失語症の障害特性を考慮した適切な障害認定基準の作成に関する調査研究

文献情報

文献番号
202118030A
報告書区分
総括
研究課題名
失語症の障害特性を考慮した適切な障害認定基準の作成に関する調査研究
課題番号
20GC2002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
三村 將(慶應義塾大学 医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 種村 純(川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,031,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
失語症は脳血管障害や頭部外傷、神経変性疾患をはじめ、さまざまな病因によって生じる代表的な高次の神経機能障害であり、現行の保険福祉制度のもとでは身体障害者手帳の対象疾患である。
言語は人間にとってもっとも重要なコミュニケーションの手段であり、言語が障害される失語症者においては、当然ながら対人コミュニケーションを含めた日常生活や社会生活が大きく障害される。当事者および家族の生活困難度・困窮度も大きいと考えられる。しかしながら、失語症は身体障害者障害程度等級表においては、「音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害」に分類されるが、この障害領域は他の身体障害領域とは質的に大きく異なっている。
本研究では、現行の失語症者の障害程度区分が妥当であるかについて、改めて検討することを目的とする。
研究方法
失語症を有する成人およびその介護者へ質問紙を用いて、失語症による日常生活や社会参加への困難さを聴取し、失語症の重症度や知的機能、注意や記憶などの認知機能、発症からの年数などの個別要因などの因子によってどのように影響を受けているのかを多変量解析の手法を用いて明らかにする。
データ収集からデータ解析までの過程を迅速化するため、被検者のデータと質問紙への回答をタブレットに直接入力し、データをExcelファイルにエクスポートできるアプリの開発を行った。
結果と考察
これまでの約70名の研究参加者は運動麻痺がほとんどないか、あっても軽度であり、失語症の重症度は中~軽度であった。失語症者は言語障害のみであり、知的機能や注意・記憶機能には問題はなかった。約3割の失語症者が身体障害者手帳を取得しており、約半数の失語症者が一般就労を含め何らかの就労をしていた。つまり、半数以上は退職後を含め就労しておらず、介護サービスの利用もほとんどしていなかった。
これまでの失語症者のQOLは比較的高く、身体機能には問題ないが、疲労感によって休憩を要したり、やりたいことができないと感じたりしていることが明らかとなった。社会参加の程度は、家庭内の家事に携わることはあっても友人との外出や趣味、金銭管理は相対的にしておらず、仕事やボランティアはさらに行っていなかった。社会参加の阻害因子としては、必要なときに必要な助けが得られないことが考えられた。
結論
目標症例数は200例であり、現在のところ約30%達成している。これまでの研究参加登録者は運動麻痺がないか、あってもごく軽度なものに限られているが、失語症の重症度は中度~軽度である。平均年齢が60歳を超えており、退職後の失語症者が多い。これらの失語症者ではQOLは比較的高いものの、社会参加の程度は低い。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118030B
報告書区分
総合
研究課題名
失語症の障害特性を考慮した適切な障害認定基準の作成に関する調査研究
課題番号
20GC2002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
三村 將(慶應義塾大学 医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 種村 純(川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
失語症者のQOL、社会参加、社会参加の阻害因子に関する質問紙評価を行った。これまでの63名の研究参加登録者は、知的機能や注意・記憶機能の保たれた軽度~中等度の失語症であり、運動麻痺がないかもしくはあっても軽度の成人患者である。失語症者の平均年齢は60歳を超え、退職者が多いが、介護サービスの利用は少ない。これらの患者では、QOLは比較的高いものの、社会参加は家庭内の家事にとどまり、趣味や友人との外出の機会や労働あるいはボランティアの機会は少ない。今後、200例を目標症例数として、主に退職前の重度失語症者を含む研究協力者を募り、失語症者および介護者の質問紙回答から生活機能制限と福祉ニーズ・福祉サービス利用の実態を明らかにする。最終的には、最新の医学的知見と各種要望等を踏まえた身体障害者認定基準見直しの具体案を提言するとともに、障害福祉データの利活用を推進することを目的とする。
研究方法
失語症を有する成人およびその介護者へ質問紙を用いて、失語症による日常生活や社会参加への困難さを聴取し、失語症の重症度や知的機能、注意や記憶などの認知機能、発症からの年数などの個別要因などの因子によってどのように影響を受けているのかを多変量解析の手法を用いて明らかにする。これまでの数少ない失語症者のQOLや社会参加についての研究では、失語症者の職業復帰率は低く、17.7%と報告されている(佐藤ら,1987)。ただし、復職に影響するものは上肢機能であり、失語症よりも身体障害によって就労が困難になっていることが示された。また、軽度から中等度の失語症者の社会参加、環境因子、健康関連QOLを調べた研究では、失語症は健康QOLのみ関連し、社会参加はむしろ身体機能による影響を受けることが報告されている(大畑と吉野,2015)。しかし、研究対象は重度の失語症者を含まず、症例数も限られていたために失語症による社会参加の低下が示されなかったと考えられる。一方、失語症者では 発症前後で対人交流の推定人数は10分の1程度に減少することが示されている(船山と中川, 2016)。そのため、失語症による社会参加の度合いや復職への影響を調べるには、重度失語症、運動麻痺の少ない失語症者へQOLや日常生活上の困難さの指標となる評価および質問紙を実施する必要がある。
結果と考察
現在までの研究参加登録者は63名であった。被検者の年齢は23歳~85歳、男性45名女性18名である。失語症を発症して平均30.4 (SD: 40.91) ヶ月経過している。失語症の原因疾患は脳梗塞38例、脳出血16例、くも膜下出血5例、頭部外傷3例、その他1例、失語症のタイプはBroca失語11例、Wernicke失語22例、伝導失語5例、超皮質性感覚失語1例、健忘失語16例、その他8例、失語症の重症度は、流暢性失語タイプがほとんどであり、失語症の重症度は概ね中等度~軽度であった。被検者の約7割は、身体障害者手帳を取得していないが、17例は手帳を取得していた。就労状況については、就労している被検者が29例、就労していない被検者が17例、退職後が16例であり、半数以上が就労という主な社会参加はしていない状況であった。介護サービスの利用は低く、約8割は利用しておらず、11例がデイサービスやデイケア、訪問リハビリを利用していた。認知機能においては、明らかな認知機能低下を認めなかった。これまでの約70名の研究参加者は運動麻痺がほとんどないか、あっても軽度であり、失語症の重症度は中~軽度であった。失語症者は言語障害のみであり、知的機能や注意・記憶機能には問題はなかった。約3割の失語症者が身体障害者手帳を取得しており、約半数の失語症者が一般就労を含め何らかの就労をしていた。つまり、半数以上は退職後を含め就労しておらず、介護サービスの利用もほとんどしていなかった。これまでの失語症者のQOLは比較的高く、身体機能には問題ないが、疲労感によって休憩を要したり、やりたいことができないと感じたりしていることが明らかとなった。社会参加の程度は、家庭内の家事に携わることはあっても友人との外出や趣味、金銭管理は相対的にしておらず、仕事やボランティアはさらに行っていなかった。社会参加の阻害因子としては、必要なときに必要な助けが得られないことが考えられた。
結論
目標症例数は200例であり、現在のところ約30%達成している。これまでの研究参加登録者は運動麻痺がないか、あってもごく軽度なものに限られているが、失語症の重症度は中度~軽度である。平均年齢が60歳を超えており、退職後の失語症者が多い。これらの失語症者ではQOLは比較的高いものの、社会参加の程度は低い。また、今後、失語症者の介護者による評価結果も解析を行う。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
2024-05-20

