Value-based medicineの推進に向けた循環器病の疾患管理システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
202209026A
報告書区分
総括
研究課題名
Value-based medicineの推進に向けた循環器病の疾患管理システムの構築に関する研究
課題番号
21FA1010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター・研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部 EBM・リスク情報室)
  • 竹上 未紗(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
  • 尾形 宗士郎(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
  • 野口 輝夫(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
  • 泉 知里(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 猪原 匡史(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院 脳神経内科)
  • 横田 千晶(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 内科脳血管部門)
  • 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
  • 宮井 一郎(社会医療法人大道会森之宮病院)
  • 鴨打 正浩(九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座)
  • 下川 能史(九州大学 脳神経外科)
  • 安斉 俊久(北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室)
  • 永井 利幸(北海道大学 大学院医学研究院)
  • 林 知里(兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 弓野 大(医療法人社団ゆみの)
  • 篠原 正和(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 杜 隆嗣(神戸大学 医学研究科 立証検査医学分野)
  • 山本 展誉(宮崎県立延岡病院 循環器内科)
  • 吉田 俊子(聖路加国際大学  大学院看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中および心不全患者の情報連携、リスク評価や多職種による多面的疾病管理の実態に関する施設調査を行い、一元的管理に向けた課題を明らかとする。
研究方法
大規模臨床データを用いて、機械学習による脳梗塞再発予測モデルを構築し、古典的リスクスコアによる予測精度を比較する。
予測モデルによる再発予測が可能となれば、急性期におけるリスク評価が可能となり、適切な疾患管理の提唱が可能となる。
結果と考察
(結果)
2010-19年度にJ-ASPECT Studyに登録され、5年以上フォローアップされた虚血性脳卒中患者を用いて抽出した。5年連続で調査協力が得られていた431施設において、検査などによる予定入院を除外した664,101患者(842,432入院)を解析対象とした。主病名及び医療資源最投入病名が脳梗塞で一致した症例に絞ってDPCによる脳卒中縦断的データベースを構築したところ、登録年度内における脳梗塞の再発総数は485,715患者であった。
主病名及び医療資源最投入病名が脳梗塞として登録されている567,941患者(612,544入院)存在し、1年以内の再発は3.4%であった。上記の脳梗塞症例の初回入院時のDPCデータを用いて、SPI-IIは87.8%、ESRSは77.6%が算出可能であった。DPCデータから収集した診療情報(患者背景、既往歴、入院中の治療、退院処方など)を105項目の説明変数として、1・3・5年以内の脳梗塞再発予測モデルをLight GBMを用いて構築し、Under sampling及びBaggingを用いて、Class imbalanceへの対応(再発症例が少ないため、再発しないことを予測することを防ぐ)した。Light GBMによる1/3/5年以内の再発予測モデルはAUCにてそれぞれ0.62、0.62、0.63であり、SPI-II(0.54/0.54/0.54)及びESRS(0.54/0.54/0.53)による古典的リスクスコアによる予測精度を上回った。DPCで取得可能な105項目のうち、SHAPを用いて予測モデルの構築上重要となった項目を絞り込み、年齢や性別、既往歴や退院時処方を含む16項目を用いても十分な予測精度が担保されていた(0.61/0.62/0.62)。
国循内の縦断的データベースは電子カルテから得られた情報ベースとして構築し、最終外来受診日が確認できている症例のみで検討を行うこととした。2013-21年に国立循環器病研究センター内の脳梗塞症例は4,906患者(9,826入院)を対象として、電子カルテに含まれる構造化データを統合した。最終的な解析対象となった脳梗塞の再発症例は1369患者となった。中長期での再発率を検討したところ、1年以内6.0%(82/1,368人)、3年以内18.7%(165/883人)、5年以内29.1%(124/426人)であった。
放射線レポートや退院サマリーに含まれるテキストデータは、人工知能の応用による自然言語処理を介して、脳梗塞の病型(TOAST分類)や閉塞ないし狭窄血管の部位などを抽出した。1年以内の再発を予測する精度は、DPC単独(0.60±0.07)に比べ、NIHSS 11項目の追加(0.65±0.06)、NIHSS及びNLP 70項目の追加(0.67±0.07)により向上した。SHAP Valueを用いてNLP 70項目を評価し、脳梗塞の病型、頭蓋内血管の狭窄、深部白質病変、陳旧性脳梗塞、自覚症状に関わる20項目に絞っても十分な予測精度を有していた(1/3/5年の再発:0.66/0.65/0.61)。
(考察)
縦断的データベースによる脳卒中再発予測から得られた知見として、年齢、性別、既往歴(高血圧、糖尿病、脂質異常症、腎疾患)、生活習慣(喫煙歴)、入院時の神経学的重症度(NIHSS)、脳梗塞の病型、画像所見(頭蓋内血管の狭窄、深部白質病変や陳旧性脳梗塞の存在)、リハビリテーション(理学・作業療法,嚥下)の実施や退院時の適切な二次予防の実施、入院日数、退院時のADLや退院先がリスク因子として関与していた。2年間の追跡期間を有するErlagen Stroke Registryを用いた機械学習による1年以内の脳梗塞再発予測モデルの結果(AUC 0.70)と比較しても、Claim databaseで収集した項目を説明変数とした本研究で構築したモデルの予測精度は遜色のない結果であった。
結論
DPCで得られた情報に、電子カルテや退院サマリや読影レポートの追加情報を加えることで精度向上が見られた。これらを組み合わせていくことでより高い精度の予後予測が得られる期待が高まった。

