栄養素及び食品の適切な摂取のための行動変容につながる日本版栄養プロファイル策定に向けた基礎的研究

文献情報

文献番号
202109014A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養素及び食品の適切な摂取のための行動変容につながる日本版栄養プロファイル策定に向けた基礎的研究
課題番号
19FA1019
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
石見 佳子(東京農業大学 農生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 由紀(東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科)
  • 瀧本 秀美(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養疫学・食育研究部)
  • 吉崎 貴大(東洋大学 食環境科学部 食環境科学科)
  • 横山 友里(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,521,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健全な食生活には適切な食品の選択が求められる。我が国では、消費者の適切な食品選択に資するため栄養表示制度が定められているが、諸外国ではそれに加えて、食品の栄養価を総合的に判断できる「栄養プロファイル」が活用されている。世界保健機関(WHO)の定義によると栄養プロファイリングとは「疾病予防及び健康増進のために、栄養成分に応じて、食品を区分またはランク付けする科学」である。そこで本研究では、我が国においては未だ普及していない日本版栄養プロファイルモデル試案の作成に向けた情報収集、課題整理、試案の作成を行うことを目的とした。
研究方法
日本版栄養プロファイルモデル試案の作成においては、令和2年度に作成した加工食品のカテゴリー別の閾値案について、食品関連事業者を対象にアンケート調査を実施した。さらに、機能性表示食品を対象に閾値を満たす食品の調査を実施した。料理別の食塩の閾値を設定するため、平成26~30年国民健康・栄養調査結果の二次利用により18歳以上75歳未満で、3食すべてを摂取していた35,915名のデータを用いて、1日の食塩摂取量が「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量の範囲内の者を「適正群」、上回る者を「過剰群」とし、料理単位での食品群別摂取量の比較を行った。また、食生活全体を視野に入れた、日本版栄養プロファイルモデル試案の活用方法を啓発するための資料案(以下、活用資料案)を作成し、Webによる大規模な実現可能性調査(フィージビリティ・スタディ)を実施した。
結果と考察
【加工食品】大手食品関連事業者10社を対象にアンケート調査を実施した結果、栄養プロファイルについて認識はしているが、実際に取り組む体制には至っていない社が多かった。また、食塩相当量及び脂質・飽和脂肪酸については、これらのレベルを閾値試案のレベルまで低減することが技術上困難である食品があることが明らかになった。さらに、加工食品の日本版栄養プロファイルモデル試案について、機能性表示食品のうち販売中のものを対象に、閾値について充足状況を把握した結果、食塩相当量は83 %、脂質は70 %、熱量は90 %の食品が閾値を満たしていた。ただし、一部で閾値を満たさない商品が多い食品カテゴリーも認められ、日本版栄養プロファイルモデル試案の実行可能性に課題があることが分かった。今後は、市場調査並びに食品衛生法上の基準を考慮しながらさらに実用的なものに改良する必要がある。【料理】すべての料理で「適正群」では「過剰群」に比べ有意に食塩量が少なかった。適正群の摂取料理数の総計は81,572、過剰群では448,909であった。両群とも、食事バランスガイドの定義による主食・主菜・副菜とその組み合わせに該当する料理は約3割であった。すべての料理において、過剰群の調味料・香辛料類の摂取量が高かった。また、主菜を含む料理で過剰群の方が魚介類の摂取量が多かった。そのほかの食品群には大きな違いは見られなかった。【フィージビリティ・スタデイ】活用資料案のわかりやすさは、いずれのページも90%以上がわかりやすいと回答した。閾値をオーバーした栄養成分にオーバーマークがついていたらとても意識する・少し意識すると回答した者は、いずれの食品群でも改善意欲あり群が多く、合計で70%程度を占めていたが、改善意欲なし群では、少し意識する者がすべての食品群で30%程度であった。また、料理栄養プロファイルについても、料理頻度が週1回以上の者のうち7割が、すべての料理に影響する/全てではないが影響する料理もあるに該当したものの、男性や現病歴の無い者、食習慣の改善意欲が低い無関心層では、料理の栄養プロファイルのみによる活用可能性が低いことが示された。


結論
機能性表示食品を対象とした閾値の充足状況の調査の結果及び食品関連事業者へのアンケート調査から、作成した日本版栄養プロファイルモデル試案には閾値を達成することが技術上困難である食品カテゴリーが存在することから、さらに実用的なものに改良する必要があることが示された。国民健康・栄養調査結果を用いて、食塩摂取量の適正群と過剰群の料理の特徴を明らかにした。食塩相当量に対する調味料・香辛料類の寄与は、料理の種類にかかわらず共通していた。本研究結果は、減塩に向けた料理の栄養プロファイルの提案に活用可能であると考えられた。フィージビリティ・スタディの結果から、栄養プロファイルに基づく包装前面表示や料理の栄養プロファイルによって、消費者の健康的な食行動の実践に影響を及ぼす可能性が示唆され、特に食習慣の改善意欲がある者において活用可能性が高いことが示された。

