文献情報
文献番号
202209045A
報告書区分
総括
研究課題名
リアルワールド電子カルテ情報を用いた循環器病の再発・重症化・合併症のリスク因子の分析と介入の費用対効果
課題番号
22FA1016
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 苅尾 七臣(自治医科大学循環器内科)
- 甲谷 友幸(自治医科大学 循環器内科)
- 今井 靖(東京大学 医学部)
- 興梠 貴英(自治医科大学 医療情報部)
- 笹渕 裕介(自治医科大学データサイエンスセンター)
- 藤田 英雄(自治医科大学 附属さいたま医療センター)
- 中山 雅晴(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
- 都島 健介(東京大学医学部附属病院 循環器内科)
- 水野 由子(東京大学 循環器内科)
- 宮本 恵宏(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
- 的場 哲哉(九州大学病院 循環器内科)
- 辻田 賢一(熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々は、異なる施設の異なる電子カルテデータを、SS-MIX2により標準化共通形式に書き出すシステムを開発してきた(CLIDAS)。本研究では、まずCLIDASデータのクレンジングを行い、再発、重症化、脳と心臓の合併症の発生率と危険因子の要因分析を行い、さらに独立して県単位で収集したレセプトデータを解析することにより、循環器病の治療法に関する費用効果分析を実施することを目的とした。
研究方法
これまで構築してきたCLIDASデータベースを用いて、参加各施設において、臨床疫学的手法を用いて下記の検討を行った。
1. 脈圧や脈圧の変化が大きい冠動脈疾患患者の予後
2. PCI施行患者における心不全発症率の調査
3. PCI治療を受けた冠動脈疾患患者の予後と脂質低下療法の有用性の検討
4. CADを合併したAS患者の予後の調査
5. PCI後の出血合併症や心不全、血圧の管理と長期予後の関係
6. 高尿酸血症と心血管疾患との関連の調査
7. 虚血性心疾患患者の退院時の心拍数やβ遮断薬の処方量と予後の関連の調査
8. 強化脂質低下療法の費用対効果分析
9. CLIDASデータ収集基盤構築研究
1. 脈圧や脈圧の変化が大きい冠動脈疾患患者の予後
2. PCI施行患者における心不全発症率の調査
3. PCI治療を受けた冠動脈疾患患者の予後と脂質低下療法の有用性の検討
4. CADを合併したAS患者の予後の調査
5. PCI後の出血合併症や心不全、血圧の管理と長期予後の関係
6. 高尿酸血症と心血管疾患との関連の調査
7. 虚血性心疾患患者の退院時の心拍数やβ遮断薬の処方量と予後の関連の調査
8. 強化脂質低下療法の費用対効果分析
9. CLIDASデータ収集基盤構築研究
結果と考察
1.について、解析の結果、脈圧が高い群は高齢、女性の占める割合が高いなどの特徴があった。また、心拍数は少なく左室駆出率も保持されていた。脈圧と3PMACE・心不全入院イベント率にはU字状の関係を認めた。多変量解析では脈圧低値とイベントに有意な関連を認めた。入院時と退院時の脈圧が上下する群は予後不良と関連した。
2.については、虚血発症様式によらずPCI後の患者は5-6%の頻度で心不全を発症し、生命予後悪化に寄与していたため、虚血性心疾患再発予防と同時に心不全発症予防を念頭に置くことは医療費抑制に重要であると考えられる。
3.については、ACS 4135症例、CCS 5555症例の予後を検討したところ、心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントは、ACS患者で7.1% /2年、CCS患者で3.9% /2年であり、有意な差を認めた。心筋梗塞の発生は有意にACS患者で高かった。さらに処方データを分析したところ、高強度スタチンの使用率はPCI実施年が進むと共に高くなり、2018年においてACS患者では65%の患者で高強度スタチンが処方された一方、CCS患者では40%に止まった等のことが明らかとなった。
4.については、PCIを施行された9936例中315例(がPCI前にASを指摘されていた。AS群は非AS群に比べ、全死亡、MACEで予後不良であった。ASの重症度別では全死亡、MACEのいずれにおいても有意差を認めず、ASは重症度に関わらず予後不良因子であることが示された。
5.について、さらなるリスク層別化のためにBNP値が出血イベントと関連することを見出し、また、その後の心血管イベントや全死亡に関連することを明らかにした。さらに、退院時の収縮期血圧の20mmHg以上の上昇が出血リスクと関連していたことが明らかとなった。
