早産児ビリルビン脳症の診療指針の改訂および包括的診療体制の確立

文献情報

文献番号
202211050A
報告書区分
総括
研究課題名
早産児ビリルビン脳症の診療指針の改訂および包括的診療体制の確立
課題番号
21FC1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 森岡 一朗(日本大学 医学部)
  • 荒井 洋(大道会森之宮病院 神経リハビリテーション研究部)
  • 早川 昌弘(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 丸尾 良浩(国立大学法人滋賀医科大学 医学部医学科 小児科学講座)
  • 日下 隆(香川大学 医学部)
  • 國方 徹也(埼玉医科大学 新生児科)
  • 岩谷 壮太(兵庫県立こども病院 新生児内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目標は、早産児ビリルビン脳症(BE)の実態・成人期にわたる長期予後・黄疸管理の実態を明らかにして現行の診療指針を改訂する基盤を作成するとともに、小児・成人を一体的に研究・診療できる体制を構築することである。この目標の達成を目指すため、今年度は、1)早産児BEの実態調査、2)成人の早産児BE症例の実態調査、3)早産児の黄疸に対する検査・治療の全国調査、4)新規黄疸管理法の導入の影響の解明、5)新生児黄疸の遺伝学的背景の解明、6)ビリルビン測定法の検証、7)アセトアミノフェンがアンバウンドビリルビンに与える影響の検討、8)超早産児における高アンバウンドビリルビン血症の調査、を行った。
研究方法
1)第2回の早産児BEの全国調査を行い、30例の新規の早産児BEの症例の臨床情報を得た。
2)成人に達した早産児ビリルビン脳症48人の生命予後、合併症発現率およびその時期を調査した。患者会「えっぽの会」を通じ、CPQOL-teen自己回答版を用いて主観的QOLを調査した。
3)全国の周産期施設を対象に全国275施設に調査票を送付し、うち155施設から回答を得た(回答率56.4%)。
4)日本大学医学部附属板橋病院および埼玉医科大学病院で新規黄疸管理法の導入による早産児の黄疸管理の実情を調査した。
5)重症遷延性黄疸の症例に対しUGT1A1遺伝子の解析を行った。また、肝臓選択的にUGT1A1を発現させたマウスを作成した。
6)白色LED光源による通常光環境下におけるビリルビン光構造異性体の検体中に蓄積を検討した。
7)動脈管開存症に対しアセトアミノフェン静注療法を施行した症例で薬物動態解析を併せて行った。
8)2017-2020年度に兵庫県立こども病院で神戸大学の新基準によって管理した超早産児を対象に、生後8週間における総ビリルビンおよびアンバウンドビリルビン値の推移、光療法の頻度とその適応理由を調査した。
結果と考察
1)新生児期合併症では、慢性肺疾患および症候性動脈管開存は高率であったが、その他の合併症は稀であった。検査データでは総ビリルビン頂値は中央値12.3mg/dLで、頂値の記録日は中央値16.5日であった。光療法の施行日数は中央値5日、最終施行日齢は中央値10で、半数の症例で光療法の最終施行日より後に総ビリルビン頂値が記録されていた。
2)小児期~青年期の死亡率は14.5%、股関節亜脱臼の発症率は58.5%、脊柱側弯症の発症率は34.7%と推計された。CPQOL-teen自己回答版では、一般の脳性麻痺者と比べて早産児ビリルビン脳症患者は参加、コミュニケーション、健康、機能に対する満足度が有意に低かった
3)黄疸の検査では、分光測定と血液ガス分析器による測定は各々72施設ずつ、中央検査室での測定は124施設で、前回の調査と大きな変化はなかった。アンバウンドビリルビン測定を採用している施設は56施設から59施設に増加した。光療法の基準は「村田・井村の基準」が43施設から36施設(33.0%)、「中村の基準」が19施設から16施設へ減少し、「神戸大学の新基準」が25施設から36施設に増加した。
4)日本大学医学部附属板橋病院では、在胎30週未満の早産児では98%に光療法が施行された。生後2週以降に光療法を行った症例は、ほとんどの症例がUBのみで治療基準を満たしていた。Highモードによる光療法が必要となる場合は、生後2週以降も光療法が必要になる割合が高いことを明らかにした。埼玉医科大学病院では、光療法の開始基準として総ビリルビンによる適応が増加し、アンバウンドビリルビンによる適応が顕著に減少していた。
5)重症遷延性黄疸の9例にUGT1A1バリアントを同定し、代謝に及ぼす影響を明らかにした。肝臓選択的にUGT1A1を発現させたモデルマウスがヒト肝臓の薬物代謝のモデルとしての有用であることを確認した。
6)白色LED光源による通常光環境下では1時間あたり1.3mg/dLのビリルビン光構造異性体が検体中に蓄積することが明らかとなった。バナジン酸酸化法では、ビリルビン光構造異性体濃度×0.34が直接ビリルビンとして測定されることが明らかとなった。
7)アセトアミノフェン療法は最終投与から48時間経過するまでアンバウンドビリルビン値に影響を与えることが判明した。
8)76例のうち26例において、日齢28以降もアンバウンドビリルビンのみを適応として光療法が施行され、うち7例は日齢28以降にUB値として0.8 μg/dL以上を呈していた。
結論
これらの知見を広く公表することにより早産児BEに対する認知度を向上させるとともに、研究の成果に基づき現行の「早産児ビリルビン脳症(核黄疸)診療の手引き」を改訂することを目指す。

