多因子疾患モデルマウスの効率的樹立法の開発

文献情報

文献番号
200911005A
報告書区分
総括
研究課題名
多因子疾患モデルマウスの効率的樹立法の開発
課題番号
H19-生物資源・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
升井 伸治(国立国際医療センター(研究所) 細胞組織再生医学研究部 形質転換ベクター開発研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
6,801,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学研究などで蓄積された遺伝学的データから、多因子疾患を再構築するシステムを意図し、任意の多重遺伝子ノックダウンマウスの高効率樹立法を開発する。具体的には、多種類のshRNAを発現するES細胞を樹立し、これを用いて作製したヘテロマウスを使って病態解析を行ってモデルケースとする。他の疾患モデルマウスと異なり、ヒトでの多因子疾患の病因をもつ材料を提供できる。
研究方法
マウスES細胞EBRTcH3およびBAg73C2はそれぞれ129/OlaおよびC57BL/6J由来ES細胞株の派生株である。ゼラチンコートシャーレを用いて、フィーダー非存在下、LIF 1000U/ml、10%血清存在下で培養を行った。
遺伝子導入法はリポフェクション法にて行った。ノックダウン効率の検証として定量的RT-PCRを行い、リアルタイムPCR装置は一色リアルタイムPCR解析システムを用いた。
結果と考察
本研究ではshRNAによるノックダウン法を用いるが、一般的手法であるゲノム上へのランダム挿入では、位置効果によって発現がばらつき多種類を一定レベルに発現できないこと、多数の遺伝子座で挿入突然変異が起きるため副作用が無視できないことが問題である。そこで、本研究では全組織で均一に発現するROSA26遺伝子座に多種類のshRNA発現ユニットをノックインするシステムの開発を行った。多重ノックダウンES細胞株が簡便に取得できることまでわかった。
遺伝子抑制型のSNPには対応可能なのだが、遺伝子過剰発現型や変異型タンパク質の相互作用を反映した変異状態を作成できない。多種類のノックダウンコンストラクトとタンパク質が同時に発現できる新規システムの開発を意図し、原理的に新しいシステムを開発した。20年度までに、直列につないだものでも蛍光タンパク質の発現を確認している。そこで、21年度には複数の変異型タンパク質が存在するときに現れる表現型を、簡便に再現できるシステムとして、C57BL/6J由来ES細胞において、カセット交換システムを導入し、内在性遺伝子の多重ノックダウンと多因子発現システムが同一細胞で使えるシステムを開発した。
結論
大規模SNP解析で疾患との相関が発見された多数のSNPs/遺伝子については、それが機能的かどうかを簡便に検証する方法が必要であった。本システムを用いてマウス個体あるいは試験管内において簡便にSNPsの機能確認を行えば、複数のSNPsの相互作用から生じる表現型を多数同定できるだろう。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200911005B
報告書区分
総合
研究課題名
多因子疾患モデルマウスの効率的樹立法の開発
課題番号
H19-生物資源・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
升井 伸治(国立国際医療センター(研究所) 細胞組織再生医学研究部 形質転換ベクター開発研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学研究などで蓄積された遺伝学的データから、多因子疾患を再構築するシステムを意図し、任意の多重遺伝子ノックダウンマウスの高効率樹立法を開発した。具体的には、多種類のshRNAを発現するES細胞の樹立法を開発した。他方、試験管内SNPs解析システムの基盤技術を開発した。他の疾患モデルと異なり、ヒトでの多因子疾患の病因をもつ材料を提供できる。
研究方法
マウスES細胞EBRTcH3、BZnTR1は129/Ola由来、BAg73C2はC57BL/6J由ES細胞株の派生株である。ゼラチンコートシャーレを用いて、フィーダー非存在下、LIF 1000U/ml、10%血清存在下で培養を行った。
遺伝子導入法はリポフェクション法にて行った。ノックダウン効率の検証として、定量的RT-PCRを行い、リアルタイムPCR装置は一色リアルタイムPCR解析システムを用いた。
