文献情報
文献番号
202206018A
報告書区分
総括
研究課題名
急増する植物成分由来危険ドラッグの迅速な規制に資する研究
課題番号
22CA2018
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部第3室)
研究分担者(所属機関)
- 田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
- 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
- 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
- 舩田 正彦(湘南医療大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,971,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
大麻の代替品として国内流入が急増して問題となっている大麻成分由来化合物について,医薬品医療機器等法の下に制定されている指定薬物制度に対応し,規制化の検討に必要な科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とした.
(本文中11α-, 11β-と記載されている立体構造は,IUPAC記載にあわせて9α-, 9β-に変更)
(本文中11α-, 11β-と記載されている立体構造は,IUPAC記載にあわせて9α-, 9β-に変更)
研究方法
指定薬物11α-HHC及び11β-HHCとそれらのアセチル化体11α-HHC-O-acetate及び11β-HHC-O-acetate,また麻薬成分∆9-THC及び∆8-THCのアセチル化体∆9-THC-O-acetate及び∆8-THC-O-acetateの6化合物について,流通実態調査,分析用標品の製造,対象化合物の化学的特性及び分析法の検討,in vitroによる代謝検討,そしてin silico, in vitro及びin vivoによる薬理学的特性を検討した.
結果と考察
① Δ8-THC-O-acetate,Δ9-THC-O-acetate,11α-HHC-O-acetate,11β-HHC-O-acetateを合成し,分析用標品として確保した.
② THCOの含有を標榜するオイル状製品から,Δ8-THC-O-acetate,Δ9-THC-O-acetate,Δ4(8)-iso-THC-O-acetate,HHCOの含有を標榜するオイル状製品からは11β‐HHC-O-acetate,11α‐HHC-O-acetate,dihydro-iso-THC-O-acetateを検出・同定した.両製品から,マイナー成分(副生成物)Δ4(8)-iso-THC-O-acetateもしくはdihydro-iso-THC-O-acetateが検出されており,CBDを原料に合成された可能性が高いことが示唆された.
③ i) アセチル化体4化合物において,メタノール溶液ではGC-MS測定時及び室温保存時に一部脱アセチル化が認められたため,溶解溶媒はアセトニトリル及びヘキサンが望ましいと考えられた.ii) 市販のイムノクロマト法によるスクリーニングキット製品を用いて対象6化合物の検出を確認した結果,尿中代謝物を検出対象とした製品では高濃度でも陰性を示したが,唾液中大麻草成分を検出対象とした製品では,いずれの化合物も1-10 µg/mL以上の濃度で陽性を示した.iii) 天然由来カンナビノイド及び半合成カンナビノイド成分(アセチル化体を含む)計23成分について,LC-(QTOF)MS及びGC-(QTOF)MSによる一斉識別法を開発した.
④ ヒト肝臓ミクロゾームを用いて検討した結果,アセチル化体4化合物は酵素化学的に加水分解され,それぞれ,麻薬∆9-THC, ∆8-THC, および指定薬物11α-HHC, 11β-HHCを生成した.また,これらの反応には,少なくともヒト肝臓ミクロゾームのカルボキシエステラーゼが関与することが示唆された.
⑤ Δ9-THC-O-acetate, Δ8-THC-O-acetate, 11α-HHC, 11β-HHC, 11α-HHC-O-acetate及び11β-HHC-O-acetateを投与したマウスにおいて,いずれもカタレプシー様の無動状態及び体温下降作用の発現が確認された.これらの効果は,カンナビノイドCB1受容体拮抗薬AM251の前処置によって抑制され, CB1受容体が関与することが明らかになった.
⑥ ヒトカンナビノイドCB1受容体を発現させた細胞を用いて検討を行った結果,陽性化合物CP-55,940と比較して弱い効果ではあったが,Δ9-THC-O-acetate, Δ8-THC-O-acetate, 11α-HHC, 11β-HHC及び11β-HHC-O-acetateはCB1受容体作用を有していることが確認された.11α-HHC-O-acetateのみ有意な受容体活性化は認められなかったが,動物実験において薬理作用の発現を認めることから,その活性には生体内における代謝の関与が示唆された.
⑦ アセチル化体4化合物のコンピューモデリング計算結果では,計算に用いたCB1受容体とカンナビノイド誘導体AM11542複合体中のAM11542と同様に結合し,その結合はCBDよりも強力であることが示唆された.
② THCOの含有を標榜するオイル状製品から,Δ8-THC-O-acetate,Δ9-THC-O-acetate,Δ4(8)-iso-THC-O-acetate,HHCOの含有を標榜するオイル状製品からは11β‐HHC-O-acetate,11α‐HHC-O-acetate,dihydro-iso-THC-O-acetateを検出・同定した.両製品から,マイナー成分(副生成物)Δ4(8)-iso-THC-O-acetateもしくはdihydro-iso-THC-O-acetateが検出されており,CBDを原料に合成された可能性が高いことが示唆された.
③ i) アセチル化体4化合物において,メタノール溶液ではGC-MS測定時及び室温保存時に一部脱アセチル化が認められたため,溶解溶媒はアセトニトリル及びヘキサンが望ましいと考えられた.ii) 市販のイムノクロマト法によるスクリーニングキット製品を用いて対象6化合物の検出を確認した結果,尿中代謝物を検出対象とした製品では高濃度でも陰性を示したが,唾液中大麻草成分を検出対象とした製品では,いずれの化合物も1-10 µg/mL以上の濃度で陽性を示した.iii) 天然由来カンナビノイド及び半合成カンナビノイド成分(アセチル化体を含む)計23成分について,LC-(QTOF)MS及びGC-(QTOF)MSによる一斉識別法を開発した.
④ ヒト肝臓ミクロゾームを用いて検討した結果,アセチル化体4化合物は酵素化学的に加水分解され,それぞれ,麻薬∆9-THC, ∆8-THC, および指定薬物11α-HHC, 11β-HHCを生成した.また,これらの反応には,少なくともヒト肝臓ミクロゾームのカルボキシエステラーゼが関与することが示唆された.
⑤ Δ9-THC-O-acetate, Δ8-THC-O-acetate, 11α-HHC, 11β-HHC, 11α-HHC-O-acetate及び11β-HHC-O-acetateを投与したマウスにおいて,いずれもカタレプシー様の無動状態及び体温下降作用の発現が確認された.これらの効果は,カンナビノイドCB1受容体拮抗薬AM251の前処置によって抑制され, CB1受容体が関与することが明らかになった.
⑥ ヒトカンナビノイドCB1受容体を発現させた細胞を用いて検討を行った結果,陽性化合物CP-55,940と比較して弱い効果ではあったが,Δ9-THC-O-acetate, Δ8-THC-O-acetate, 11α-HHC, 11β-HHC及び11β-HHC-O-acetateはCB1受容体作用を有していることが確認された.11α-HHC-O-acetateのみ有意な受容体活性化は認められなかったが,動物実験において薬理作用の発現を認めることから,その活性には生体内における代謝の関与が示唆された.
⑦ アセチル化体4化合物のコンピューモデリング計算結果では,計算に用いたCB1受容体とカンナビノイド誘導体AM11542複合体中のAM11542と同様に結合し,その結合はCBDよりも強力であることが示唆された.
結論
Δ9-THC-O-acetate,Δ8-THC-O-acetate,11α-HHC,11β-HHC,11α-HHC-O-acetate及び11β-HHC-O-acetateを摂取した場合,カンナビノイドCB1受容体が関与した薬理作用の発現が予測され,これらの化合物を乱用することにより健康被害の発生が危惧された.
公開日・更新日
公開日
2023-06-13
更新日
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