障害のあるがん患者のニーズに基づいた情報普及と医療者向け研修プログラムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
202208013A
報告書区分
総括
研究課題名
障害のあるがん患者のニーズに基づいた情報普及と医療者向け研修プログラムの開発に関する研究
課題番号
20EA1014
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
八巻 知香子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部)
研究分担者(所属機関)
  • 河村 宏(特定非営利活動法人 支援技術開発機構 理事会)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 山内 智香子(滋賀県立成人病センター 放射線治療科)
  • 堀之内 秀仁(独立行政法人国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)
  • 打浪 文子(立正大学 社会福祉学部)
  • 今井 健二郎(国立国際医療研究センター 研究所 糖尿病情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,230,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん治療は様々な選択が必要であり、治療の侵襲性も高いため、本人が自分の状況を理解し、納得して治療に臨むことが欠かせないが、障害のある人への情報提供の仕方や、合理的配慮の提供の方法は充分に確立されているとはいえない。
 よって本研究では、(1)障害者および医療者双方の視点から、現状で障害のあるがん患者が受診する際の困難を把握すること、(2)障害者支援専門機関がもつ支援技術を医療機関で応用・普及させる方法を提示し、(3)様々な障害のある人が利用可能な情報資料の作成手順を定式化することを目的とする。
研究方法
(1)障害者本人の視点からみた医療機関受診時の困難の把握、(2)医療機関・医療者が、障害者の受診にあたって配慮すべき点についての総合的分析、(3)わかりやすい版資料の評価と応用、(4)医療者向け教材資料の作成と評価、(5)医療者向け研修プログラムの開発を行った。
結果と考察
(1)障害者本人への療機関受診時の困難と好事例についてのインタビュー調査の計量的分析では、具体的にどのような場面、状況で特に合理的配慮が提供される必要があるのかが示され、医療者への伝達に具体的な場面を添えることに有用であった。
(2)医療機関・医療者が、障害者の受診にあたって配慮すべき点についての総合的分析では、様々な困難や課題が挙げられたが、病院のハード面、人員不足等に起因するものより、医療者が障害のある「患者自身」を主体として扱う姿勢を求めるものが最も多かった。
(3)「わかりやすい版」の作成と評価調査からは以下のことが示唆された。
医療機関での活用結果についての医療者へのインタビュー調査からは、「大腸がん わかりやすい版」は患者やその家族等に概ね好評だったことが確認された。
知的障害者が多く入居するグループホームの支援職への調査でも、「大腸がん わかりやすい版」「肺がん わかりやすい版」は「利用者の家族・親族にがんについて説明する」のに活用できるとの評価を得た。「わかりやすい版 糖尿病」の作成過程の検討では、がん情報の「わかりやすい版」の作成プロセスが、糖尿病という別領域にも横展開可能であるということが明らかとなった。
(4)医療者向け教材資料の作成と評価として、視覚障害/聴覚障害/知的障害のある患者が病院に来院したときに医療者・医療機関が提供すべき合理的配慮について、サポートガイド3種を作成し、評価を行った。
視覚障害版については、令和3年次の評価結果等を踏まえて改定を行い、視覚情報を主として音声や触覚等で伝える方法に置き換えること手法を具体的に充実させた。
知的障害版は視覚障害版・聴覚障害版を参考にしながら作成した。知的障害の個別性が高いニーズをそれをどのように伝え、どのような工夫や配慮を説明するかということが大きなポイントとなった。
聴覚障害版については、令和3年度に作成し、令和4年度に専門機関を対象とした評価を行った。おおむね、本パンフレットは理解しやすく、医療従事者がろう・難聴者のニーズを知ってもらうに有用であるという評価が得られた。
(5)医療者向け研修プログラムの開発として、覚障害、聴覚障害、知的障害というニーズとその対応方法が見えにくい障害について、医療者向けのパンフレット「サポートガイド」を作成し有用性を確認した。その資料を基本教材としつつ、障害の特性と求められる合理的配慮の要点を知識伝達する講義型プログラムに、障害のある患者当事者、または日常的に支援する福祉専門職の経験を交える形で3種類のプログラムを構成を作成した。「①知識にふれるタイプの研修:30分」「②知識と障害のあるがん患者当事者の声から学ぶタイプの研修:1時間」「③より深く学ぶタイプの研修:2時間」である。
いずれのプログラムも、参加者の満足度は高かったが、当事者の経験を交えた研修では、当事者の声を聴くことが参考になったという意見が多くを占めた。
結論
障害当事者、障害分野の福祉専門職への調査から、障害者が医療機関を受診する際に経験する困難と好事例を具体的に明らかにすることができた。
「大腸がん わかりやすい版」「肺がん わかりやすい版」の評価と、それらを援用した「糖尿病 わかいりやすい版」の作成を通じて、知的障害のある人にも疾患や治療についての情報を伝えることができる資料として「わかりやすい版」資料の作成方法が確立できた。
各障害の特性、ニーズと求められる対応についてパンフレット3種を作成し、有用性を確認した。また、それらを教材とした医療者向け研修プログラム「①知識にふれるタイプの研修:30分」「②知識と障害のあるがん患者当事者の声から学ぶタイプの研修:1時間」「③より深く学ぶタイプの研修:2時間」の3種類のプログラムを構成を作成し、いずれも受講者から十分に評価され、有用性が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208013B
報告書区分
総合
研究課題名
障害のあるがん患者のニーズに基づいた情報普及と医療者向け研修プログラムの開発に関する研究
課題番号
20EA1014
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
八巻 知香子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部)
研究分担者(所属機関)
  • 河村 宏(特定非営利活動法人 支援技術開発機構 理事会)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石川 准(静岡県立大学 国際関係学部)
  • 山内 智香子(滋賀県立成人病センター 放射線治療科)
  • 堀之内 秀仁(独立行政法人国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)
  • 打浪 文子(立正大学 社会福祉学部)
  • 今井 健二郎(国立国際医療研究センター 研究所 糖尿病情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん治療は様々な選択が必要であり、治療の侵襲性も高いため、本人が自分の状況を理解し、納得して治療に臨むことが欠かせないが、障害のある人への情報提供の仕方や、合理的配慮の提供の方法は充分に確立されているとはいえない。
以上の課題を解決するため、(1)障害者および医療者双方の視点から、現状で障害のあるがん患者が受診する際の困難を把握すること、(2)障害者支援専門機関がもつ支援技術を医療機関で応用・普及させる方法を提示し、(3)様々な障害のある人が利用可能な情報資料の作成手順を定式化すること、3点を実現することを目的とした。
研究方法
(1)障害当事者、障害分野の福祉専門職への調査により、医療機関受診時の課題と望まれる対応を明らかにした。

