エイズ動向解析に関する研究

文献情報

文献番号
202120001A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ動向解析に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
羽柴 知恵子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科 )
  • 椎野 禎一郎(国立国際医療研究センター 臨床研究センター データサイエンス部)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,355,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の新規HIV感染者及びエイズ患者(以下感染者等)の報告数は約1,500件と横ばいで、エイズ発症率は約3割で減少が認められない。新規感染者等数の抑制と早期診断による予後改善には、現在の施策層の主流であるMSM以外の層に対する正しい疾病知識の普及啓発が必要であることが予想される。
 本研究では、新規感染症例は従来の施策対策層とは異なる集団への普及啓発不足によりHIV感染が判明し、医療機関を受診したという仮説を立てた。そして以下の3つの具体的な目的(SA)のために研究を行った。
SA1:当院に新規未治療で受診となった患者の臨床・社会・ウイルス情報を取得
SA2:遺伝子情報からクラスタ解析を行ってクラスタの同定
SA3:従来の対策層(検査会受検者)情報とクラスタ情報を患者情報と比較
これにより、啓発の新たな標的を推定し、有効な普及啓発を検討することを目的とする。
研究方法
本研究では名古屋医療センター通院中の患者の位置情報(現住所および出会いの場)を患者属性および既知の伝播クラスタ(TC)データベースを新規患者の塩基配列で検索できるプログラム"SPHNCS"を用いて、国内伝播クラスタ(dTC)の同定を行うことで、現在の啓発活動が行き届いていない層の推定を試みた。
2018年9月〜2021年12月まで当院受診時未治療患者(以下患者)163人を対象とし、当科初診時に自己回答式アンケートを配布し、回答を得た。また検査会受検者(以下受検者)についてはコロナ禍で検査会が中止となってしまったため、2019年5月に行われた検査会受検者のデータを使用した。
 クラスタのデータは2003年から21年上半期に名古屋医療センターと名古屋医療センターに薬剤耐性検査を依頼している東海地方の医療機関に来院した新規HIV感染者から採取されたウイルスのpol領域(HXB2:2253-3260)の塩基配列から、HIV薬剤耐性班で解析したdTC同定ツールSPHNCSを用いてdTCを同定した。2016年~19年の東海地方由来の新規感染者の動向が注目されるdTCについて、その性状の詳細分析、時間系統樹の推定と臨床へのデータ還元を行った。
 平成30年度、令和元年度に実施した名古屋市無料検査会受検者質問紙調査データから、有効な普及啓発のあり方について検討を行った。
結果と考察
163人の患者および723人の検査会受検者の位置情報を利用した。年齢及び性指向で両群に有意差が認められた。エイズ期で診断された患者は名古屋市郊外および岐阜県南部に集積している傾向が認められた。また直近で性交渉を行った相手との出会いの場は属するクラスタに関わらず名古屋市中心部に集積が認められた。東海地方では、2017年以降に3つのdTCが若年層を中心に急速に増加したが、2020-2021年はCOVID-19感染拡大の影響でこれらの増加が鈍り、孤発例の報告が多い等パンデミック下でのHIV流行や検査動機に質的変化が起きている可能性が示唆された。アウトブレイクや検査で捕捉されていない感染者を含む可能性のあるdTCが継続的に観察され、これらが東海地方hard-to-reach層を形成していることが示唆された。またどのクラスタにも所属しないsingleton患者の現住所はむしろ名古屋市中心部には集積していなかった。以上より、従来の名古屋市中心部の啓発活動に加えて、名古屋市全体及び岐阜県との県境に行うことが有効であることが示唆された。
また、令和2年度、令和3年度は新型コロナ感染症の拡大により検査会は実施できなかったことから、平成30年度、令和元年度に実施した検査会のデータの解析を行った。検査会の情報を得た広報ツールとしては、20歳代はSNSと出会い系アプリを挙げていた。郵送検査・自宅検査を希望する人は回答者600人のうち、4割を超えていた(42.7%)。郵送検査の利用希望者のほうがバイセクシュアルの割合が高く、高年収者の割合が高く、コンドーム常用割合が高かった。
結論
1.今後はsingletonの情報をより多く解析することで新たな啓発必要地域が候補に上がる可能性がある。
2.GIS解析や社会学的調査との関連性を調査できれば、アウトブレイクやhard-to-reachのリスク因子について解析が可能となり、感染者の特徴の理解を通じて、行政の対策に寄与することが期待できる。
3.最も性行動が活発な20歳代に届く予防啓発、検査普及メッセージのアウトリーチのためには、位置情報付きの出会いアプリ広告に加えSNSの活用は重要になる.
4.新型コロナ感染症拡大前においても郵送検査の利用の希望割合は4割を超えており、MSMにおける一つの検査オプションとなる.

