筋萎縮性側索硬化症に対する特異治療法の開発

文献情報

文献番号
200833016A
報告書区分
総括
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症に対する特異治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-017
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
郭 伸(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤仁志(旭川医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性ALS運動ニューロンでは、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のGluR2 サブユニットQ/R 部位でRNA編集が低下しており,これは,同部位の特異的RNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2)の活性低下に依ると考えられる.この分子異常は孤発性ALSに疾患特異的分子異常であり,運動ニューロン死の直接原因であることが,ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスの解析により明らかになったので,ADAR2活性の正常化が孤発性ALSの治療につながると考えられる.本研究では,ADAR2活性賦活作用のin vivoスクリーニングシステムを確立することを目的とする.
研究方法
ADAR2活性スクリーニングのために昨年度までに開発したTetHeLaG2m細胞を様々な化学物質に暴露し,ADAR2活性を賦活する物質を探索する。このスクリーニングにより得られた候補物質を野生型マウスに全身投与し,運動ニューロンにおけるADAR2活性賦活作用を検討する.また,GluR2 Q/R 部位のRNA編集がどの程度低下すると細胞死に陥るのか,この部位のRNA編集率を100%に保つにはどの程度のADAR2活性が必要かを,ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスを用いて検討する.
結果と考察
TetHeLaG2m細胞を用いてADAR2活性賦活する物質を得た.この物質のADAR2活性賦活作用をin vivoで検討するために,野生型マウスに投与し,脳・脊髄組織,脊髄運動ニューロンにおけるADAR2活性の上昇を確認した.一方,ADAR2のヘテロ接合体コンディショナルノックアウトマウスの検討から,ADAR2遺伝子発現が50%程度低下するとGluR2 Q/R 部位のRNA編集が不十分になり,緩徐な運動ニューロン死がおこることが明らかになった.したがって,この変異マウスを用いた運動ニューロン死阻止作用の検討により,孤発性ALSの治療薬の効果判定が可能になると考えられる.
結論
1) ADAR2活性低下が孤発性ALSの運動ニューロン死を引き起こす分子メカニズムの一つであることを証明し,ADAR2活性賦活による治療が可能であることを示した.
2) 培養細胞,モデルマウスを用いたADAR2活性スクリーニングシステムを確立し,数種類のADAR2活性賦活物質を同定した.
3) 治療薬としての作用を神経細胞死抑制作用により判定するための疾患モデルマウスを開発した.

公開日・更新日

公開日
2009-04-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200833016B
報告書区分
総合
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症に対する特異治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-017
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
郭 伸(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤仁志(旭川医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性ALSに疾患特異的、部位選択的分子変化であるGluR2 Q/R 部位のRNA編集異常は、RNA編集酵素adenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2)活性の低下によると考えられる.したがって,ADAR2 活性を賦活することにより孤発性ALSの治療の可能性が期待される。本研究課題において、ADAR2活性賦活のin vitroおよびin vivoスクリーニングシステムの確立を目標とする.
研究方法
1)ADAR2の活性を測定するための培養細胞系を既存の培養細胞系の中から探る.2)スクリーニングに適した培養細胞系を開発する.3)in vitroスクリーニングシステムを用い,ADAR2活性賦活物質を選出し,その機序を検討する. 4)孤発性ALSのモデルマウスとして,ADAR2 のコンディショナルノックアウトマウスを開発する.5)in vivoでのADAR2活性のパラメータを開発し,6)ADAR2活性賦活物質のin vivoスクリーニングを行う.
結果と考察
1)in vitroスクリーニングシステムとして既存の培養細胞系には適当なものがなかったため,2)GluR2-mini遺伝子を導入したTetHeLaG2m細胞を開発した.3)これを用いてスクリーニングを行い、数種類のADAR2活性賦活作用のある薬剤を得た。4)ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスを開発した.ADAR2 活性低下により、緩徐進行性の運動ニューロン死が起こることを証明した.5)新たな特異的ADAR2 基質としてcytoplasmic FMRP interacting protein 2 (CYFIP2) mRNAのK/E部位を見出し,in vivoにおけるADAR2活性のパラメータとして有用であることを明らかにした. 6)in vitroスクリーニングで得られた物質のなかから,in vivoでのADAR2活性賦活作用をもつものを見出した.
結論
ADAR2活性低下が運動ニューロン死の直接原因であることが明らかになり,in vitro,in vivoスクリーニングシステムを開発し,ADAR2活性賦活物質を得た.ADAR2活性低下による運動ニューロン死を抑制する作用が期待される.