公開日・更新日

公開日
2023-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209026B
報告書区分
総合
研究課題名
Value-based medicineの推進に向けた循環器病の疾患管理システムの構築に関する研究
課題番号
21FA1010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター・研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部 EBM・リスク情報室)
  • 竹上 未紗(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
  • 尾形 宗士郎(国立循環器病研究センター)
  • 野口 輝夫(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
  • 泉 知里(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 猪原 匡史(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院 脳神経内科)
  • 横田 千晶(国立循環器病センター 内科脳血管部門)
  • 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
  • 宮井 一郎(社会医療法人大道会森之宮病院)
  • 鴨打 正浩(九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座)
  • 下川 能史(九州大学 脳神経外科)
  • 安斉 俊久(北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室)
  • 永井 利幸(北海道大学 大学院医学研究院)
  • 林 知里(兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)
  • 弓野 大(医療法人社団ゆみの)
  • 篠原 正和(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 杜 隆嗣(神戸大学 医学研究科 立証検査医学分野)
  • 山本 展誉(宮崎県立延岡病院 循環器内科)
  • 吉田 俊子(聖路加国際大学  大学院看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中及び心不全患者及び介助者を主体とした急性期から維持期医療を共通の基盤で一元的に管理できるデータベースの構築を介し、二次予防における患者のヘルスリテラシー、参画意識を向上させることを目的とした研究である。
研究方法
1. 多面的包括管理に関する施設調査
急性期病院及び回復期リハビリテーション病院を対象に多面的包括管理に関する施設調査を実施する
2. 大規模臨床データを用いて、機械学習による脳梗塞再発予測モデルを構築し、古典的リスクスコアによる予測精度を比較する。
3.患者QOLの測定、疾患管理における問題点や介護情報の担い手などを調査し、調査結果を踏まえたiPHRの開発を行う。
結果と考察
(結果)
脳卒中は414施設、心不全は431施設から回答を得た。地域連携パスは、脳卒中では65.9%の施設で使用されていたのに対して、心不全では14.4%の施設で使用されていた。急性期病院での連携の担い手は、脳卒中では多職種であったが、心不全では医師単独が最多であった。急性期病院での重症化、QOL低下に関するリスク評価の項目では、嚥下、認知機能の評価は脳卒中でより高率であったが、その他の項目では、脳卒中、心不全の間で大きな相違を認めなかった。ハイリスク群への取り組みとして、心不全でセルフケアマネジメント・ツールを活用した患者管理が79%の施設で実施されていたのに対して、脳卒中では少数であった。回復期リハでは、連携パスは、一方向型と循環型がほぼ同数の施設で活用されていた。急性期病院に比較して、ADLに関係したアウトカム評価がより一般的であった。
2010-19年度にJ-ASPECT Studyに登録され、5年連続で調査協力が得られていた431施設において、検査などによる予定入院を除外した664,101患者(842,432入院)を解析対象とした。主病名及び医療資源最投入病名が脳梗塞として登録されている567,941患者(612,544入院)存在し、1年以内の再発は3.4%であった。上記の脳梗塞症例の初回入院時のDPCデータを用いて、SPI-IIは87.8%、ESRSは77.6%が算出可能であった。DPCデータから収集した診療情報(患者背景、既往歴、入院中の治療、退院処方など)を105項目の説明変数として、1・3・5年以内の脳梗塞再発予測モデルをLight GBMを用いて構築し、Under sampling及びBaggingを用いて、Class imbalanceへの対応(再発症例が少ないため、再発しないことを予測することを防ぐ)した。Light GBMによる1/3/5年以内の再発予測モデルはAUCにてそれぞれ0.62、0.62、0.63であり、SPI-II(0.54/0.54/0.54)及びESRS(0.54/0.54/0.53)による古典的リスクスコアによる予測精度を上回った。DPCで取得可能な105項目のうち、SHAPを用いて予測モデルの構築上重要となった項目を絞り込み、年齢や性別、既往歴や退院時処方を含む16項目を用いても十分な予測精度が担保されていた(0.61/0.62/0.62)。

