わが国における父親の子育て支援を推進するための科学的根拠の提示と支援プログラムの提案に関する研究

文献情報

文献番号
202207001A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における父親の子育て支援を推進するための科学的根拠の提示と支援プログラムの提案に関する研究
課題番号
20DA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
竹原 健二(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 承彦(国立成育医療研究センター 社会医学研究部)
  • 小崎 恭弘(大阪教育大学 健康安全教育系教育学部教員養成課程家政教育部門)
  • 髙木 悦子(帝京科学大学 医療科学部看護学科)
  • 立花 良之(国立研究開発法人国立成育医療研究センター こころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
19,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、わが国の父親の健康状態や生活の実態の解明と、地域における父親支援の方法や評価について情報の整理と発信に取り組み、父親支援の推進と活性化に資することを目的に、様々な調査・研究に取り組んできた。今年度は3年間の活動の最終年度として、これまでの活動を継続しつつ、得られた知見の整理とその積極的な公表・発信に努めた。
研究方法
本研究では昨年度から引き続き、日本の父親の健康・生活実態把握(課題1:二次データ解析)、父親支援の既存制度の把握(課題2:国内の一次データ収集)、父親支援の海外調査(課題3:諸外国の既存資料のレビュー)、自治体の父親支援モデルの構築・評価(課題4:介入モデルの構築・評価)の4つの課題に取り組んだ。また、父親の支援ニーズに関する調査(課題4-2:自治体における一次データ収集・解析)についても、研究分担者・研究協力者とともに取り組んだ。本研究班のこれらの調査・研究は、必要に応じて国立成育医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果と考察
課題1では、国民生活基礎調査や21世紀出生児縦断調査などの政府統計を用いて、①父親の育児への関わりと母親のしつけとの関連、②父親の育児休業取得の影響、③多胎児世帯の父親の状況、④父親の育児への関わりの長期的な影響などを明らかにした。なかでも、④において、乳児期の父親の積極的な育児への関わりが思春期のこどもの心理的なWellbeingに影響を及ぼすことは、欧米でも関心の高い研究課題である。わが国における父親の育児に関する中・長期的な効果について言及した珍しいエビデンスであった。
課題2では、先駆的・特徴的な父親支援事業を実施している自治体7つの実施状況やそのポイントなどを整理した好事例集を作成した。取り組みの内容にもとづき、父親支援は直接的支援に関する取り組みと、アウトソーシングするような取り組みと、行政と民間のコラボレーションによる取り組みに大別できると考えられた。また、父親支援にかかわる部署は、母子保健や子育て支援担当の部局のみならず、男女共同参画や女性活躍推進、児童福祉、地域保健など多岐に渡ることも示した。
課題3では、周産期領域における父親支援の介入研究について、検索式で該当した11,471件の論文についてスクリーニングをおこない、最終的に132の論文を対象に分析・整理をおこなった。この領域の先行研究では大規模な介入研究や父親のみを対象にした介入研究が不足していることを示した。また、父親の健康を評価するために様々なアウトカム指標と尺度があることを示した。
課題4では、研究班が開発を主導した父親支援プログラムとして、東京都世田谷区と武蔵野市でそれぞれの実施・評価をおこなったものの、父親のメンタルヘルスや赤ちゃんへの愛着などを改善させるような効果は検出されなかった。一方で、こうした教育介入は産後よりも産前に実施した方が効果は出やすい可能性が示唆された。
課題4-2において、父親の支援ニーズを明らかにするため、全国の自治体から1,360人のデータを集め、父親の様々な場面での「モヤモヤ」を示した。本研究班の過去の調査により、自治体が父親支援を実施する際に、「父親の支援ニーズが分からない」ということが理由の最上位にあった中で、父親の支援ニーズを示すことができたことは今後の事業実施の推進につながることが期待される。これら得られた知見を学会でのシンポジウムと研究班主催のオンラインシンポジウムを通じて、公表・発信した。
結論
当初の計画に沿って4つの課題を進め、その中で必要性が生じたニーズ調査も無事に完遂することができた。また、得られた知見を2度のシンポジウムにおいて幅広く情報発信するなど、今後の父親支援事業の推進に向けて、エビデンスの創出と現場への還元をおこなうことができた。

