「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」(ME/CFS)の実態調査および客観的診断法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
202218047A
報告書区分
総括
研究課題名
「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」(ME/CFS)の実態調査および客観的診断法の確立に関する研究
課題番号
22GC2101
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 康二(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 和貴郎(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所免疫研究部)
  • 高尾 昌樹(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院臨床検査部)
  • 矢部 一郎(北海道大学大学院医学研究院)
  • 磯部 紀子(黒木 紀子)(九州大学 大学院医学研究院)
  • 太田 康之(山形大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は強い倦怠感に加え多様な神経機能異常や「労作後の消耗」を特徴としWHOで神経系疾患(ICD-11 8E49)と分類されているものの、客観的診断基準が確立していないため、診療・研究・治療開発が立ち遅れている。近年、発症機序に関連する生物学的変化を評価するバイオマーカーの研究が世界で進んでいる。例えば Scheibenbogen らによる、ME/CFS 患者40%程度で抗自律神経受容体抗体(β2およびβ1 adrenergic receptor に対する自己抗体)が検出されるという報告については、NCNPのAMED研究によって日本人患者でも同様の結果が確認された(Fujii et al. J Neuroimaging 2020)。その他NCNPでは、B細胞受容体レパトア解析によるIgG遺伝子使用偏倚(Sato W et al. 2021)や頭部MRI拡散テンソル画像異常(Kimura et al. , 2019)を見出している。しかし単施設の研究結果であり、ガイドラインや診断基準策定に必要なエビデンスは不十分である。
 本研究の目的は、日本神経学会のネットワークを活用し、本邦におけるME/CFS患者の実態調査体制を構築し、実態調査を行うことである。国際的に用いられているカナダ基準や倉恒らによる慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準を元に、全国の患者の実態を明らかにする。そのうえでNCNPにて得られたバイオマーカー候補について、多施設での検証を進める。得られた情報は、将来の診断基準、ガイドライン策定に活用される。
研究方法
NCNPでは、神経研究所と病院が連携してME/CFSの患者診療および血液バイオマーカー解析や脳画像解析研究を進めてきた。具体的には、以下の2つのAMED研究課題(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する診療・研究ネットワークの構築:研究代表者 山村 隆、および筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の血液診断法の開発:研究代表者 佐藤和貴郎)の実施を経て、現在約200名のME/CFS患者が通院している。
 そこで本研究課題では、日本神経学会のネットワークを活用し、本邦におけるME/CFS患者の実態調査体制を構築し、実態調査を行う。そのうえでNCNPにて得られたバイオマーカー候補について、多施設での検証を進める。2022 年度、1)ME/CFS患者実態調査のための体制整備として、共同研究期間との情報共有および意見交換のための班会議開催、実態調査の方法に関する調査および班員による検討と計画策定、そしてNCNP倫理委員会への承認申請を行う。また2)NCNP施設内の患者から同意を得て末梢血のリンパ球解析や血清中の自己抗体に関するバイオマーカー研究を継続実施する。
結果と考察
今年度は初年度で10月に開始となった。NCNPの研究者間での討議(阿部、高尾、佐藤)を経て、研究開発の方針を策定した上で、研究班のキックオフミーティングを2022年11月17日にオンラインにて開催した。分担研究者間で情報共有を行い、協力体制の構築に努めた。会議を経て、①日本神経学会の学会員に対し、悉皆的に調査を実施すること(一次調査:患者の有無の調査、二次調査:患者ありの施設に対し、調査票を用いた調査を実施(2023年度)の予定)、実施のための倫理審査の承認手続き、調査票の作成(倉恒らによる慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準および2003年カナダ基準に準拠したもの)を行った。2) NCNP施設内の患者におけるバイオマーカー研究の実施については、NCNP病院通院患者約50名から同意を得て末梢血を採取し、リンパ球亜分画解析や自己抗体測定を進めた。
 進捗としては、当初計画通りに進捗している。研究成果の学術的意義については、本研究課題を進めることによりME/CFSの免疫病態に関する知見が得られ、病態解明につながり、診断法・治療法の開発が促進される。また、研究成果の行政的意義については、ME/CFSのバイオマーカーによる客観的な診断法が確立すれば、ME/CFSの客観的診断基準の策定や診療ガイドライン策定が実現し、医療均てん化に貢献し、ME/CFS患者に対する医療提供が向上する。最後に、ME/CFSは、世界保健機関のICH-11において神経系疾患(ICD-11 8E49)と分類されているものの、海外において脳神経内科医による実態調査や研究活動はほとんど例がなく、本研究班の活動は国際的にも重要である。
結論
病態未解明ながら多様な神経症状を呈するME/CFSについて、脳神経内科医による実態調査とバイオマーカー開発を進める研究課題が開始となり、体制整備・予備調査について順調に進捗している。

公開日・更新日

公開日
2024-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-05-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202218047Z