独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究

文献情報

文献番号
202117001A
報告書区分
総括
研究課題名
独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究
課題番号
19GB1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学 大学院健康マネジメント研究科)
  • 石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 稲垣 宏樹((財)東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所 自立促進と介護予防研究チーム)
  • 岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 角田 光隆(神奈川大学 法学部)
  • 井藤 佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
  • 菊地 和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 福祉と生活ケア研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりに資するエビデンスを蓄積し、これに基づいて、「独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりための手引き」を作成することにある。
研究方法
はじめに、ガイドライン作成委員会を設置し、委員会で討議の上55項目のCQを作成した。次に、各CQについて系統的文献レビューを行うとともに、研究班のこれまでの研究成果も踏まえて,各CQに対する回答文と解説文を作成した。また、これらの回答文と解説文を集約してエビデンスブックを作成した。最後に、エビデンスブックの内容を踏まえて、今後の施策づくりに役立てられるよう、自治体向けの実用的な手引書を作成した.
結果と考察
1)認知症高齢者は非認知症高齢者よりも要介護度が重度化しやすいが,独居認知症高齢者は非独居認知症高齢者よりも要介護度が重度化しやすいとは言えない。一方,認知症高齢者は非認知症高齢者よりも在宅継続率は低く,独居であるとさらに継続率は低くなる.2)独居の認知機能低下高齢者は、同居者がおり認知機能低下がない高齢者に比べ、死亡、転出、要介護認定の出現率が高い.3)独居認知症高齢者の在宅での生活継続が困難になる背景には,認知機能障害を含む機能低下によって生じる社会関係/生命安全確保/健康管理/日常生活/お金/インフォーマル・ケア/本人の支援受け入れ/尊厳の維持の困難がある.4)独居認知症高齢者では孤独の頻度が高く、アンメットニーズの状況になりやすい。コーディネーションとネットワーキングが併走する地域システムが不可欠である.5)一方,本人が診断を認めない場合でも,認知機能や身体機能の衰え,それによる失敗を自覚しており,自分なりにさまざまな対策を講じている場合もある.6)身寄りのない独居認知症高齢者では、本人をよく知る身近な意思決定支援チームを新たにつくる必要がある。別居家族がいる場合には、本人の意思と家族の意向について整理する必要がある。7)独居認知症高齢者と家族介護者(別居家族)は特有の課題に直面している。別居家族介護者のための支援策が求められている。8)マンションの管理組合は認知症の人や障害者への対応方法を情報収集してノウハウを習得すること,居住者名簿の緊急連絡先や要援護者名簿等を完備・更新すること,管理組合と自治体・地域包括支援センター等は相互理解を深めるために平時から交流をしておくことが望まれる.9)認知症による行方不明に関する系統的な研究はほとんど行われていない.独居に限定すると研究はさらに少ない.市町村の行方不明対策は独居のみに焦点を当てたものではないため,独居に特化した対策を講じられていない.しかし,警察からの「情報提供書」によって実態把握に努めている自治体もある.
結論
以上のような本年度に実施された研究成果と2019年度および2020年度の研究成果を総括し,「独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究:エビデンスブック」と「独居認知症高齢者等等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりための手引き」を作成した.今後の認知症施策の立案に役立てられることが期待される.

