ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究

文献情報

文献番号
202207005A
報告書区分
総括
研究課題名
ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究
課題番号
20DA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
水野 克己(昭和大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 田 啓樹(昭和大学 医学部)
  • 和田 友香(佐野 友香)(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科)
  • 櫻井 基一郎(千葉市立海浜病院 新生児科)
  • 宮田 昌史(藤田医科大学 医学部小児科学)
  • 谷 有貴(辻本 有貴)(奈良県立医科大学 医学部)
  • 西巻 滋(横浜市立大学附属病院 臨床研修センター)
  • 新藤 潤(東京都立小児総合医療センター 新生児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
櫻井基一郎は千葉市立海浜病院から亀田総合病院に異動しています

研究報告書(概要版)

研究目的
A)NICU入院中の早産児でドナーミルク(以下、DHM)を必要とする児には安定して幅広く提供できるシステムを整備すること。
B)より広くDHMを利用できるために現状の問題を把握し、解決するための方策を立てること。
C)NICU入院中の児に対するDHM利用のエビデンスを構築すること
研究方法
DHMを必要とする早産児がDHMを利用できるように、新生児医療連絡会加盟施設に新生児栄養ならびにバンクに関するアンケート調査を行った。また、すでにバンクを利用している施設だけを対象としたアンケート調査も行った。DHMの必要性を明らかにするために、早産・極低出生体重児の生後早期の経腸栄養に関する調査を行った。
また、DHM利用開始マニュアルを作成し、全国のNICU施設に配布した。システム整備のためにドナーの安定確保が必要である。ドナー登録施設を増やすためにドナー登録マニュアル作成した。
DHM利用に関するエビデンスの構築のためにDBを作成した。このDBを利用して、DHMを用いて生後早期から経腸栄養を開始することにより、短期予後が改善するかを1)超低出生体重児を対象として日本小児科学会2015年出生ハイリスク新生児調査結果を対象として検討した。また、極低出生体重児についてはNRNデータとの比較で検討した。
結果と考察
ドナー登録数:本研究班、最終年度は601名であった。最終年度は全国77か所のNICUにDHMとして1500ℓを配送した。この研究班の3年間に配送したDHM送料は2328ℓであり、毎年、配送料は倍以上に増加している。日本橋バンクでの最大低温殺菌処理量は1000ℓ/年であり、本研究班最終年度に運用開始した日本財団母乳バンク(最大低温殺菌量:4100ℓ/年)とあわせて約5000ℓのDHMを提供できるため、現状ではまだ余裕がある。
DHM利用児は、本研究班初年度が203名、2年目は360名、最終年度は800名を越えた。一人当たりの平均DHM使用量は約2ℓで研究班開始当時の平均1ℓ/人からは増加している。アンケート調査結果からも、DHM中止基準にはばらつきがあり、経腸栄養確立とともにDHMを中止し、母乳が不足する場合は人工乳を使う施設も散見される。今後、NICUにおけるDHM利用の詳細(適応・開始と終了時期など)を海外の取り組みも参考にして決めていく必要があるが、修正33-34週まで母乳の不足分をDHMで補うとなると現在の平均使用量より増加する。。
DHM利用における現状の問題把握と解決:2021年度の本研究班調査では9割以上が母乳バンクの必要性を認めており、現状利用していない施設も55%が利用を考えていた。バンクを利用しやすくするために、DHM利用開始マニュアルを作成し、DHMオーダー方法を修正するとともに、2022年度は日本財団母乳バンクとの年間契約費は無料とした。結果として本研究班終了時点で77施設と契約している。
DHMの効果検証を目的とした研究:NICU入院中の体重増加・静脈栄養期間・合併疾患罹患率などに関してDHM利用によるエビデンスを構築する。データ記載を簡易化とリマインド機能を設けたことでデータ登録率は上昇している。日本小児科学会新生児委員会が調査した2015年出生の超低出生体重児と比較して、生後24時間以内からDHMを利用して経腸栄養を開始した児は、治療を必要とする未熟児網膜症が有意に減少しており、また、経腸栄養の確立も早くなったことがわかった。
DHMを利用した家族への調査結果をまとめ、日本中のNICUに郵送し、DHM利用の際に情報提供ができるようにした。
結論
「ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究」班として、まず、NICU入院中の早産児でDHMを必要とする児には安定して幅広く提供できるシステムを整備することを目的として、日本橋バンクと日本財団バンクを整備した。処理能力としては現状でも2500人の早産児に対応できるようになった。次に、より広くDHMを利用できるために現状の問題を把握し、解決するための方策を立てることを目的として、アンケート調査結果から明らかとなった問題点を解決すべく、マニュアル作成を行い配送した。結果としての、本研究班の3年間に24→47→77NICU施設がDHMを利用するようになった。国民への啓蒙活動も行った結果、NICU入院中の児の家族からNICU側にDHMを希望する声もでるようになった。最終目標としては、NICU入院中の児に対するDHM利用のエビデンス構築である。長期予後も含めて検討が必要であるが、現時点では、海外の報告と同様に、早産・極低出生体重児においても生後早期からDHMを用いて経腸栄養を開始することで治療を要する未熟児網膜症の減少、経腸栄養の早期確立、静脈栄養期間の短縮、死亡退院の減少が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202207005B
報告書区分
総合
研究課題名
ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究
課題番号
20DA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
水野 克己(昭和大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 基一郎(亀田総合病院 新生児科)
  • 和田 友香(佐野 友香)(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科)
  • 谷 有貴(辻本 有貴)(奈良県立医科大学 医学部)
  • 新藤 潤(東京都立小児総合医療センター 新生児科)
  • 西巻 滋(横浜市立大学附属病院 臨床研修センター)
  • 田 啓樹(昭和大学 医学部)
  • 宮田 昌史(藤田医科大学 医学部小児科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は、DHMを使用した児の全数調査を行うためのデータベースをもとに、生後早期に経腸栄養を開始することで、壊死性腸炎、未熟児網膜症、慢性肺疾患、重症感染症の罹患リスク軽減につながるのか検討した。
研究方法
本研究班では、すでにデータベースを用意して症例登録の蓄積を行っている。2023年3月末時点で登録施設数は73施設、症例登録数は1031件と順調に増加している。また、データベースを改良することで、新生児臨床研究ネットワーク(NRN)のデータを利用可能となり症例入力時の煩雑さを改良し、さらなる症例蓄積の効率を上げた。また、データベース入力の手引きを作成した。
A)超低出生体重児を対象とした検討
本研究は日本小児科学会ハイリスク新生児調査結果を対象として、生後24時間以内に経腸栄養を開始した児と生後24時間以降に経腸栄養を開始したと想定される児とを比較した。
B)極低出生体重児を対象とした検討
対象はDHM使用群は出生体重が1500g未満の極低出生体重児で出生体重が±2SD内の児とし、DHM非使用群はNRNに登録された、体重が±2SD内の2021年度に出生児とした。ただし経静脈栄養期間についてはNRNのデータベースになかったため、DHM使用開始時間で違いがあるかについて検討した

