障がい者の熱中症発生の実態に基づいた予防の支援方法に関する研究

文献情報

文献番号
202127017A
報告書区分
総括
研究課題名
障がい者の熱中症発生の実態に基づいた予防の支援方法に関する研究
課題番号
20LA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 横堀 將司(日本医科大学 大学院医学研究科救急医学分野)
  • 羽田 恵子(山田 恵子)(東京大学 医学部附属病院)
  • 硯川 潤(国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) 研究所 福祉機器開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害当事者および支援者に対して、熱中症予防・対策について現場のニーズに沿った情報を提供することを目的とし、実態調査・情報提供の方法検討と実施・熱中症予防手法の実用性検討を行う。
研究方法
① 障害者の熱中症問題の実態把握
熱中症救急搬送者のデータベースを解析する。また障害者利用施設を対象に熱中症発生の実態について郵送による調査を行う。
② 障害者にとって利用可能な熱中症対策方法の検討
熱中症予防に利用できる体温モニタリングデバイスを検討する。体温冷却機器の妥当性検証と仕様を決定し作成する。これらモニタリングデバイスと冷却器が熱中症予防に活用できるか、夏季期間でのイベントスポットにおいて検証を行う。
③ 当事者への情報伝達の実践とその課題の分析
当事者・支援者への情報伝達方法の検討を行い、伝達内容を確定する。情報伝達の実践とそのデータ収集する。
結果と考察
① 障害者の熱中症問題の実態把握
全国の障害者福祉施設888施設に郵送調査を行い、302施設より回答を得た(回答率34%)。過去1年の間に35%の施設で熱中症と思われる事例が発生しており、多くは5回以内であった(86%)が、10回以上との回答も見られた。病院受診は熱中症症状の3割で生じていた。
 障害内容として知的障害が多く、身体障害がそれに続いた。主な発生場所は屋内と屋外はほぼ同意頻度であり、異常に気付くのは本人よりも施設職員の事が多かった(65%)。体を動かしている状況での発生は43%であった。

② 障害者にとって利用可能な熱中症対策方法の検討
 頚部のみを冷却した場合と、頚部及び両側鼠径部を冷却した場合を比較すると、計測された最大吸熱率はそれぞれ24.5、29.9 W、10分間の総吸熱量は6.85、15.0 kJであった。また、単位面積当たりの総吸熱量は、それぞれ285、266 kJ/m2であった。このことから、デバイスとの接触面積を増加させることで,効率を落とすことなく冷却効果を増強できたことが分かる。
 クールスポットの調査では、頚部装着型のシステムを一般利用者に公開し、77%が装着感を心地よいと回答しており、54%で装着部以外の暑さの改善が感じられた。冷却強度や冷却器の形状についても、7割以上の協力者が現状に肯定的な回答であり、実用に向けての妥当性が確認された。

③ 当事者への情報伝達の実践とその課題の分析
熱中症い対応にあたる支援者への対処法の情報提供を目的いスマートフォンアプリを開発し、令和3年6月から一般公開を行った。プレスリリース等により周知することで、1219名のユーザー登録が得られた。 
その中では実際の熱中症報告は245件あり、障がい者の熱中症はその中の5.7%を占めていた。また、発症前の何かしらの身体症状があるmRS1-5は41例(20.1%)存在し、日常生活による発症が多かった。いわゆる日常生活に制限があるmRS3-5の症例は12例(4.8%)存在した。熱中症アプリの使用者は一般市民よりヘルスケアプロバイダーが多かった(34.1%)。
 熱中症発生における障害者の割合は救急搬送のデータベースでも、本研究で開発したアプリでの情報収集でも5%前後であった。また、その中で2割程度が身体活動に制約をもっている実態が明らかとなった。また、発生場面も屋外作業やスポーツ中に限らず、屋内でも屋外と同等の頻度で生じていることが分かった。障がい者は高齢者と並んで熱中症リスクの高い「熱中症弱者」として対応を考える必要があり、本研究はその現状を明らかにするものとなった。

