文献情報
文献番号
202117008A
報告書区分
総括
研究課題名
併存疾患に注目した認知症重症化予防のための研究
課題番号
21GB1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
- 小島 太郎(東京大学大学院医学系研究科)
- 亀山 祐美(梅田 祐美)(東京大学医学部附属病院 認知症センター)
- 田村 嘉章(東京都健康長寿医療センター)
- 堀江 重郎(順天堂大学大学院 医学研究科 泌尿器外科学)
- 山口 泰弘(自治医科大学附属さいたま医療センター 呼吸器内科)
- 山本 浩一(大阪大学 医学系研究科 老年・総合内科学)
- 海老原 孝枝(杏林大学 医学部)
- 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
- 石川 譲治(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 循環器内科)
- 松原 全宏(東京大学医学部附属病院)
- 八木 浩一(東京大学 医学部 医学系研究科 消化管外科学)
- 溝神 文博(国立長寿医療研究センター 薬剤部)
- 仲上 豪二朗(東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
11,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
加齢に伴い併存疾患と薬剤数は増加し、認知症者も同様だと考えられるが、実態はよくわかっていない。また、糖尿病、高血圧は認知症者の管理手法が議論され、指針化されているがそれ以外の疾患ではない。認知症者に対する過少医療も懸念される。外科手術や急性疾患治療では認知症のために治療できないことも経験する。手術や化学療法に伴い認知症の重症度はどの程度進行するのか、また、せん妄や転倒などの有害事象はどの程度発生するか、低侵襲手術や多職種によるチーム医療が導入された最先端の医療現場で検証する必要がある。そこで本研究では、「認知症者の併存疾患管理の手引き」の作成をゴールとして、必要な調査研究と文献検索を行った。
研究方法
研究1.認知症者の併存疾患と治療・管理の実態調査(認知症疾患医療センター、老年科、老健施設、地域(呉市医療レセプト調査))多施設データベースの作成を行い、認知症病型・重症度別に、併存疾患、疾患指標(血圧、HbA1c等)、薬剤、慎重投与薬PIM等について解析を行う。
研究2. 認知症者の併存疾患
高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、心疾患、食道・胃癌、大腿骨頚部骨折(東京大学)、泌尿器科の診療データベースないし前向き登録から65歳以上を各200名集積し、
併存疾患毎に認知症頻度・重症度、併存疾患の治療・管理(治療薬、術式等)を調査し、認知症の存在と重症度(MMSE,HDS-R、Barthel Index等)が疾患管理に与える影響を解析する。
研究3.認知症者の外科手術・肺炎入院の調査
胃癌・食道癌の手術症例(100名)、大腿骨近位部骨折症例(100名)、肺炎で入院した症例(計150名)の手術前後(入院前ないし入院時と退院時)および肺炎前後(入院前と退院時)の認知症重症度(認知機能はMMSE,FAST等、ADLはBarthel Index、BPSDはDBD13)、入院中の有害事象(せん妄、転倒・転落等)、併存疾患等について解析する。
研究4.処方適正化による入院認知症高齢者の処方変化
処方適正化ツール(Japan-FORTA)とPIMリスト(老年医学会)を用いて、併存疾患の治療薬を含む処方適正化介入研究を行う。
研究5.「認知症者の併存疾患管理の手引き」を作成のための文献調査
研究2. 認知症者の併存疾患
高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、心疾患、食道・胃癌、大腿骨頚部骨折(東京大学)、泌尿器科の診療データベースないし前向き登録から65歳以上を各200名集積し、
併存疾患毎に認知症頻度・重症度、併存疾患の治療・管理(治療薬、術式等)を調査し、認知症の存在と重症度(MMSE,HDS-R、Barthel Index等)が疾患管理に与える影響を解析する。
研究3.認知症者の外科手術・肺炎入院の調査
胃癌・食道癌の手術症例(100名)、大腿骨近位部骨折症例(100名)、肺炎で入院した症例(計150名)の手術前後(入院前ないし入院時と退院時)および肺炎前後(入院前と退院時)の認知症重症度(認知機能はMMSE,FAST等、ADLはBarthel Index、BPSDはDBD13)、入院中の有害事象(せん妄、転倒・転落等)、併存疾患等について解析する。
研究4.処方適正化による入院認知症高齢者の処方変化
