運動ニューロン変性に関わる分子の同定と病態抑止治療法の開発

文献情報

文献番号
200833021A
報告書区分
総括
研究課題名
運動ニューロン変性に関わる分子の同定と病態抑止治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-022
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 勝野 雅央(名古屋大学 高等研究院・名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 田中 啓二(東京都臨床医学総合研究所・先端研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人発症の運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と球脊髄性筋萎縮症(SBMA)に共通する病態機構を解明し、それに基づく治療法を開発する。
研究方法
SBMAについては、モデルマウスにおけるプロテアソーム活性を測定し、Hsp90阻害剤である17-DMAGの効果について解析した。また、50名のSBMA患者に対するリュープロレリン酢酸塩の第Ⅱ相臨床試験を実施した。ALSについては、E3ユビキチンリガーゼDorfinのトランスジェニック(Tg)マウスと変異SOD1 Tgマウスの交配によるダブルTgマウスを作成し、in vivoにおける治療効果を検証するとともに、dynactin-1ノックダウン(KD)線虫を作成し、孤発性ALSの病態の再現を試みた。また、プロテアソームの分子集合に係わる因子であるPAC1の欠損マウスを作出し、ニューロンの動態について解析した。
結果と考察
SBMAマウスの脊髄では、進行期においてもプロテソーム活性が保たれており、骨格筋では活性が亢進していた。17-DMAGをSBMAマウスモデルに経口投与したところ、変異AR蛋白質の減少および熱ショック蛋白質の発現誘導が認められ、マウスの運動機能および寿命の改善が認められた。リュープロレリン酢酸塩の第Ⅱ相臨床試験では、48週間のプラセボ対照比較試験ではリュープロレリン酢酸塩による血清CKの有意な低下、陰嚢皮膚における1C2(抗ポリグルタミン抗体)陽性細胞数の有意な減少、および嚥下造影所見の有意な改善が認められ、その後の継続試験ではリュープロレリン酢酸塩の長期投与により運動機能スコアの悪化が有意に抑制されることが明らかとなった。Dorfinと変異SOD1のダブルTgマウスでは運動ニューロンの神経細胞死、軸索変性が抑制され、運動能力が改善し、生存期間が延長した。dynactin-1ノックダウン(KD)線虫では、患者で見られるcyclin Cの発現増加と核内移行が再現された。PAC1全身欠損マウスは早期胎生致死となり、中枢神経系特異的にPAC1を欠損したマウスではプロテアソームの低下と並行して、平衡感覚・発育異常が見られた。
結論
ユビキチン-プロテアソーム系の賦活化などによる異常蛋白質の分解促進は、運動ニューロン疾患に対する治療戦略として有望である。また、テストステロン低下療法はSBMA患者においても変異アンドロゲン受容体の核内凝集を阻害し、神経障害の進行を抑制する可能性がある。dynacti-1のノックダウン線虫は孤発性ALSの重要な病態を反映する疾患モデルと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200833021B
報告書区分
総合
研究課題名
運動ニューロン変性に関わる分子の同定と病態抑止治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-022
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 勝野 雅央(名古屋大学 高等研究院・名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 田中 啓二(東京都臨床医学総合研究所・先端研究センター)
  • 道勇 学(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人発症の運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と球脊髄性筋萎縮症(SBMA)に共通する病態機構を解明し、それに基づく治療法を開発する。
研究方法
SBMAについては、マウスモデルにおける逆行性軸索輸送、CHIP高発現の効果、Hsp90阻害剤(17-DMAG)の効果を解析するとともに、SBMA患者に対するリュープロレリン酢酸塩の第Ⅱ相臨床試験を実施した。ALSについては、古細菌のプロテアソームサブユニットの機能を培養細胞で解析し、E3ユビキチンリガーゼDorfiおよびdynactin-1の機能を動物モデルで解析した。また、小胞体ストレスに寄与するSCFFbs1およびプロテアソームの分子集合に係わるPAC1のin vivoでの機能解析を行った。
結果と考察
SBMAマウスではdynactin 1の発現が低下し、逆行性軸索輸送が障害されていた。CHIPの高発現により、変異アンドロゲン受容体(AR)の凝集体およびモノマーの分解が亢進し、SBMAモデルマウスの神経症状・病理所見が改善した。SBMAマウスの脊髄では、進行期においてもプロテソーム活性が保たれており、17-DMAGは変異AR蛋白質の分解を促進し、マウスの運動機能を改善した。リュープロレリン酢酸塩はSBMA患者においても変異ARの凝集を抑制し、運動機能スコアの悪化を抑制した。古細菌のプロテソームサブユニットが、培養細胞内でも機能的な複合体を形成することを見出した。Dorfinと変異SOD1のダブルTgマウスでは運動ニューロンの神経細胞死が抑制され、運動能力が改善した。dynactin-1ノックダウン(KD)線虫では、cyclin Cの発現増加と核内移行が再現された。SCFFbs1の糖鎖認識機構がX線結晶構造解析により示され、その合理的なシステムが明らかになった。PAC1全身欠損マウスは早期胎生致死となり、中枢神経系特異的にPAC1を欠損したマウスではプロテアソームの低下と並行して、平衡感覚・発育異常が見られた。
結論
ユビキチン-プロテアソーム系などの恒常性監視機構は、神経変性病態抑止に重要な働きを有しており、その賦活化は異常蛋白質の分解を促進し、運動ニューロン疾患に対する治療戦略として有望である。また、テストステロン低下療法はSBMA患者においても変異アンドロゲン受容体の核内凝集を阻害し、神経障害の進行を抑制する可能性がある。dynacti-1のノックダウン線虫は孤発性ALSの重要な病態を反映する疾患モデルと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-12-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