公開日・更新日

公開日
2009-04-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
孤発性ALS患者組織に見出された分子病態の解析から,RNA編集酵素ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスを開発し,この分子病態が細胞死の直接原因であること,したがって疾患モデル動物として適切であることを明らかにした.さらに,この分子病態に基づいた治療法の開発のための培養細胞,マウスを用いたスクリーニングシステムを新たに立ち上げた.治療標的とすべき分子病態を明らかにしたことで,従来行われなかった理論的治療法開発戦略が可能になった.
臨床的観点からの成果
従来のALSの治療法開発研究は一部の家族性ALSの原因遺伝子である変異SOD1トランスジェニックマウスを用いており,成果が上げられなかったが,その理由として,ALSの大多数を占める孤発性ALSとは病因が異なることが近年明らかにされ,新規の治療戦略が求められていた.本研究で,孤発性ALSの分子病態が明らかになり,その正常化を目指した治療法開発のためのスクリーニングシステムが確立したことで,神経細胞死を引き起こす分子異常の正常化という,従来にない,原因に基づいた治療戦略が可能になった.
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
学会のシンポジウム等でシンポジストとして講演を行った.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawahara Y, Sun H, Kwak S, et al.
Underediting of GluR2 mRNA, a neuronal death-causing molecular change in sporadic ALS, does not occur in motor neurons in SBMA patients or SOD1 transgenic rats.
Neurosci Res , 54 , 11-15  (2006)
原著論文2
Sun H, Kawahara Y, Kwak S, et al.
Slow and selective death of spinal motor neurons in vivo by intrathecal infusion of kainic acid: implications for AMPA receptor-mediated excitotoxicity in ALS.
J Neurochem , 98 , 782-791  (2006)
原著論文3
Hideyama T, Momose T, Kwak S, et al.
A PET study on the role of nigral lesions in parkinsonism in patients with ALS.
Arch Neurol , 63 , 1719-1722  (2006)
原著論文4
Kwak S, Weiss JH
Calcium permeable AMPA channel in neurodegenerative disease and ischemia.
Curr Opin Neurobiol , 16 , 281-287  (2006)
原著論文5
Iwata NK, Aoki S, Kwak S, et al.
Evaluation of corticospinal tracts in ALS with diffusion tensor MRI and brainstem stimulation.
Neurology , 70 , 528-532  (2008)
原著論文6
Nishimoto Y, Yamashita T, Kwak S, et al.
Determination of editors of mRNAs with site-selective A-to-I editing positions.
Neurosci Res , 61 , 201-206  (2008)
原著論文7
Kwak S, Hideyama T, Yamashita T
AMPA receptor-mediated neuronal death in motor neuron diseases.
Amino Acid Receptor Research , 293-310  (2008)
原著論文8
Buckingham SD, Kwak S, Jones AK, et al.
Edited GluR2, a gatekeeper for motor neuron survival?
BioEssays , 30 , 1185-1192  (2008)
原著論文9
Kwak S, Nishimoto Y, Yamashita T
Newly identified ADAR2-mediated editing positions as a useful tool for ALS research.
RNA Biology , 5 , 193-197  (2008)
原著論文10
Sawada J, Yamashita T, Kwak S, et al.
Effects of antidepressants on GluR2 Q/R site-RNA editing in a modified HeLa cell line.
Neurosci Res  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-