カルシウム恒常性破綻のナノイメージングに関する研究

文献情報

文献番号
200912004A
報告書区分
総括
研究課題名
カルシウム恒常性破綻のナノイメージングに関する研究
課題番号
H19-ナノ・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
尾藤 晴彦(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北 潔(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 奥野 浩行(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
27,305,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カルシウム(Ca2+)恒常性と細胞内Ca2+動態の破綻は、生活習慣病・脳高次機能障害や骨粗鬆症など多くの病態において示唆される。本研究では、Ca2+恒常性破綻のナノイメージングを可能にする融合的学際的研究を実施し、疾病時に起こると考えられるCa2+シグナリングの様々なレベルでの破綻を疾患動物モデルにおいて計測する基盤技術を開発し、新たな光工学的技術開発に向けた産学連携の基礎を築く。
研究方法
先年度に引き続き、新規カルシウムセンサープローブや認知活動依存的プローブの作出と個体動物への導入、新規オルガネラ局在化シグナルの同定、ならびに新規MRIプローブ技術の開発に取り組んだ。特に、昨年同定した認知活動依存性エレメントSAREの配列基づくCa2+応答性リポーターなどを強化、実用化し、さらにこのプローブを生きた成体で発現する実験系を構築した。Ca2+感受性リポーターの個体での可視化を視野に、新規原理に基づく機能性MRI造影の手法をβ-galactosidase等について実践を試みた。
結果と考察
長波長シフトの新規蛍光Ca2+センサー分子を2種類作出し、このセンサー遺伝子のデリバリー技術を完成させた。また、種々の細胞内オルガネラ局在化の試みを続けた。さらに、新たなCa2+感受性遺伝子リポーターの原理を確立し、動物個体におけるカルシウムシグナリング計測のための低侵襲なイメージング法の基礎を樹立した。また、カルシウムナノイメージングのための光学検出系のプロトタイプを開発完了した。常磁性相互作用を利用することにより、リポーター遺伝子産物であるβ-ガラクトシダーゼおよびβ-ラクタマーゼの活性を検出するプローブGd-DFP-galおよびGd-FC-lacの開発に成功した。これらのプローブを用いることで細胞レベルにおいて遺伝子発現を19F MRIによって可視化することに成功した。
結論
本研究は計画通り順調に進行し、開発した種々のカルシウムセンサープローブやイメージング技術は、今後多くの病態時のCa2+ナノドメイン破綻の測定に有用となると期待される。得られた新規可視化技術に関する仕様はオリンパス社等国内光学機器メーカーに開示し、個体動物でCa2+ 動態を簡便に可視化・定量できる光学技術開発の可能性を具体化しつつある。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912004B
報告書区分
総合
研究課題名
カルシウム恒常性破綻のナノイメージングに関する研究
課題番号
H19-ナノ・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
尾藤 晴彦(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北 潔(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 奥野 浩行(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カルシウム(Ca2+)恒常性と細胞内Ca2+動態の破綻は、生活習慣病・脳高次機能障害や骨粗鬆症など多くの病態において示唆される。本研究では、Ca2+恒常性破綻のナノイメージングを可能にする融合的学際的研究を実施し、疾病時に起こると考えられるCa2+シグナリングの様々なレベルでの破綻を疾患動物モデルにおいて計測する基盤技術を開発し、新たな光工学的技術開発に向けた産学連携の基礎を築く。
研究方法
トロポニン等のCa2+感受性領域を参考にした新規の赤色シフトFRET Ca2+センサーを開発し、これを個体脳へ導入する遺伝子デリバリー法(子宮内電気穿孔法、レンチウィルスベクター、AAVベクター)を開発する。これをベースにin vitroならびにin vivoの光学測定法を実施し、光学メーカーらとともに開発する。またCa2+感受性転写調節エレメントを利用した、新規カルシウム応答性遺伝子発現レポーターの開発を実施し個体レベルの応用も試みる。Ca2+感受性リポーターの個体での可視化を視野に、新規MRIプローブ原理に基づく機能性MRI造影の手法をbeta-galactosidase等について実践を試みる。
結果と考察
新たな原理に基づき、Ca2+センサーの赤色化・局在化・選択的デリバリーに関する基礎検討を実施し、動物個体におけるカルシウム計測のための基盤技術を確立した。さらにFRETに基づくCa2+センサーを効果的にhigh throughputで可視化する技術を開発した。脳神経系で極めて強い活性を有するCa2+上昇感受性転写エレメントを発見したことを活用して、これを徹底的に強化するとともに、ルシフェラーゼ発光イメージングにより脳表近くの大脳皮質において、感覚入力特異的に生じる神経活動上昇をin vivoにて可視化することに成功した。また、生体深部の酵素活性を可視化するために新規 MRI造影プローブ開発を推進し、脳実質におけるシグナル検出の条件整備を推進した。
