HIV吸着・膜融合過程を標的とする多剤耐性克服型HIV化学療法剤の開発

文献情報

文献番号
200908007A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV吸着・膜融合過程を標的とする多剤耐性克服型HIV化学療法剤の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 雅雄(京都大学 ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 信孝(京都大学 薬学研究科)
  • 児玉 栄一(東北大学病院)
  • 大石 真也(京都大学 薬学研究科)
  • 村上 努(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 谷口 雅彦(富士フィルム株式会社 R&D 統括本部ライフサイエンス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,699,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症に対する多剤併用療法の有効性は顕著であるが、耐性ウイルスの出現は大きな脅威であり、新規抗HIV剤の開発が急務である。これまでに申請者らが取り組んで来たHIV侵入・膜融合阻害剤の開発に関する基礎研究、および数種の開発候補化合物を基盤として多剤耐性HIV株を標的とする化学療法剤の開発を目指した。
研究方法
抗HIV-1活性はMAGI法, p24量測定で解析した。
結果と考察
新規ポルフィリン誘導体の効果と作用機序
ポルフィリン誘導体はX4とR5ウイルスに対して同等の効果を発揮した。time of addition実験により侵入阻害剤であることが示された。ポルフィリン誘導体はX4, R5ウイルス由来のV3ペプチドに同等に結合することが示され、結合部位の候補の一つとしてV3 loopが同定された。
KRH-3955による抗CXCR4抗体12G5結合阻害活性の測定
KRH-3955では、薬剤処理した後細胞を洗浄しても、12G5 結合を顕著に阻害した。持続的に抗CXCR4抗体の結合を阻害することが示された。
事前内服による感染予防効果の検討
KRH-3955を感染24時間前に投与したサル3頭の末梢血CD4数は、感染後3ヶ月もウイルス感染時のレベルを維持していた。対照薬剤のTDF/FTCでは、感染後3ヶ月において3頭中1頭は感染後1ヶ月で急激な末梢血CD4数の減少を起こした。KRH-3955が経口吸収性を有する強力なCXCR4阻害剤であり、X4 HIV-1複製阻害剤として有望であることが示された。
ペプチド合成法の確立
抗HIV活性ペプチドの両側にMet-Gln配列を付加した融合タンパク質をデザインし、融合タンパク質から臭化シアンによる切り出しと抗HIV活性ペプチドの調製を行った。抗HIV活性をMAGIアッセイで評価した。いずれも強力な抗HIV活性が認められ、両末端の構造が抗HIV活性に影響しないことが確認できた。ペプチド製剤の大きな問題点が高い製造コストにあるが、今年度の研究で新たな合成方法を確立した。
結論
今年度の研究から、抗HIV-1活性を有するペプチド製剤の合成方法を新たに開発し、安価な薬剤開発を可能とした。新規CXCR4阻害剤の作用機序を解析すると共にサルを用いた実験で、その効果を明らかにでき、今後の開発に繋がる成果となった。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908007B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV吸着・膜融合過程を標的とする多剤耐性克服型HIV化学療法剤の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 雅雄(京都大学 ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 信孝(京都大学 薬学研究科)
  • 児玉 栄一(東北大学病院)
  • 大石 真也(京都大学 薬学研究科)
  • 村上 努(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 谷口 雅彦(富士フィルム株式会社 R&D 統括本部ライフサイエンス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耐性HIVの出現は治療上大きな脅威であり新規標的に対する抗HIV剤の開発が必要である。本研究では、HIV吸着・膜融合過程を標的とした強力かつ安全な新規抗HIV剤を開発することを目的とした。
研究方法
抗HIV-1活性はMAGI法, p24量測定で解析した。gp41由来ペプチドの結晶化後にX線構造解析を行った。
結果と考察
融合阻害ペプチドの抗HIV-1活性: SC34EKから5アミノ酸を削減したSC29EKは野生型HIV-1やT-20耐性HIV-1に対してSC34EKと同等の強い抗HIV-1活性を示した。
S138変異の意義とT-20/S138Aの効果:T-20に対する耐性変異S138Aをペプチドに組み込みT20S138Aを創出した。T20S138Aの抗ウイルス活性の増強、耐性ウイルスへの有効性を明らかにした。
