ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法の開発のための有害性評価および体内動態評価に関する基盤研究

文献情報

文献番号
200839007A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法の開発のための有害性評価および体内動態評価に関する基盤研究
課題番号
H18-化学・一般-007
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学大学院医学研究科 生体防御総合医学専攻 生体機能分子医学講座 分子毒性学)
  • 西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 環境衛生化学部)
  • 樋野 興夫(順天堂大学 医学部 病理 腫瘍学)
  • 新井 洋由(東京大学大学院薬学系研究科 薬学部 機能薬学 細胞生化学)
  • 涌生 聖(三菱化学メディエンス株式会社 鹿島事業所 安全性研究部)
  • 屋形 直明((財)化学物質評価研究機構 久留米事業所)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
  • 中澤 憲一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
68,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
産業用ナノマテリアルは新用途への展開が期待されている一方で、未知の有害性影響も予測され、物理化学的特性を考慮した有害性評価手法の開発が急務であり、高生産量のナノマテリアルを検証物質として評価法確立のための基盤研究を行うことを目的としている。
研究方法
20年度は、①in vivo研究:中皮腫誘発の用量依存性や分子マーカの作成、発がん性のメカニズム解析、②吸入試験法研究:気管内投与液における分散性の検討、③暴露測定法/動態解析研究:MWCNTの電子顕微鏡による確認法とC60の体内挙動、C60の土壌中の動態、 ④in vitro研究:TiO2の紫外線との複合効果、MWCNTによる神経細胞機能とリポソーム分散手法の違いによる差異等の検討、⑤国際動向調査: 19年度に引き続きOECDのナノマテリアル作業グループ(MNWP)等の動向調査を行った。
結果と考察
①p53(+/-)マウスへのMWCNTのip投与による中皮腫誘発がより低用量からの量依存性を示すことを確認すると共に、マウスの中皮腫マーカであるメソセリン抗体を作成した。一方、C60のip投与により腎臓の瘢痕状萎縮が誘発されることを示した。また、TiO2の発がんプロモーション作用にMIP1α増殖因子による肺胞上皮の増殖作用が関与することを明らかにした。②リポソームや血清タンパクによる気管内投与法の確立と共に、MWCNT気管内投与時の分散状態によってマクロファージによる貪食能に差が有る可能性を示した。③MWCNTの気管内投与後の肺における半定量的検出法を確立すると共に、C60の尾静脈投与により肝臓、肺および脾臓に優先的に蓄積することが明らかとなった。また、環境中ではC60の土壌中での生分解性は認められないことが示された。④アナターゼTiO2の光細胞毒性、MWCNTの神経系イオンチャネルやGLAST 機能への影響、リポソーム構成成分による炎症サイトカインの産生能の差異について知見を集積することができた。⑤OECDのMNWPでの代表的ナノマテリアルに関する初期評価文章作成計画に情報提供を行った。
結論
in vivo試験法研究では、長期体内残留による慢性影響研究や発現メカニズム研究を行うことが重要な課題であることを示すことができ、標的臓器の予測やメカニズム評価のための基盤的な技術として、体内動態やin vitro試験系等の技術において有用な知見を蓄積することができたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200839007B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法の開発のための有害性評価および体内動態評価に関する基盤研究
課題番号
H18-化学・一般-007
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学大学院医学研究科 生体防御総合医学専攻 生体機能分子医学講座 分子毒性学)
  • 西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 環境衛生化学部)
  • 西沢 共司(中央労働災害防止協会 日本バイオアッセイ研究センター試験管理部)
  • 一瀬 文雄((財) 化学物質評価研究機構 日田事業所 毒性学)
  • 屋形 直明((財) 化学物質評価研究機構 久留米事業所 分析化学)
  • 新井 洋由(東京大学大学院薬学系研究科 薬学部 機能薬学 細胞生化学 衛生化学)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
  • 中澤 憲一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
  • 涌生 聖(三菱化学メディエンス株式会社 鹿島事業所 安全性研究部)
  • 高月 峰夫((財)化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新用途への展開が期待されている産業用ナノマテリアルの物理化学的特性を考慮した有害性評価手法確立のための総合的な基盤研究を行うことを目的としている。
研究方法
対象ナノマテリアルとして、フラーレン(C60)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、酸化チタン(TiO2)を選び、in vivo生体影響評価手法の開発、ナノ粒子の吸入毒性評価手法の開発、暴露測定法および動態解析法の開発、in vitro試験系の開発に関する基盤的研究と国際動向調査を行った。

