加熱式たばこの健康影響評価のためバイオマーカーを用いた評価手法の開発

文献情報

文献番号
202109020A
報告書区分
総括
研究課題名
加熱式たばこの健康影響評価のためバイオマーカーを用いた評価手法の開発
課題番号
20FA1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 博雅(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 黒澤 一(東北大学 高等教育開発推進センター 学生生活支援部 保健管理室)
  • 緒方 裕光(女子栄養大学 疫学・生物統計学研究室)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 改正健康増進法(2018年7月公布)において、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に影響を及ぼす調査研究を一層推進し、可能な限り早期に結論を得るよう附帯決議がなされた。
 本研究の目的は、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に及ぼす影響について結論を得ることである。
 我が国において、近年、加熱式たばこ使用者が特に若い世代を中心に増加している。国民健康栄養調査(2019年)によると、加熱式たばこ使用者の割合は20歳以上男女全体で26.7%と報告されている。
 2020年4月から完全施行された改正健康増進法は,望まない受動喫煙をなくすために施設の類型・場所ごとに対策を実施することで対応している。しかし,「加熱式たばこ」は経過措置として,飲食可能な喫煙室での使用が認められている。その理由として加熱式たばこは日本で販売が開始されてから期間も短く,喫煙者の健康影響,受動喫煙に関しても科学的な根拠の蓄積が少ない状況が上げられる。
 本研究は、加熱式たばこ使用およびその受動喫煙の健康影響を評価することを目的として、加熱式たばこ使用者および受動喫煙者の生体試料(尿)に含まれているたばこ由来の有害化学物質の代謝物(曝露マーカー)等のバイオマーカーを用いた評価法の開発を行う。
研究方法
 本研究では、加熱式たばこ使用による受動喫煙の影響を評価するため、本年度は以下の検討を行った。
1.父親の加熱式たばこ使用とその非喫煙家族(配偶者および子供)における尿中ニコチン代謝物の評価
 これまでリクルートした41家族、129名を対象として、父親の加熱式たばこ使用と非喫煙家族(配偶者、子供)における曝露マーカーである尿中ニコチン代謝物(Total Nicotine metabolites:TNM)との関連について検討した。
2.父親の加熱式たばこ使用による受動喫煙状況(質問票による分析)と尿中ニコチン代謝物との関連
 受動喫煙有(父親が一緒にいる時に使用する。目の前で使用する。)と受動喫煙なしで、非喫煙家族の尿中TNM値を比較した。
3.受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物の高感度分析の検討と日本人喫煙者及び受動喫煙者のニコチン代謝物量とたばこ特異的ニトロソアミン(4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1- butanol : NNAL)代謝物量の分析
結果と考察
 加熱式たばこ使用者の非喫煙家族(配偶者、子供)の尿中TNM値は、非喫煙・非使用者の非喫煙家族の尿中TNM値に比べて有意に高値を示し、受動喫煙による曝露の実態が明らかとなった。
 特に、我々の調査で「一緒にいる時に使用する。目の前で使用する。」割合が、紙巻たばこ喫煙の場合に比べて、高いこと、その場合「受動喫煙有」の配偶者および子供の尿中TNM値は、「受動喫煙なし」の場合に比べて有意に高値であることが明らかとなった。
 この背景には、紙巻たばこ喫煙に比べて、加熱式たばこ使用の方がより安全であるとの認識があるものと考えられた。
 これらの科学的根拠は、2020年4月から完全施行された改正健康増進法において、経過措置として定められている飲食可能な喫煙室での使用可能の場合、同室で飲食する非喫煙者に対する望まない受動喫煙の危険性を示唆するものと考えられた。
 本研究成果は、加熱式たばこ使用による受動喫煙を曝露マーカーにより明らかにした最初の報告として、International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022, 19, 6275. に掲載された。
 受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物の高感度分析の検討と日本人喫煙者及び受動喫煙者のニコチン代謝物量とたばこ特異的ニトロソアミン(4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1- butanol : NNAL)代謝物量の分析より、ニコチン代謝物とNNALは、加熱式たばこを使用しても曝露量が低減されることはないと予想された。
 喫煙者を加熱式たばこ,紙巻たばこ、紙巻と加熱式たばこ併用者の3群に分けて傾向を評価した結果、ニコチン代謝物量は,喫煙者、受動喫煙者ともに3群に大きな違いは認められなかった。これは,加熱式たばこ主流煙の分析結果とも合致した。NNAL量は,加熱式たばこ使用者が主流煙の分析値と同様の1/10の曝露量ではなく、紙巻たばこ、併用者の50%程度の曝露差であった。
結論
 以上の研究は、国民の加熱式たばこによる受動喫煙の健康影響に関する認知の向上および今後のわが国における屋内禁煙化の推進に寄与すると考えられた。今後本研究を発展させることで、加熱式たばこ使用による健康影響が明らかとなり、その結果、加熱式たばこの受動喫煙による疾病および喫煙関連疾患の予防に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2022-12-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2022-12-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202109020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,000,000円
(2)補助金確定額
6,320,000円
差引額 [(1)-(2)]
680,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,990,333円
人件費・謝金 2,022,975円
旅費 0円
その他 107,164円
間接経費 1,200,000円
合計 6,320,472円

備考

備考
令和3年度補助金収支報告書
「補助金確定額」と「支出の合計」に差が生じた理由:
新型感染症流行に伴い、流行地域での研究参加者のリクルートを十分に実施することが困難であったため。
班会議等Web会議となり、旅費を使用しようしなかったため。

公開日・更新日

公開日
2022-12-07
更新日
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