構造解析:HIV-1野生株、T-20耐性株のgp41 N-領域部分ペプチドとC-領域部分ペプチドを調製し複合体の結晶を得た。X線構造解析により互いのペプチドが逆平行型に相互作用していた。
新規CXCR4阻害剤の抗HIV-1 活性:KRH-3955は、X4, R5X4 HIV-1の複製を強力に抑制した。KRH-3955とCXCR4との結合に重要なアミノ酸を同定した。
KRH-3955事前内服による感染予防効果の検討:KRH-3955を感染24時間前に投与したサル3頭の末梢血CD4数は、感染後3ヶ月もウイルス感染時のレベルを維持していた。対照薬剤のTDF/FTCでは、感染後3ヶ月において3頭中1頭は感染後1ヶ月で急激な末梢血CD4数の減少を起こした。KRH-3955が経口吸収性を有する強力なCXCR4阻害剤であり、X4 HIV-1複製阻害剤として有望であることが示された。
ペプチド合成法の確立:ペプチド製剤の大きな問題点が高い製造コストにあるが新たな合成方法を確立した。
融合阻害小分子化合物の探索:融合阻害活性を有する小分子化合物を探索した。3000種類以上の化合物を検討し、EC50が100nM前後の強い抗HIV活性を有する化合物を複数見出している。
結論
本研究により耐性ウイルスにも有効で強力な活性を有する融合阻害ペプチドを創出した。新規CXCR4阻害剤の開発に成功した。また強い抗HIV活性を示す小分子化合物を同定し開発を継続している。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIVに対するペプチド性融合阻害剤としてfuzeonが使用されているが、既に耐性ウイルスが報告されている。本研究では強力な抗HIV活性を有するペプチドを開発し更に耐性変異を組み込むこと活性を増強させることに成功した。今後のペプチド性融合阻害剤の開発戦略となる成果であった。ペプチド製剤は合成に費用がかかることが大きな障害であるが、本研究で開発した技術はペプチド製造のコストダウンを可能にするものと考えられる。経口投与可能なCXCR4阻害剤の開発はHIV感染者の治療に大きく貢献するものと期待される。
臨床的観点からの成果
HIV感染症に対する多剤併用療法は大きな成果を上げたが、ウイルスの根絶は不可能であり、長期に渡る薬剤の服用から耐性ウイルスの出現が大きな問題となっている。本研究で開発したペプチド融合阻害剤は耐性ウイルスにも有効であり、次世代の融合阻害剤として期待できる。ペプチド製剤は注射する必要があり経口投与可能な小分子化合物が望ましい。本研究で同定した小分子化合物の開発はHIV感染者の治療に貢献することが期待できる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
ペプチドは製造コストがかかることが開発における大きな障害となっていたが、本研究で開発されたペプチド性抗HIV薬を従来方法と比較して非常に安価に製造する技術に関して、平成22年2月1日付けの日経産業新聞、平成22年3月19日付けの日刊工業新聞で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
77件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
72件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hiroki Nishikawa, Shota Nakamura, Eiichi Kodama,et al.
Electrostatically constrained α-helical peptide inhibits replication of HIV-1 resistant to enfuvirtide.
International Journal of Biochemistry and Cell Biology41 , 41 (4) , 891-899  (2009)
原著論文2
Kazuki Izumi, Eiichi Kodama, Kazuya Shimura,et al.
Design of peptide-based inhibitors for HIV-1 strains resistant to T-20.
Journal of Biological Chemistry , 284 (8) , 4914-4920  (2009)
原著論文3
Takeshi Naito, Kazuki Izumi, Eiichi Kodama,et al.
SC29EK, a peptide fusion inhibitor with enhanced α-helicity, inhibits replication of human immunodeficiency virus type 1 mutants resistant to enfuvirtide.
Antimicrobial Agents and Chemotherapy , 53 (3) , 1013-1018  (2009)
原著論文4
Mariko Ueno, Eiichi N. Kodama, Kazuya Shimura,et al.
