ナノバブルと超音波を用いた高周波超音波三次元画像診断・分子導入システムの開発

文献情報

文献番号
200912010A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノバブルと超音波を用いた高周波超音波三次元画像診断・分子導入システムの開発
課題番号
H19-ナノ・一般-010
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小玉 哲也(東北大学 大学院医工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小野栄夫(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 森士朗(東北大学病院)
  • 志賀清人(東北大学病院)
  • 藤川重雄(北海道大学 大学院工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
31,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの進展と腫瘍新生血管の体積変化との関連性, および衝撃波の脂質二重膜通過にともなう膜の構造変形を調べることを目的とする. 本年度は(1)ナノバブルと高周波超音波でリンパ節内の血管構造と血管密度を経時的に調べる. (2) 頭頸部リンパ節転移の画像診断に関する臨床試験を実施し, 血管内の流れと血管構造の変化を明らかにする. (3) シスプラチンの固形腫瘍内投与にともなう血管像の変化を三次元血管抽出法で評価する. (4)治療性遺伝子を組込んだ長期発現性プラスミドDNAを開発する. (5) 衝撃波の作用にともなう脂質二重膜の構造変化を分子動力学法で調べる.
研究方法
(1)リンパ節転移モデルを使用し, 腋窩リンパ節内を流れるナノバブル (直径200nm) を高周波超音波(80MHz)で三次元的に抽出し, この血管体積を調べる. 超音波画像の病理的評価はCD31,CD34, HE, Luc染色で評価する. (2) 臨床試験での頭頸部腫瘍の血管造影では、市販の超音波造影剤ソナゾイドと超音波診断装置(12MHz)を使用して血管像を解析する. (3) マウス固形腫瘍を作製し, ナノバブルと高周波超音波を用いて, シスプラチン腫瘍内投与後の血管抽出像をコントロール群と比較する. (4)治療性遺伝子として腫瘍壊死因子TNF-ALPHAを組込んだ長期発現ベクターを開発する.(5)水分子で囲まれた脂質二重層膜に衝撃波を作用させたモデルを分子動力学法で解析する.
結果と考察
(1)転移診断の判定に血管体積の指標が有効であることを示された.(2)マウス転移血管像で得られた知見は, 今後の臨床試験の画像解析に応用可能であることが示された.(3)腫瘍内部と周辺部ではシスプラチンによる血管縮退効果に差があることが, 三次元血管構築法で明らかにされた. この結果は病理解析と一致した.(4) TNF-ALPHAを組込んだ長期発現性プラスミドDNAを開発した.(5)衝撃波による膜構造の変化で水孔が自発的に形成され, その水孔の形成率とサイズは導入する水分子の数の増加とともに増加することが示された.
結論
マウスリンパ節転移モデルから, ナノバブルと高周波超音波を使用して得られた腫瘍新生血管の三次元的体積変化が, がんの早期診断の重要な因子になることが示めされた. 臨床試験結果においてもこの因子の重要性が示唆された. 衝撃波を分子動力学法で計算し, 衝撃波通過後に, ナノ秒の時間スケールで膜を貫く水孔が自発的に形成されることが明らかになった.

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912010B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノバブルと超音波を用いた高周波超音波三次元画像診断・分子導入システムの開発
課題番号
H19-ナノ・一般-010
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小玉 哲也(東北大学 大学院医工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 栄夫(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 志賀 清人(東北大学病院)
  • 森 士朗(東北大学病院)
  • 福本 学(東北大学 加齢医学研究所)
  • 藤川 重雄(北海道大学 大学院工学研究科)
  • 松村 保広(国立がんセンター東病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では, 超音波造影性薬剤封入型ナノバブルと超音波を用いて, がんの微小血管に特徴的な血管周囲へのバブルの溢出・貯留効果をバブルの軌跡として捉えて三次元画像を構築し, その構築画像の特徴からがんの診断をおこない, 同時に輝度の集積部への超音波照射によりバブルを破裂させ, 封入された抗腫瘍分子をがん組織に導入可能な高周波超音波三次元画像診断・分子導入システムを開発することを目的にする.
研究方法
【基礎研究】
(1)ガスと液体が封入された音響性ナノバブルを作製し, 形態および音響特性を調べる.
(2) 分子動力学シミュレーションで衝撃波が作用した場合の脂質二重膜の構造変化を調べる.
【前臨床試験】
(1)肝転移およびリンパ節転移モデルを作製する.
(2)肝臓および腋窩リンパ節内を流れるナノバブルの軌跡から, 血管構造を抽出する.
(3)腫瘍組織内に外来分子の導入が可能な間歇型超音波照射法を開発する.
【臨床試験】臨床超音波診断装置と市販の超音波造影剤で, 頭頸部癌の不顕性リンパ節転移の検出をおこなう.
結果と考察
【基礎研究】
(1)ガスと液体が同時に封入可能な音響性リポゾーム(<200nm)を開発した. 共振周波数は約1.2 MHz であった.
(2)衝撃波干渉後3nm秒内に, 膜疎水領域に水分子が導入されて, 水孔が形成されることが示された.
【前臨床試験】
(1)肝転移モデル, 転移リンパ節モデルを使用して, 転移診断には血管構築法が有効であることが示された.
(2)バブル輝度で超音波の照射が可能な間歇型超音波照射法を開発した.
【臨床試験】超音波造影剤であるソナゾイドを使用し, 頭頸部癌の不顕性リンパ節転移検出をおこなった. 前臨床試験結果と比較し, 臨床応用に必要な問題点を検討した.
結論
(1)マウス転移モデル実験から, 関心部位の血管構造を評価することで転移の有無を判断できることが示唆された.
(2)本血管構築法は, 抗腫瘍分子投与で得られる血管縮退を定量することが可能であり, 抗腫瘍効果の判定法に有効である.
(3)衝撃波通過後に, 脂質膜に水孔が自発的に形成されることが分子動力学法で示された.
(4)臨床試験を実施し頭頸部腫瘍の転移の進展と血管構造の変化を調べた. 頭頸部腫瘍の血管造影画像の所見は, マウス転移モデルで観察された画像と類似していた.マウス転移腫瘍モデルの血管構築画像で得られた手法や知見は臨床試験の画像解析に十分に応用可能であることが示された.

