セルフメディケーション税制による医療費適正化効果の評価基盤の作成についての研究

文献情報

文献番号
202206021A
報告書区分
総括
研究課題名
セルフメディケーション税制による医療費適正化効果の評価基盤の作成についての研究
課題番号
22CA2021
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 中(横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
  • 井深 陽子(東北大学大学院経済学研究科)
  • 別所 俊一郎(東京大学 大学院経済学研究科)
  • 和田 一郎(獨協大学 国際教養学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
i) 商用レセプトデータベースを用いたセルフメディケーションによる潜在的な医療費削減効果の推計とii) スマートフォンアプリケーションアンケートによる利用動向調査iii)利用意向に関する行動経済学的調査を実施し、iv)制度導入に伴う医療費削減効果推計の基盤整備を目指した。
研究方法
i) 商用レセプトデータベースを用いたセルフメディケーションによる潜在的な医療費削減効果の推計:OTC成分を拡大した場合の、医療費削減効果に与えるインパクトを推計した。ii) スマートフォンアプリケーションアンケートによる利用動向調査:健保組合加入者を対象にしたスマートフォンベースの健康啓発アプリケーションを用いて、アプリ利用者に対して利用動向調査を実施し、税制の利用に関わる因子と行動様式の同定を試みた。iii)利用意向に関する行動経済学的調査:税制の利用経験が「ない」と回答した者について、理由を選択させる(複数可)形で利用の障壁となる要素の探索を実施した。iv)制度導入に伴う医療費削減効果推計の基盤整備:i)やii)の検討結果を踏まえて、次年度以降にどのような形での実態評価を実施するかについて、プロトコルと研究体制の基礎作りを実施した。
結果と考察
i)潜在的な医療費削減効果の推計:医療用医薬品の総売上げは10.2兆円 (2020年度)・OTCの医薬品の総売上げは7,335億円で、総売り上げをベースにした場合のシェアは7.1% (7335億円÷(10.2兆+7,335億))、成分一致品目をベースにすると53.0%・効能成分一致品目をベースにすれば69.1%であった。拡大ポテンシャルの総額は、成分一致品目全体で2兆2,117億円・効能成分一致品目に絞ると4,961億円となった。ii) スマートフォンアプリケーションを用いたアンケートによる利用動向調査:2022年6月〜7月にかけて調査を実施し、34,749人から有効回答を得た。セルメ税制と医療費控除制度それぞれ、「よく理解している」および「ほぼ理解している」回答者の割合は、セルメ税制で28.9%・医療費控除制度では63.1%で、両者ともに前年度よりも認知度の向上が見られた。確定申告を行い、なおかつ医療費控除を行わなかった利用者10,597人のうち、セルメ税制の利用者は116名(1.1%)で、回答者全体 (34,349人)に対する割合は0.33%であった。セルメ税制対象商品を12,000円以上購入した回答者の割合は、全体が3.6%に対し、税制利用者では27.4%・医療費控除でのOTC申告者では8.6%であった。iii)利用意向に関する行動経済学的調査:「申告を行ったことはない」と回答した4,184人について、その理由を調査した。全世代を通して、「税制そのものをよく知らない」が最も多かった (49.8%, 2083人)。今後の医療保険制度を維持していくための方策として、セルメ税制を知っていると回答した層では、医療保険制度のあり方について「給付制限(一部を保険から外す)」と回答した者の割合が、他の層よりも有意に高かった (知っているが興味なし28.99%, 知っていて興味あり29.57%、全体23.5%)。iv)制度導入に伴う医療費削減効果推計の基盤整備:<保険加入者向けアプリケーションを用いた調査と医療費把握>ii)のアプリケーション調査の結果、医療費控除との混同を可能な限り排除しつつ、対象者を絞り込むことが可能になった。<他のチャネルを用いた経時的検証>健康保険組合の取り組みとして、花粉症および皮膚科疾患の薬剤について保険医療費が発生している加入者をレセプトで特定しつつ、セルフメディケーションの利用案内と、組合内に構築したOTCのオンライン販売サイトの紹介を実施した。【考察】セルフメディケーションおよびセルフメディケーション税制の評価するためには、消費者(患者)側の能動的なアクション(OTCの購入・金額の捕捉・申請など)も必要となるが、最も利用の障壁となっているのは「情報が上手く伝わっていないこと」であった。一方で、スマートフォンアプリを用いた啓発記事の配信や、「出口」たるOTCの購入サイトへのチャネルを確保したうえでの情報提供が、セルフメディケーションの知識の普及や、セルフメディケーションへの乗り換えの促進に一定の効果があることも明らかになった。
結論
多角的な手法を用いて、潜在的削減効果の推計と利用促進に対する障壁を特定した。多角的な手法を用いて、潜在的削減効果の推計と利用促進に対する障壁を特定した。令和5年度以降も、経時的な情報提供と医療費・セルフメディケーション双方の利用動向の推移を捕捉していく。

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
2023-08-03

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202206021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
セルフメディケーション税制およびセルフメディケーションの利用について、税制制度変更の評価にとどまらず、医療資源の適正配分という根本的なテーマについて、これまでの「全ての治療を公的医療制度で賄う」という日本型の皆保険制度の限界を提示しつつ、受け皿としてのセルフメディケーションの有用性を定量的に提示できた。
臨床的観点からの成果
中心テーマである「セルフメディケーション税制の導入にともなう医療費適正効果の評価基盤作成」について、保険診療報酬請求データを用いた潜在費用削減幅算出にとどまらず、OTCデータとの連係、さらに行動変容そのものを促せる構造の解明や、セルフメディケーションへの移行を行いやすくするサービスの提供など、単なる評価基盤ではなく移行そのものを加速化できる基盤を構築できた。
ガイドライン等の開発
令和4年1月の制度改正および次回改正に向けた政策評価の基盤を整備しつつ、より根源的なテーマである「セルフメディケーションそのものの推進」についても、有用な知見を提供できたと考える。
その他行政的観点からの成果
整備した評価基盤および利用促進策の社旗実装を通して、税制導入のインパクトを複眼的に推計することと、そもそものセルフメディケーションおよびセルフメディケーション税制の認知度を高めること、さらに認知度向上に資する施策の特定を経時的に進めることで、「セルフメディケーション税制の利用率・認知率向上」と「向上したことの潜在的・顕在的社会経済的インパクト」の双方を評価し、政策評価の基盤となるエビデンスの提供を図っていく予定である。
その他のインパクト
研究の遂行と基盤整備を通じて、セルフメディケーションの利用促進と効果測定を同時に測定できる枠組みを確立できた。成果は2022年7月の「セルフメディケーションの日シンポジウム」の他、健保組合の取り組みとしてのOTC利用促進プログラムの実施など、社会実装の事例も蓄積しつつある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
シンポジウム開催 1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202206021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,277,000円
(2)補助金確定額
4,277,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 212,388円
人件費・謝金 726,230円
旅費 42,280円
その他 2,309,102円
間接経費 987,000円
合計 4,277,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
-