文献情報
文献番号
202126005A
報告書区分
総括
研究課題名
ガス状優先評価化学物質の長期毒性評価の迅速化・高度化に資する短期小規模吸入曝露評価系の開発に関する研究
課題番号
20KD1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
17,355,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
スクリーニング評価の結果得られた、化審法の規制区分「優先評価化学物質」には、長期毒性試験の情報が無いために、長期曝露時のヒトへの健康影響を判定できない物質が多数存在する。この理由として、長期試験に要する多大な労力とコスト高が挙げられる。加えてガス状物質については評価の際に、吸入曝露による長期試験情報が必要となるが、吸入曝露の場合、経口の場合よりもさらに労力とコストがかかり、特にその有害性評価の迅速化・高度化が求められている。実際「優先評価化学物質」にはガス状物質(揮発性有機化合物:VOC)が数多く存在し、また国際がん研究機関 (IARC) によりヒトに対する発がん性が認められると分類される物質(ホルムアルデヒド等)も含まれることからも、当該VOCの吸入曝露による長期毒性評価の迅速化は喫緊の課題である。さらに長期曝露により中枢影響が重篤なVOC(トルエン等)も含まれ、中枢への影響評価の観点も重要となる。
一方、我々は平成17年より、シックハウス症候群(SH)対策に向けたハザード評価研究を実施してきた。ここでは、ホルムアルデヒド等のSH関連物質について指針値レベルの極低濃度下、7日間の短期間小規模の動物実験を行い、肺、肝、脳の遺伝子発現変動を高精度に測定し分析し(Percellome法)、毒性予測を行ってきた経験と実績があり、SHに関する毒性試験情報をヒトへ外挿することの困難さを克服し得ることを明らかにしてきた。また中枢影響も予測して実際に情動認知行動にて実証し、その分子機序に関わる共通因子を推定している。しかし高濃度下での吸入曝露の場合、本手法により長期毒性の予測が可能かは不明である。
そこで独自開発の短期間小規模のハザード評価手法を、ガス状「優先評価化学物質」に適用し、①吸入曝露時の肺、肝、海馬の遺伝子発現データを取得、解析し、②肺、肝、海馬の毒性連関性を確認し、③情動認知行動解析と神経科学的所見による中枢影響及び、④当該物質の長期毒性評価の迅速化・高度化に資する評価系となり得るかを検討する。
一方、我々は平成17年より、シックハウス症候群(SH)対策に向けたハザード評価研究を実施してきた。ここでは、ホルムアルデヒド等のSH関連物質について指針値レベルの極低濃度下、7日間の短期間小規模の動物実験を行い、肺、肝、脳の遺伝子発現変動を高精度に測定し分析し(Percellome法)、毒性予測を行ってきた経験と実績があり、SHに関する毒性試験情報をヒトへ外挿することの困難さを克服し得ることを明らかにしてきた。また中枢影響も予測して実際に情動認知行動にて実証し、その分子機序に関わる共通因子を推定している。しかし高濃度下での吸入曝露の場合、本手法により長期毒性の予測が可能かは不明である。
そこで独自開発の短期間小規模のハザード評価手法を、ガス状「優先評価化学物質」に適用し、①吸入曝露時の肺、肝、海馬の遺伝子発現データを取得、解析し、②肺、肝、海馬の毒性連関性を確認し、③情動認知行動解析と神経科学的所見による中枢影響及び、④当該物質の長期毒性評価の迅速化・高度化に資する評価系となり得るかを検討する。
研究方法
モデル物質としてガス状「優先評価化学物質」を中心に据え、極低濃度下での独自データを取得済みのSH関連物質や国際的な発がん性分類(IARC分類)を参照し選択した物質につき7日間吸入曝露実験を実施し、同一個体の肺、肝、海馬の網羅的遺伝子発現プロファイルを取得し、多臓器連関の解析及びデータベース化を行う。これと並行し、吸入曝露後の高精度な情動認知行動解析の実施と神経科学的所見による中枢影響の確認を行う。曝露濃度は、長期吸入曝露実験において病理組織学的な変化が観察されない最大の濃度程度とし、この濃度選択の際、SHレベルの10倍程度の濃度も考慮する。
結果と考察
令和2年度は、ホルムアルデヒド (0、1、3及び10 ppm)について22時間/日×7日間反復吸入曝露を実施し遺伝子発現変動を網羅的に解析した結果、肺と肝ではサイトカインシグナルを介する炎症、また概日リズムの乱れを示唆する所見が得られ、他方、海馬では海馬神経活動の活性化を示唆する所見が得られた。他方、成熟期マウスに、ホルムアルデヒド(3 ppm)を反復吸入曝露(7日間)し、情動認知行動解析を実施した結果、空間-連想記憶及び音-連想記憶の低下が、曝露直後は認められなかったが、曝露3日後では有意に認められ、これらの低下は遅発性の影響であることが示唆された。
令和3年度は、キシレン(0、2、7及び20 ppm)について22時間/日×7日間反復吸入曝露(16群構成、各群3匹)を実施し遺伝子発現変動を網羅的に解析した結果、肺では酸化的ストレス及びサイトカインシグナルを介する炎症を示唆する所見が得られ、他方、肝では有害姓を示唆する所見は得られなかった。海馬については解析中で、今後、他臓器連関解析とあわせ実施する。他方、成熟期マウスに、キシレン(20 ppm)を反復吸入曝露(7日間)し情動認知行動解析を実施した結果、不安の亢進及び空間-連想記憶の低下が、曝露直後は認められなかったが、曝露3日後では有意に認められ、これらの低下は遅発性の影響であることが示唆された。
令和3年度は、キシレン(0、2、7及び20 ppm)について22時間/日×7日間反復吸入曝露(16群構成、各群3匹)を実施し遺伝子発現変動を網羅的に解析した結果、肺では酸化的ストレス及びサイトカインシグナルを介する炎症を示唆する所見が得られ、他方、肝では有害姓を示唆する所見は得られなかった。海馬については解析中で、今後、他臓器連関解析とあわせ実施する。他方、成熟期マウスに、キシレン(20 ppm)を反復吸入曝露(7日間)し情動認知行動解析を実施した結果、不安の亢進及び空間-連想記憶の低下が、曝露直後は認められなかったが、曝露3日後では有意に認められ、これらの低下は遅発性の影響であることが示唆された。
結論
引き続き、多臓器連関を含む本解析結果と、先行研究であるSH対策に向けたハザード評価研究における、指針値レベルの極低濃度下での吸入曝露の際の解析結果との比較し、当該物質の長期毒性評価の迅速化・高度化に資する評価系としての妥当性につき検討する。
本手法は、吸入曝露による短期小規模動物試験に遺伝子発現解析と情動認知行動解析とを組み合わせ、既に構築したデータベースとの照合により格段に高いスループット性を発揮するものであり、本評価系の開発を通し、長期毒性試験情報のないガス状「優先評価化学物質」の長期毒性評価の迅速化・高度化への活用に寄与することが期待される。
本手法は、吸入曝露による短期小規模動物試験に遺伝子発現解析と情動認知行動解析とを組み合わせ、既に構築したデータベースとの照合により格段に高いスループット性を発揮するものであり、本評価系の開発を通し、長期毒性試験情報のないガス状「優先評価化学物質」の長期毒性評価の迅速化・高度化への活用に寄与することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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