基礎研究と臨床研究の融合による、神経疾患によってひきおこされる疼痛に対する新しい治療法の開発

文献情報

文献番号
200833015A
報告書区分
総括
研究課題名
基礎研究と臨床研究の融合による、神経疾患によってひきおこされる疼痛に対する新しい治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-016
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 隆介(自然科学研究機構 生理学研究所統合生理研究系)
研究分担者(所属機関)
  • 片山容一(日本大学医学部)
  • 山本隆充(日本大学医学部)
  • 齋藤洋一(大阪大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経・筋疾患による疼痛は、視床痛、幻肢痛を初めとする極めて難治性かつ発症のメカニズムが明らかでは無いものが多い。種々の非侵襲的計測法を用いてヒトの脳内痛覚認知機構を明らかにすること、及び、基礎的研究によって得られた知見を元にして除痛治療を行う事、すなわち神経・筋疾患による疼痛治療 におけるEvidence-Based Medicineの施行が主要研究目的である。
研究方法
基礎的研究では、脳波、脳磁図、fMRI、TMSを併用して痛覚の脳内情報処理過程を詳細に検索していく。痛覚認知は情動と深い関連があり、辺縁系、特に帯状回と島の役割を明らかにする必要がある。臨床研究では、視床痛、幻肢痛といった慢性疼痛を呈する患者に対して脊髄刺激、脳深部刺激、大脳皮質運動領刺激などの様々な除痛方法を加え、その効果を検討することにより、病態機序の解明を行っていく。また、刺激の継続によって疼痛自体が消失する症例も存在することから、視床ならびに大脳皮質での神経機構の再構成についても検討を行う。
結果と考察
基礎研究では本年度は4編の英文原著論文を発表した。主要な論文について内容を紹介する。痛覚認知におけるposterior parietal cortex (PPC)の役割について、第1次体性感覚野と第2次体性感覚野の活動との関連を含めて詳細に解析した。PPCの活動はおそらく第1次体性感覚野の活動に引き続いて現れ、PPCの中でもinferior parietal lobule (BA 40)が痛覚認知に重要であることを発見した。臨床研究は、本年は、low-dose ketamine点滴療法とDual-lead spinal cord stimulation (Dual-lead SCS) の併用療法が神経障害性疼痛に有効であることを明らかにした。また、脊髄硬膜外刺激が無効であった中枢性疼痛患者の中心溝内に電極を埋め込み、より直接的な一次運動野刺激を試みたところ、中心溝内からの刺激の有効性が、中心前回脳表の刺激と比較すると相対的に優れていることを明らかにした。
結論
痛覚認知に関与する脳部位が次第に明らかになりつつある。また、これまで経験的に行われてきた外科的除痛療法の作用機序を、基礎的知見に基づいて解釈できるようになってきた。同様に、大脳に情報を送りあるいは情報が送られてくる脊髄の機能も明らかになってきた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200833015B
報告書区分
総合
研究課題名
基礎研究と臨床研究の融合による、神経疾患によってひきおこされる疼痛に対する新しい治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-016
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 隆介(自然科学研究機構 生理学研究所統合生理研究系)
研究分担者(所属機関)
  • 片山容一(日本大学医学部)
  • 山本隆充(日本大学医学部)
  • 齋藤洋一(大阪大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経・筋疾患による疼痛は、視床痛、幻肢痛を初めとする極めて難治性かつ発症のメカニズムが明らかでは無いものが多い。種々の非侵襲的計測法を用いてヒトの脳内痛覚認知機構を明らかにすること、及び、基礎的研究によって得られた知見を元にして除痛治療を行う事、すなわち神経・筋疾患による疼痛治療 におけるEvidence-Based Medicineの施行が主要研究目的である。
研究方法
基礎的研究では、脳波、脳磁図、fMRI、TMSを併用して痛覚の脳内情報処理過程を詳細に検索していく。痛覚認知は情動と深い関連があり、辺縁系、特に帯状回と島の役割を明らかにする必要がある。臨床研究では、視床痛、幻肢痛といった慢性疼痛を呈する患者に対して脊髄刺激、脳深部刺激、大脳皮質運動領刺激などの様々な除痛方法を加え、その効果を検討することにより、病態機序の解明を行っていく。また、刺激の継続によって疼痛自体が消失する症例も存在することから、視床ならびに大脳皮質での神経機構の再構成についても検討を行う。
結果と考察
