要介護高齢者等への医療ニーズを把握する指標の開発研究

文献情報

文献番号
202216013A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者等への医療ニーズを把握する指標の開発研究
課題番号
21GA2002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 村松 圭司(産業医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 野元 由美(米田 由美)(学校法人産業医科大学 産業保健学部)
  • 藤本 賢治(産業医科大学産業保健データサイエンスセンター)
  • 劉 寧(リュウ ネイ)(産業医科大学 医学部)
  • 松垣 竜太郎(産業医科大学 医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,024,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の高齢化により、医療と介護の複合ニーズを持った高齢者が増加している。介護の現場で発生する急性期イベントは、その後の要介護度の悪化につながり、療養生活の質と社会保障財政の両面で負の影響をもたらす。この問題に対応するために、介護の現場における慢性期医療のニーズを把握し、それに適切に対応できる仕組みが必要となっている。本研究ではこの課題に対応するために、介護の現場における医療ニーズの現状とその把握方法について検討を行った。
研究方法
本研究では以下の3つの分析を行った。
(1) 老人保健施設入所前後の区分別医療費の変化の分析: 東日本の一自治体の医科レセプト、調剤レセプト及び介護レセプトを用いて、2017年4月から2019年3月までの間に老人保健施設に入所した者を抽出した。これらの対象者について入所前の傷病の状況及び診療区分別医療費(診察料等、医薬品費、処置、手術、検査、画像診断、その他、入院)を求め、1か月後、2か月後、3か月後、4か月後のそれぞれで 退所した者について、診療区分別医療費を計算し入所前の医療費との差について検討した。検定は対応のあるt検定を行った。
(2) 急性期イベント発生前後における要介護高齢者の医療・介護給付費の変化に関する分析:西日本の一自治体の2016年4月~2020年3月までの後期高齢者医療制度のレセプト及び介護レセプトを個人単位で連結しデータベース化した。そして、2016年5月から2019年3月までの1年間で、脳梗塞(DPC6桁=010060; 以下同様)、股関節骨折(160800)、心不全(050130)、誤嚥性肺炎(040080)、肺炎(040081)でDPC対象病院に入院した者をDPCレセプトで把握し、このうち入院1か月前に介護保険のサービスを利用していた者に限定して、入院1か月前から入院11か月後までの医療費及び介護給付費を算出した。 
(3) 短期入所療養介護利用者の医療介護サービス利用状況に関する記述疫学的検討:国内の34の二次医療圏の医療介護レセプトを個人単位で連結して、短期入所療養介護利用者を抽出し、その利用1か月前から利用後11か月までの医療介護サービス利用状況及び主たる傷病の有病率について検証した。
結果と考察
本研究により以下の点が明らかとなった。
(1) 老人保健施設入所前後の区分別医療費の変化の分析: 対象者数は7,565名であった。ベースライン時(入所1か月前)の傷病の状況をみると、最も有病率の高いのは高血圧性疾患(55.5%)で、要介護度は、介護認定無が51.2%と最も多く、次いで要介護2(13.7%)、要介護3(12.8%)となっていた。性別では女性が62.9%で、そして年齢は平均が85.3歳であった。診療区分別医療費は、手術、画像診断、入院で有意の減少を認めたが、その他の区分については医薬品費を含めて有意の変化を認めなかった。
(2) 急性期イベント発生前後における要介護高齢者の医療・介護給付費の変化に関する分析:要介護状態にある高齢者が脳梗塞、股関節骨折、心不全、肺炎、誤嚥性肺炎、尿路感染症でDPC対象病院(=急性期病院)に入院した場合の、医療保険及び介護保険財政に及ぼす影響について検討した。その結果、一人当たり介護給付費はいずれの傷病でも入院11か月後に有意に増加していること、一人当たり医療費は脳梗塞は増加、尿路感染症は減少するが、その他の4疾患はほぼ同じレベルに戻ることが明らかとなった。以上より、介護の現場における慢性期の医療ニーズへ適切な予防的対応は、対象者の療養生活の質の維持向上と医療保険財政及び介護保険財政の適正化に資すると結論された。
(3) 短期入所療養介護利用者の医療介護サービス利用状況に関する記述疫学的検討: ショートステイの利用率は11か月後には20%前後となるが、他方で施設介護の利用者が増加していた。利用者は高血圧性疾患、糖尿病、脳血管障害、心不全、認知症など多様な慢性疾患に複数罹患しており、1年間の累積死亡率が約20%と高いことから、医学的管理の必要性が高いことが示唆された。80%前後は外来医療を利用していることから、慢性疾患についてはかかりつけ医が管理していることが推察された。
結論
医療及び介護レセプトを連結して分析することで、介護現場における医療ニーズを時系列で把握することが可能である。両制度でその作成が法定化されている情報をとりまとめ標準化することで、日常業務の中で医療ニーズの把握し、その対策を考えるための共通サマリ-を作成することが実際的であると考える。

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
2023-06-01

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202216013Z