文献情報
文献番号
202108008A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者の療養生活の最終段階における体系的な苦痛緩和法の構築に関する研究
課題番号
19EA1011
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
里見 絵理子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
- 田上 恵太(東北大学大学院 医学系研究科 緩和医療学分野)
- 松本 禎久(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 緩和医療科)
- 森 雅紀(聖隷三方原病院 放射線治療科)
- 今井 堅吾(聖隷三方原病院 ホスピス科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺族調査結果報告書によると、終末期がん患者が痛み少なく過ごせた割合は約半数であり、医療者が症状緩和を試みながらも、36%の患者は苦痛と共に最期を迎えている。がん患者の闘病期間は長期化しており、終末期に至る前から苦痛が連続していることも危惧され、早期からの緩和ケアとして症状緩和の推進は必須である。本研究班では、進行終末期がん患者における治療抵抗性の苦痛のうち、がん疼痛、呼吸困難、終末期せん妄について、迅速かつ十分に症状緩和に至り患者の生活の質(QOL)向上につなげることを目的とし、がん疼痛、呼吸困難、終末期過活動せん妄の治療アルゴリズムの構築に関する研究および難治性がん疼痛治療の実態調査を実施する。
研究方法
①がん疼痛、終末期呼吸困難、終末期過活動せん妄の治療アルゴリズム研究
作成した緩和ケア専門家が実施する日常臨床を可視化した体系的治療(アルゴリズム)に関する前向き観察研究を行い、実施可能性、安全性に関して探索する。
② 難治性がん疼痛治療の実態調査
難治性がん疼痛に対する治療の実態や、施設ごと整備状況などについての質問紙を作成し、がん疼痛治療に関わる医療機関(がん診療連携拠点病院、非がん診療連携拠点病院、在宅医療機関)に郵送調査する。
作成した緩和ケア専門家が実施する日常臨床を可視化した体系的治療(アルゴリズム)に関する前向き観察研究を行い、実施可能性、安全性に関して探索する。
② 難治性がん疼痛治療の実態調査
難治性がん疼痛に対する治療の実態や、施設ごと整備状況などについての質問紙を作成し、がん疼痛治療に関わる医療機関(がん診療連携拠点病院、非がん診療連携拠点病院、在宅医療機関)に郵送調査する。
結果と考察
①がん疼痛の治療アルゴリズム構築に関する研究
前向き観察研究を完了した。疼痛緩和の目標を達成した割合は87.9 %(385名)であった。達成者のうち94.5%は、専門的緩和ケア介入が開始されてから達成まで7日間以内、中央値3日(四分位数1-6)であった。
②難治性がん疼痛治療の実態調査
医療機関(がん診療連携拠点病院402、それ以外の病院1000、在宅医療機関1000)対象のがん疼痛治療の実態に関する実態調査を完了した。腹腔神経叢ブロックについて、がん診療連携拠点病院において、過去3年間における実施件数中央値は4件、非がん診療連携拠点病院では「実施・利用できない/していない」88.8%で、在宅医療機関では「他施設に紹介して利用できない/していない」80.6%と、利用が困難な状況であった。
③進行がん患者の呼吸困難に対するオピオイド持続注射の体系的治療に関する研究
作成した体系的治療(アルゴリズム)に関する前向き観察研究を実施し5施設において実施完了した。アルゴリズム治療後、24,48時間後に生存していた患者96名、87名のうち、それぞれ96名(100%)、82名(94%)が体系的治療を継続しており、66名(69%)、64名(74%)が目標とした緩和を達成した。有害事象はまれであった。
④進行がん患者の過活動型せん妄に対する向精神薬の体系的治療に関する研究
作成した体系的治療(アルゴリズム)について、2施設において前向き観察研究を完了した。アルゴリズム開始3日後の生存率は81%(161/200)で、アルゴリズムに沿った治療を受けている患者の割合は、93%(150/161、95%信頼区間89-97)であった。アルゴリズムを順守していない理由は、効果が不十分55%(6/11)、他症状で鎮静が開始された27%(3/11)、内服治療が可能となった18% (2/11)であり、有害事象によるものは0%であった。
⑤教育セミナーの開催
