細胞移植医療における細胞のin vivoイメージングへ向けた新規細胞ラベル化用MRI造影剤の開発

文献情報

文献番号
200912003A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞移植医療における細胞のin vivoイメージングへ向けた新規細胞ラベル化用MRI造影剤の開発
課題番号
H19-ナノ・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山岡 哲二(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 生体工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田 秀博(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 放射線医学部)
  • 中谷 武嗣(国立循環器病センター 臓器移植部)
  • 柿木 佐知朗(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 生体工学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
38,725,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの臨床研究が精力的に検討される細胞移植療法であるが、移植細胞の低い生着率が大きな問題となっているうえに、移植細胞の体内動態や機能維持を含めたその後の運命も明らかにされず、諸疾患治癒の作用機序も解明には至っていない。本年は、2年間で開発してきた、移植細胞を簡便かつ低毒性であらゆる細胞を標識することが可能なMRI細胞トラッキングシステムを利用して、近年注目されてきて細胞シート移植療法や、細胞注入療法の、治療効果と細胞分布・細胞移動現象との相関性の解明に焦点を当てて研究した。
研究方法
近年注目されている細胞シート移植療法への応用の可能性を検討するために、Gd標識した数層の細胞シートを心臓へと適応した様子をモデル化した様々な条件下で3T臨床用MRIにて撮像した。また、下肢虚血モデル動物へ移植した、脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSC)、あるいは、血管内皮前駆細胞(EPC)を移植し、レーザードップラーにて定量化した血流改善の様子と、移植細胞の分布との相関性を確認した。さらに、移植細胞が死滅した際のGd造影剤の消失(尿中排泄)を定量化することにより、本造影剤が精細胞のみを追跡できることの証明を図った。
結果と考察
当初、細胞シートの撮像感度は極めて低く、第一に、エレクトロポレーションからソノポレーションに変更することで標識効率を10倍近く向上させることが出来た。その結果、ブタ用コイルを用いてD-FSPGRシーケンスを用いることで、8層細胞シートの撮像が可能となった。次に標識したEPCを下肢虚血ラットモデルにて追跡した。健常なラットと比べて、下肢虚血ラットにおいてのみ活発なEPCsの遊走と増殖が監査された。また、正常ラットに於いては細胞が比較的早期に死滅する様子が示唆された。
結論
生細胞のみをトラッキングできる本システムは、これまでには全くない知見を我々にもたらすことが期待される。本研究期間中に於いても、下肢虚血モデルに対するMSCとEPCとの分布の違いが始めて明らかとなった。さらに、正常ラットと虚血ラットに於いて移植細胞の生存期間の違いも示唆されている。今後、さらに多くのモデル動物への適応により、細胞移植療法の詳細なメカニズム解明が可能にると期待される。

 