結果と考察
A)超低出生体重児:日本小児科学会新生児委員会2015年出生ハイリスク新生児調査との比較
NICU生存退院した超低出生体重児のうち治療を要した未熟児網膜症の割合
体重別では出生体重500-699gのみp<0.05にて有意差をみとめた。超低出生体重児全体でもDHM群のほうが有意に治療を要する未熟児網膜症は少なかった(p<0.01)
慢性肺疾患罹患率:両群間に有意差は認められなかった。
壊死性腸炎:両群間に有意差は認められなかった。DHM群で壊死性腸炎に罹患したのは3例であり、1例は出生体重500g未満の児で完全房室ブロック発症後に壊死性腸炎を発生し、900g代の2例は症候性動脈管開存症を発生したのちに壊死性腸炎に罹患した。罹患率でみるとDHM群2.2%、JPS群3.5%であった。
死亡退院率:NICU死亡退院率について検討した結果では出生体重500‐699gの群ではDHM群のほうがJPS群にくらべて有意に死亡退院率が低かった。また、全体でみても有意差はなかったが、DHM群で死亡退院率が低下する傾向は認められた(p=0.07)
B)極低出生体重児:NRN2021データとの比較
経腸栄養を生後12時間以内に開始した群は、生後48 -72時間、DHM非使用群と比較して有意に経腸栄養確立までの日数が短かった。また生後12-24時間に経腸栄養を開始した群も同様に 48-72時間、非使用群と比較して有意に経腸栄養確立までの日数が短かった。
静脈栄養期間については、NRNのデータにはない項目であるためDHMを使用した児の中で、使用開始のタイミング別で比較した。生後72時間以内での比較ではDHM使用開始のタイミングによる差は認めらなかった。しかし10日以内での比較では12時間以内、12-24時間以内、24-48時間以内はそれぞれ72時間以上の群と比較して有意に経静脈栄養期間の中央値が短かかった。
壊死性腸炎:罹患率は、DHM使用例では疑い例まで入れて363例中6例、1.4%であった。非使用群は966例中21例、2.2%であった。有意差は認めなかった。
慢性肺疾患と未熟児網膜症においては、施設間差が大きく統計解析は不適切と考えられた

結論
1) DHMを利用して生後24時間以内に経腸栄養を開始することで、すべての体重群でDHM利用のほうが有意にはやく経腸栄養が確立していた。
2) 治療を要した未熟児網膜症は、DHM群19.4%(26/134)はコントロール群30.4%より有意に低くなった。
3) 壊死性腸炎(Bell分類Ⅱ期以上)については、DHM群 2.2% (3/135) コントロール群3.5%ともともと日本では発生率が低いため統計学的な有意差はでなかったが、今後もデータベースの解析を続けていくことで、海外と同様に壊死性腸炎の発生を抑制することをエビデンスに加えられると考える。
4)死亡退院については、出生体重500‐699gの群ではDHM群のほうがJPS群にくらべて有意に死亡退院率が低かったが、これは出生体重500‐899gで壊死性腸炎がなかったことが関係していると考えられる。
5) 慢性肺疾患の有無は、修正36週時点での酸素必要度または陽圧呼吸の必要性から判断したが、DHM群 57.6%、コントロール群 55.3%と有意差はなかった。
B)極低出生体重児を対象とした場合は、超低出生体重児ほどDHMによる超早期授乳の臨床効果が期待できないのかもしれない。症例数を増やすとともに、評価方法を見直すことが今後の課題となる。

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202207005C

収支報告書

文献番号
202207005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,684,739円
人件費・謝金 0円
旅費 246,804円
その他 6,268,802円
間接経費 800,000円
合計 10,000,345円

備考

備考
自己資金 345円

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-