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202207001B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国における父親の子育て支援を推進するための科学的根拠の提示と支援プログラムの提案に関する研究
課題番号
20DA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
竹原 健二(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 承彦(国立成育医療研究センター 社会医学研究部)
  • 可知 悠子(北里大学 医学部)
  • 小崎 恭弘(大阪教育大学 健康安全教育系教育学部教員養成課程家政教育部門)
  • 髙木 悦子(帝京科学大学 医療科学部看護学科)
  • 立花 良之(国立研究開発法人国立成育医療研究センター こころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
北里大学医学部 可知悠子 研究期間の途中に異動となり、本研究班における研究時間の確保が難しくなったため、令和4年度より分担研究者から研究協力者に変更した。

研究報告書(概要版)

研究目的
 2010年のイクメンブームを一つのきっかけに、わが国では父親の役割が大きく変わってきている。家事・育児への参画も徐々に進む一方で、父親の産後うつやワークライフバランスなどの問題も生じてきている。2021年に閣議決定された成育基本法の基本方針においても、「父親の孤立」は課題として掲げられ、父親が支援の対象であることが明記された。では、これからどうやって父親を支援していくか、という議論が始まった段階だと考えられる。ところが、欧米に比べ、まだ国内のエビデンスは大幅に不足している。そこで、本研究班では今後の父親支援のあり方を考えるためにも、様々なエビデンスを示していくとともに、父親支援のプログラムについて、知見を整理しつつ、提言につなげることを目指して3年間の活動をおこなった。
研究方法
 本研究では、①父親の生活や健康の実態などに関する科学的根拠の提示のために、厚生労働省や総務省の政府統計の二次データ解析の実施、②国内の自治体や民間企業における父親支援の取り組みに関する実態把握と、その好事例に関するヒアリング、その結果をまとめた好事例集の作成、③諸外国における父親支援に関する法制度や好事例の把握や職域や周産期における父親を対象とした介入研究の系統的レビューの実施、④父親支援プログラムの開発とその効果検証、をおこなってきた。また、初年度に②の一環として実施した自治体への調査の結果から、自治体が父親支援を実施していない理由としてもっとも多かった「父親の支援ニーズが分からない」ということの解消を目指し、父親の支援ニーズの把握を目的とした調査を追加で実施した。これら多岐に渡る調査・研究によって得られた知見は、学術的な報告に加え、好事例集の作成、学会シンポジウムおよび研究班主催によるオンラインシンポジウムなど、幅広く公表・発信するよう試みた。
結果と考察
 3年間の研究活動を通じて、父親のメンタルヘルス不調の発生頻度や父親の育児ストレスの原因、メンタルヘルスの不調になりやすい父親のハイリスクグループの同定、父親の家事・育児とその後への影響など、様々なエビデンスを創出した。自治体への調査や系統的レビューの結果などと併せて合計で12本の論文と11回の学会発表につなげた。また、その中のいくつかはプレスリリースを通じて、国民に広く発信した。
父親のメンタルヘルスや健康状態については、諸外国の研究が多く、わが国の父親を対象にしたエビデンスが乏しかった。本研究を通じて対象集団の代表性が高かったり、全国規模の調査に基づいたエビデンスを創出できたことは、今後の父親支援の実施・展開に向けて有用だと考えられる。
学術論文の発表などに加え、諸外国の父親支援の仕組みや事例、国内の父親支援に関する自治体の事業における好事例集、父親の支援ニーズに関する調査の実施とレポート作成(公開済)など、自治体担当者が父親支援事業を検討・計画・実施する際に活用してもらえるような資料の作成・公開もおこなった。学会や研究班によるシンポジウムでの成果の公表・発信といったように、支援実施者に対する結果の還元などをおこなった。
結論
 本研究班では3年をかけて、5つの課題を通じて父親の生活や健康状態に関する実態把握を進め、父親支援の必要性、その実施方法に関する基本的な資料を整理することができた。今後は、得られたエビデンスや好事例をもとに、どのように各自治体で父親支援に取り組む動きを活性化し、どのように個々の父親を支援のネットワークにつなげていくか、社会実装の視点がより重要になっていくと考えられる。今後のわが国における父親支援の推進が強く期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202207001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 比較的に新しい社会的な課題である父親の生活・健康の実態把握や父親支援に関連して、合計で12本の学術論文と11回の学会発表をおこない、この領域のエビデンスの創出とその公表に努めた。特に、政府統計を用いた二次データ解析や、先行研究による介入プログラムに関する系統的レビューによる論文など、今後の意思決定に有用な手法による良質なエビデンスを多く提示することに成功した。
臨床的観点からの成果
 父親支援が必要である理由の一つに、父親のメンタルヘルスの不調である「父親の産後うつ」が挙げられる。本研究班では、政府統計を用いて産後うつのリスクがある父親が11%であることや夫婦同時期にそうしたリスクがある世帯が年間で約3万世帯に達することを示した。また、父親の健康に関するアセスメントツールについて、網羅的な把握をおこなったり、父親のメンタルヘルス不調のリスク要因を探索した。
ガイドライン等の開発
 父親支援事業の実施・推進に向けて、自治体における父親支援事業の好事例集を作成した。好事例集は研究班の報告書に含めるとともに、国立成育医療研究センターのホームページにて公開をしている。
その他行政的観点からの成果
