「健康な食事」の基準の再評価と基準に沿った食事の調理・選択に応じた活用支援ガイドの開発

文献情報

文献番号
202209008A
報告書区分
総括
研究課題名
「健康な食事」の基準の再評価と基準に沿った食事の調理・選択に応じた活用支援ガイドの開発
課題番号
20FA1009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
林 芙美(学校法人香川栄養学園女子栄養大学 栄養学部)
研究分担者(所属機関)
  • 新開 省二(学校法人香川栄養学園 女子栄養大学)
  • 石原 淳子(麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科)
  • 赤松 利恵(お茶の水女子大学 基幹研究院)
  • 柳沢 幸江(和洋女子大学 家政学部)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 三石 誠司(宮城大学 食産業学群)
  • 江口 定夫(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康寿命の延伸と地球環境への負荷の低減にむけた「健康な食事」のあり方と健康アウトカムとの関連を検討し,健康で持続可能な食生活の実現に向けて活用可能な支援ガイド(以下,実践ガイドとする)を作成する。そのために, 1)日本人の食事摂取基準(2020年版)に基づく「健康な食事」の基準の再評価, 2)「健康な食事」の基準に沿った食事と健康アウトカム,フレイルとの関連の検討,3)「健康な食事」の基準に沿った活用支援ガイド・普及教材の開発,4)持続可能な食事の視点で「健康な食事」の基準を検討した。
研究方法
課題1:日本人の食事摂取基準(2020年版)及び平成29年~令和元年国民健康・栄養調査結果を使用し,線形計画法(食事最適化法)を用いて,男女全体および性・年齢階級別に,食事摂取基準を満たす食品サブグループ別摂取重量(最適化値)を試算し,2015年基準と比較した(横山)。
課題2:1)JPHCコホート研究(1990年・93年)調査対象者のうち,5年後調査に参加した87,572人を解析対象者とした。「健康な食事」スコアは5年後調査FFQを用いて算出し,第1四分位を基準として,スコアの四分位ごとに全死因死亡率および死因別死亡率のハザード比と95%信頼区間を推定した(石原,他)。2)BDHQの妥当性を検証し,高齢者の統合コホートデータ(1,165名)を用いて横断的・縦断的に「健康な食事」とフレイル・サルコペニアとの関連を検討した(新開,他)。
課題3:1)実践ガイドのフィジビリティテストのため,20~39歳の男女24名を対象に,対面にて1グループ4名のフォーカス・グループインタビューを実施した(林,他)。2)「健康な食事・食環境」認証の外食・中食事業者を対象に,インタビュー調査を実施し,健康な食事づくりにおける,時間・手間,費用に関する工夫を調べた(赤松,他)。3)首都圏在住の20~90歳代の男女を対象とした質問紙調査データを分析し,実践ガイドに提示する具体的な料理案を検討した(柳沢)。
課題4:1)スマートミール509食を対象に,主食・主菜・副菜の主材料の組み合わせ別の温室効果ガス(GHGE)を調べた(赤松,他)。2)令和元年国民健康・栄養調査結果(18歳以上)の男女5,008名分のデータを用いて,GHGEと窒素フットプリント(NFP)を算出し,性・年代別,地域別に比較した(林,他)。3)NFPを算出するのに必要なパラメータである仮想窒素係数(VNF値)の精緻化を検討し,食事メニューのNFPを計算する簡易ツールの開発・改良を進めた(江口)。4)文献・資料等を踏まえて,①国内における産業別就業者数の推移,②「持続可能」な食料の調達,③「健康で持続可能な食事」を検討した(三石)。
結果と考察
課題1:「健康な食事」の基準について,現在の食習慣からの変化が最小となるような最適解が男女合計,性・年齢階級別に得られた。
課題2:JPHCコホート研究では,「健康な食事」スコアが高いほど全死因死亡,脳血管疾患死亡,呼吸器疾患死亡と負の関連の傾向がみられた。高齢者コホート研究では,横断研究において「健康な食事」スコアとサルコペニアとの関連が示された。
課題3:外食・中食事業者は「地球環境に配慮した取組」をしていたが,動物性食品から植物性食品を選択するといった環境負荷を減らす取組はしていなかった。実践ガイドの料理例には,副菜の主材料となる野菜料理を主体とし,調理頻度の少ない者でも手軽に作れるもの(電子レンジ調理・炒め物等)が挙げられた。以上の要素を踏まえて作成した実践ガイドは,おおむね食事づくりのタイプ別に合った内容であることが確認された。
課題4:同じ健康な食事の基準に準じていても,使用食材の量・組み合わせによって,環境負荷(GHGE)が異なることが明らかにされた。また,GHGEやNFPは地域や年代によって寄与する食品が異なる可能性が示唆された。今後,持続可能な「健康な食事」を実現するには,フードシステムや人口動態を想定して,国全体としての現実的な必要量を算出する必要がある。
結論
「健康な食事」の基準について,さらに持続可能な視点を組み込むことが今後の課題であるが,一食として何をどう食べたらよいかの目安を示すことができた。また,JPHCコホート研究と高齢者の統合コホートデータを用いた検討により,「健康な食事」と健康アウトカムとの関連を明らかにすることができた。そのため,生活習慣病予防およびフレイル・サルコペニアの予防において,「健康な食事」を普及啓発していくことは重要であると示唆された。本研究班で作成した実践ガイドは,おおむね対象者の食事づくりタイプに合ったものであることが確認されたため,今後一般家庭だけでなく,外食・中食事業者に向けても広く普及し,持続可能で健康な食事の実現を推進していく。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209008B
