精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける若年者等に対する早期相談・支援サービスの導入及び検証のための研究

文献情報

文献番号
202218028A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける若年者等に対する早期相談・支援サービスの導入及び検証のための研究
課題番号
22GC1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
根本 隆洋(東邦大学 医学部精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 徹男(秋田県精神保健福祉センター)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 田中 邦明(東邦大学 医学部精神神経医学講座)
  • 今村 晴彦(長野県立大学 大学院健康栄養科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,490,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」への若年者等を対象とした早期相談・支援サービスの円滑で効果的な導入方法について、実装科学の手法を用いながら、地域におけるサービスの実践を通して検討し、同サービスの各地への普及と政策提言につなげることである。精神科早期介入は、精神疾患の予防・回復やメンタルヘルスの維持に効果を認めることが明らかにされてきた。また、豪州など先駆的な国々においては、地域の精神保健医療システムに早期介入が導入・実装されてきている。精神疾患の多くが20歳代半ばまでに発症するとの知見を踏まえると、若年者を対象としたサービスが特に重要である。しかし、わが国において、早期介入への理解は高まりつつあるものの、臨床や地域保健における実践は広がりをみせていないのが現状である。本邦における関連制度や若年者の心性を踏まえた、実現性の高い早期介入の検討と導入が欠かせない。
研究方法
私たちは、厚生労働科学研究「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究(19GC1015)(令和元年度~3年度)」(MEICIS研究プロジェクト)において、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に際して「早期相談・支援サービス」を導入することの意義と具体的な方法を、本邦の地域特性の典型を反映する4か所のモデル地域(京浜地区、東京都足立区、秋田県、埼玉県所沢市)での実践を通じて明らかにしてきた。本研究では、上記のモデル地域での取り組みを継続するとともに、埼玉県川口市から新たに委託を受け実施した、若年者向け早期相談・支援サービスの実践と検証も行った。早期相談・支援の導入や普及について、近年注目を集めている実装科学の手法である「実装研究のための統合フレームワーク CFIR(Consolidated Framework for Implementation Research)」を用いて、対象となるサービス(介入)自体の特性を評価するだけでなく、サービスを社会実装する際に必要または課題となる要因について俯瞰的な視点で評価した。5領域に大別されるサービス実装時の促進・阻害要因(Ⅰ.介入の特性、Ⅱ.外的セッティング、Ⅲ.内的セッティング、Ⅳ.個人の特性、Ⅴ.プロセス)を明らかにすることにより、エビデンスに基づく介入を効果的、効率的に地域へ実装し、社会に根付かせるための手がかり(実装戦略)が得られることが期待された。
結果と考察
実装科学調査におけるインタビューの逐語録をCFIRの5領域に沿って整理した結果、各モデル地域(サイト)で阻害・促進要因、およびそれらに関連した延べ計46の実装戦略が抽出された。これらの結果は、これまでのMEICISプロジェクトの成果を実装の観点で整理し、今後の精神疾患の早期相談・支援のより広い社会実装に向けた方策を示唆するものである。結果の解釈について、各サイトは地域特性、介入のテーマとサービス内容、およびサービス開始の時期が異なるため、抽出された実装戦略もそれに応じて異なり、本研究の結果は地域特性やサービスの内容ごとに必要な戦略を提示したものと考えられた。2点目として、こうした各サイトの違いがあるうえでも、共通の戦略がいくつか抽出された。こうした戦略は、精神疾患の早期相談・支援の社会実装を進めていくうえで、どのような地域においても重要な戦略であると考えられた。今後、別の地域で新たにサービスを実装する際は、これらの項目をその実装に関連する機関・者に置き換えて、何が求められるかを検討することが重要である。これらを基にして、関係者が各実装戦略について理解をしやすいように、令和4年に公表した「『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム』における早期相談・支援のための手引き」の続編として、同手引きの「実装戦略構築編」を作成した。抽出された実装戦略を各サイトの実践の文脈に沿った文言に変換するとともに、実際に実装を行ってきた関係者の発言を追加した。本手引きは、ホームページ等で広く公開する予定である。
結論
今後、市区町村が主体となり構築していく「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」において、サービスの社会実装における阻害・促進要因を特定し、有効な実装戦略を整えながら早期相談・支援の仕組みを導入していくことは、同システムを有効・有用に、そして持続可能に運用するために不可欠であるといえる。さらに、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制」における、精神保健の課題を有する者への相談業務とその体制構築にも直結する。国連がSDGsに掲げる「誰一人取り残さない」社会のわが国における実現に向けて、メンタルヘルスとその早期介入を中心に据えた精神保健医療福祉体制を地域に根差しながら構築していくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神科早期介入の実施の有用性や有効性については、世界的に研究報告が重ねられてきたが、本邦における報告は未だ少なく、本研究の発表はわが国のエビデンスの蓄積とともに、世界への意義ある発信である。また、学術誌や学術集会において発表を重ね、本研究の成果発表として、第118回日本精神神経学会学術総会において、シンポジウム「『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム』における早期支援・相談の社会実装」を実施した。また、同学会で成果に関する演題が学会賞を授与された(若手国際シンポジウム発表賞、優秀発表賞)。