(2)(1)の調査結果から明らかになった各障害の特性、ニーズと求められる対応についてパンフレット3種を作成し、有用性を確認した。またこれらのパンフレットを基本教材とした医療者向けに3種類の研修プログラムを開発し、試行し、受講者からのフィードバックを得た。

(3)音声版、手話版、わかりやすい版がん情報・医療情報のそれぞれの作成手法を改善するための試行・検討を行った。
結果と考察
(1)障害当事者および福祉支援職への調査で、障害者の受診にあたって様々な困難や課題があることが挙げられたが、病院のハード面、人員不足等に起因するものより、医療者が障害のある「患者自身」を主体として扱う姿勢を求めるものや、ちょっとした工夫で改善可能な事象が多かった。また、好事例も挙げられ、医療者の対応として望まれていた事項は、障害のある患者に接する機会の少ない医療者が知る機会がないことによって生じていると推察されるものであった。対応の基本姿勢やニーズ、コミュニケーション方法について教育機会を提供すること、障害者本人や福祉分野からの「ニーズを伝える必要性の認識」と相まって状況を改善できる可能性がある。その点では、医療者への積極的な研修機会の提供と、それを踏まえた組織的な対応に結び付ける必要性が示唆された。
 
(2)視覚障害、聴覚障害、知的障害というニーズとその対応方法が見えにくい障害について、医療者向けのパンフレット「サポートガイド」を作成し有用性を確認した。その資料を基本教材としつつ、障害の特性と求められる合理的配慮の要点を知識伝達する講義型プログラムに、障害のある患者当事者、または日常的に支援する福祉専門職の経験を交える形で3種類のプログラムを構成を作成した。①知識にふれるタイプの研修:30分」「②知識と障害のあるがん患者当事者の声から学ぶタイプの研修:1時間」「③より深く学ぶタイプの研修:2時間」である。いずれのプログラムにおいても、参加者の満足度は高かったが、当事者の経験を交えた構成では、当事者の声を聴くことができてよかった、参考になったという意見が多くを占めた。
長時間の研修の方がより多くの内容を取り込むことができ、充実した内容になることは確かだが、受講者の時間的な負担が大きくもなるため、受講対象者にあわせて、適したプログラム構成を活用することが有用であろう。

(3)音声資料作成の迅速化については、手順が確立され、実際の運用で活用し、第3期がん対策推進基本計画の目標の達成にも貢献した。手話版の作成については、合理的な撮影方法についての検討は進んだが、ろう・難聴者のニーズの多様性に十分に応えるにはまだ課題がある。「わかりやすい版」の手話版作成など、本研究で確立した手法を組み合わせるなどの応用についても今後検討が必要である。わかりやすい版資料の作成方法が確立され、その手法に則って作成された「わかりやすい版は、渡す立場の医療者、受け取る立場の患者やその家族等に概ね好評だったことが確認された。また、「わかりやすい版」は知的障害のある人を想定して作成したものではあるが、聴覚障害のある人や認知症の人、あるいは障害のない人にとってもわかりやすいという評価を得た。知的障害者が多く入居するグループホームの支援職への調査でも、2種の「わかりやすい版」は「利用者の家族・親族にがんについて説明する」のに活用できるとの評価を得た。
結論
本研究の目的はいずれも達成したと考える。しかし、障害のある人のがん医療における困難を軽減するためには、本研究で明らかになった医療機関での対応方法が広く行きわたること、アクセシブルな情報資材が継続的、網羅的に作成されていくことが欠かせない。体制づくりや継続的な普及方法については、後続研究班にとっての課題となると考える。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208013C

収支報告書

文献番号
202208013Z