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
2024-04-04

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202211050B
報告書区分
総合
研究課題名
早産児ビリルビン脳症の診療指針の改訂および包括的診療体制の確立
課題番号
21FC1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 森岡 一朗(日本大学 医学部)
  • 荒井 洋(大道会森之宮病院 神経リハビリテーション研究部)
  • 早川 昌弘(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 丸尾 良浩(国立大学法人滋賀医科大学 医学部医学科 小児科学講座)
  • 日下 隆(香川大学 医学部)
  • 國方 徹也(埼玉医科大学 新生児科)
  • 岩谷 壮太(兵庫県立こども病院 新生児内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目標は、早産児ビリルビン脳症(BE)の実態・成人期にわたる長期予後・黄疸管理の実態を明らかにして現行の診療指針を改訂する基盤を作成するとともに、小児・成人を一体的に研究・診療できる体制を構築することである。この目標の達成を目指すため、1)早産児BEの実態調査、2)早産児BEの長期予後および成人例の実態の調査、3)早産児の黄疸に対する検査・治療の実態調査、4)早産児BEの認知度の調査、5)新規黄疸管理法の導入の影響の解明、6)新生児黄疸の遺伝学的背景の解明、7)ビリルビン測定法の検証、8)アセトアミノフェンがアンバウンドビリルビンに与える影響の検討、9)超早産児における高アンバウンドビリルビン血症の調査、を行った。
研究方法
1)第2回の早産児BEの全国調査を行い、30例の早産児BE症例の臨床情報を得た。
2)早産児BE患者94例の長期予後および成人の早産児BE48例の生命予後、合併症発現率およびその時期を調査した。CPQOL-teen自己回答版を用いて主観的QOLを調査した。
3)全国の周産期施設を対象に黄疸の検査・治療に対する実態調査を行った。
4)日本新生児成育医学会学術集会の公開教育セミナーにおいて早産児BEの認知度調査を行った。
5)日本大学医学部附属板橋病院および埼玉医科大学病院のにおいて新規黄疸管理法の影響を調査した。
6)重症遷延性黄疸についてUGT1A1遺伝子をダイレクトシークエンス法にて解析した。ヒト化UGT1Aマウスを作成し、研究モデルに適するか解析した。
7)青色LED光を照射し、DB値とビリルビン光異性体濃度の変化量を検討した。
8)アセトアミノフェン療法を施行した症例において薬物動態解析を行った。
9)兵庫県立こども病院で出生した超早産児について、診療録を用いて後方視的に検査データの解析を行った。
結果と考察
1)超早産および超低出生体重児が大半を占めること、および粗大運動の障害は重篤であるが、それに比べて手の運動障害や言語コミュニケーションの問題は相対的に軽症であることが特徴であった。半数の症例で光療法の最終施行日より後に総ビリルビン頂値が記録されていた。第1回調査と第2回調査での比較では、有意差を認めた項目はなかった。
2)過緊張に対して薬物療法、ボツリヌス治療、髄腔内バクロフェン注入療法等を要することが判明した。小児期~青年期の死亡率は14.5%、股関節亜脱臼の発症率は58.5%、脊柱側弯症の発症率は34.7%と推計された。早産児BE患者は参加、コミュニケーション、健康、機能に対する満足度が有意に低かった。
3)黄疸の管理・治療について施設間のばらつきが大きいことが明らかになった。大半の施設が青色LEDのhighモードを使用していた。アンバウンドビリルビン測定を採用している施設はわずかに増加した。光療法の基準では「神戸大学の新基準」を採用する施設が増加した。が25施設から36施設に増加した。
4)早産児BEの認知度は十分でなく、医師・看護師への啓発活動の継続が必要と考えられた。
5)日本大学医学部附属板橋病院では98%に光療法が施行され、生後2週以降はほとんどの症例がUBのみで治療基準を満たしていた。埼玉医科大学病院の調査では、光療法の開始基準として総ビリルビンによる適応が増加し、アンバウンドビリルビンによる適応が減少した。
6)UGT1A1遺伝子の解析では3つの新規変異アレルを発見した。肝臓選択的にUGT1A1を発現させたマウスを作成し、BEモデルとして応用の可能性があることを確認した。
7)ビリルビン光立体異性体濃度が直接ビリルビン値として測定され、抱合型ビリルビン濃度と乖離していることが明らかになった。白色LED光源による通常光環境下で1時間あたり1.3mg/dLのビリルビン光構造異性体が検体中に蓄積することが明らかとなった。
8)アセトアミノフェン療法は最終投与から48時間経過するまでアンバウンドビリルビン値に影響を与えることが判明した。
9)76例のうち26例において、日齢28以降もアンバウンドビリルビンのみを適応として光療法が施行され、うち7例は日齢28以降にUB値として0.8 μg/dL以上を呈していた。
結論
これらの知見を広く公表することにより早産児BEに対する認知度を向上させるとともに、研究の成果に基づき現行の「早産児ビリルビン脳症(核黄疸)診療の手引き」を改訂することを目指す。

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202211050C

収支報告書

文献番号
202211050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,818,000円
差引額 [(1)-(2)]
82,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,332,559円
人件費・謝金 0円
旅費 657,698円
その他 928,283円
間接経費 900,000円
合計 3,818,540円

備考

備考
1000円未満の支出については調整を行い減額したため、収入の「(2)補助金確定額」と支出の「合計」に差異が生じた

公開日・更新日

公開日
2023-12-11
更新日
-