ヒトES細胞由来心筋細胞の表面マーカー探索および大量培養・純化システムの構築

文献情報

文献番号
200911006A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトES細胞由来心筋細胞の表面マーカー探索および大量培養・純化システムの構築
課題番号
H19-生物資源・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
日高 京子(国立循環器病センター 研究所バイオサイエンス部)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎隆幸(国立循環器病センター 研究所バイオサイエンス部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
6,848,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心筋細胞には表面マーカーがほとんど知られていないが、われわれはこれまでに胚様体の網羅的発現遺伝子解析を行い、プリオンタンパク質(PrP)が膜タンパク質として心筋細胞に発現していることを見出した。今年度はPrPの胚様体およびマウス胚における特異性、PrPを指標として分離した細胞の性質、ヒト由来心筋細胞における発現の検討を行った。
研究方法
細胞の精製については、磁気ビーズを利用した自動細胞分離装置を用いて行ったほか、蛍光を利用したセルソーターによる分離も行った。細胞内外の抗原は主としてフローサイトメトリー(FCM)により解析し、発現細胞の頻度を定量化した。マウス胚における発現はwhole mount in situ hybri¬dization等により行ったほか、FCMにて評価した。
結果と考察
(1)PrPの胚様体およびマウス胚における発現特異性。ミオシン重鎖(MyHC)陽性心筋細胞はd6に出現し、出現時にすべてPrP陽性であることがわかった。マウス胚においては心臓原基や原始心筒においてPrPの発現が観察され、セルソーターで分離した細胞のRT-PCR解析でも、発生初期の心筋細胞に発現していることが確認できた。
(2)PrPを指標として分離した細胞の性質の検討。胚様体をPrPによってソートした後、細胞塊を再度形成させるとPrP陽性分画からのみ自動拍動する細胞が出現した。PrP陽性細胞はin vitroの1週間培養により心筋トロポニンIを90%以上発現するようになり、in vivoではヌードマウス腎被膜下移植後1月にわたり生存した。以上より、PrPは心筋の分離に有効で、将来細胞移植に利用できるマーカーであると示唆された。
(3)ヒト由来心筋細胞におけるPrPマーカーの発現の検討。ヒトiPS細胞由来の自動拍動する胚様体についてRT-PCRによる発現の確認を行ったところ、PrP mRNAのヒト由来細胞での発現が確認できた。
結論
本年度ではマウスES細胞とマウス胚を用いてPrPの発現特異性についての検討、ソートした細胞の性質についての検討を行った。これらの検討より、PrPがこれまでほとんど知られていなかった心筋細胞の特異的表面マーカーとして有力であり、多能性細胞由来の心筋細胞を扱う上で強力な武器となりうることが示唆された。今後はヒト細胞における発現特異性の検討、生体内外での機能評価等が必要になると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200911006B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒトES細胞由来心筋細胞の表面マーカー探索および大量培養・純化システムの構築
課題番号
H19-生物資源・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
日高 京子(国立循環器病センター 研究所バイオサイエンス部)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎 隆幸(国立循環器病センター 研究所バイオサイエンス部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心臓は再生能力の低い臓器であり、多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)を薬効・毒性試験や移植の細胞ソースとして利用することが大いに期待されている。心筋細胞には特異的な表面マーカーが知られておらず、効率的かつ大量に単離することが難しい。本研究は、胚様体網羅的発現遺伝子解析を出発点とし、心筋細胞特異的細胞表面マーカーの探索、胚様体作成・培養・分離法の開発と改良を実施した。
研究方法
胚様体の大量作成については、懸濁培養法、自動分注機を用いた384ウェル法やEBチップ法などを検討した。細胞内外の抗原の発現特異性については、フローサイトメトリーにより細胞レベルで解析した。特異抗原陽性細胞の大量調製には、磁気ビーズを利用した方法を用いた。陽性細胞の性質の評価には、抗体による免疫学的解析に加え、パッチクランプ法等を用いた電気生理学的解析を行った。PrP陽性細胞を生体内にて解析する際には、細胞塊を形成させ、腎被膜下への移植により行った。
結果と考察
【網羅的発現解析】マイクロアレイを用いて胚様体の網羅的発現解析を行ったところ、候補マーカー遺伝子としてプリオンタンパク質(PrP)が同定できた。【胚様体および胚における発現】胚様体分化後6日目で生ずるミオシン重鎖陽性細胞はすべてPrP陽性であった。マウス胚では原始心筒・心臓原基の心筋細胞・心筋前駆細胞で発現していた。【大量分化・大量分離】胚様体作成は懸濁培養法、384ウェル法、EBチップ法などが有効だった。磁気ビーズを利用することで簡便にかつ大量にPrP陽性を分離できることがわかった。【分離した心筋細胞の性状】PrP陽性細胞はin vitroの培養によって心筋トロポニンI を90%以上の細胞において発現するようになった。in vivoでは、ヌードマウスの腎被膜下にて一ヶ月以上生存し、心筋マーカーの発現も確認できた。
結論
胚様体の発現遺伝子群の網羅的解析により、PrPが心筋細胞とその前駆細胞に特異的に発現していること、PrPを用いて心筋細胞を効率よく分離できること、得られたPrP陽性細胞は免疫学的、電気生理学的に心筋の性質を示し、生体内で生存可能であることなどが明らかとなった。一方、胚様体調製は専用デバイスを用いた大量化が可能であり、磁気ビーズを用いることで大量処理が可能であった。以上のことから、PrPは多能性細胞由来の心筋細胞を大量に調製する上で強力な武器となりうることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200911006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PrPは生じたばかりの心筋細胞のみならず心筋前駆細胞にも発現しており、胚発生における特異性も確認できた。すなわち、PrPを利用してこれまで評価が困難だった心筋前駆細胞の性状に迫ることが可能となる。本研究により、心筋に分化する直前の前駆細胞は心筋または平滑筋に分化する両能性を備えた細胞であり、培養条件によって分化の方向が変化することがわかった。
臨床的観点からの成果
多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)から心筋細胞を取り出し、治療薬の開発や細胞移植に利用するためには特異的な表面マーカーの同定は強力な武器となるが、これまで、心筋細胞についてはそのような表面マーカーがほとんど知られていない。したがって今回の成果は将来の再生医療の発展に大きく貢献するものと考えられる。
ガイドライン等の開発
なし。
その他行政的観点からの成果
なし。
その他のインパクト
2009年11月13日付けNHKニュース関西版、日経新聞、読売新聞等、複数のメディアで紹介されたほか、この成果が掲載されたCirculation Research誌では” The "Natural Selection" of Muscle for Cardiac Repair”と題した解説がなされ、高い評価を得た。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shoko Miyamoto, Kyoko Hidaka, Donghao Jin et al.
RNA-binding proteins Rbm38 and Rbm24 regulate myogenic differentiation via p21-dependent and -independent regulatory pathways.
Genes Cells , 14 (11) , 1241-1252  (2009)
原著論文2
Kyoko Hidaka, Manabu Shirai, Jong-Kook Lee et al.
The cellular prion protein identifies bipotential cardiomyogenic progenitors.
Circ Res. , 106 (1) , 111-119  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-