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202120001B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ動向解析に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
羽柴 知恵子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 金子 典代(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院看護学研究科 )
  • 椎野 禎一郎(国立国際医療研究センター 臨床研究センター データサイエンス部)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規感染者等数の抑制と早期診断による予後改善には、現在の施策層の主流であるMSM以外の層に対する正しい疾病知識の普及啓発が必要であることが予想される。
本研究では、新規感染症例は従来の施策対策層とは異なる集団への普及啓発不足によりHIV感染が判明し、医療機関を受診したという仮説を立てた。以下の3つの目的(SA)のために研究を行った。
SA1:名古屋医療センター(以下当院)に新規未治療で受診となった患者の臨床・社会・ウイルス情報を取得
SA2:遺伝子情報からクラスタ解析を行ってクラスタの同定
SA3:従来の対策層(検査会受検者)情報とクラスタ情報を患者情報と比較
これにより、啓発の新たな標的を推定し、有効な普及啓発を検討することを目的とする。
研究方法
本研究では当院通院中の患者の位置情報(現住所および出会いの場)を患者属性および既知の伝播クラスタ(TC)データベースを新規患者の塩基配列で検索できるプログラム"SPHNCS"を用いて、国内伝播クラスタ(dTC)の同定を行うことで、現在の啓発活動が行き届いていない層の推定を試みた。
2018年9月〜2021年12月まで当院受診時未治療患者(以下患者)163人を対象とし、当科初診時に自己回答式アンケートを配布し、回答を得た。また検査会受検者(以下受検者)についてはコロナ禍で検査会が中止となってしまったため、2019年5月に行われた検査会受検者のデータを使用した。市区町村までのポイントデータはそれぞれの役所の所在地で表示される。得られたデータはArcMap ver10.8(ESRI)で描写した。統計学的有意差は、p<0.05で有意差ありとした。連続変数はKruskal-Wallis検定を行い、名義変数に対してはχ2乗検定を行った。統計解析はStata(ver15.0)にて行った。ベースマップは2次医療圏マップを使用した。
平成30年度、令和元年度に実施した受検者質問紙調査データから、有効な普及啓発のあり方について検討を行った。
結果と考察
対象患者163人および723人の検査会受検者の位置情報を利用した。年齢及び性指向で両群に有意差が認められた。エイズ期で診断された患者は名古屋市郊外および岐阜県南部に集積している傾向が認められた。また直近で性交渉を行った相手との出会いの場は属するクラスタに関わらず名古屋市中心部に集積が認められた。啓発活動は患者が多い名古屋市中心部繁華街に当事者団体によって行われている。これは患者数および出会いの場の地図情報と合わせてみると啓発活動のターゲットにフィットしていることが予想された。しかし、岐阜県南部(愛知県との県境)にエイズ期で診断された患者の集積が認められたことを考えると、啓発活動がその地域には不十分である可能性がある。                                                            
東海地方では、2017年以降に3つのdTCが若年層を中心に急速に増加したが、2020-2021年はCOVID-19感染拡大の影響でこれらの増加が鈍り、孤発例の報告が多い等パンデミック下でのHIV流行や検査動機に質的変化が起きている可能性が示唆された。アウトブレイクや検査で捕捉されていない感染者を含む可能性のあるdTCが継続的に観察され、これらが東海地方hard-to-reach層を形成していることが示唆された。またどのクラスタにも所属しないsingleton患者の現住所はむしろ名古屋市中心部には集積していなかった。以上より、singletonであった患者は啓発活動が行きわたっていない層であることが予想される。従来の名古屋市中心部の啓発活動に加えて、名古屋市全体及び岐阜県との県境に行うことが有効であることが示唆された。
検査会の情報を得た広報ツールとしては、SNSと出会い系アプリを挙げていた。郵送検査・自宅検査を希望する人は回答者600人のうち、4割を超えていた。郵送検査の利用希望者のほうがバイセクシュアルの割合が高く、高年収者の割合が高く、コンドーム常用割合が高かった。
結論
1.singletonの情報をより多く解析することで新たな啓発必要地域が候補に上がる可能性がある。
2.GIS解析や社会学的調査との関連性を調査できれば、アウトブレイクやhard-to-reachのリスク因子について解析が可能となり、感染者の特徴の理解を通じて、行政の対策に寄与することが期待できる。
3.予防啓発、検査普及メッセージのアウトリーチのためには、位置情報付きの出会いアプリ広告に加えSNSの活用は重要になる.
4.新型コロナ感染症拡大前においても郵送検査の利用の希望割合は4割を超えており、MSMにおける一つの検査オプションとなる.

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202120001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アウトブレイクや検査で捕捉されていない感染者を含む可能性のあるdTCが継続的に観察され、これらが東海地方hard-to-reach層を形成していることが示唆された。またどのクラスタにも所属しないsingleton患者の現住所はむしろ名古屋市中心部には集積していなかった。以上より、従来の名古屋市中心部の啓発活動に加えて、名古屋市全体及び岐阜県との県境に行うことが有効であることが示唆された。今後はsingletonの情報をより多く解析することで新たな啓発必要地域が候補に上がる可能性がある。
臨床的観点からの成果
GIS解析や社会学的調査との関連性を調査できれば、アウトブレイクやhard-to-reachのリスク因子について解析が可能となり、感染者の特徴の理解を通じて、行政の対策に寄与することが期待できる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
GIS解析や社会学的調査との関連性を調査できれば、アウトブレイクやhard-to-reachのリスク因子について解析が可能となり、感染者の特徴の理解を通じて、行政の対策に寄与することが期待できる。
その他のインパクト
最も性行動が活発な20歳代に届く予防啓発、検査普及メッセージのアウトリーチのためには、位置情報付きの出会いアプリ広告に加えSNSの活用は重要になることが考えられた。新型コロナ感染症拡大前においても郵送検査の利用の希望割合は4割を超えており、MSMにおける一つの検査オプションとなることが示された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Chieko Hashiba · Mayumi Imahashi · Junji Imamura et al
Factors Associated with Attrition: Analysis of an HIV Clinic in Japan
Journal of Immigrant and Minority Health  (2021)
原著論文2
今橋真弓、金子典代、高橋良介 他
名古屋市無料匿名性感染症検査会受検者における性感染症既往認識と検査結果
日本性感染症学会誌  (2020)

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
2024-06-07

収支報告書

文献番号
202120001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,360,000円
(2)補助金確定額
4,360,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,419,854円
人件費・謝金 0円
旅費 23,440円
その他 911,706円
間接経費 1,005,000円
合計 4,360,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-04-11
更新日
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