結果と考察
平成19年度に、ノックダウン解析例で用いる遺伝子についてshRNAの選定を行った。多種類のタンパク質を同時に発現する多因子発現システムについて、ポリメラーゼ系の選択を行った。タンデム連結のタンパク質遺伝子を発現することができた。
平成20年度に、Rosa26遺伝子座における外来発現ユニットの転写活性を解析した。定量的RTPCR法でノックダウン効率を解析した結果、転写方向に依存せずにshRNAを発現できることがわかった。タンデム連結のRNAポリメラーゼIII依存性プロモーターについてshRNA発現能を解析した。その結果、このプロモーターではタンデム連結でも発現可能なことがわかった。原理的には3種以上のノックダウンコンストラクトが同時に導入できる。
多因子発現システムについて、4種類のタンパク質が同時に発現できることがわかった。IRESを付加すると翻訳効率が上昇することがわかった。平成21年度に、20年度までに得られていたノックダウンコンストラクトを搭載したES細胞からキメラマウスを得た。
他方、試験管内SNPs機能解析システムを意図し、多因子発現システムを多種類の変異型タンパク質の同時発現システムとして用いることにした。マウス個体での解析知見と照合が容易なように、C57BL/6J由来ES細胞株を用いて、上述の高効率カセット交換アレルを作製した。多重ノックダウンと多因子発現が同時に行える。
結論
多重遺伝子ノックダウンマウスが簡便に樹立可能なシステムが開発できた。本システムを用いてマウス個体あるいは試験管内においてSNPsの機能確認を行えば、複数のSNPsの相互作用から生じる表現型を多数同定できるだろう。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200911005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Rosa26遺伝子座の外来遺伝子発現特性について明らかに出来た。多重遺伝子のノックダウン法について、使用するべきプロモーターを決定できた。それを使って、簡便に多重ノックダウンES細胞株を樹立する方法を開発できた。他方、多種類のタンパク質を同時に発現するシステムを開発することができた。変異型タンパク質の相互作用解析に使用でき、複数のSNPsの相互作用から生じる表現型を多数同定できるだろう。
臨床的観点からの成果
一般に体質と称されるフェノタイプは、遺伝子発現量の変異とタンパク質の変異が相互作用して引き起こされる。機能が明らかとなったSNPsの数が増えれば、GWASの結果のみを指標とした場合よりもさらに精確な予言が可能になるだろう。他方、ZFNなどの遺伝子治療技術とiPS細胞などの細胞療法をくみあわせることで、SNPsを改変した細胞を作出し治療することも考えることができる。現在はその基盤技術を開発したといえる。
ガイドライン等の開発
生活習慣病など多くの疾患は多因子疾患であることが知られるが、そのモデル動物はほとんど整備されていない。現在知られている多因子疾患モデル動物は、変異導入や選抜によるものであり、表現型は似ているものの、病因が同一でないためにヒトの病態を正確に反映しているとは言い難い。このようなばらばらなシステムで多因子疾患が研究されているのが現状である。本研究で開発されたシステムそのものあるいはアイデアが解析標準システムとなれば、より円滑に進むだろう。
その他行政的観点からの成果
多因子疾患の再構成モデルマウスの必要性を感じていた多くの研究者の利用が期待される。一旦上手くいくとわかれば、広く使用されるようになるだろう。本研究の波及効果として、ヒト多因子疾患に即したモデルマウスや試験管内解析系が次々構築されれば、薬剤のスクリーニングや治療法の開発に多大な貢献を果たすことが期待でき、予防医学の発展に寄与し、国民の健康増進および医療費の削減に寄与するだろう。
その他のインパクト
多因子発現システムについては応用範囲が広い。従来の複数遺伝子発現方法は、主にレトロウイルスなどを用いて一因子ずつばらばらに導入しており、細胞集団中において全因子が導入された細胞よりも導入されなかった細胞の方が多いため、効果の解析が困難である。多因子を同時に発現できる本システムを用いた場合、一過性発現の後の薬剤選択により、全因子を発現する細胞のみを選択でき、効果の解析が可能になる。SNPs研究に限らず広範囲に波及する本システムについて、特許を出願した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-