報告書区分
総合
研究課題名
「健康な食事」の基準の再評価と基準に沿った食事の調理・選択に応じた活用支援ガイドの開発
課題番号
20FA1009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
林 芙美(学校法人香川栄養学園女子栄養大学 栄養学部)
研究分担者(所属機関)
  • 新開 省二(学校法人香川栄養学園 女子栄養大学)
  • 石原 淳子(麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科)
  • 赤松 利恵(お茶の水女子大学 基幹研究院)
  • 柳沢 幸江(和洋女子大学 家政学部)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 三石 誠司(宮城大学 食産業学群)
  • 江口 定夫(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では,人々の健康寿命の延伸と,地球環境への負荷の低減につながる食事づくりに利用可能なガイドを作成することを主な目的として,①日本人の食事摂取基準(2020年版)に基づく「健康な食事」の基準の再評価,②「健康な食事」の基準に沿った食事と健康アウトカム・フレイルとの関連の検討,③「健康な食事」の基準に沿った活用支援ガイド・普及教材の開発,④ 持続可能な食事の視点での「健康な食事」の基準を検討した。最終年度には,研究班員で議論を行い,「人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド」(以下,実践ガイド)を作成した。
研究方法
個別研究として,【研究1】日本人の食事摂取基準(2020年版)に基づく「健康な食事」の基準の再評価(横山),【研究2】健康な食事」の基準と健康アウトカムとの関連~多目的コホート研究データを用いた検討~(石原・津金),【研究3】「健康な食事」の基準の再評価と健康アウトカムおよびフレイルとの関連(新開・成田),【研究4】環境負荷が少ない「健康な食事」の検討-健康な食事(スマートミール)を用いた検討-(赤松・鮫島),【研究5】「健康な食事」の実現に向けた調理行動および料理レベルの分析~対象者の調理頻度に応じた具体的な調理方法・レシピの提案~(柳沢),【研究6】持続可能な食事の視点での「健康な食事」の再検討(三石)などを実施した。また,令和4年度には【研究7】窒素フットプリントを用いた「健康な食事」の持続可能性の検討(江口)など,環境負荷の低減に関連する要因の検討や食物摂取状況等の把握なども実施した。
結果と考察
総合研究報告書では,全体研究として,実践ガイドの作成を中心に報告する。
 実践ガイドでは,食事づくりの実践方法について,(1)自分で調理することが多い方,(2)買って食べる・外食が多い方,(3)用意されたものを食べることが多い方の3タイプに分け,さらに(1)と(2)についてはそれぞれ3つに分類し,計7つの食事づくりタイプごとに適した方法を,栄養面・環境面の2つの側面で情報提供を行った。このグルーピングをするにあたり,事前に主に単身世帯の20~40歳代の人を対象にフォーカス・グループインタビューを行った。食事づくりへの関わり方や食に対する価値観などを分析すると,多くの人は「栄養」や「健康」を気にしているものの,「野菜を積極的に食べる」など具体的な意識を持っている人と,漠然と「栄養は大切」程度にしか考えていない人に大別された。そこで,本ガイドでは「1日2回以上,主食・主菜・副菜がそろう日がほぼ毎日」と「野菜を増やすことを意識している」の2つの質問を評価項目として用いて,タイプ分けフローチャートを作成した。この7タイプそれぞれの概要版リーフレットも作成した。なお,タイプ別に示した具体的な実践方法・行動目標については,本研究班で得られた知見に加えて,先行研究に基づくエビデンスをもとに作成した。
 何をどう食べるかの基準は,一食ごとの目安量と食生活の在り方の2パターンで示した。食事量の目安は,「適度に」(650kcal未満/食)と「十分に」(650~850kcal未満/食)の2段階で,主食・主菜・副菜・食塩相当量それぞれの量的基準を示した。加えて,1日のどこかで牛乳・乳製品と果物を食べることを促した。さらに,質的な基準として,栄養面・環境面の2側面から,料理区分ごとに推奨される食材料の選び方を示した。食生活の在り方については,次の5つの指針を持続可能な「健康な食事」のポイントとして掲げた:①食事を楽しむ,②適度な量とバランスのよい食事で適正体重の維持を,③米を主食とする日本食(和食)スタイルを活かしつつ,食塩は控えめに,④調理や食材選択で環境負荷の小さい食事を,⑤積極的に食事づくりに参加する。その他,本ガイドでは副菜などのレシピや,減塩のコツ,食品ロスやエコ調理などの環境負荷の低減につながる情報提供などを資料として提示した。
 作成した実践ガイドを用いて,20~30歳代男女を対象に,フィジビリティテストを実施した。その結果,概ね食事づくりのタイプ別に合った内容であることが確認された。本ガイドは,持続可能で「健康な食事」の実践を推進していく上で,活用可能な教材であることが示唆された。
結論
持続可能な開発目標の視点を踏まえた食生活の実践は,人と社会と地球の健康を育む上で重要である。「人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド」は,健康や栄養面だけでなく,環境や社会に配慮した食事づくりの実践を促すために,食事づくりのタイプ別に具体的な行動目標を示すことができた。本ガイドは,持続可能で「健康な食事」の実践を推進していく上で,活用可能な教材であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成29年~令和元年国民健康・栄養調査の結果を用いて,線形計画法(食事最適化法)により,日本人の食事摂取基準(2020年版)における各栄養素の摂取基準値を満たし,かつ現在の食習慣から乖離しない摂取基準値の範囲におさまる食品群ごとの1日当たりの量を算出した。最終的な基準は,以前の基準や本研究班における個別研究の成果(環境負荷の低減等)を踏まえて一食当たりとした。国民健康づくり運動や食育の推進において,健康面だけでなく,持続可能な視点も踏まえた具体的なアクションプランの作成に貢献できると考える。