臨床的観点からの成果
早期段階での対応により、精神疾患の発症予防や軽症化が期待され、罹患の際にも早期の社会参加や社会復帰が可能となる。豪州など先駆的な国々においては、地域の精神保健医療システムに早期介入が導入・実装されてきている。精神疾患の多くが 20 歳代半ばまでに発症するとの知見を踏まえると、若年者を対象としたサービスが特に重要である。しかし、わが国において、早期介入への理解は高まりつつあるものの、臨床や地域保健における実践は広がりをみせていないのが現状である。本研究成果は、そうした状況を打開する契機となりうる。
ガイドライン等の開発
厚生労働科学研究において、令和4年に公表した「『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム』における早期相談・支援のための手引き」の続編として、同手引きの「実装戦略構築編」を作成した。
その他行政的観点からの成果
今後、市区町村が主体となり「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築するが、各自治体とも未だ具体的なイメージが定まらないのが現状といえる。持続性(sustainability)を考慮した際に、早期相談・支援サービスのシステムへの導入と実施は不可欠である。さらに、市区町村が精神保健相談を担い、その体制整備を進めることが今後求められるが、精神障害者に加えて精神保健に関する課題を抱える者もその対象となり、本研究から得られた結果は同体制の実施に向けて不可欠なものといえる。
その他のインパクト
研究活動が多くのメディアで取り上げられ掲載・放映された。埼玉川口市 若者専門の心の相談窓口を開設 NHK首都圏NEWS WEB(2022年6月30日)。イオンモール川口前川 若者の悩み 相談窓口 川口市が開設 東京新聞(2022年7月14日)。若者の心の悩み 専門チームが無料相談窓口 埼玉川口で全国初 毎日新聞(2022年7月3日)。ウクライナ避難民のメンタルケアを支援 大田区、東邦大と連携 毎日新聞(2022年6月30日)。MEICISホームページの作成 https://meicis.jp/。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
「『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム』における早期相談・支援のための手引き」の「実装戦略構築編」の作成
その他成果(普及・啓発活動)
7件
市民公開講座2件、プレスリリース発表4件、ホームページ作成1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Uchino T, Kotsuji Y, Kitano T, et al.
An integrated youth mental health service in a densely populated metropolitan area in Japan: Clinical case management bridges the gap between mental health and illness services
Early Intervention in Psychiatry , 16 , 568-55  (2022)
10.1111/eip.13229
原著論文2
Fukui E, Uchino T, Onozaka M, et al.
The mental health of young return migrants with ancestral roots in their destination country: A cross-sectional study focusing on the ethnic identities of Japanese-Brazilian high school students living in Japan
Journal of Personalized Medicine , 12 (11) , 1858-  (2022)
10.3390/jpm12111858
原著論文3
Takubo Y, Tsujino N, Aikawa Y, et al.
Relationship between antenatal mental health and facial emotion recognition bias for children’s faces among pregnant women
Journal of Personalized Medicine , 12 (9) , 1391-  (2022)
10.3390/jpm12091391
原著論文4
Takubo Y, Tsujino N, Aikawa Y, et al.
Changes in thoughts of self‐harm among postpartum mothers during the prolonged COVID‐19 pandemic in Japan
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 76 (10) , 528-529  (2022)
10.1111/pcn.13451
原著論文5
Nemoto T
Cognitive Impairments and Rehabilitation in Individuals with at-Risk Mental State for Psychosis
Journal of Personalized Medicine , 13 (6) , 952-  (2023)
10.3390/jpm13060952

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202218028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,944,173円
人件費・謝金 126,500円
旅費 277,180円
その他 3,142,147円
間接経費 510,000円
合計 6,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-02-06
更新日
-