臓器特異的ストレス応答探索マウスを用いた疾病予防法の開発

文献情報

文献番号
200911016A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器特異的ストレス応答探索マウスを用いた疾病予防法の開発
課題番号
H20-生物物資・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
佐野 元昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 成男(日本医科大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
7,964,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ALDH2*2マウスは日本人に多い遺伝子多型ALDH2*2の疾病との関連を明らかにするだけでなく、アルツハイマー病や心不全、糖尿病の病態発症に深く関与するミトコンドリア酸化ストレスに対する代謝応答を検討するのに有用な用途の広い疾患モデル動物である。ALDH2*2マウスを使ってALDH2*2を持つ人の健康維持に必要な注意点が導き出し、薬物のスクリーニングに使用することにより新規治療法、抗加齢療法を模索する。
研究方法
アルデヒド脱水素酵素ALDH2はミトコンドリアに局在する重要なアルデヒド解毒酵素である。野生型ALDH2 (ALDH2*1) に一塩基だけ置換した遺伝子多型ALDH2*2は不活性型で野生型ALDH2*1に対して優勢抑制的に働く。ALDH2*2は東北アジアに限局して観察される遺伝子多型で日本人の約40% がこの遺伝子変異をホモかヘテロで持つ。ALDH2*2の遺伝子多型を持つ人はアルコールフラッシング症候群(お酒弱い)を示すだけでなく、アルツハイマー病の罹患率や血中酸化脂質濃度が高くなる傾向が指摘されている。臓器特異的にALDH2*2 を過剰発現させたマウスを使ってALDH2*2の細胞内代謝に及ぼす影響、ALDH2*2と疾患との関連を解明する。
結果と考察
脳にALDH2*2 を発現させると神経細胞が変性脱落しアルツハイマー病類似の記銘力障害を呈し寿命が短縮した。心臓にALDH2*2 を発現させるとミトコンドリア酸化ストレスが高まっているにもかかわらず心機能は維持され、代謝応答を介して虚血・再灌流障害に対して抵抗力を示した(Endo J. & Sano M. 2009)。血管ではアセチルコリンによる内皮依存性血管拡張反応が傷害されていた。肝臓では薬物代謝が活性化し、アセトアミノフェン肝障害後の代謝応答(抱合反応)が迅速で修復機転が亢進していた。ALDH2*2マウスの解析からアルツハイマー病や心不全、糖尿病の病態発症に深く関与するミトコンドリア酸化ストレスに対する臓器特異的代謝応答が明らかにした。
結論
ALDH2*2を持つ人はアルデヒド代謝が低下しており過度な酸化ストレス障害に対する抵抗力は低下している。したがって、ALDH2の活性を高めるような治療介入はアルツハイマー病や虚血再灌流障害の軽減に有効と考えられる。一方で、生涯にわたる低用量のアルデヒド刺激は内因性ストレス応答機構を活性化させてALDH2*2に対して代償し時には酸化ストレスに対する抵抗力が野生型ALDH2*2を持つ人より増強されている可能性も示唆された。このメカニズムの解明は疾病予防やアンチエージング医療に応用可能と考える。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
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