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202109014B
報告書区分
総合
研究課題名
栄養素及び食品の適切な摂取のための行動変容につながる日本版栄養プロファイル策定に向けた基礎的研究
課題番号
19FA1019
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
石見 佳子(東京農業大学 農生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 由紀(東京農業大学 応用生物科学部  栄養科学科)
  • 瀧本 秀美(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養疫学・食育研究部)
  • 吉崎 貴大(東洋大学 食環境科学部 食環境科学科)
  • 横山 友里(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健全な食生活には適切な食品の選択が求められる。我が国では、消費者の適切な食品選択に資するため栄養表示制度が定められているが、諸外国ではそれに加えて、食品の栄養価を総合的に判断できる「栄養プロファイル」が活用されている。そこで本研究では、我が国において普及していない日本版栄養プロファイルの試案の作成に向けた情報収集、課題整理、試案の作成を行うことを目的とした。
研究方法
日本版栄養プロファイルモデル(NPモデル)の開発に向けて、諸外国におけるNPモデルを調査した。日本においては、自宅調理からの摂取が多いこと及び食塩の約7割が調味料由来であることから、日本版NPモデルは加工食品と料理のNPモデルに分けて提案することとした。調査結果及びWHO Technical meeting 2010報告書等を参考に、加工食品及び調理済み食品をカテゴリー分類し、対象項目の閾値を設定した。食品関連事業者を対象に試案に対するアンケート調査を実施した。料理別の食塩の閾値を設定するため、1)日本人の食事摂取基準の食塩目標量、2)「健康な食事」で示された成人の適切な食塩摂取量の範囲内の者とそれより多く摂取している者とで、各料理カテゴリー別の熱量及び栄養素摂取量及び食品群構成の実態を把握した。また、消費者の知識および新しい栄養プロファイルに対する印象や理解、要望などを明らかにするため、フィージビリテイ・スタディを実施した。
結果と考察
【加工食品】諸外国の調査結果を参考に、加工食品15カテゴリーと調理済み食品1カテゴリーからなる閾値モデルを作成した。過剰摂取を防ぐための閾値基準を、ナトリウム(≧1.25 mg/kcal)・食塩相当量(≧3 g/650 kcal)(調理済み食品)、脂質(≧30 %E)、飽和脂肪酸(≧7 %E)、熱量(≧200 kcal/食)とし、各カテゴリーについて閾値を設定した。この閾値について、諸外国と大きな乖離はなかった。しかし、国内流通している一般加工食品や機能性表示食品との比較や食品関連事業者へのアンケ―ト調査から、閾値を満たすことが困難なカテゴリーがあり、さらなる改良の必要性が示された。【料理】全ての料理で1)及び2)の「過剰群」では「適正群」に比べ、食塩摂取量が有意に多く、料理の種類別にみた食品群別摂取量は調味料・香辛料の摂取量が多かった。また、1)食塩目標量を適用と2)「健康な食事」の基準を適用の解析結果を比べると、目標量を満たした「適正群」と「健康な食事」の基準を満たした「適正群」の料理に含まれる食塩相当量は、「健康な食事」の基準による「適正群」の方が高かったものの、平均値の差は0.03~0.55gであり極端に高くなかった。また、主菜を含む料理で過剰群の方が魚介類の平均摂取量が多い傾向がみられた。その他の食品群には大きな違いは見られなかった。食塩相当量に関する料理別の日本版栄養プロファイルを作成する際には、減塩に資する調味料を重点的に評価する必要があると考えられた。【フォーカス・グループ・インタビュー】既存の栄養成分表示の印象として、一日の摂取量に占める割合(%DV)や、摂りすぎかどうかの判断基準がわからないという意見が多かったことから、栄養プロファイルをわかりやすく示す必要性が示唆された。【フィージビリティ・スタディ】作成した活用資料案のわかりやすさは、いずれのページも90%以上がわかりやすいと回答した。閾値をオーバーした栄養成分にオーバーマークがついていたらとても意識する・少し意識すると回答した者は、いずれの食品群でも改善意欲あり群が多く、合計で70%程度を占めていたが、改善意欲なし群では、少し意識する者が全ての食品群で30%程度であった。また、料理NPについても、調理頻度が週1回以上の者のうち7割程度が、すべての料理に影響する/全てではないが影響する料理もあるに該当したものの、男性や現病歴の無い者、食習慣の改善意欲が低い無関心層では、料理の栄養プロファイルのみによる活用可能性が低いことが示された。 
結論
調理済み食品を含む加工食品の日本版栄養プロファイルモデル試案の基礎資料を作成した。妥当性評価の結果から、今後はより実行可能なものに改良する必要があることが判明した。国民健康・栄養調査結果を用いて、食塩の適正・過剰摂取群の料理の特徴を比較検討して得られた結果は、減塩に向けた料理の栄養プロファイルの提案に活用可能であると考えられた。フィージビリティ・スタディの結果から、栄養プロファイルに基づく包装前面表示や料理の栄養プロファイルによって、消費者の健康的な食行動の実践に影響を及ぼす可能性が示唆された。これらの成果は、消費者が自身の健康状態に適した食品をより選択し易くするとともに、食品関連事業者の食品開発に役立つことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202109014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