以下のとおり教育研修を企画実施した。
2021年11月6日13:00-16:00 webセミナー形式
「進行がん患者の苦痛緩和のための医療者セミナー」
1部:専門的がん疼痛治療
2部:がん疼痛・呼吸困難・過活動せん妄の体系的治療
210名の参加を得た。
動画と当日の資料をwebsiteを設置して公表した。
令和3年度は本研究班の最終年度であり、分担研究が完了した。アルゴリズム開発は、がん疼痛、呼吸困難、終末期の過活動せん妄において完了し、それぞれ実施可能性が示された。
難治性がん疼痛の医療機関調査では、がん診療拠点病院において専門的がん疼痛治療の実施に障壁があること、また非がん診療拠点病院および在宅医療機関において、専門的がん疼痛治療利用について、適応に関する相談ができないこと、実施可能医療機関情報が乏しいこと、等が障壁であることより、専門的がん疼痛治療に関する地域における相談、情報提供体制と、がん診療連携拠点病院を中心とした持続可能な連携体制の構築が必要であると考えられた。
前向き観察研究を完了した。疼痛緩和の目標を達成した割合は87.9 %(385名)であった。達成者のうち94.5%は、専門的緩和ケア介入が開始されてから達成まで7日間以内、中央値3日(四分位数1-6)であった。
②難治性がん疼痛治療の実態調査
医療機関(がん診療連携拠点病院402、それ以外の病院1000、在宅医療機関1000)対象のがん疼痛治療の実態に関する実態調査を完了した。腹腔神経叢ブロックについて、がん診療連携拠点病院において、過去3年間における実施件数中央値は4件、非がん診療連携拠点病院では「実施・利用できない/していない」88.8%で、在宅医療機関では「他施設に紹介して利用できない/していない」80.6%と、利用が困難な状況であった。
③進行がん患者の呼吸困難に対するオピオイド持続注射の体系的治療に関する研究
作成した体系的治療(アルゴリズム)に関する前向き観察研究を実施し5施設において実施完了した。アルゴリズム治療後、24,48時間後に生存していた患者96名、87名のうち、それぞれ96名(100%)、82名(94%)が体系的治療を継続しており、66名(69%)、64名(74%)が目標とした緩和を達成した。有害事象はまれであった。
④進行がん患者の過活動型せん妄に対する向精神薬の体系的治療に関する研究
作成した体系的治療(アルゴリズム)について、2施設において前向き観察研究を完了した。アルゴリズム開始3日後の生存率は81%(161/200)で、アルゴリズムに沿った治療を受けている患者の割合は、93%(150/161、95%信頼区間89-97)であった。アルゴリズムを順守していない理由は、効果が不十分55%(6/11)、他症状で鎮静が開始された27%(3/11)、内服治療が可能となった18% (2/11)であり、有害事象によるものは0%であった。
⑤教育セミナーの開催
以下のとおり教育研修を企画実施した。
2021年11月6日13:00-16:00 webセミナー形式
「進行がん患者の苦痛緩和のための医療者セミナー」
1部:専門的がん疼痛治療
2部:がん疼痛・呼吸困難・過活動せん妄の体系的治療
210名の参加を得た。
動画と当日の資料をwebsiteを設置して公表した。
令和3年度は本研究班の最終年度であり、分担研究が完了した。アルゴリズム開発は、がん疼痛、呼吸困難、終末期の過活動せん妄において完了し、それぞれ実施可能性が示された。
難治性がん疼痛の医療機関調査では、がん診療拠点病院において専門的がん疼痛治療の実施に障壁があること、また非がん診療拠点病院および在宅医療機関において、専門的がん疼痛治療利用について、適応に関する相談ができないこと、実施可能医療機関情報が乏しいこと、等が障壁であることより、専門的がん疼痛治療に関する地域における相談、情報提供体制と、がん診療連携拠点病院を中心とした持続可能な連携体制の構築が必要であると考えられた。
結論
がん患者のがん疼痛、呼吸困難、終末期せん妄の症状緩和に関する体系的治療(アルゴリズム)の実施可能性が示された。また難治性がん疼痛治療の施設実態調査にて苦痛緩和を達成するために、アルゴリズムの普及とともにがん診療連携拠点病院を中心とした専門的がん疼痛治療に関する相談支援、地域連携体制構築が必要であることが示唆された。今後は、苦痛緩和のアルゴリズムの実装、専門的がん疼痛治療の利用促進のための恒常的な相談支援・医療連携体制に関する研究を進めていく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2022-06-09
更新日
-