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912003B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞移植医療における細胞のin vivoイメージングへ向けた新規細胞ラベル化用MRI造影剤の開発
課題番号
H19-ナノ・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山岡 哲二(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 生体工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田 秀博(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 放射線医学部)
  • 中谷 武嗣(国立循環器病センター 臓器移植部)
  • 藤里 俊哉(大阪工業大学工学部)
  • 橘 洋一(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 生体工学部 )
  • 柿木 佐知朗(国立循環器病センター研究所先進医工学センター 生体工学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの臨床研究が精力的に検討される細胞移植療法であるが、移植細胞の低い生着率が大きな問題となっているうえに、移植細胞の体内動態や機能維持を含めたその後の運命も明らかにされず、諸疾患治癒の作用機序も解明には至っていない。本研究では、細胞移植療法の臨床化のためのEBM構築を目指して、移植細胞を簡便かつ低毒性であらゆる細胞を標識することが可能で、移植細胞の生体内運命を低浸襲的かつin vivo にて長期間細胞追跡できるMRI細胞トラッキングシステムの構築を目的とした。
研究方法
ガドリニウム分子を細胞質内に長期間に安全に滞留させるためには、細胞および組織との相互作用が極めて小さい水溶性高分子キャリアーを選択し、高分子化Gdキレート造影剤を合成した。この高分子化により、細胞滞留性は向上する反面、細胞内へ送達することも容易ではない。そこで、エレクトロポレーション法により、細胞内に高分子化造影剤を送達した。ラットやブタの下肢虚血や心筋梗塞を標的モデル疾患とし、同種の骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、ブタ羊膜由来間葉系幹細胞、ラット血管内皮前駆細胞を含む骨髄由来CD34陽性細胞の移植とそのin vivo 3Dトラッキングを実施した。
結果と考察
従来にない優れた性質を有する細胞移植用MRI造影剤を開発するに至った。水溶性造影剤は、細胞内に数ヶ月のオーダーで安定に存在し、細胞増殖や細胞分化には影響を与えない極めてバイオイナートな物性を有することが明らかとなった。下肢虚血に著講を示したEPC細胞移植では虚血部位への細胞の遊走が認められ、また、移植細胞の分布パターンと血流改善効果に一定の相関性も認められ、細胞追跡システムの有用性が見出された。
結論
本システムは、従来型SPIOと大きく異なり、生細胞のみを追跡できる優れたものであった。移植細胞のトラッキングにより、細胞の生存期間や虚血部位への遊送などこれまで知られていなかった定量的情報をも解明することに成功した。細胞移植における経過プロセスを明らかにすることは、今後、病態に合わせたテーラーメイド治療法の構築をも可能にする。同様の手法により筋芽細胞シートの撮像も可能になってきたことより、今後、臨床研究されている細胞移植療法の標準的システムになるよう検討を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
開発した水溶性高分子化造影剤は、従来から細胞トラッキングに用いられている磁性粒子の最大の問題点であった細胞内での安定性と遊離分子が与えるアーティファクト等を解決する有用なツールであることが示された。様々な幹細胞に対する適応と標識細胞のモデル動物への移植実験の結果、両者の補完的なバイモーダル解析により移植された幹細胞の動態と機能が追跡可能になることが示された。
臨床的観点からの成果
近年、数多くの細胞注入療法、あるいは、細胞シート移植療法が注目されている。しかしながら、症例に大きく作用される効果の有無の原因の追跡は困難であり、さらに、治療スケジュールの変更や最適化の戦略さえも立てられない現状である。開発した造影剤は、一般的な全身イメージングに使用される量に比較して遙かに少量であることから、今後さらなるデータを得て使用が可能になれば、大いなる力を発揮するツールとなる。
ガイドライン等の開発
直接的にはガイドラインへの影響には至っていない。しかしながら、動物実験レベルに於いては、移植後の肉腫形成を非侵襲的に確認できることが示された。細胞移植医療に於いて移植細胞の純度(単一性)の重要性は広く認識されているところであるが、それを完全にするのは容易ではない。すなわち、細胞移植後の細胞の挙動を詳細に追跡することで、その安全性を担保でき、新たなガイドラインの展開の指針となりうると考える。
その他行政的観点からの成果
自己細胞の優れた治癒効果を利用した再生医療は、近い将来の難治性疾患に対する中心的な治療法となることは疑う余地はない。しかしながら、これまでの医療機器や製剤とは異なり、そのレギュレーションの策定においては多くの未知のファクターが存在する。薬効の解明されていない物質のように、移植された細胞の生体内での挙動や効果が解明されなければ、真の医療とはなり得ない。本システムはこれを解明できる一手段として有用である。
その他のインパクト
新たな高分子化ガドリニウム造影剤の開発に成功し国内特許およびPCT出願を完了した。移植したラベル化間葉系幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞がMRIにより追跡可能であることを実証した成果は2007年度高分子学会のプレス発表研究に選定され、日経産業新聞(2007.9.20)に掲載され、また、2008年度分子イメージング学会優秀ポスター賞にも選賞された

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
47件
その他論文(和文)
35件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
112件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tachibana Y, Enmi J, Mahara A et al
Design and characterization of a polymeric MRI contrast agent based on PVA for in vivo living-cell tracking
Contrast Media and Molecular Imaging in press  (2010)
原著論文2
Koshino K, Watabe H, Hasegawa J et al.
Development of motion correction technique for cardiac 15O-water PET study using an optical motion tracking system
Ann Nucl Med , 24 , 1-11  (2010)
原著論文3
Yamamoto A, Sato H, Enmi J et al.
Use of clinical MRI scanner for pre-clinical research on rats
Radiological Physics and Technology , 2 , 13-21  (2009)
原著論文4
Kudomi N, Hayashi T, Watabe H
A physiological model for recirculation water correction in CMRO2 assessment with 15O2 inhalation PET
J Cereb Blood Flow Metab , 29 , 355-364  (2009)
原著論文5
77) Iwanishi K, Watabe H, Hayashi T et al.
Influence of residual oxygen-15-labeled carbon monoxide radioactivity on cerebral blood flow and oxygen extraction fraction in a dual-tracer autoradiographic method
Ann Nucl Med , 23 , 363-371  (2009)
原著論文6
78) Ikoma Y, Watabe H, Hayashi T et al
Quantitative evaluation of changes in binding potential with a simplified reference tissue model and multiple injections of [11C]raclopride
Neuroimage , 47 , 1639-1648  (2009)
原著論文7
Iida H, Eberl S, Kim KM et al
Absolute quantitation of myocardial blood flow with 201Tl and dynamic SPECT in canine: optimisation and validation of kinetic modelling
Eur J Nucl Med Mol Imaging , 35 , 896-905  (2008)
原著論文8
Eur J Nucl Med Mol Imaging
Comparison of Gd-DTPA-induced signal enhancements in rat brain C6 glioma among different pulse sequences in 3-Tesla magnetic resonance imaging
Acta Radiol , 49 , 172-179  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
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