結果と考察
in vivo試験法研究では、MWCNTの腹腔内投与により、用量依存的に中皮腫が発生することを示すと共に、バイオマーカとしてマウスのメソセリン抗体を作成した。一方、C60の腹腔内投与による慢性的影響として腎臓への瘢痕状萎縮が引き起されること示した。経気管肺内噴霧法を用いてTiO2と C60に弱い発がんプロモーション作用でのあることを明らかにした。吸入試験法研究では、MWCNTのミスト暴露システムを開発したことに加え、MWCNTの気管内投与時の分散状態によって毒性発現の様式やマクロファージによる貪食能に差が有ることを示した。暴露測定法/動態解析研究では、C60やMWCNTの気管内投与による生体試料での定量的検出法を確立すると共に、体内分布としてC60の尾状脈投与では、肝臓、肺および脾臓に優先的に蓄積することやMWCNT気管内投与によりが肺以外の肝臓からも検出されることを示した。また、環境中ではC60は微生物や土壌中での生分解性は認められないことが示された。一方in vitro試験法研究では、遺伝毒性反応の検討や、Caco-2を用いたTiO2の細胞透過性、リポソーム懸濁C60暴露法の開発、MWCNTの神経系の細胞 機能への影響、リポソーム構成成分による炎症マーカーの差異等について知見を集積することができた。国際動向調査においては、OECDに設置された産業用ナノマテリアルの安全性に関する作業グループに関する情報を中心に収集した。
結論
in vivo試験法研究の結果より、長期体内残留による慢性影響研究や発現メカニズム研究を行うことが重要な課題であることを示すことができ、標的臓器の予測やメカニズム評価のための基盤的な技術として、体内動態やin vitro試験系等の試験技術において有用な知見を蓄積することができたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200839007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アスベスト様の形状の繊維状粒子を含む多層カーボンナノチューブが中皮腫誘発能を持つ可能性を腹腔内投与実験モデルを使用することによって、世界で初めて確認し、論文として公表した。さらに、分散が不完全な状態であっても、体内に長期間にわたって貯留されている場合は、ナノサイズに分散した粒子が体内で再分布することによって、腎障害などの慢性影響を示す可能性のあることも世界で初めて実証した。これらの成果は、ナノマテリアル研究において慢性影響を指標とした研究が極めて重要であることを示唆することとなった。
臨床的観点からの成果
ヒトにおいて、すでにナノマテリアルに暴露されている可能性のある事例等についての調査を行い、長期的な疫学的研究を今のうちから始めておくことは、慢性影響の検証研究として重要となることを示唆している。
ガイドライン等の開発
本研究の成果である多層ナノチューブの中皮腫誘発能に関する研究結果等を受けて開催された「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」における検討結果を踏まえ、平成21年3月31日に、厚生労働省労働基準局長通知として、「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」が都道府県労働局長と関係団体等に発行された。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果である多層ナノチューブの中皮腫誘発能に関する研究結果等を受けて、平成20年3月3日に厚生労働省労働基準局長と厚生労働省医薬食品局長の基に各々「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」と「ナノマテリアルの安全対策に関する検討会」が設置され、半年から1年の審議の後に、平成20年11月26日と平成21年3月31日に報告書がまとめられ、安全情報収集や暴露測定や有害性評価に関する研究の推進、国内外の様々な機関との連携の必要性が指摘されている。
その他のインパクト
本研究成果の一部である、多層ナノチューブの中皮腫誘発能に関する論文発表は、全国紙等の新聞にも取り上げられ、産・学・官・NGOから構成される国際的なナノテクノロジー会議のWebページにも特集として取り上げられた。さらに、国内外の様々な研究会や国際シンポジウムから講演の依頼を受けてきており、20年末の学術会議シンポジウムで、慢性影響と発がん性についての成果の発表が行われた。また、本研究班と他の同様の研究班の成果を中心として20年と21年の日本トキシコロジー学会学術年会でシンポジウムが企画された。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
78件
学会発表(国際学会等)
69件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takagi A, Hirose A, Nishimura T, et al.
Induction of mesothelioma in p53+/- mouse by intraperitoneal application of multi-wall carbon nanotube.
The Journal of Toxicological Science , 33 (1) , 105-116  (2008)
原著論文2
Sakamoto Y, Nakae D, Fukumori1 N, et al.
Induction of mesothelioma by a single intrascrotal administration of multi-wall carbon nanotube in intact male Fischer 344 rats.
The Journal of Toxicological Science , 34 (1) , 65-76  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-