 自治体における父親支援事業の実施状況について、全国調査をおこない、2019年度時点で父親支援事業を実施している自治体が6.5%に留まることを示した。また、自治体が父親支援事業を実施できていない理由として、「ニーズが不明」ということが主な要因であることを明らかにした。そのため、1,360人の父親を対象に様々な観点における支援ニーズについて、Webアンケート調査により把握した。自治体における父親支援事業の推進に向けた好事例集を作成・公開した。
その他のインパクト
 本研究班で得られた成果や、研究班が主催したシンポジウムにおいて、公開した資料などは、いずれも国立成育医療研究センターのホームページにて閲覧・入手が可能な状態となっている。また、発表した論文をもとに、複数のプレスリリースを出し、新聞やWebメディア、テレビなどを通じた結果の公表をおこなった。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
自治体検討会での議論 2件
その他成果(普及・啓発活動)
51件
シンポジウム主催:1件、自治体・NPO開催講演会:16件、マスコミ発表:31件、研究成果HPの作成:1件、寄稿・書籍監修:2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takehara K, Suto M, & Kato T
Parental psychological distress in the postnatal period in Japan: a population-based analysis of a national cross-sectional survey
Scientific Reports , 10 , 13770-  (2022)
https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2021.100951
原著論文2
Dhungel B, Tsuguhiko K, Ochi M, et al
Association of child's disability status with father's health outcomes in Japan
SSM-population health , 1 (16) , 100951-  (2021)
https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2021.100951
原著論文3
Kachi Y, Ochi M, Kato T, et al
Factors related to Parenting Stress among Fathers of Preschool Children in Japan
Pediatrics International  (2022)
https://doi.org/10.1111/ped.15132
原著論文4
Dhungel B, Tsuguhiko K, Kachi Y, et al
Prevalence of and associated factors for psychological distress among single fathers in Japan
Journal of epidemiology , JE20210273  (2021)
https://doi.org/10.2188/jea.JE20210273
原著論文5
Suto M, Balogun OO, Dhungel B, et al
Effectiveness of Workplace Interventions for Improving Working Conditions on the Health and Wellbeing of Fathers or Parents: A Systematic Review
Int J Environ Res Public Health , 19 (8) , 4779-  (2022)
https://doi.org/10.3390/ijerph19084779
原著論文6
Kato T, Kachi Y, Ochi M, et al
The long-term association between paternal involvement in infant care and children's psychological well-being at age 16 years: An analysis of the Japanese Longitudinal Survey of Newborns in the 21st Century 2001 cohort
Journal of Affective Disorders , 1 (324) , 114-120  (2023)
https://doi.org/10.1016/j.jad.2022.12.075
原著論文7
髙木悦子、小﨑恭弘
育児に積極的に関わる父親の心身の健康度に関連する要因
母性衛生 , 62 (2) , 301-308  (2021)
原著論文8
大塚美耶子,越智真奈美,可知悠子,他
末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間
厚生の指標 , 68 (15) , 24-30  (2021)
原著論文9
加藤承彦,越智真奈美,可知悠子,他
父親の育児参加が母親、子ども,父親自身に与える影響に関する文献レビュー.
日本公衆衛生雑誌 , 69 (5) , 321-337  (2022)
https://doi.org/10.11236/jph.21-040
原著論文10
髙木悦子,阿川勇太,小﨑恭弘
全国自治体で実施されている父親への育児支援の現状
保健師ジャーナル , 78 (4) , 306-310  (2022)
原著論文11
髙木悦子, 小﨑恭弘, 阿川勇太, 他
全国地方自治体で実施されている父親を主な対象とするポピュレーションアプローチ事業の実施状況調査結果報告
日本公衆衛生雑誌  (2023)
https://doi.org/10.11236/jph.22-071

公開日・更新日

公開日
2024-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202207001Z