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202117001B
報告書区分
総合
研究課題名
独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究
課題番号
19GB1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学 大学院健康マネジメント研究科)
  • 石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 稲垣 宏樹((財)東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所 自立促進と介護予防研究チーム)
  • 岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 角田 光隆(神奈川大学 法学部)
  • 井藤 佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
  • 菊地 和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 福祉と生活ケア研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりに資するエビデンスを集積し、「独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりためのガイドライン」を作成することにある。
研究方法
1.既存統計資料等を活用した実態調査、2.疫学調査、3.事例調査、4.地域生活支援等の取組みに関する調査、5.アクション・リサーチを実施することによってエビデンスを集積するとともに、系統的文献レビューを行い、これらを集約してエビデンスブックを作成した。また、これを基礎にして、今後の施策づくりに役立てられるよう、自治体向けのガイドライ(手引き)を作成した。
結果と考察
1.既存統計資料等を活用した実態調査:認知症高齢者は非認知症高齢者よりも在宅継続率が低く、重度化率が高い。独居認知症高齢者は非独居認知症高齢者よりも在宅継続率はさらに低い。2.疫学調査:独居認知機能低下高齢者は、非独居認知機能低下高齢者よりもソーシャルサポートの不足、精神的健康の悪化、経済的困窮状態にある人が多く、死亡及び転出リスクが高い。独居認知機能低下高齢者の社会的孤立には性差が認められ、女性では、独居であることの代償的行動として社会的交流を増やしていたが、男性ではその傾向を認めない。3.事例調査:認知症のある人のQOLを改善する要因として人間関係、社会関与、機能的能力があげられる。地域包括支援センター職員が自らを知る/地域を知る/認知症のある方と「出会い直す」学びのプロトタイプをつくり、検証し、「やりとり手帳」を作成した。4.地域生活支援等の取り組みに関する調査:生活困窮者支援(ふるさとの会)、離島、「暮らしの保健室」の取り組みを可視化させ、独居認知症高齢者の地域生活を支援するモデルとなり得ることを示した。また,分譲マンションの関係者の調査及び事例分析から,マンションにおいて独居認知症高齢者等の生活を支援するための推奨事項をまとめた.5.アクションリサーチ:東京都板橋区の「高島平ココからステーション」は、地域包括支援センター等と連携して、コーディネーションとネットワーキングを車の両輪に地域生活支援を実践する地域の拠点である。新型コロナウイルス感染症流行下においても、孤立しがちな独居認知症高齢者等の生活支援を実践した。独居認知症高齢者等が安全・安心な暮しを送れる環境づくりを進めるための地域モデルである。6.手引きの作成:55項目のCQについて系統的文献レビューを行い、その中で,①独居認知症高齢者のエンドオブライフケアはほとんど行われていないこと,②身寄りのない独居認知症高齢者では、本人をよく知る身近な意思決定支援チームを新たにつくる必要があること,別居家族がいる場合には、本人の意思と家族の意向について整理する必要があること,③認知症による行方不明に関する系統的な研究はほとんど行われていないこと,独居に限定すると研究はさらに少ないこと,④独居認知症高齢者の在宅での生活継続が困難になる背景には,認知機能障害を含む機能低下によって生じる社会関係/生命安全確保/健康管理/日常生活/お金/インフォーマル・ケア/本人の支援受け入れ/尊厳の維持の困難があること等を示した.以上の研究成果を総括して,「独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究:エビデンスブック」と「独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための手引き」を作成した。尚、本研究の「地域生活支援等の取り組みに関する調査」及び「アクションリサーチ」から、必要な社会的支援を統合的に調整(コーディネーション)する仕組みとともに、必要時に社会的支援に容易にアクセスできるようにするための環境づくり(生活支援のネットワーク化=ネットワーキング)を進めることができる地域拠点を設置することが、独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりには不可欠であることが示唆されている。ただし、本研究で提示された地域システムの有用性に関する科学的な検証はまだ十分に行われていない。また、このような地域システムには、多領域の専門職や非専門職の協働が不可欠である。したがって、独居認知症高齢者等の地域生活の安定化には、多領域の専門職や非専門職の協働を視野に入れたガイドラインの作成が必要になるであろう。これらの諸課題を解決することを目的に、2022年度より新たな研究プロジェクトを立ち上げることにした
結論
本研究で作成された「エビデンスブック」と「手引き」が、独居認知症高齢者等の尊厳ある地域生活の継続と安定化に向けた今後の自治体の施策づくりに役立てられることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
2023-07-28