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで得られた運動麻痺のない(もしくはあってもごく軽度の運動麻痺を伴う)軽度~中等度失語症者63名のデータから、約70%の失語症者が身体障害者手帳を取得していないことがわかった。また、50%以上が主な社会参加である就労はしていない状況であった。失語症の身体障害認定基準が3級と4級であることから、軽度失語症者に対して、身体障害認定に5級あるいは、それに相当する社会参加に必要な社会的支援サービスが求められていることが示唆された。今後は中等度~重度失語症の症例についても検討していく。
臨床的観点からの成果
これまで得られた運動麻痺のない(もしくはあってもごく軽度の運動麻痺を伴う)軽度~中等度失語症者63名への質問紙回答から、健康関連QOLは比較的高く、社会参加の程度は家庭内での家事への参加は比較的高い反面、レジャーなどの外出や就労などの生産性が低いことがわかった。また、社会参加を阻害する要因として、地域・社会での援助やサービスが得られにくいことが明らかとなった。今後は重度失語症者を含む症例数を増やして検討する。
ガイドライン等の開発
これまで得られた運動麻痺のない(もしくはあってもごく軽度の運動麻痺を伴う)軽度~中等度失語症者63名のデータから、失語症の身体障害認定に5級あるいは、それに相当する社会参加に必要な社会的支援サービスが求められていることが示唆された。身体障害5級に相当する失語症の認定基準について、今後他の身体障害認定を受ける他の疾患との比較検討が必要である。
その他行政的観点からの成果
今後も失語症者の症例数を増やし、失語症者の身体障害認定の現状、就労を主とした社会参加状況、QOL、必要とする社会福祉サービスを明らかにすることが期待される。
その他のインパクト
これまでの失語症者に対する全国的調査報告は数例のみである。今後、本研究の結果を高次脳機能障害学会にて発表するほか、日本言語聴覚士協会を通して全国失語症友の会へ広く報告する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202118030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,150,000円
(2)補助金確定額
6,150,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,953,029円
人件費・謝金 1,422,091円
旅費 45,710円
その他 310,170円
間接経費 1,419,000円
合計 6,150,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-03-22
更新日
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