結論
本研究は計画通り順調に進行し、開発した種々のカルシウムセンサープローブやイメージング技術は、今後多くの病態時のCa2+ナノドメイン破綻の測定に有用となると期待される。得られた新規可視化技術に関する仕様は国内光学機器メーカーに開示し、個体動物でCa2+ 動態を簡便に可視化・定量できる光学技術開発の可能性を具体化しつつある。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 神経細胞ネットワークの形成を制御する新たなカルシウムシグナル経路・ナノドメインを同定し、その分子実態のイメージングに成功した。この成果の一端は、神経科学のトップジャーナルNeuron誌に掲載され、Science誌の注目論文の筆頭にも取り上げられ、国内外で大きな反響があった。またその続報については、J. Neurosci. 誌上Journal Club欄において紹介されるほどインパクトがあった。さらに、認知・高次脳機能発現に関与している細胞群のイメージングを可能にする新たな技術基盤を開発した。
臨床的観点からの成果
 認知症等の診断・病態解明のためには、認知活動を実際に強く担っている神経細胞群を病態モデル動物で同定することが必要となるが、そのような技術はこれまで存在しなかった。本研究を通じて、世界で初めて、この活性化された細胞群を可視化する分子遺伝学的手法が確立され、世界的に注目されている。
ガイドライン等の開発
特記事項がなし。
その他行政的観点からの成果
特記事項がなし。
その他のインパクト
本研究成果については、大学の公開受講科目等において紹介した。また日米先端科学シンポジウムの神経科学・医学セッションにて、世界へ発信する機会を得た。臓器内Ca2+シグナルのMRI計測の基本に関わる特許については、研究分担者の菊地らが取得済みである。菊地は、これらの成果に対して第22回日本IBM科学賞、2008年度 英国王立化学協会奨励賞、平成21年度日本学術振興会賞を受賞した。また研究分担者の奥野は、この成果に対して、平成21年度日本神経科学学会奨励賞を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
51件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
55件
学会発表(国際学会等)
45件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takemoto-Kimura S. et al.
Regulation of dendritogenesis via a lipid-raft-associated Ca2+/calmodulin- dependent protein kinase CLICK-III/CaMKl gamma.
Neuron , 54 , 755-770  (2007)
原著論文2
Fuse T. et al.
DCLK1
UCSD/Nature Molecule Pages  (2007)
原著論文3
Kawashima T. et al.
A synaptic activity-responsive element in the Arc/Arg3.1 promoter essential for synapse-to-nucleus signaling in activated neurons.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 106 , 316-321  (2009)
原著論文4
Ageta-Ishihara et al.
Control of cortical axon elongation by a GABA-driven Ca2+/calmodulin- dependent protein kinase cascade.
J. Neurosci. , 29 , 13720-13729  (2009)
原著論文5
Redondo R. et al.
Synaptic tagging and capture: differential role of distinct calciumcalmodulin kinases in protein synthesis-dependent long-term potentiation.
J. Neurosci. , 30 , 4981-4989  (2010)
原著論文6
Inoue M. et al.
Synaptic Activity Responsive Element (SARE): a unique genomic structure with an unusual sensitivity to neuronal activity.
Commun. Integr. Biol.  (2010)
原著論文7
Takemoto-Kimura S. et al.
Differential roles for CaM kinases in mediating excitation- morphogenesis coupling during formation and maturation of neuronal circuits.
Eur. J. Neurosci.  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-