文献情報
文献番号
202109012A
報告書区分
総括
研究課題名
心房細動アブレーション治療の標準化・適正化のための全例登録調査研究
課題番号
19FA1016
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
山根 禎一(東京慈恵会医科大学 医学部 循環器内科)
研究分担者(所属機関)
- 宮本 恵宏(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
- 草野 研吾(国立研究開発法人国立循環器病研究センター心臓血管内科)
- 井上 耕一(国立病院機構大阪医療センター循環器内科)
- 中尾 葉子(国立循環器病研究センター OIC 循環器病統合情報センター)
- 竹上 未紗(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
- 橋本 英樹(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻保健社会行動学分野)
- 姉崎 久敬(国立循環器病研究センター 循環器病統合情報センター)
- 森脇 健介(立命館大学総合科学技術研究機構)
- 野上 昭彦(筑波大学医学医療系循環器内科)
- 夛田 浩(筑波大学 大学院 人間総合科学研究科 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
J-ABレジストリデータを用いて我が国におけるAFアブレーションの実態把握、脳梗塞や心不全に対する有効性、さらには費用対効果を明らかにするとともに、その適応や適切性基準を作成しガイドライン策定のエビデンスを構築することを目標とする。
研究方法
以下の4つのパートに分けて研究を進行する。
①J-AB登録データを用いた我が国のAFアブレーションを取り巻く現状把握、②AFアブレーション医療の質を向上させるためのエビデンスの評価(Quality Indicator (QI) 解析、③AFアブレーションアウトカムとQOL評価を用いた費用対効果の分析、④次期ガイドライン草案の策定。
①J-AB登録データを用いた我が国のAFアブレーションを取り巻く現状把握、②AFアブレーション医療の質を向上させるためのエビデンスの評価(Quality Indicator (QI) 解析、③AFアブレーションアウトカムとQOL評価を用いた費用対効果の分析、④次期ガイドライン草案の策定。
結果と考察
①J-ABレジストリにて2018年, 2019年9月に実施された詳細調査8,497件を実際調査の対象とした。平均年齢は66.8歳で男性は69.5%であった。CTによる術前評価は90.8%で実施されていた。肺静脈隔離は98.4%とほとんどの症例で実施されており、追加アブレーションは59.6%であった。イリゲーションカテーテル 80.2%、心腔内エコーは79.2%、食道温度センサーは79.0%で使用されていた。術前94.3%でDOACを内服していた。RFCA群と比較し、バルーンアブレーション群、RFCA+バルーン群において予後との有意な関連は認めなかった。②心房細動アブレーション(Catheter ablation for atrial fibrillation; CAAF)の適切な利用ならびに成果を担保するために、CAAF診療の質を評価する評価指標の開発を試み、CAAF診療の現状をJ-ABなどの既存症例登録データなどを用いて評価したうえで、CAAF診療の質向上に向けた提言を行うことを目的とした。今年度は欧州学会(ESC)のガイドライン2020を整理し、心房細動アブレーションの適用、効果や安全性に影響しうる手技上の特徴、患者特性、そして施設特性などを考慮した「診療の質指標」の在り方についてまとめた。ESC2020ではCAAFの適用についてCABANA研究以降のトレンドに沿ったものを踏襲したものとなっている。一方特徴としてinterdisciplinary teamによるintegrated managementの必要性、patient value and preferenceに基づく意思決定の必要性、そして「診療の質の指標」を具体的に提示した点が評価される。ただしCAAFに関する指標は現状含まれていない。今後本邦におけるCAAFの質評価指標の整備にあたっては、適用などに関する学会ガイドラインの整備と並行し、適用選択や術前後マネジメント、患者支援・教育などに関するガイドライン遵守の状況を踏まえたプロセス評価を行うとともに、重篤アウトカム事象に関するsentinel indicatorなどを検討することが現実的であると思われた。③日本の公的医療費支払者の立場から、心房細動に対する保存的薬物療法(BSC)と比較したアブレーション治療(AB)の費用対効果を評価した。基本分析の結果、BSC群と比較したAB群の増分費用と増分効果はそれぞれ、-389万円、0.136QALYとなり、BSC群と比較してAB群はDominant(優位)であった。確率的感度分析の結果、AB群の増分費用効果比(ICER)が閾値500万円/QALYを満たす確率は、94.3%と推定された。一方、決定論的感度分析の結果、BSC群のフォローアップ費用の設定が約9.6万円/月未満となる場合、アブレーションの費用対効果が不良となることが示された。日本の公的医療の視点から、アブレーション治療はBSCに比して、費用対効果の面で優れる可能性が示唆された。④J-AB レジストリデータを用いて我が国の心房細動アブレーションに関する現行ガイドラインの項目でエビデンスが不十分であるものに関して安全性と有効性を調べ、将来のガイドラインの策定の参考となる提案を行うことを目標とする。入院中の合併症を3.1%、死亡例は0.07%に認めた。基礎心疾患の存在・高齢・経験の少ない施設での施術が有意な合併症のリスク因子であり、これらは心房細動アブレーションの推奨度を考える上で参考とすべきである。一方、食道関連合併症の回避のための術中の食道温度センサーの使用、深鎮静の際の専任の医師の配置、術前径食道心エコー検査は、従来エビデンスの無い中で推奨されてきたことであったが、今回の解析ではこれらは合併症の頻度と明らかな関連はなく、ガイドラインにおいて強く推奨すべきではないことが示唆された。
結論
現在のAFアブレーションの問題点および次期ガイドラインで修正してゆくべきポイントが明らかとなった。
公開日・更新日
公開日
2022-10-24
更新日
-