Synonymous mutations in stem-loop III of Rev responsive elements enhance HIV-1 replication impaired by primary mutations for resistance to enfuvirtide.
Antiviral Research , 82 (1) , 67-72  (2009)
原著論文5
Shinya Oishi, Hirotaka Kamitani, Yasuyo Kodera,et al.
Peptide bond mimicry by (E)-alkene and (Z)-fluoroalkene peptide isosteres: synthesis and bioevaluation of alpha-helical anti-HIV peptide analogues.
Organic & Biomolecular Chemistry , 7 (14) , 2872-2877  (2009)
原著論文6
Shinya Oishi, Yasuyo Kodera, Hiroki Nishikawa,et al.
Design and synthesis of membrane fusion inhibitors against the feline immunodeficiency virus.
Bioorganic & Medicinal Chemistry , 17 (14) , 4916-4920  (2009)
原著論文7
Tsuyoshi Watabe,Yukihiro Terakawa, Kentaro Watanabe,et al.
X-ray Crystallographic Study of an HIV-1 Fusion Inhibitor with the gp41 S138A Substitution.
Journal of Molecular Biology , 392 (3) , 657-665  (2009)
原著論文8
Michinori Tanaka, Kazumi Kajiwara, Rei Tokiwa,et al.
Bioorganic Synthesis of End-capped Anti-HIV Peptides by Simultaneous Cyanocysteine-mediated Cleavages of Recombinant Proteins.
Bioorganic & Medicinal Chemistry , 17 (21) , 7487-7492  (2009)
原著論文9
Kazumi Kajiwara, Kentaro Watanabe, Rei Tokiwa,et al.
Bioorganic Synthesis of a Recombinant HIV-1 Fusion Inhibitor, SC35EK, with an N-Terminal Pyroglutamate Capping Group.
Bioorganic & Medicinal Chemistry , 17 (23) , 7964-7970  (2009)
原著論文10
Tetsuo Narumi, Ryoko Hayashi, Kenji Tomita,et al.
Synthesis and Biological Evaluation of Selective CXCR4 Antagonists Containing Alkene Dipeptide Isosteres.
Organic & Biomolecular Chemistry , 8 (3) , 616-621  (2009)
原著論文11
Hiroki Nishikawa, Eiichi Kodama, Ayako Sakakibara,et al.
Novel screening systems for HIV-1 fusion mediated by two extra-virion heptad repeats of gp41.
Antiviral Research , 80 (1) , 71-76  (2008)
原著論文12
Satoshi Ueda, Manabu Kato, Shinsuke Inuki,et al.
Identification of novel nonpeptide CXCR4 antagonists by ligand-based design approach.
Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters , 18 (14) , 4124-4129  (2008)
原著論文13
Oishi S, Masuda R, Evans B,et al.
Synthesis and Application of Fluorescein- and Biotin-labeled Molecular Probes for Chemokine Receptor CXCR4.
ChemBioChem , 9 (7) , 1154-1158  (2008)
原著論文14
Oishi S, Ito S, Nishikawa H,et al.
Design of a Novel HIV-1 Fusion Inhibitor That Displays a Minimal Interface for Binding Affinity.
Journal of Medicinal Chemistry , 51 (3) , 388-391  (2008)
原著論文15
Hiroki Nishikawa; Shinya Oishi; Mizuno Fujita,et al.
Identification of minimal sequence for HIV-1 fusion inhibitors.
Bioorganic & Medicinal Chemistry , 16 (20) , 9184-9187  (2008)
原著論文16
Kajiwara K, Kodama E, Sakagami Y,et al.
Dual-Reporter Phenotypic Assay for Human Immunodeiciency Viruses.
J. Clini. Microbiol , 46 (2) , 792-795  (2008)
原著論文17
Shimura K, Kodama E, Sakagami Y,et al.
Broad antiretroviral activity and resistance profile of the novel human immunodeficiency virus integrase inhibitor elvitegravir (JTK-303/GS-9137).
J. Virol. , 82 (2) , 764-774  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2015-06-16