6.については高尿酸血症群は非高尿酸血症群に比べ、高血圧、心房細動、心不全による入院歴、ベースラインのクレアチニンの有病率が高く、糖尿病の有病率が低かったが、男性の割合や年齢は両群間で同様であった。高尿酸血症群のMACE発生率は、非高尿酸血症群に比べ有意に高かった。多変量Cox回帰分析により、年齢、性別、肥満度、推定糸球体濾過量、左主疾患および/または三重血管疾患、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞歴、心不全による入院歴で多重調整後、高尿酸血症とMACE増加との有意な関連が認められる等のことが明らかとなった。
7.については虚血性心疾患患者の退院時の心拍数やβ遮断薬の処方量と予後の関連を調べた。退院時心拍数≥75/分は心血管イベント発症率増加に関連した。急性冠症候群では低用量のβ遮断薬はMACCE発症率増加に関連した。
8.については分析を行うために文献のレビューを行い、REAL CAD試験の結果及び先行研究から一部の移行確率を決定した。
9.についてはデータ収集基盤をREDCapというEDCシステムに移行することにより従来の研究において、今後のデータをより正確に負担少なく入力できるようになるとともに、今後研究を拡大していくときに最初からREDCapを用いて行うことの有用性を示すことができた。
以上のように、CLIDASデータベースを解析することでPCI後患者の実態や予後にかかわる様々な要因を明らかにすることができた。
2.については、虚血発症様式によらずPCI後の患者は5-6%の頻度で心不全を発症し、生命予後悪化に寄与していたため、虚血性心疾患再発予防と同時に心不全発症予防を念頭に置くことは医療費抑制に重要であると考えられる。
3.については、ACS 4135症例、CCS 5555症例の予後を検討したところ、心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントは、ACS患者で7.1% /2年、CCS患者で3.9% /2年であり、有意な差を認めた。心筋梗塞の発生は有意にACS患者で高かった。さらに処方データを分析したところ、高強度スタチンの使用率はPCI実施年が進むと共に高くなり、2018年においてACS患者では65%の患者で高強度スタチンが処方された一方、CCS患者では40%に止まった等のことが明らかとなった。
4.については、PCIを施行された9936例中315例(がPCI前にASを指摘されていた。AS群は非AS群に比べ、全死亡、MACEで予後不良であった。ASの重症度別では全死亡、MACEのいずれにおいても有意差を認めず、ASは重症度に関わらず予後不良因子であることが示された。
5.について、さらなるリスク層別化のためにBNP値が出血イベントと関連することを見出し、また、その後の心血管イベントや全死亡に関連することを明らかにした。さらに、退院時の収縮期血圧の20mmHg以上の上昇が出血リスクと関連していたことが明らかとなった。
6.については高尿酸血症群は非高尿酸血症群に比べ、高血圧、心房細動、心不全による入院歴、ベースラインのクレアチニンの有病率が高く、糖尿病の有病率が低かったが、男性の割合や年齢は両群間で同様であった。高尿酸血症群のMACE発生率は、非高尿酸血症群に比べ有意に高かった。多変量Cox回帰分析により、年齢、性別、肥満度、推定糸球体濾過量、左主疾患および/または三重血管疾患、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞歴、心不全による入院歴で多重調整後、高尿酸血症とMACE増加との有意な関連が認められる等のことが明らかとなった。
7.については虚血性心疾患患者の退院時の心拍数やβ遮断薬の処方量と予後の関連を調べた。退院時心拍数≥75/分は心血管イベント発症率増加に関連した。急性冠症候群では低用量のβ遮断薬はMACCE発症率増加に関連した。
8.については分析を行うために文献のレビューを行い、REAL CAD試験の結果及び先行研究から一部の移行確率を決定した。
9.についてはデータ収集基盤をREDCapというEDCシステムに移行することにより従来の研究において、今後のデータをより正確に負担少なく入力できるようになるとともに、今後研究を拡大していくときに最初からREDCapを用いて行うことの有用性を示すことができた。
以上のように、CLIDASデータベースを解析することでPCI後患者の実態や予後にかかわる様々な要因を明らかにすることができた。
結論
今年度得られた成果で論文化できなかったものについては来年度さらに研究を進めて論文化を行っていく。さらに新しいテーマについても来年度CLIDASデータベースを解析することで新たな知見を得ていく予定である。
公開日・更新日
公開日
2023-07-11
更新日
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