基礎研究では3年間に28編の論文を発表した。代表的な研究報告について紹介する。情動と痛覚の関係は深い。実際に痛み刺激を与えられなくても、注射のような痛そうな写真を見ただけでも「心の痛み」が出現する。その時にfMRIを計測すると、実際に痛み刺激が与えられた場合と類似の脳活動が、両側半球の島と帯状回に記録された。いわゆる「心の痛み」に関連が深いと思われる興味ある所見であった。臨床研究では、視床痛、幻肢痛といった慢性疼痛を呈する患者に対して脊髄刺激、脳深部刺激、大脳皮質運動領刺激などの様々な除痛方法を加え、その効果を検討することにより、病態機序の解明を行った。視床痛は難冶例が多いが、大脳皮質運動領刺激に有効例が多い。幻肢痛などの末梢性求心路遮断痛に対しては、定位脳手術の手技を用いた脳深部刺激療法(視床知覚中継核刺激)が特に有効であった。経頭蓋磁気刺激療法は既にのべ100例近くに、脳深部刺激療法は50例近くに行い、7割近い患者さんに効果的であった。
結論
痛覚認知に関与する脳部位が次第に明らかになりつつある。また、これまで経験的に行われてきた外科的除痛療法の作用機序を、基礎的知見に基づいて解釈できるようになってきた。同様に、大脳に情報を送りあるいは情報が送られてくる脊髄の機能も明らかになってきた。

公開日・更新日

公開日
2009-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脳波、脳磁図、機能的MRI (fMRI)、経頭蓋磁気刺激 (TMS)を併用して痛覚の脳内情報処理過程を明らかにした。痛覚認知の初期過程には、先ず刺激対側の第1次感覚野(SI)、第2次感覚野(SII)と島が平行して活動し、その後おそらく脳梁を経由して刺激同側のSII、島、帯状回、扁桃体が活動する事が明らかになってきた。痛覚認知は情動と深い関連があり、辺縁系、特に帯状回と島が重要な役割を果たす事を明らかにした。
臨床的観点からの成果
中枢神経系に損傷を認める神経障害性疼痛(post-stroke painなど)には大脳皮質運動野刺激が有用で、末梢神経系に損傷を認める神経障害性疼痛(末梢神経損傷による幻肢痛)には視床知覚中継核(視床Vc核)刺激が有用であることを明らかにし、その手術方法ならびに除痛機除について検討した。また、脊髄刺激においてもDual-lead stimulation法を用いることによって、神経障害性疼痛に対する効果を高めることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
中枢神経系に損傷を認める難治性の神経障害性疼痛を有する患者さんに対して、病巣部位、臨床所見と、治療効果についての相関を詳細に分析し、治療指針(ガイドライン)を作成する作業を行っている。すなわち、「ここに病巣があってこういう臨床所見があれば、第1選択治療法はOOOで、第1選択治療法はOOOである」といった基準である。ただし、現在までは、各患者さん間の個人差が予想以上に大きく、症例数をもっと増やさなければならないため、明快なガイドラインを決定するまでには至っていない。
その他行政的観点からの成果
米国では、2001年からの10年を“The Decade of Pain Control and Research(疼痛治療と研究の10年)”とすることを採択した。1990年代に採択された“Decade of Brain”宣言に次ぐ第2番目のメディカルサイエンス振興政策である。しかし、日本では未だ疼痛学に対する認識が低いのが現状である。私達の研究班は、日本で初めて、基礎研究と臨床研究が強く結びついて、有効治療法の開拓を行ってきた。医療行政においても画期的な結果が出ることが期待されている。
その他のインパクト
私達の研究班による疼痛関連の研究成果は、社会的にも重要であるため、マスコミでも広く取り上げられてきた。情動と痛みに関する研究は、2007年4月、5月に、朝日新聞、読売新聞などの主要紙に掲載された。また、研究代表者は、痛みと痒みに関して、2007年7月6日にTBSテレビ「ネプ理科」、2008年3月18日にNHKテレビ「解体新ショー」で解説した。広く反響を呼び、多くの患者さんや医療従事者から問い合わせがあった。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
32件
その他論文(和文)
36件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
40件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mochizuki H, Inui K, Kakigi R et al.
Itching-related somatosensory evoked potentials.
Pain , 138 (3) , 598-603  (2008)
原著論文2
Nakata H, Sakamoto K, Kakigi R et al.
Evoked magnetic fields following noxious laser stimulation of the thigh in humans.