健康的な食生活を営むためには、個人レベルでの適切な食事や食品の選択が求められる。本研究では、加工食品及び料理について、日本版栄養プロファイル(NP)モデル試案及び活用資料案を作成した。料理の解析では、全ての料理において、食塩の過剰群の調味料・香辛料類の摂取量が高かったことから、本研究結果は、減塩に向けた料理のメニュー提案に活用可能であると考えられた。アンケート調査から、日本版NPモデルに基づく加工食品の包装前面表示や料理NPによって、消費者の健康的な食行動の実践に影響を及ぼす可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
フィージビリテイ・スタデイの結果から、日本版NPモデルに基づく包装前面表示や料理NPによって、消費者の健康的な食行動の実践に影響を及ぼす可能性が示唆され、特に食習慣の改善意欲がある者において活用可能性が高いことが示された。改善意欲がある群は,脂質異常症などの現病歴がある者が多かったことから、NPモデルを活用することで、人びとの生活習慣病予防並びに健康増進効果の可能性が期待される。また、食品関連事業者等がより健康に良い食品の開発に取り組むことが期待される。
ガイドライン等の開発
日本版栄養プロファイルの策定にむけた基礎的研究を実施した。調理済み食品を含む加工食品と料理について栄養プロファイルモデル試案を作成し、これを活用するための活用資料案を作成した。これらの成果は、厚生労働省が実施している「健康的で持続可能な食環境連略イニシアチブ」事業等において活用されることが期待される。
2023年度より2年間、厚生労働行政推進調査事業「日本版栄養プロファイリングモデルの開発」(研究代表者:瀧本秀美)を実施することとなり、ガイドライン等の開発を目指す。
その他行政的観点からの成果
日本版栄養プロファイルの策定にむけた基礎的研究を実施した。国民健康・栄養調査の2次利用により、食塩摂取量によって区分した場合の料理別の栄養プロファイルを作成した。本研究成果は、減塩に向けた料理のメニュー提案に活用可能であると考えられた。これらの成果について、令和3年4月30日に厚生労働省が開催した第3回「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」において紹介し、議論された。今後も減塩を含む健康・栄養施策に貢献することが期待される。
その他のインパクト
調理済み食品を含む加工食品及び国民健康・栄養調査の2次利用により食塩摂取量によって区分した場合の料理別の栄養プロファイルを作成した。これらを基に、日本版NP活用資料案を作成し、3000人の消費者を対象としたアンケート調査を実施したところ、90%の対象者が分かり易いと回答した。さらに、栄養プロファイルに基づく包装前面表示や料理の栄養プロファイルによって、消費者の健康的な食行動の実践に影響を及ぼす可能性が示唆された。これらの成果より、活用資料案が、人びとの食生活の改善に貢献することが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
石見佳子, 竹林純, 横山友里, 吉﨑貴大, 岡田恵美子, 多田由紀, 瀧本秀美 日本版栄養プロファイルモデルの提案と課題 肥満研究 28 ( 2 ) 70 - 75, 2022
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
第67回日本栄養改善学会学術総会1件(2020年)、第68回日本栄養改善学会学術総会5件(2021年)
学会発表(国際学会等)
1件
American Society of Nutrition, 2021
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
令和3年4月30日に厚生労働省が開催した第3回「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」において議論
その他成果(普及・啓発活動)
1件
講演1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
横山友里、吉﨑貴大、多田由紀他
日本版栄養プロファイル作成にむけた諸外国モデルの特性に関する基礎的研究
栄養学雑誌 , 79 (3) , 163-173  (2021)
10.5264/eiyogakuzashi.80.79.
原著論文2
Takimoto H., Okada E., Takebayashi J. et al.
Nutrient Profiles of Dishes Consumed by the Adequate and High-Salt Groups in the 2014–2018 National Health and Nutrition Survey, Japan.
Nutrients , 13 (8) , 2591-  (2021)
10.3390/nu13082591.
原著論文3
石見佳子,竹林純, 横山友里他
日本版栄養プロファイルモデル作成プロセスと妥当性評価に関する基礎的研究
栄養学雑誌 , 80 (2) , 79-95  (2022)
10.5264/eiyogakuzashi.80.79.
原著論文4
多田由紀, 吉﨑貴大, 横山友里他
健康的な食行動の実践を支援するための栄養プロファイルモデルに関するフォーカス・グループ・インタビュー:食習慣の改善の意欲のある者を対象とした検討
栄養学雑誌 , 80 (2) , 126-138  (2022)
10.5264/eiyogakuzashi.80.126.

公開日・更新日

公開日
2022-11-16
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202109014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,500,000円
(2)補助金確定額
4,976,000円
差引額 [(1)-(2)]
524,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 920,979円
人件費・謝金 152,107円
旅費 0円
その他 2,924,546円
間接経費 979,000円
合計 4,976,632円

備考

備考
差額の632円は自己資金です。

公開日・更新日

公開日
2022-11-15
更新日
-