 熱中症への対策としては体温のモニタリングの他に、早期の冷却が考えられる。特に夏季のイベントの場では体調不良者が生じる可能性があり、健常者も障がい者も利用可能な体温調節システムの整備が求められている。今回、頚部冷却型のシステムを開発し、その実用性を確認することができた。
結論
 障害者の熱中症予防について、実態調査、外出場面での予防法検討、実際の発生場面での情報提供の観点から研究を実施した。本研究で開発された熱中症対応支援アプリは研究終了後も運用され、支援と同時に発生のデータ収集の両面で障がい者の熱中症対策に寄与することが期待される。また、このアプリを入り口として、実際の発生時に対応に当たるヘルスケアプロバイダへの情報提供を行うことが有効と考えられる。さらに障害者の熱中症発生が予見される公共スペースや屋内作業場において、体温調節システムを活用することで熱中症予防が測れる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202127017B
報告書区分
総合
研究課題名
障がい者の熱中症発生の実態に基づいた予防の支援方法に関する研究
課題番号
20LA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 横堀 將司(日本医科大学 大学院医学研究科救急医学分野)
  • 羽田 恵子(山田 恵子)(東京大学 医学部附属病院)
  • 硯川 潤(国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) 研究所 福祉機器開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 熱中症は暑熱環境、本人の熱耐性、暑さへの対応行動、の複合的要因が重なって発生すると考えられ、高齢者だけでなく障害者も熱中症の発症リスクを高める要因を持っていると考えられる。障害者はその背景疾患により多様であり、一般的な予防策の他、どのような点に注意が必要なのか不明な点が多い。また、これまで実際にどのような場面で障害者が熱中症を発症しているかの実態も不明であるため、現状で障害者を対象として提供されている熱中症予防の呼びかけ・情報提供がどの程度実際の発生に対して有効かについては不明である。
 本研究の目的は、障害者において熱中症発症のリスクの高い状態を明らかにし、そのリスク軽減に必要な情報を障害当事者あるいは支援者に届けることで、夏季の暑熱環境下において障害者当事者が安心して生活することを支援することである。
研究方法
(1)障害者の熱中症問題の実態把握
 障害者における熱中症の問題が現状でどのようになっているか、何が改善すべき問題なのかについて明らかにするため情報収集を行う。
(2)障害者にとって利用可能な熱中症対策方法の検討
 熱中症に対する予防法について、障害者の障害特性や(1)で得られた熱中症発生状況を踏まえたうえで、どのような方法が有効なのかを明らかにする。
(3)当事者への情報伝達の実践とその課題の分析
 (1)で得られた予防上の課題と(2)で得られた予防に利用可能な情報を、障害当事者の日常生活に伝える方法と注意点を実践を通じて検討する。
 クールスポットの実施:イベント等に合わせて来訪者に対する暑熱対策目的のスペース(クールスポット)を企画する自治体・企業と連携し、本研究で得られた情報の提示、(2)①―2の冷却システムの実践を行う。来訪者からはクールスポットの満足度と冷却システムの使用感を聞き取る。
結果と考察
1)障害者の熱中症問題の実態把握
データベースの解析では、日常生活に何らかの不自由を持つ人の割合は5%であることが明らかとなった。さらに発生状況をみると82%が日常生活中での発生であり、また38%は屋内での発生であることが分かった。福祉利用施設での現状についての郵送調査では全国の障害者福祉施設888施設に郵送調査を行い、302施設より回答を得た(回答率34%)。
(2)障害者にとって利用可能な熱中症対策方法の検討
頚部に特殊構造を持つマフラーを装着し、マフラー内を冷却水が循環することで熱交換による体下げる機器を開発した。 
(3)当事者への情報伝達の実践とその課題の分析
当事者ならびに支援者への情報伝達の手段として、WEBサイトよりもスマホアプリの方が効率的と考え、スマートフォンアプリをベースに、医療従事者でない支援者でも使用でき、さらに熱中症発症者の障害状況についても入力可能な仕様でアプリを作成した。プレスリリース等により周知することで、1219名のユーザー登録が得られた。 
その中では実際の熱中症報告は245件あり、障がい者の熱中症はその中の5.7%を占めていた。また、発症前の何かしらの身体症状があるmRS1-5は41例(20.1%)存在し、日常生活による発症が多かった。いわゆる日常生活に制限があるmRS3-5の症例は12例(4.8%)存在した。熱中症アプリの使用者は一般市民よりヘルスケアプロバイダーが多かった(34.1%)
一方、夏季にクールスポットの開設を予定している東京ガスと連携し、夏季の大会開催期間中に頚部冷却型の実機を設置して一般の利用者から使用データを収集した。
 
 今回の調査研究によって障がい者の熱中症の実態が明らかとなった。熱中症発生における障害者の割合は救急搬送のデータベースでも、本研究で開発したアプリでの情報収集でも5%前後であった。また、その中で2割程度が身体活動に制約をもっている実態が明らかとなった。また、発生場面も屋外作業やスポーツ中に限らず、屋内でも屋外と同等の頻度で生じていることが分かった。

 本研究では、健常者および障がい者の熱中症発生のデータを継続的に蓄積していくことを念頭に、熱中症対応支援アプリを開発し、リリースすることができた。本アプリを通じて、熱中症の現場に遭遇した支援者が対処法についての情報を得ることができるよう構築されている。今後、支援者への情報提供が進むと同時に全体の動向についてデータが蓄積していくことが期待される。
結論
 障害者における熱中症は屋内でも多く発生しており、多くは支援者がその対応にあたっている。こうしたヘルスケアプロバイダや支援者がスマートフォンアプリを活用する状況を整備することで、熱中症症状の発生現場に必要な情報を提供できると同時に、熱中症事例の発生状況をモニタリングすることができる。

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202127017C

収支報告書

文献番号
202127017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
2,975,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,025,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,908,851円
人件費・謝金 623,746円
旅費 59,518円
その他 383,565円
間接経費 0円
合計 2,975,680円

備考

備考
自己資金 680円

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-