処方適正化ツール(Japan-FORTA)とPIMリスト(老年医学会)を用いて、併存疾患の治療薬を含む処方適正化介入研究を行う。
研究5.「認知症者の併存疾患管理の手引き」を作成のための文献調査
結果と考察
研究1で、認知症者の割合は、呉市レセプト65歳以上の8.9%、在宅医療受診者(平均85歳)で45.1%、老健施設(平均85歳)で81%であった。在宅医療を受けている患者の45.1%に認知症の診断がなされているが、DASC-21を全例に施行したところ認知症の可能性ありは92.8%に見られ、認知症の診断を受けていない認知機能低下者(隠れ認知症)が多いこともわかった。
地域住民の認知症者の併存疾患は高血圧56.2%、糖尿病32.1%、心不全35.3%、COPD10.3%であり、以前の研究で得られた東大老年病科に入院した患者データベースと高血圧・糖尿病は同等度であった。心不全患者のうち80%に認知機能低下を認めた。
全国の老健施設調査では、認知症高齢者の自立度Ⅱa以上は90%。入院のきっかけとなった疾患は、肺炎29.5%、骨折8.4%、心不全7.4%が多かった。
研究2で、併存疾患からみた認知症の頻度は、認知機能低下のない高血圧レジストリで認知症レベルの認知機能低下(MMSE≦23)は7.7%。高齢高血圧患者は診断されていない認知機能低下(隠れ認知症)が高率に潜在することが示唆された。
糖尿病(288名、79歳)中、MMSE≦23は14.6%。平均HbA1cは7%。インスリン使用は認知症者に有意に多かったが、低血糖が認知機能低下のリスクになるため、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(日本糖尿病学会と日本老年医学会)の認知機能によるカテゴリーに従った治療を推奨する。
心不全(399名、86歳、女性61.3%)の6割以上が、認知機能低下を有していた。貧血、低栄養、腎機能低下も併存しており治療に配慮が必要であった。
糖尿病、高血圧は認知症者の管理手法が議論され、指針化されているがそれ以外の疾患ではない。現在、システマティックレビュー中であり、各疾患の前向き登録による認知症と併存疾患の関係、治療薬の実態調査の結果とあわせて「認知症者の併存疾患管理の手引き」作成を進めていく。
地域住民の認知症者の併存疾患は高血圧56.2%、糖尿病32.1%、心不全35.3%、COPD10.3%であり、以前の研究で得られた東大老年病科に入院した患者データベースと高血圧・糖尿病は同等度であった。心不全患者のうち80%に認知機能低下を認めた。
全国の老健施設調査では、認知症高齢者の自立度Ⅱa以上は90%。入院のきっかけとなった疾患は、肺炎29.5%、骨折8.4%、心不全7.4%が多かった。
研究2で、併存疾患からみた認知症の頻度は、認知機能低下のない高血圧レジストリで認知症レベルの認知機能低下(MMSE≦23)は7.7%。高齢高血圧患者は診断されていない認知機能低下(隠れ認知症)が高率に潜在することが示唆された。
糖尿病(288名、79歳)中、MMSE≦23は14.6%。平均HbA1cは7%。インスリン使用は認知症者に有意に多かったが、低血糖が認知機能低下のリスクになるため、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(日本糖尿病学会と日本老年医学会)の認知機能によるカテゴリーに従った治療を推奨する。
心不全(399名、86歳、女性61.3%)の6割以上が、認知機能低下を有していた。貧血、低栄養、腎機能低下も併存しており治療に配慮が必要であった。
糖尿病、高血圧は認知症者の管理手法が議論され、指針化されているがそれ以外の疾患ではない。現在、システマティックレビュー中であり、各疾患の前向き登録による認知症と併存疾患の関係、治療薬の実態調査の結果とあわせて「認知症者の併存疾患管理の手引き」作成を進めていく。
結論
隠れ認知症がいることもわかり、高齢者は積極的に認知機能を評価し把握することを心掛けたい。
認知症と併存疾患は関係するか、認知症があると併存疾患の治療に影響するか、併存疾患がある場合認知症の治療で注意すべき点は何か、といったポイントについて、今後、本研究で、実態調査とシステマティック・レビューにより、日常診療に役立つ手引きを作成し、認知症者に過度でも過少でもない適正な医療提供を行えると期待できる。
認知症と併存疾患は関係するか、認知症があると併存疾患の治療に影響するか、併存疾患がある場合認知症の治療で注意すべき点は何か、といったポイントについて、今後、本研究で、実態調査とシステマティック・レビューにより、日常診療に役立つ手引きを作成し、認知症者に過度でも過少でもない適正な医療提供を行えると期待できる。
公開日・更新日
公開日
2022-08-23
更新日
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