SBMAについては、ユビキチン-プロテアソーム系を作用点とする治療法が有望であることを提示できた。ALSについては、これまで動物モデルが存在しなかった孤発性ALS患者の線虫モデルの構築により、今後ALSの病態解明と治療法開発に貢献できるものと考えられる。
臨床的観点からの成果
SBMAに対しては神経変性疾患に対して世界的にも初となる本格的な根本的治療法(disease-modifying therapy)のトランスレーショナルリサーチを進めることができた。単にマウスモデルでの結果を検証したのみでなく、治療法の臨床応用においてハードルとなる評価項目や試験デザインなどについて検討を重ね、嚥下造影評価や病理学的検査などのバイオマーカーがSBMAのサロゲートエンドポイントとなりうることを示した。
ガイドライン等の開発
特記すべきことなし
その他行政的観点からの成果
SBMAに対するリュープロレリン酢酸塩の治療は承認取得を目指し、第Ⅲ相臨床試験へと展開されている。本試験は多施設共同試験であり、神経変性疾患の領域では初の医師主導治験である。
その他のインパクト
特記すべきことなし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Senda J, Ito M, Watanabe H, etal
Correlation between pyramidal tract degeneration and widespread white matter involvement in amyotrophic lateral sclerosis: A study with tractography and diffusion-tensor imaging.
Amyotroph. Lateral Scler.  (2009)
原著論文2
Katsuno M, Adachi H, Sobue G
Getting a handle on Huntington's disease: the case for cholesterol.
Na.t Med. , 15 , 253-254  (2009)
原著論文3
Young JE, Garden GA, Martinez RA, etal
Polyglutamine-expanded androgen receptor truncation fragments activate a Bax-dependent apoptotic cascade mediated by DP5/Hrk.
J. Neurosci. , 29 , 1987-1997  (2009)
原著論文4
Morozumi S, Kawagashira Y, Iijima M, etal
Intravenous immunoglobulin treatment for painful sensory neuropathy associated with Sjögren's syndrome.
J. Neurol. Sci , 279 , 57-61  (2009)
原著論文5
Banno H, Katsuno M, Suzuki K, etal
Phase 2 trial of leuprorelin in patients with spinal and bulbar muscular atrophy.
Ann. Neurol. , 65 , 140-150  (2009)
原著論文6
Watanabe H, Hirayama M, Noda A, etal
B-type natriuretic peptide and cardiovalvulopathy in Parkinson disease with dopamine agonist.
Neurology , 72 , 621-626  (2009)
原著論文7
Tokui K, Adachi H, Waza M, etal
17-DMAG ameliorates polyglutamine-mediated motor neuron degeneration through well-preserved proteasome function in a SBMA model mouse.
Hum. Mol. Genet. , 18 , 898-910  (2009)
原著論文8
Takeuchi Y, Katsuno M, Banno H, etal
Walking capacity evaluated by the 6-minute walk test in spinal and bulbar muscular atrophy.
Muscle Nerve , 38 , 964-971  (2008)
原著論文9
Iijima M, Koike H, Hattori N, etal
Prevalence and incidence rates of chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy in the Japanese population.
J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry , 79 , 1040-1043  (2008)
原著論文10
Suenaga M, Kawai Y, Watanabe H, etal
Cognitive impairment in spinocerebellar ataxia type 6.
J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry , 79 , 496-499  (2008)
原著論文11
Suzuki K, Katsuno M, Banno H, etal
CAG repeat size correlates to electrophysiological motor and sensory phenotypes in SBMA.
Brain , 131 , 229-239  (2008)
原著論文12
Yashiroda H, Mizushima T, Okamoto K, etal
Crystal structure of a chaperone complex that contributes to the assembly of yeast 20S proteasomes.
Nat. Struct. Mol. Biol. , 15 , 228-236  (2008)
原著論文13
Hirano Y, Kaneko T, Okamoto K, etal
Dissecting b-ring assembly pathway of the mammalian 20S proteasome.
EMBO J. , 27 , 2204-2213  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-