新しい概念を採択し,その啓発に努めるとともに, ARTの有用性を検証する大規模なRCTを始動した.さらに副研究として ,LOH症候群の早期発見,早期治療,予防を目指したバイオ診断チップの開発,そしてARTの治療効果に関与しうる遺伝子の同定とその遺伝子多型の解析を追加したことによって,本研究に拡張性と発展性が付加された.本研究が高齢者に特有の医学的諸問題に対する解決のブレークスルーの一つとなり,現行の介護中心の医療からWHOが提唱する“healthy and active aging for men”への転換を目的とした新規長寿医療研究の萌芽に十分寄与しうると考えられた.

公開日・更新日

公開日
2010-06-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群に対するアンドロゲン補充療法(ART)の有用性を前向きランダム化比較試験(RCT)にて検討した.また,前立腺特異抗原(PSA)と遊離型テストステロン(Free-T)との相関に関しても検討した.その専門的・学術的観点からの成果は,最近のAging Male あるいはMen’s Health 領域を学問的に大いに発展させていく可能性が示唆された.さらに,LOH症候群におけるバイオ診断チップの開発と遺伝子多型の解析の追加によって,本研究に拡張性と応用性が付加された.
臨床的観点からの成果
本研究より,血清PSAとFree-Tとの非相関性、ARTによる評価項目の改善、ARTによる重篤な副作用の非出現,ARTによる前立腺癌発症の可能性の低さ,が示唆された.また,基礎疾患として軽度の糖尿病,高血圧症,高脂血症等を有する症例に対して,それらの疾患に対する標準治療にARTを併用することによって,骨,筋肉,血管,脂質代謝等に対する高い臨床効果が認められた.本研究の臨床的観点から成果によって,ARTの治療的意義が創出されたと共に,今後ARTが大いに普及していく可能性が示唆された.
ガイドライン等の開発
高齢男性のQOL/ADLを高める方策の一つとして,LOH症候群に対して医療レベルで対策を早急に講じる必要がある.このような背景からガイドライン作成の要請が高まり,「LOH症候群診療の手引き」が作成された.その時点ではARTの有用性に関する大規模なRCTは存在していなかったが,今後は本研究の成果を踏まえて,新たなエビデンスを盛り込んだ「LOH症候群診療と治療のガイドライン」の開発が大いに期待される.
その他行政的観点からの成果
本研究はLOH症候群という新しい概念を取り上げ,その啓発に努めるとともに, ARTの有用性を検証した.行政的観点からの成果としては,エビデンスに基づいた適切なARTによって,高齢男性におけるQOLの改善やADLの高い維持が可能となり,高齢者男性の健康寿命を延伸させると共に,要介護認定数を減少させ,長寿社会における医療費の削減に寄与すると考えられた.さらに,バイオ診断チップの開発と遺伝子多型の解析によってLOH症候群における診断から治療までの包括的な医療の構築の可能性が示唆された.
その他のインパクト
LOH症候群に対するARTの有用性に関するRCTに関する話題は,地方紙の北国新聞に取り上げられた.また,その進捗状況,解析結果についてはいくつかの研究会・学会で発表すると共に,シンポジウムでも取り上げられた.さらに,医工連携によるバイオ診断チップに関しては,“非侵襲,簡便,迅速,自宅でセルフチェックが可能”を指向して,その開発を試みてきた.その成果の1つとして,金コロイド法によって高感度化されたPSA検出用イムノクロマトテストストリップは既に実用化済みである.

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-