Neuroimage , 42 (2) , 858-868  (2008)
原著論文3
Ogino Y, Inui K, Kakigi R et al.
Inner experience of pain: imagination of pain while viewing images showing painful events forms subjective pain representation in human brain.
Cerebral Cortex , 17 (5) , 1139-1146  (2007)
原著論文4
Wang X, Inui K, Kakigi R et al.
Early cortical activities evoked by noxious stimulation in humans.
Experimenta Brain Research , 180 (3) , 481-489  (2007)
原著論文5
Tsuji T, Inui K, Kakigi R et al.
Multiple pathways for noxious information in the human spinal cord.
Pain , 123 (3) , 323-331  (2006)
原著論文6
Inui K, Tsuji T, Kakigi R.
Temporal analysis of cortical mechanisms for pain relief by tactile stimuli in humans.
Cerebral Cortex , 16 (3) , 355-365  (2006)
原著論文7
Qui Y, Inui K, Kakigi R et al.
Brain processing of the signals ascending through unmyelinated C fibers in humans: an event-related fMRI study.
Cerebral Cortex , 16 (9) , 1289-1295  (2006)
原著論文8
Kano T, Katayama Y, Kobayashi K et al.
Multiple-cell spike density and neural noise level analysis by semimicroelectrode recording for identification of the subthalamic nucleus during surgery for Parkinson’s disease.
Neuromodulation , 11 (1) , 1-7  (2008)
原著論文9
Oshima H, Katayama Y, Fukaya C et al.
Direct inhibition of levodopa-induced beginning-of-dose motor deterioration by subthalamic nucleus stimulation in a patient with Parkinson disease.
Journal of Neurosurgery , 108 (1) , 160-163  (2008)
原著論文10
Shijo K, Katayama Y, Yamashita A et al.
c-Fos expression after chronic electrical stimulation of sensorimotor cortex in rats.
Neuromodulation , 11 (2) , 187-195  (2008)
原著論文11
Obuchi T, Katayama Y, Kobayashi K et al.
Direction and predictive factors for the shift of brain structure during deep brain stimulation electrode implantation for advanced Parkinson’s disease.
Neuromodulation , 11 (3) , 302-310  (2008)
原著論文12
Fukaya C, Katayama Y, Kano T et al.
Thalamic deep brain stimulation for writer’s cramp.
Journal of Neurosurgery , 107 (5) , 977-982  (2007)
原著論文13
Hosomi K, Saitoh Y, Kishima H et al.
Electrical stimulation of primary motor cortex within the central sulcus for intractable neuropathic pain.
Clinical Neurophysiology , 119 (5) , 993-1001  (2008)
原著論文14
Kato H, Shimosegawa E, Saitoh Y et al.
MRI-based correction for partial-volume effect improves detectability of intractable epileptogenic foci on I-123 iomazenil brain SPECT images.
Journal of Nuclear Medicine , 49 (3) , 383-389  (2008)
原著論文15
Goto T, Saitoh Y, Hashimoto N et al.
Diffusion tensor fiber tracking in patients with central post-stroke pain; Correlation with efficacy of repetitive transcranial magnetic stimulation.
Pain , 140 (3) , 509-518  (2008)
原著論文16
Oshino S, Kato A, Saitoh Y et al.
Ipsilateral motor-related hyperactivity inpatients with cerebral occlusive vascular disease.
Stroke , 39 (10) , 2769-2775  (2008)
原著論文17
Saitoh Y, Hirayama A, Kishima H et al.
Reduction of intractable deafferentation pain due to spinal cord or peripheral lesion by high-frequencyrepetitive transcranial magnetic stimulation of the primary motor cortex.
Journal of Neurosurgery , 107 (3) , 555-559  (2007)
原著論文18
Kishima H, Saitoh Y, Osaki Y et al.
Motor cortex stimulation activates posterior insula and thalamus in deafferentation pain patients
Journal of Neurosurgery , 107 (1) , 43-48  (2007)
原著論文19
Tani N, Saitoh Y, Kishima H et al.
Motor cortex stimulation for L-dopa resistant akinesia.
Movement Disorder , 22 (11) , 1645-1648  (2007)
原著論文20
Morita S, Otsuki M, Saitoh Y et al.
Reduced epinephrine reserve in response to insulin-induced hypoglycemia in patients with Reduced epinephrine reserve in response to insulin-induced hypoglycemia in patients with pituitary adenoma.
European Journal of Endocrinology , 157 (3) , 265-270  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-