(考察)
 縦断的データベースによる脳卒中再発予測から得られた知見として、年齢、性別、既往歴(高血圧、糖尿病、脂質異常症、腎疾患)、生活習慣(喫煙歴)、入院時の神経学的重症度(NIHSS)、脳梗塞の病型、画像所見(頭蓋内血管の狭窄、深部白質病変や陳旧性脳梗塞の存在)、リハビリテーション(理学・作業療法,嚥下)の実施や退院時の適切な二次予防の実施、入院日数、退院時のADLや退院先がリスク因子として関与していた。
病院-病院間における初期予後評価や疾患管理情報の共有には、多疾患合併を踏まえ、詳細な情報共有が必要となる一方で、患者、患者家族及び介助者が情報の判断や変化をとらえることが難しく、適宜医療・介護者からの相談等に応えられるような支援体制を整え、双方向性の情報共有を可能とするシステムの構築が必要となる。クラウドサービスを介して、患者・家族及び医療機関、介護事業所、薬局間で、退院サマリーや循環器病再発予測などに関わる重要項目、介護情報等を共有できる基盤を構築するとともに、患者及び介助者には簡便な操作性を有する疾患管理システムを利用し、定期的にクラウドサービスと連携することが患者及び介助者のヘルスリテラシーの向上にもつながる。
結論
多職種の介入が可能で双方向性に情報共有が可能であるクラウドサービスによるPHRを構築し、クラウドサービスと連携をした簡便な疾患管理システムの使用により、持続可能な包括管理が可能となる。

公開日・更新日

公開日
2023-07-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脳梗塞症例のDPCデータを集積し、収集した105項目を説明変数として脳梗塞再発予測モデルを構築した。Light GBMによる1/3/5年以内の再発予測モデルの予測精度はそれぞれ0.62/0.62/0.63であり、古典的リスクスコアによる予測精度を上回った。年齢や性別、既往歴や退院時処方を含む16項目を用いても十分な予測精度が担保されていた(0.61/0.62/0.62)。情報の追加なしに簡便に計算しうるリスク予測モデルとして使用可能である。
臨床的観点からの成果
病院-病院間における予後評価や疾患管理情報の共有には、多疾患合併を踏まえ、詳細な情報共有が必要となる。また患者・家族及び介助者が情報の判断や変化を捉えるのは困難で、適宜相談等に応えられる支援体制を整えていく必要がある。脳卒中・心不全の縦断的なQOLの評価、疾患管理、介護情報を同一プラットフォームで管理可能なintegrated Personal Health Recordを構築手法として、クラウドサービスによる双方向性の情報共有基盤および患者主導の疾患管理システムが必要である。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
株式会社いきいきライフ阪急阪神が提供する「mina・to・wa」は、掲示板等を介した双方向性の情報共有が可能なクラウドサービスである。退院サマリーや画像所見など医療情報の取り扱いにおけるセキュリティーも担保されている。また同サービスと連携した疾患管理アプリである「いきいき羅針盤」も提供され、心不全症例の疾患管理が実施されている。両システムに本研究成果を反映させ提供予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ren N, Ogata S, Kiyoshige E, et al
Associations Between Adherence to Evidence-Based, Stroke Quality Indicators and Outcomes of Acute Reperfusion Therapy.
Stroke , 53 (11) , 3359-3368  (2022)
10.1161/STROKEAHA.121.038483

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202209026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
7,962,000円
差引額 [(1)-(2)]
38,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,049,561円
人件費・謝金 44,810円
旅費 462,274円
その他 3,559,856円
間接経費 1,846,000円
合計 7,962,501円

備考

備考
自己資金:501円

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
-