臨床的観点からの成果
特になし。ただし,JPHCコホート研究や高齢者コホート研究データを用いて,「健康な食事」と健康アウトカムとの関連を検討することができた。そのため,生活習慣病予防やフレイル予防の観点から,1食あたりに何をどう食べたらよいのかについて,具体的に計画する上で,本研究班で作成した「健康な食事」の基準が活用可能と考える。
ガイドライン等の開発
人々の健康寿命の延伸と,地球環境への負荷の低減につながる食事づくりに利用可能な「人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド」を作成した。本研究班で再評価した「健康な食事」の基準や作成したガイドの内容は,食環境整備事業「スマートミール」認証制度に知見を提供する(令和5年7月予定)ことで,食品事業者を巻き込んだ食環境整備の更なる進展に寄与することができると考える。
その他行政的観点からの成果
JPHCコホート研究を用いて「健康な食事」と疾患別死亡との関連を検討した。男女ともに「健康な食事」スコアが肥満度や喫煙,飲酒などの生活習慣と関連していることが明らかになった。また「健康な食事」に基づく食事を遵守しているほど全死因死亡,脳血管疾患死亡,呼吸器疾患死亡と負の関連の傾向がみられた。高齢者を対象とした横断研究では,「健康な食事」とサルコペニアに関連が示された。これらの研究成果は,次期健康日本21のアクションプラン作成において活用され,生活習慣病予防・フレイル予防の推進に貢献すると考える。
その他のインパクト
実践ガイドの普及啓発のために,ホームページを作成した。また,食事づくりタイプ別の概要版も作成し,ガイド本編と併せてPDFでダウンロード可能にした。令和5年2月に開催された日本栄養改善学会関東・甲信越支部の学術総会シンポジウムや,一般住民を対象とした複数の研修会で研究成果やガイドについて紹介し,普及啓発活動を行った。今後,乳飲料業界の機関紙にも掲載される予定。本研究の成果については,今後さらに学術誌に発表するとともに,研究活動の内容や成果を社会・国民に対して積極的に情報提供を行う予定としている。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイド1件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
講演6件, ホームページ1件, 雑誌1件, 機関紙1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hayashi F and Takemi Y.
Factors influencing changes in food preparation during the COVID-19 Pandemic and associations with food intake among Japanese adults.
Nutrients , 13 (11) , 3864-  (2021)
doi: 10.3390/nu13113864
原著論文2
Takano M, Hayashi F, Eguchi S, et al.
Desirable diet to lower the Japanese nitrogen footprint: Analysis of the Saitama Prefecture Nutrition Survey 2017
J Nutr Sci Vitaminol , 68 (5) , 429-437  (2022)
doi: 10.3177/jnsv.68.429
原著論文3
Hayashi F and Takemi Y.
Determinants of changes in the diet quality of Japanese adults during the Coronavirus Disease 2019 Pandemic.
Nutrients , 15 (1) , 131-  (2023)
doi: 10.3390/nu15010131.
原著論文4
鮫島媛乃, 赤松利恵, 林芙美, 他.
環境負荷が少ない健康な食事の食品群別使用量-窒素フットプリントを用いた分析から-.
栄養学雑誌 , 80 (6) , 307-316  (2022)
doi: 10.5264/eiyogakuzashi.80.307
原著論文5
Sameshima H, Akamatsu R, Hayashi F, Takemi Y
Estimation of greenhouse gas emissions from Japanese healthy meals with different protein sources
Frontiers in Sustainable Food Systems  (2023)
doi:10.3389/fsufs.2023.1232198

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2024-06-07

収支報告書

文献番号
202209008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 937,353円
人件費・謝金 1,733,113円
旅費 162,882円
その他 2,366,652円
間接経費 800,000円
合計 6,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-