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では,超音波造影性薬剤封入型ナノバブルと超音波を用いて,微小血管の三次元構築画像からがん診断をおこない,また超音波照射でバブルを破裂させて封入された抗腫瘍分子をがん組織に導入することができる,超音波三次元画像診断・分子導入システムの開発をおこなった.本成果により,新しい薬剤キャリアと, CT,MRI,PETの精度を超える新しいがん微小診断法を提案することができた.
臨床的観点からの成果
本微小がん診断法システムでは,X線CTやMRIあるいはPETで診断が困難な直径1cm以下の微小転移を精確に診断できること,解剖学的に複雑な形態で,多様な組織が混在する部位, および狭小な手術野での腫瘍の転移や浸潤範囲を精確にリアルタイムで診断でき,術中迅速診断にも応用可能であること, および診断装置が小型で,価格,維持管理費が安く,小規模の診療施設や手術室でも設置可能であると考えられる.
ガイドライン等の開発
本研究期間の最終年度には,がん微小診断法システムに関して, 頭頸部腫瘍, 血管腫, 乳癌の診断に関して複数の医療施設に臨床試験の申請をおこない,倫理委員会の承認を得て,臨床試験を実施した.その結果、解剖学的に複雑な形態で,多様な組織が混在する部位における,超音波造影剤を用いた画像診断システムにおける様々な問題点を抽出することができ,その一方で,これまでの画像診断システムでは検出が困難であった病巣を新しい超音波画像診断システムを用いることにより,検出可能になることが明らかとなった.
その他行政的観点からの成果
超音波画像診断装置は比較的小型,安価で,小規模の診療施設や手術室でも設置可能である.またCT,MRI,PETなどの大型画像診断機器を有する中核病院への通院が困難な患者の利便性の向上や術中診断への応用,大型画像診断装置の設置・維持管理費にともなう医療費の増大の問題等を解決する上で有望な診断機器として考えられる.しかし従来の超音波診断装置は,解剖学的に複雑な形態で,多彩な組織が混在する部位での診断精度は,現在のCT,MRIには匹敵できず,本申請書で提案する新しい概念の診断システムの開発が望まれる.
その他のインパクト
本研究課題の研究期間中に様々な学会や研究会で研究成果を公表してきたが,様々な研究施設や企業からの研究成果に関する問い合わせがあった.特に国内の某大手企業からは,本研究課題で提唱した超音波画像診断装置の実用化に向けた共同研究および製品開発の申し出があり現在,我々の研究機関と上記企業との間で新しい超音波診断装置と超音波造影剤の共同研究および製品開発に関する契約を交わし現在,上記企業との緊密な共同研究体制を構築し、本研究課題の研究成果に基づいた超音波画像診断システムの開発を遂行している.

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
68件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
59件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
S. Mori, M. Fukumoto, T. Kodama. et al.
Periodontal Gene Transfer by Ultrasound and Nano-/Microbubbles.
J Dent Res , 88 (11) , 1008-1013  (2009)
原著論文2
S. Fujikawa,T. Kanagawa, M. Watanabe,et al.
Acoustic Characteristics of Ultrasound in Water Containing Lipid Microbubbles
Proc. of 7th World Conf. on Exp. Heat Transf., Fluid Dynamics and Thermodynamics (Poland) , 223-228  (2009)
原著論文3
藤川重雄,金川哲也,矢野 猛,他
気泡流中の弱非線形波動
京都大学数理解析研究所考究録 , 1-7  (2009)
原著論文4
S. Fujikawa,T. Kanagawa,T. Yano,et al.
Weakly Nonlinear Analysis of Dispersive Waves in Mixtures of Liquid and Gas Bubbles Based on a Two-Fluid Model
Proc. of 7th Int. Symp. on Cavitation (USA) , 1-10  (2009)
原著論文5
MoriS,Fukumoto,M,Kodama T, et al.
Morphological study on acoustic liposome using transmission electron microscopy
Journal of Electron Microscopy , 59 (3) , 187-196  (2010)
原著論文6
Fujikawa S,Kodama T,Tomita Y,et al.
Cavitation bubbles mediated molecular delivery during sonoporation
Journal of Biomechanical Science and Engineering , 4 , 124-140  (2009)
原著論文7
Kodama T,Suzuki R, Oda Y,et al.
A novel strategy utilizing ultrasound for antigen delivery in dendritic cell-based cancer immunotherapy
Journal of Controlled Release , 133 , 198-205  (2009)
原著論文8
Watanabe Y, Sachiko Horie,Kodama T,et al.
Delivery of Na/I symporter gene into skeletal muscle by using nanobubbles and ultrasound: Visualization of gene expression by positron emission tomography
Journal of Nuclear Medicine , 51 , 951-958  (2010)
原著論文9
Fujikawa S,Koshiyama K, Kodama T,et al.
Molecular dynamics simulation of structural changes of lipid bilayers induced by shock waves: effects of incident angles.
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes. , 1778 (6) , 1423-1425  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-