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202117001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
既存統計資料の分析,疫学調査,事例研究,フィールド調査,アクションリサーチ,系統的文献レビューによって,独居認知症高齢者等の生活実態を解明し,今日の課題と課題解決に向けた対策を総括した.この領域の今日の研究水準を可視化させ,今後の政策科学的研究の基盤を形成した.
臨床的観点からの成果
独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための理論的な枠組みとして,社会的支援の統合的調整(コーディネーション)と社会的支援(特に生活支援)へのアクセシビリティを高める環境づくり(ネットワーキング)を車の両輪として推進する自治体レベルでの政策が重要であることを示した.
ガイドライン等の開発
独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりに関する今日の科学的研究の知見を集約したエビデンスブックを作成するとともに,それを基礎とした自治体向け手引きを作成した.
その他行政的観点からの成果
わが国の認知症高齢者の多くが単独または夫婦の世帯であり,その数は今後急速に増加することが明らかにされている.本研究の成果は,認知症施策推進大綱,高齢者保健福祉施策,介護保険制度,住宅施策等の改定・立案の基礎資料として活用されることが期待される.
その他のインパクト
本研究の一連の成果は,老年精神医学雑誌31巻5号(2020年)及び33巻3号(2022)に特集企画として掲載されている.また,エビデンスブックと手引きは2022年度中に刊行するとともに,東京都健康長寿医療センターのホームページにアップロードする予定である.

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
52件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tsuda S, Inagaki H, Okamura T, et al.
Promoting cultural change towards dementia friendly communities: a multi-level intervention in Japan.
BMC Geriatr , 22 (1) , 360-  (2022)
doi: 10.1186/s12877-022-03030-6.
原著論文2
Okamura T, Ura C, Sugiyama M, et al
Factors associated with inability to attend a follow-up assessment, mortality, and institutionalization among community-dwelling older people with cognitive impairment during a 5-year period: evidencefrom community-based participatory research.
Psychogeriatrics. , 22 (3) , 332-342  (2022)
原著論文3
杉山美香 岡村毅 小川まどか,他
大都市の大規模集合住宅地に認知症支援のための地域拠点をつくる-Dementia Friendly Communities創出に向けての高島平ココからステーションの取り組み-
日本認知症ケア学会誌 , 18 , 847-854  (2020)
原著論文4
岡村毅、杉山美香、小川まどか,他
地域在住高齢者の医療の手前のニーズ:地域に拠点を作り医療相談をしてわかったこと.
認知症ケア学会誌 , 19 (3) , 565-572  (2020)
原著論文5
岡村毅、杉山美香、枝広あや子,他
尊厳を守るには:大規模団地で孤立する高齢者の意思決定支援を振り返る
日本老年医学雑誌 , 57 , 467-474  (2020)
原著論文6
山下真理、岡村毅、宇良千秋,他
認知機能低下を抱えた地域在住高齢者のインフォーマル・サポートと精神的健康に関する質的研究.
認知症ケア学会誌 , 20 (4) , 560-571  (2022)
原著論文7
菊地和則,大口達也,池内朋子,他
独居認知症高齢者の行方不明の実態:150事例からの報告.
老年精神医学雑誌 , 32 , 469-479  (2021)
原著論文8
枝広あや子、岡村毅、杉山美香,他
認知症などの困難を抱えた高齢者に対する地域における歯科口腔保健相談の意義と方法論:権利ベースのアプローチという観点から.
認知症ケア学会誌 , 20 (3) , 435-445  (2021)
原著論文9
宮前史子,扇澤 史子, 今村 陽子,他
離島の独居認知症高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための支援とは.認知症支援関係者からみた地域生活継続の促進要因と阻害要因
日本認知症ケア学会誌 , 20 (4) , 532-544  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
202117001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
15,500,000円
(2)補助金確定額
15,055,000円
差引額 [(1)-(2)]
445,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 838,013円
人件費・謝金 5,710,392円
旅費 246,874円
その他 4,759,943円
間接経費 3,500,000円
合計 15,055,222円

備考

備考
班会議及びガイドライン作成委員会をすべてオンラインで行ったため,会議費が節約され,差額が生じた.

公開日・更新日

公開日
2023-10-06
更新日
-